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第十幕
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「どういうことだ……!?」
空間に映し出されたモニタを見て、フィロフィアは打ち震えた。
町の門……俺たちの手によって既に壊されたガラ空きの門に向かって突っ込んできている百を超える大軍勢のビースト。
「どういうことだ!? 明らかに数がおかしいぞ! こんなに……こんなに、なんで!?」
フィロフィアは納得できないと言うように頭を抱え取り乱す。
「ま、そういうことだ。疲弊したバスカノの兵だけじゃ、どうにもならない数だな」
「ふっ、ふざけるなよ!? これは……君が仕組んだんだな……! よくもこんな真似……」
「その言葉、そっくりそのままお前に返す」
「……うっ」
そもそも最初にけしかけてきたのはそちらだ。こっちがどういう方法で報復しようとも文句を言われる筋合いなどないはず。
元々、イースランに向かってきていたビーストは精々30から50程度。
しかし、あるものを使うことによって俺はそれを倍以上に増やした。
では種明かしといこう。
まず、なんで食品加工工場なんて回りくどいものを建てたのか。それは、ビーストの特性、建物にヘイト(敵対心)が向きやすいというものがあるからだ。ビーストがこちらに攻めてきて、幹部達で応戦。当然徐々に後退していかなければならないので、背後にある工場を盾にする事になる。
その段階で俺とエルアは南門から脱出。ここでもう一つ注目すべきは、ビーストの標的は「エルア」だという点。優先度の高い工場の破壊が終わって我に帰ったビーストは進路を変えて最短距離でエルアを殺しに来る。その時既にシルフィ達は隙をついて横を抜けていた。
ビーストの数を減らさなければならなかった理由は、あまり数が多いと横をすり抜ける時に何らかの理由で巻き添え食らって怪我されることを心配したから。
そして……イースランの幹部達よりも戦闘ベタなアイシャにHPを上げる訓練を積ませていたのは、この横をすり抜ける時に流れ弾で事故死しないようにするためだ。
散々勿体ぶったビーストの数を増やした方法が……。
「……これだよ」
シルフィに持たせていた、あるものを取り出す。効力はまだ続いている。赤紫の煙を吐く特殊な木の枝のような物を見てフィロフィアは目を見開いた。
「ケモノ……マタタビ……」
「その通り。ケモノマタタビはビーストを誘導することができるアイテムだ。本来は襲撃回避とかで使うんだが、今回はそれを応用した」
元々エルアを狙っていた奴らは進路を変えてバスカノへ。
そして、誘導したビーストはケモノマタタビに釣られてバスカノへ。
その後なにが起こるかを知らせれば間違いなく大反対されるので、結構ギリギリまで黙ってたし、シルフィ側には本当に何も言わなかった。
「今のバスカノの戦力は半分以下だろうな。幹部達も疲弊してるだろうし」
アルノアに至っては生きてるかどうかが分からないが。
「あーあー。どーしよっかなー! なんか喧嘩売られたし馬鹿にもされたからなー」
俺はわざとらしく、チラチラとフィロフィアを見ながら様式美ともいえる程のゲス顏を浮かべる。
「どーっしてもってんなら、助けてやらんこともないぞ?」
「……ぐっ、ぐっ。ぐぅううううううう!!」
これは悔しいでしょうねぇ。
勝ったと思ったらとんでもないカウンター喰らってその相手に救援求めなきゃならんとか。
「みんな……いるんだ。街には、色んな人が。みんな、いい人なんだ……」
うわ言のようにフィロフィアはブツブツとつぶやく。
そして、顏を真っ赤にしながら、俺に頭を下げた。
「お願い……します」
「よし。任せとけ。タダって訳にはいかないけどな」
「…………」
俺たちの電子紐をほどき、それっきりフィロフィアは何も言わなかった。
俺は、そんなフィロフィアに対して一つ言っておくことがある。
「……。いや、なんつーか、これは戦争だから、あんまりとやかく言うつもりはないけどよ」
国と国との合戦。あまり私情のような物を持ち込むのもよろしくない。……だが。
「自分の国には、守らなきゃいけない民と、仲間がいるんだよ。それはお前も他の奴らも一緒だろ? ……そういうの、ちょっと考えても良かったんじゃねぇかって……思う」
言っている言葉に自信はないが、つまり俺の言いたいことはそういうことだ。
フィロフィアはうつむきながら数歩俺に向かって歩いた。
そして……。
「協力に感謝するよ。……礼もする。それからイースランの復興作業も援助する」
「……お前……!」
「だが、それとこれとは別に君たちリースティアスにはどこかのタイミングで復讐してやるからな」
「…………えっ」
……あれ?
