シュミゲ廃人プレジデント

市場竜太郎

文字の大きさ
3 / 12

第三幕

しおりを挟む
「ねーねーリンは〜? アギさまー」
「ん、リンは別の仕事な?」

 と、言うわけで……。
 取りあえず早急に必要になる食糧加工工場と、採掘場は作っておくことにした。
 このゲームの面倒な所は、必ず施設を建設するときに幹部ユニットを内政設定し、設置しなければいけないということだ。
 だから序盤はどんなに頑張っても二つまでしか同時に建設できない。

 ……で、ぴょんぴょん飛び跳ねて抗議するリンの頭をなでながら、一緒に歩いていた。

 さて、リンには早速仕事をしてもらう。
 あらかじめエリーから貰っておいた全体マップを広げて地形を確認する。
 座標的に……ああ、やっぱりベリーハードですね難易度。

 全体マップは、自分の国の王都周辺の地形を見ることができる紙。ゲームでは任意の場所をクリックしてから出撃させる人を選ぶのだが……この世界では実際に自分で指示を出さないといけないっぽい。

「よし。じゃあリン、ここを攻めてきてくれ。ここの敵はそんなに強くないと思う」
「んゃあ! 分かったよ! いってくるねー!」

 そう元気良く言って、リンはびゅんっという音をたてて一気に走り出す。

「やれやれ。騒がしい奴だな」

 俺はそれを微笑ましく見送った。

 …………地域に出撃させると、その地域に出現する敵。ビーストと戦闘することになる。
 勝手に戦ってきてくれるから、帰ってくるのを待って報告を聞く、みたいな感じだ。

「後はもうすることないな……」

 一応、最初にやるべきことは済ませた。チュートリアルの内容もそろそろ佳境にはいっていることだろう。

「……あれ」

 ふと。王宮で窓の外……空を見上げて、不自然さを覚えた。

「夕焼けだ」

 日が暮れている。
 オスティアは、シュミレーションゲームであるため、昼夜が無い。
 だから、寝る必要も無いしどんな長い間でも真昼間。

 ひょっとして、夢がリアルを追求するために昼夜を……?

「だとしたら、結構長い時間この世界にいるんだな」

 いくら明晰夢とはいえ、長過ぎないだろうか。

「……アギ様?」
「うぉっと!?」

 後ろからなにかピリッとしたものを感じて慌てて振り返る。
 後ろには、導線のようなものをこちらに向けているアイシャがいた。

「うん。終わった……」
「あ、ああそうか。ご苦労様」

 アイシャはぽつりとそれだけつぶやく。
 ……見れば見るほど不思議な奴だ。
 電気の絶縁を担っているその服は近未来的でこの世界には不釣り合いだし、背中に背負った電気タンクと身体中に巻いている導線…………。
 キャラストーリーでも結局アイシャの導線ぐるぐるの理由は分からなかった。
 というか、ひょっとしたら今なら聞けば何か答えてくれるのかも……?

「な、なぁアイシャ。どうしてそんなに導線巻いてるんだ?」
「…………? ビリビリの、こと?」
「ああ。邪魔じゃないか?」

 自分に巻きつけている導線をビリビリと呼んでいるらしく……これが電波娘(物理)と呼ばれる理由なんだが……。

「……うん。あると安心する」
「…………安心、ですか」
「うん。ビリビリ、私のずっとも」

 いや、ズッ友とか言われましても。

「でも、寝る時は外す……うん」
「お、そうなのか」

 おお、これは新しい情報。
 ん? てかなんで寝る時だけ?

「うん……寝相で、首とかに当たると……死んじゃう」
「…………」

 じゃあ巻きつけなければいいんじゃないかな。
 なんて言ってもどうせ無駄だろうから。

「き、気をつけろよ」

 そうとだけ言って俺は早々に立ち去った。


「……建設時間はだいたい半日と言ったところかな」

 俺は城下町の時計台を見てそう言った。
 テラスからは夕日に照らされた美しい景色がよく見える。

 それにしても。

 この世界は、本当に夢なのか?

 そう、疑いたくなってしまう。

 夢が覚める気配もなければ。
 目に映る光景や、人との会話。
 頬を撫でる風や優しく当たる夕日の光も。

 どれも、現実に思えてならない。

「……んな、バカな」

 俺の頭には、非現実極まりないワードがずっとこびりついていた。


 −−−異世界トリップ。

 それがもし起こったのならば、全てに説明がつくといえばつく。


「わけ分からんなー……」

 テラスに設置されているテーブルに突っ伏して唸る。
 今日を終えれば。
 今日を終えて眠りにつけば全てがはっきりする。
 そんな感じがするのだ。
 夢ならば覚めるはずだ。
 でも、覚めなければ……?

