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隠れてないで出てこい!
泣くなよ!可愛すぎか!
しおりを挟む見つけた。見つけた!
「……見つけた、見つけたぞ」
「え!? 先生?!腫瘍か何かあります?」
「あ、いや。失礼いたしました。何も無いですけれども。でも……少し脂肪肝気味ですね。お酒は飲みます?」
診察中だったことを思い出し、俺は自分を叱咤する。もうすぐだから、我慢しろと。午後の超音波検査を終え、医局に戻る。あまりにもはしゃぎ過ぎて、患者に、少しだけ……ほーーんの少しだけ迷惑をかけてしまった。先ほど淹れっぱなしにしていたぬるいを通り越して冷たくなったコーヒーを煽る。ぷはっと息を吐いて、やっと実感してきた。
「盲点だった……。まさかの」
小村主任だったとは。一番かけ離れた所の人物に俺は驚きを隠せなかった。けれども、先ほどの小村主任の慌てっぷりは、納涼会の日に俺が話しかけた時と同じ反応だった。
「ぶっ!」
周りの医者が俺を振り返る。それもそうだろう。何無いところで笑い出す奴がいたら、俺だって不審者扱いする。それでも、笑いを堪えることができない。
「……ふ、ふふふ。絶対に捕まえてやる」
よっしゃやるぞオラー!と残る病棟回診にむけて気合を入れる。周りの視線など、今はどうでも良かった。そんな俺の決意に水を指すかのように、PHSが鳴り響いた。
「佐鳥です」
『あっ! 先生! 入院中の田中宏さんが吐血しました』
「分かった。すぐ行く!」
田中さん。名前を聞いて、病態を思い出す。十二指腸潰瘍。手術はせず絶飲食の保存療法で経過を見ていた人だ。恐らく潰瘍からの出血だと判断し、俺は内視鏡室に連絡する。
「もしもし。佐鳥です。UDからの出血だ。緊急で降りるから。空けといてね」
内視鏡室からの了解を貰って、俺は病棟に急ぐ。今日は絶対に定時退社をする。絶対に天使を捕まえる。逃がさない今度こそ。そのために、目の前にある課題をこなしていかないといけない。そう思った俺は、廊下を走る。途中で腹黒古狸に「走るな!」と、怒鳴られたが、気にする暇も無かった。
「待ってろよーー! 患者も、天使も!」
と、意気込んでいた俺は今、たいへん戸惑っていた。処置はこれ以上の無いくらい上手くいった。的確に出血地点を突き止め、的確に止血処置を行った。輸血をするほどではない出血だったため、輸液と鉄剤の点滴で様子見。そんな判断を下して俺は帰路についた。
もちろん、定時退勤。そして、逃げようとする天使を捕まえる、問い詰めて、そしてあわよくば……の筈だった。
それなのに、俺は今猛烈に戸惑っていた。
「ご、ご、ごめんなさい。わたし、せ、せんせいの、ことが、す、す、すきで」
「お、おう」
「い、いぃっひ、う、……ち、どでいいから、ひぃ、っく」
職員出口で待ち伏せして、そそくさと逃げ帰ろうとした天使を捕まえた。そして、色々と問い詰めようとした瞬間。天使は泣いてしまった。慌てた俺は、人目を避けるように、天使の手を引いて物陰に隠れた。
泣いている。天使が。そして、何を言っているのか、少しも理解出来なかった。けれども、天使があの日、居なくなってしまったことを後悔しているのだけは伝わってきた。
「……小村主任」
俺が名前を呼ぶと、小村主任の肩がびくりと跳ねた。恐る恐る顔を上げて、うるうるの瞳が俺をじっと見つめた。
ああああ、もう……。
「可愛い……」
「……へ?」
「泣くなよ! 可愛すぎだろ!」
泣き顔の可愛さに俺は悶えていた。先程から色々可愛いことを仕出かしてくれる小村主任に、俺はすっかりやられてしまった。何この可愛い子。俺を殺す気何じゃないか?そんなことすら考えてしまう。
「ご、ごめ、ごめんなさ……」
あまりの可愛さに、声が大きくなってしまった。それに驚いたのか、小村主任は一歩後ずさってしまった。ぶるぶると小刻みに身体が震えている。それすらも可愛いと思ってしまう俺は、末期だ。
「……あー。ごめん。違うんだ」
「……?」
「……とりあえず、もう逃げんなよ?」
「……は、い。どりょく、します」
小村主任の言質を取った俺は、その場で小さくガッツポーズをした。
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