なんか、こう、綺麗に収まりそうだったじゃん。
なんでそういう話の流れになるんだよ……!?
「あ、あのだな……」
俺は何かを言おうとするが、少し強くなった地響きに我に返る。
「って、こんなことしてる場合じゃねぇ! リン達はまだか……」
100を超える大軍勢を相手にするなら疲労してる幹部九人でギリギリ足りるってくらいだ。
仲間の帰りを待ち遠しく思っていると……。
「エルアー! 帰ったでー!」
「――――っ! ライナ!」
疲れを感じさせない元気そうな声が聞こえてきた。
見ると、ライナの方がロアルアと共に戻ってきていた。
「申し訳ありませんマスター。非常事態につき、戦闘を中断してしまいました」
「いや、いい。それよりも次の仕事があるぞ」
フィロフィアは……周りに気づかれないようにしているのかもしれないが、怪我のないロアルアを見て安堵の色を顔に浮かべている。
「アギさまー!!!」
そのすぐ後。ライナの後ろから澄み渡った真夏日の快晴みたいな笑顔でリンが走ってきた。
そして、服がボロボロになり、もう見えるところ全部見えてる上に、生気を感じさせない程の虚ろな目でいかにも事後ですと言ってるような空気を出している……アルノアも引きずられて戻ってきた。
「フィローちゃぁあん!! 怖かったわぁぁぁぁぁ!」
フィロフィアの姿を確認したアルノアは全力で駆けて、泣きついた。
よく生きてたな、アルノア……。
「アルノア……。ご、ごめん、無理、させた……」
「うう……どうしたのよぉ……謝るなんて、らしくないわぁ……うぇぇぇん……」
「……うん」
泣きじゃくるアルノアをフィロフィアが撫でる。
本当に何があったんだよ。本当に何をしたんだよ。なんて、リンに聞けるわけがない。
「と、取り敢えずアルノア。服、着ないか」
さっきから気になっていることを指摘する。もう服が服の役割を果たしておらず、布が首らへんにちょっと巻きついてるだけのアルノアの姿はこんな状況でも扇情的に見える。俺にとっては目のやり場に困るわけだ。
「アルノア、これを」
フィロフィアがどこからか同じタイプの服を取り出し、アルノアに手渡す。アルノアは手早くそれを見にまとい、立ち上がった。
「……さて、取り敢えず……揃ったわけだ」
三国の幹部ユニットがここに集結した。考えてみたら、これで世界征服できるんじゃないだろうか。
この世界には五つしか国がないわけだから……もう半分以上が揃っている。
「よし、時間はあんまりないからな。とにかくまずは街の門の前まで……」
俺が歩いてみんなを誘導しようとする。
しかし、地震のような揺れが起き、その場にいた全員が突然のこのにバランスを崩す。
刹那、何かが風を切りながら落下する音。
「ぐっ……! オラァ!」
直感で何かがヤバいと判断した俺の身体は、気合の声をあげながら近くにいたエルアを押し倒すように巻き込んで跳躍する。
それにならってシルフィも俺と同じ方向に身を投げ出す。
「ちょ……エルア!」
「……あぶ、ない……!」
ライナもこちらに走ろうとするが、天井から落石。慌ててアイシャが引っ張る。
……落石?
「うぉ、あぁあああ!?」
次から次へと天井を打ち破っては巨岩が降ってくる。
ちょっと待て、何が起こってやがる!?
鳴り止まない轟音を身を縮めて耐える。
静寂が訪れた頃には、廊下は瓦礫で埋まっていた。
アイシャやリンは……岩の向こう側、か。こっちにいるのは、俺とエルアと……シルフィの三人。ちょうど王室の扉の前だ。
……これでは城外に出ることができない。
「げほっ、けほっ……どうなってんのよ!?」
四つん這いになりながら咳き込むシルフィが声を上げる。
俺は痛む身体を起き上がらせて、思考を巡らせた。
「……。岩、か」
それだけの情報で記憶の中に検索をかけ、俺はある答えにたどり着く。
多分、投石の能力を持った……ビースト。
ビーストにも種類がいて、当然個々でやることが全然違う。足の速いやつもいれば、パワーがべらぼうに高いやつもいる。
「投石……だと? まさか……」
「あ……あ、あぁ。あの、アギ……王」
「ん?」
声のする方を見ると、顔から耳まで真っ赤にしたエルアが居た。
……俺の腕の中で。
「うぉあ!? すまん!?」
や、やっちまった!? どうやら、小脇に抱きしめたままだったらしく……こ、これはまた何か投げられてもおかしくはない……!