 頭の中でからわまり続ける思考。
 それを遮るように、入り口のドアが開けられた。

「……アギ?」

 テラスに入ってきたのは、建設の作業が終わったのであろうシルフィだった。綺麗な黄金のような髪の毛が夕日に照らされ一層輝く。

「ちょ、ちょっとどうしたのよ? そんな絶望したような顔して」
「いや。なんともないよ。……シルフィは何しに来たんだ?」
「……ちょっと風にあたりにきただけよ。あんたがいなかったから心配とかしてないから」

 この狙いすましたツンデレもシルフィの特徴。
 ……そういえば、シルフィは俺の事をアギと呼ぶ。
 アイシャもリンも。メリーを除いたここにいる全ての人物が俺の名を知っている。
 恐らく、俺の入力した名前がアギだからだろう。

「何を悩んでるのか知らないけど……しっかりしなさいよね。あんたがなよなよしてると、あたし達に支障がでるのよ」
「そう、だな」

 シルフィの声が俺の耳に入ってくる。
 その度に、俺の頭がこの世界は現実だと訴える。

「帰れんのかなー」
「帰れる?」

 気がついたら俺は声を漏らしていた。
 ハッと口を塞いで慌ててシルフィに弁明する。

「いやいやなんでもない。こっちの話だ」
「なによそれ……わけわかんない」

 呆れたように言うシルフィを横目で見ながら、俺はため息を小さくついた。

 しばらく、どちらも喋らない沈黙が続いた。
 それを打ち破ったのは、甲高い声だった。

「アギさまー! もどったよー!」
「リンか」
「は、はぁ……」

 突然の声にびくんと体を反り返らせて驚いていたシルフィはそれを隠すように冷静さを装った息を吐いた。

 今の声は……城門からか?

 取り敢えず迎えに行くため俺はシルフィと一緒にテラスを後にした。

「んゃあ! 終わったよ!」
「そうか。成果は?」
「ビーストみんな倒したよ! 土地がらがら!」

 うむ。どうやら初陣はうまくいったようだ。
 こんな風に自分の領地を増やしていき、そこに拠点の村を作ったり、砦を作ったりして更に自分の領地を発展させていく。
 満足げに胸を張るリンに手を乗せて撫でてやるとリンはうさ耳をぴこぴこさせて「んゃあー」と気持ち良さそうに鳴いた。
 …………うん。こいつ、張るだけあるんだよな。これが世に聞くロリ巨乳いや、やめておこう。

「あ、あと、あと! 鉄の匂いがした! こげくさいのも!」
「え? 鉄と焦げ臭い匂い?」

 リンの報告に横にいたシルフィが問いかける。
 するとリンは興奮したようにぴょんぴょん飛び跳ねて説明した。

「んゃあ、リンが戦うの終わった時にね、つーんてすっごい嫌な匂いがしたの。鉄と、焦げるにおい……」

 思い出したのか顔をきゅっとしかめて首を横にふるふると動かす。

「鉄と、焦げ臭い匂い……」

 俺は頭の中の記憶を掘り起こした。
 条件と、時間帯、ゲーム開始日時を整理し、そこから発生するであろうイベントを決める。

「ゲーム開始直後。リンが出撃して報告……考えられるのは一つしかないな」
「……アギ?」
「アギさまー?」

 一人頷く俺に二人は疑問符を浮かべる。まぁ慌てるな。説明はしっかりしてやろう。
 このイベントを最初に出来たのはラッキーだ。
 難易度は最高難易度のベリーハード。
 でもまぁいけるだろう。

 そこまで考えたところで、俺の中で何かの悩みが吹っ切れた。

「この世界が夢が現実か……そんなのは関係ない」

 そう、俺はマジカルオスティアのヘビーユーザー。
 どのような状況下においても……このゲームをプレイするだけだ−−!

「よし。全員、中央ホールに集合! イベント、【Hard sell of kindness】恩の押し売りの作戦を説明するぞ!」

 俺は、口の端を吊り上げて次なる行動を開始した!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

元バリキャリ、マッチ売りの少女に転生する〜マッチは売るものではなく、買わせるものです

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【マッチが欲しい? すみません、完売しました】 バリキャリの私は得意先周りの最中に交通事故に遭ってしまった。次に目覚めた場所は隙間風が吹き込むような貧しい家の中だった。しかも目の前にはヤサグレた飲んだくれの中年男。そして男は私に言った。 「マッチを売るまで帰ってくるな!」 え? もしかしてここって……『マッチ売りの少女』の世界? マッチ売りの少女と言えば、最後に死んでしまう救いようがない話。死ぬなんて冗談じゃない! この世界で生き残るため、私は前世の知識を使ってマッチを売りさばく決意をした―― ※他サイトでも投稿中

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...