俺は飛び退くようにしてエルアから身体を離した。
「い、いえ……ありがとうございます」
「あ、ああ」
しかし何かが飛んでくるわけでもなく、なんとなく気まずい気持ちになりながらもお互い距離を取る。
「……アギ」
「あ、そうだな。すまん」
ジロリと睨んでくるシルフィに促され、俺は次の行動を示す。
「おーい。聞こえるかー!?」
「ああ、聞こえているよ」
声を張り上げると、ことの他冷静なフィロフィアの声が聞こえた。なんだ、自分の城が破壊されたってのに、やけに落ち着いてるな。
「時間がない。とにかく街の門の前に全員集合だ! 街中に敵を入れたら終わりだからな!」
「分かった。君らの部下もこっちにいるが……指揮は僕が取っていいかね?」
「ああ、そうしてくれ」
「了解した。目にものを見せてやろう」
フィロフィアが静かに怒っているのを感じる。
俺はニヤリと笑って、自分の脱出方法を考えた。
王室へ通じる鉄の扉を押し開け、二人を連れて中に入る。
幾何学な計算式が几帳面に書かれた黒板に、いくつものコンピュータと精密機器類。
そして、その中央にはデカデカと「6」の文字が書かれた筒型の装置が鎮座していた。
「さーてと、どうすっかね」
頭をかいて、考える。
廊下は瓦礫に埋れているから、普通に城の外に出ることはできない。流石にこの装置の使い方は分からないし。
などと頭を悩ませていると、拡声器のようなものからノイズが響き、続いてフィロフィアの声が聞こえてきた。
『アギ王、聞こえているかね?』
「……フィロフィアか? 聞こえてるぞー」
『今、マイクのようなものでそちらに放送している。……まぁ、そちらの声はこっちには届かないんだがね』
淡々とフィロフィアは言葉を続ける。俺たちは黙ってその言葉に耳を傾けた。
『走ってる途中に喋るのにも限界がある。一度しか言わないからよく聞いてくれ』
一息入れて、フィロフィアが説明を始めた。
『まず、君たちは王室にいると思う。王室に筒型の装置があるね? それが転移装置だ』
そう言われ、俺たちの視線はその筒型の装置へと動く。
『装置には数字が記入されている。それがその装置の名前だと思ってくれて構わない』
「ふむ……」
俺は銀色の機体に大きく自己主張する朱色の文字を見た。
「6」と、確かに記されている。
『そこには「6」の装置があるはずだ。そして転移装置は繋がっている場所と、いない場所があるんだ』
「……そりゃまた面倒臭そうだな」
セキュリティのためだろうか?
『城にある「2から6」の転送装置は、それぞれ商が整数かつ余りが出ない場所にしか飛ぶことができない』
「……え」
商に余りが……。商ってのは確か、割り算の答えだったような。
『街の外にある「7から12」についても同様だ。注意してくれ』
「……」
いかん、頭が混乱してきた。
つまり……どういうことだってばよ?
『……一例を言おうか。例えば、「6から3に移動」したい時。計算式は6÷3だ。これは割り切れるだろう。反対に、「3から6」。これの答えは0.5だ。割り切れるが、整数じゃない。つまり、移動はできない』
「……あー」
こっちが理解に苦しむだろうと思ったのか、フィロフィアは分かり易い例をあげてくれる。
おかげでだいたいつかめてきた。
『まずは、6から2に飛んでくれ。一番城の中で城門に近い位置だ。そこから走って来てくれ』
「……なるほどね」
『……恨んではいるが、協力には一応感謝するよ。ありがとう』
……それっきり、拡声器から声は聞こえてこなかった。
やれやれ。あいつ、お礼なんか言っちゃって、まぁ。
って、あれ。待てよ? その理論だと、機能しない転送装置があるんじゃ……?
「……考えてる暇ないな……行くぞ!」
「そうね。時間はかけられないわ」
「参りましょう!」
俺たちは三人揃って筒型の装置の中に足を踏み入れる。
俺は鉄くさいレバーを下げ、番号を指定する。
ゼンマイや歯車が動くような起動音が緊張感を匂わせる。
「っ――――!」
視界が一瞬チカッと光り、全身が痙攣する感覚に襲われる。
その瞬間、装置の中にいた俺たちの身体は光の粒子となって消えた。
空間に映し出されたモニタを見て、フィロフィアは打ち震えた。
町の門……俺たちの手によって既に壊されたガラ空きの門に向かって突っ込んできている百を超える大軍勢のビースト。
「どういうことだ!? 明らかに数がおかしいぞ! こんなに……こんなに、なんで!?」
フィロフィアは納得できないと言うように頭を抱え取り乱す。
「ま、そういうことだ。疲弊したバスカノの兵だけじゃ、どうにもならない数だな」
「ふっ、ふざけるなよ!? これは……君が仕組んだんだな……! よくもこんな真似……」
「その言葉、そっくりそのままお前に返す」
「……うっ」
そもそも最初にけしかけてきたのはそちらだ。こっちがどういう方法で報復しようとも文句を言われる筋合いなどないはず。
元々、イースランに向かってきていたビーストは精々30から50程度。
しかし、あるものを使うことによって俺はそれを倍以上に増やした。
では種明かしといこう。
まず、なんで食品加工工場なんて回りくどいものを建てたのか。それは、ビーストの特性、建物にヘイト(敵対心)が向きやすいというものがあるからだ。ビーストがこちらに攻めてきて、幹部達で応戦。当然徐々に後退していかなければならないので、背後にある工場を盾にする事になる。
その段階で俺とエルアは南門から脱出。ここでもう一つ注目すべきは、ビーストの標的は「エルア」だという点。優先度の高い工場の破壊が終わって我に帰ったビーストは進路を変えて最短距離でエルアを殺しに来る。その時既にシルフィ達は隙をついて横を抜けていた。
ビーストの数を減らさなければならなかった理由は、あまり数が多いと横をすり抜ける時に何らかの理由で巻き添え食らって怪我されることを心配したから。
そして……イースランの幹部達よりも戦闘ベタなアイシャにHPを上げる訓練を積ませていたのは、この横をすり抜ける時に流れ弾で事故死しないようにするためだ。
散々勿体ぶったビーストの数を増やした方法が……。
「……これだよ」
シルフィに持たせていた、あるものを取り出す。効力はまだ続いている。赤紫の煙を吐く特殊な木の枝のような物を見てフィロフィアは目を見開いた。
「ケモノ……マタタビ……」
「その通り。ケモノマタタビはビーストを誘導することができるアイテムだ。本来は襲撃回避とかで使うんだが、今回はそれを応用した」
元々エルアを狙っていた奴らは進路を変えてバスカノへ。
そして、誘導したビーストはケモノマタタビに釣られてバスカノへ。
その後なにが起こるかを知らせれば間違いなく大反対されるので、結構ギリギリまで黙ってたし、シルフィ側には本当に何も言わなかった。
「今のバスカノの戦力は半分以下だろうな。幹部達も疲弊してるだろうし」
アルノアに至っては生きてるかどうかが分からないが。
「あーあー。どーしよっかなー! なんか喧嘩売られたし馬鹿にもされたからなー」
俺はわざとらしく、チラチラとフィロフィアを見ながら様式美ともいえる程のゲス顏を浮かべる。
「どーっしてもってんなら、助けてやらんこともないぞ?」
「……ぐっ、ぐっ。ぐぅううううううう!!」
これは悔しいでしょうねぇ。
勝ったと思ったらとんでもないカウンター喰らってその相手に救援求めなきゃならんとか。
「みんな……いるんだ。街には、色んな人が。みんな、いい人なんだ……」
うわ言のようにフィロフィアはブツブツとつぶやく。
そして、顏を真っ赤にしながら、俺に頭を下げた。
「お願い……します」
「よし。任せとけ。タダって訳にはいかないけどな」
「…………」
俺たちの電子紐をほどき、それっきりフィロフィアは何も言わなかった。
俺は、そんなフィロフィアに対して一つ言っておくことがある。
「……。いや、なんつーか、これは戦争だから、あんまりとやかく言うつもりはないけどよ」
国と国との合戦。あまり私情のような物を持ち込むのもよろしくない。……だが。
「自分の国には、守らなきゃいけない民と、仲間がいるんだよ。それはお前も他の奴らも一緒だろ? ……そういうの、ちょっと考えても良かったんじゃねぇかって……思う」
言っている言葉に自信はないが、つまり俺の言いたいことはそういうことだ。
フィロフィアはうつむきながら数歩俺に向かって歩いた。
そして……。
「協力に感謝するよ。……礼もする。それからイースランの復興作業も援助する」
「……お前……!」
「だが、それとこれとは別に君たちリースティアスにはどこかのタイミングで復讐してやるからな」
「…………えっ」
……あれ?
なんか、こう、綺麗に収まりそうだったじゃん。
なんでそういう話の流れになるんだよ……!?
「あ、あのだな……」
俺は何かを言おうとするが、少し強くなった地響きに我に返る。
「って、こんなことしてる場合じゃねぇ! リン達はまだか……」
100を超える大軍勢を相手にするなら疲労してる幹部九人でギリギリ足りるってくらいだ。
仲間の帰りを待ち遠しく思っていると……。
「エルアー! 帰ったでー!」
「――――っ! ライナ!」
疲れを感じさせない元気そうな声が聞こえてきた。
見ると、ライナの方がロアルアと共に戻ってきていた。
「申し訳ありませんマスター。非常事態につき、戦闘を中断してしまいました」
「いや、いい。それよりも次の仕事があるぞ」
フィロフィアは……周りに気づかれないようにしているのかもしれないが、怪我のないロアルアを見て安堵の色を顔に浮かべている。
「アギさまー!!!」
そのすぐ後。ライナの後ろから澄み渡った真夏日の快晴みたいな笑顔でリンが走ってきた。
そして、服がボロボロになり、もう見えるところ全部見えてる上に、生気を感じさせない程の虚ろな目でいかにも事後ですと言ってるような空気を出している……アルノアも引きずられて戻ってきた。
「フィローちゃぁあん!! 怖かったわぁぁぁぁぁ!」
フィロフィアの姿を確認したアルノアは全力で駆けて、泣きついた。
よく生きてたな、アルノア……。
「アルノア……。ご、ごめん、無理、させた……」
「うう……どうしたのよぉ……謝るなんて、らしくないわぁ……うぇぇぇん……」
「……うん」
泣きじゃくるアルノアをフィロフィアが撫でる。
本当に何があったんだよ。本当に何をしたんだよ。なんて、リンに聞けるわけがない。
「と、取り敢えずアルノア。服、着ないか」
さっきから気になっていることを指摘する。もう服が服の役割を果たしておらず、布が首らへんにちょっと巻きついてるだけのアルノアの姿はこんな状況でも扇情的に見える。俺にとっては目のやり場に困るわけだ。
「アルノア、これを」
フィロフィアがどこからか同じタイプの服を取り出し、アルノアに手渡す。アルノアは手早くそれを見にまとい、立ち上がった。
「……さて、取り敢えず……揃ったわけだ」
三国の幹部ユニットがここに集結した。考えてみたら、これで世界征服できるんじゃないだろうか。
この世界には五つしか国がないわけだから……もう半分以上が揃っている。
「よし、時間はあんまりないからな。とにかくまずは街の門の前まで……」
俺が歩いてみんなを誘導しようとする。
しかし、地震のような揺れが起き、その場にいた全員が突然のこのにバランスを崩す。
刹那、何かが風を切りながら落下する音。
「ぐっ……! オラァ!」
直感で何かがヤバいと判断した俺の身体は、気合の声をあげながら近くにいたエルアを押し倒すように巻き込んで跳躍する。
それにならってシルフィも俺と同じ方向に身を投げ出す。
「ちょ……エルア!」
「……あぶ、ない……!」
ライナもこちらに走ろうとするが、天井から落石。慌ててアイシャが引っ張る。
……落石?
「うぉ、あぁあああ!?」
次から次へと天井を打ち破っては巨岩が降ってくる。
ちょっと待て、何が起こってやがる!?
鳴り止まない轟音を身を縮めて耐える。
静寂が訪れた頃には、廊下は瓦礫で埋まっていた。
アイシャやリンは……岩の向こう側、か。こっちにいるのは、俺とエルアと……シルフィの三人。ちょうど王室の扉の前だ。
……これでは城外に出ることができない。
「げほっ、けほっ……どうなってんのよ!?」
四つん這いになりながら咳き込むシルフィが声を上げる。
俺は痛む身体を起き上がらせて、思考を巡らせた。
「……。岩、か」
それだけの情報で記憶の中に検索をかけ、俺はある答えにたどり着く。
多分、投石の能力を持った……ビースト。
ビーストにも種類がいて、当然個々でやることが全然違う。足の速いやつもいれば、パワーがべらぼうに高いやつもいる。
「投石……だと? まさか……」
「あ……あ、あぁ。あの、アギ……王」
「ん?」
声のする方を見ると、顔から耳まで真っ赤にしたエルアが居た。
……俺の腕の中で。
「うぉあ!? すまん!?」
や、やっちまった!? どうやら、小脇に抱きしめたままだったらしく……こ、これはまた何か投げられてもおかしくはない……!
俺は飛び退くようにしてエルアから身体を離した。
「い、いえ……ありがとうございます」
「あ、ああ」
しかし何かが飛んでくるわけでもなく、なんとなく気まずい気持ちになりながらもお互い距離を取る。
「……アギ」
「あ、そうだな。すまん」
ジロリと睨んでくるシルフィに促され、俺は次の行動を示す。
「おーい。聞こえるかー!?」
「ああ、聞こえているよ」
声を張り上げると、ことの他冷静なフィロフィアの声が聞こえた。なんだ、自分の城が破壊されたってのに、やけに落ち着いてるな。
「時間がない。とにかく街の門の前に全員集合だ! 街中に敵を入れたら終わりだからな!」
「分かった。君らの部下もこっちにいるが……指揮は僕が取っていいかね?」
「ああ、そうしてくれ」
「了解した。目にものを見せてやろう」
フィロフィアが静かに怒っているのを感じる。
俺はニヤリと笑って、自分の脱出方法を考えた。
王室へ通じる鉄の扉を押し開け、二人を連れて中に入る。
幾何学な計算式が几帳面に書かれた黒板に、いくつものコンピュータと精密機器類。
そして、その中央にはデカデカと「6」の文字が書かれた筒型の装置が鎮座していた。
「さーてと、どうすっかね」
頭をかいて、考える。
廊下は瓦礫に埋れているから、普通に城の外に出ることはできない。流石にこの装置の使い方は分からないし。
などと頭を悩ませていると、拡声器のようなものからノイズが響き、続いてフィロフィアの声が聞こえてきた。
『アギ王、聞こえているかね?』
「……フィロフィアか? 聞こえてるぞー」
『今、マイクのようなものでそちらに放送している。……まぁ、そちらの声はこっちには届かないんだがね』
淡々とフィロフィアは言葉を続ける。俺たちは黙ってその言葉に耳を傾けた。
『走ってる途中に喋るのにも限界がある。一度しか言わないからよく聞いてくれ』
一息入れて、フィロフィアが説明を始めた。
『まず、君たちは王室にいると思う。王室に筒型の装置があるね? それが転移装置だ』
そう言われ、俺たちの視線はその筒型の装置へと動く。
『装置には数字が記入されている。それがその装置の名前だと思ってくれて構わない』
「ふむ……」
俺は銀色の機体に大きく自己主張する朱色の文字を見た。
「6」と、確かに記されている。
『そこには「6」の装置があるはずだ。そして転移装置は繋がっている場所と、いない場所があるんだ』
「……そりゃまた面倒臭そうだな」
セキュリティのためだろうか?
『城にある「2から6」の転送装置は、それぞれ商が整数かつ余りが出ない場所にしか飛ぶことができない』
「……え」
商に余りが……。商ってのは確か、割り算の答えだったような。
『街の外にある「7から12」についても同様だ。注意してくれ』
「……」
いかん、頭が混乱してきた。
つまり……どういうことだってばよ?
『……一例を言おうか。例えば、「6から3に移動」したい時。計算式は6÷3だ。これは割り切れるだろう。反対に、「3から6」。これの答えは0.5だ。割り切れるが、整数じゃない。つまり、移動はできない』
「……あー」
こっちが理解に苦しむだろうと思ったのか、フィロフィアは分かり易い例をあげてくれる。
おかげでだいたいつかめてきた。
『まずは、6から2に飛んでくれ。一番城の中で城門に近い位置だ。そこから走って来てくれ』
「……なるほどね」
『……恨んではいるが、協力には一応感謝するよ。ありがとう』
……それっきり、拡声器から声は聞こえてこなかった。
やれやれ。あいつ、お礼なんか言っちゃって、まぁ。
って、あれ。待てよ? その理論だと、機能しない転送装置があるんじゃ……?
「……考えてる暇ないな……行くぞ!」
「そうね。時間はかけられないわ」
「参りましょう!」
俺たちは三人揃って筒型の装置の中に足を踏み入れる。
俺は鉄くさいレバーを下げ、番号を指定する。
ゼンマイや歯車が動くような起動音が緊張感を匂わせる。
「っ――――!」
視界が一瞬チカッと光り、全身が痙攣する感覚に襲われる。
その瞬間、装置の中にいた俺たちの身体は光の粒子となって消えた。
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正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
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