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第十二幕
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どんなゲームにも、少なからずともやり込み要素というものがある。
アイテムを全て揃えることだったり、キャラのステータスを限界まで引き上げたり、ラスボスの上を行く強敵と戦ったり。
……Vボスというのは、そのやり込み要素の一つ。
Vの文字はベリーハードの略であり、読んで字が如く、ベリーハードでないと出現しない。
ラスボス以上の理不尽さを持ち、数多の骸(むくろ)を作ってきたその存在は……とても、今の俺たちが敵う相手ではなかった。
「というわけで、あいつにはおかえりいただこう」
「無難だね。だが作戦を考えている時間はなさそうだ」
俺とフィロフィアがそうやり取りをする。
どうやらフィロフィアはこういう不測の事態や未知の存在に対して、冷静でいるのが得意らしい。流石は自分を天才と主張するだけのことはある。
「幸いなのは、こいつがエルアを狙ってる奴じゃなくて、野良だってことだよな」
エルアを自動追尾する奴にVボスが混じっていたらいよいよ詰みだったろう。倒せるステータスが整うまで、永遠に逃げ続けなくてはならないからな。そんなことはできっこない。
「……具体的にはどないするんや?」
「奴はマタタビに反応している。その途中、目に入る奴を片っ端から攻撃しているというわけだ」
そういいながら、俺はロアルアに目を向ける。
「ロアルア、魔動機だ。頼む」
「……ですが、今から城に入り、動力室まで行くのは――――」
と、そこまでロアルアが言ったところでフィロフィアが口をはさむ。
「アギ王、起動は済ませてあるのかね?」
「ああ。後は起動するだけだぜ」
「……」
ロアルアはなぜ俺がそこまで色々知っているのかが不自然なのだろうが、ひとまずそれを置いておいて、フィロフィアに目配せをした。
フィロフィアは構わないとうなずいて、ロアルアを促す。
「……Yes、マスター。仰せの通りに」
――――とだけ言って、走り出した。
「ロアルアが魔道機に乗って来るまで、俺たちで耐えるぞ」
「なるほど」
納得したようにフィロフィアが頷いた。同様に他の皆も理解してくれたようだ。
動力室でエンジンはかけて来たので、準備はすぐに整うはず。俺たちはその数分間を戦って耐え抜くのみだ。
Vボス……【グランガーダー】は筋骨粒々な三メートル程の巨人だ。右腕が肥大化しており、関節が逆の方向を向いている。
人間の根本的な恐怖を煽るような崩れ切った顔。ところどころ崩れている皮膚は、さながら腐った死体のようだった。
グランガーダーは再度、天に向かってけたたましい雄叫びを上げ、腕を振り上げ、俺たちを潰さんと振るって来た。
「回避するぞ! アイシャ、頼む!」
「……うん、ビリビリ、いける」
アイシャが導線を両手に持ち、振り回す。
すると、アイシャを中心にして、稲光が円状に広がりはじめた。
「……【帯電結界ビリビリ】」
アイシャがそう呟くと、ドーム状の稲光は更に唸りを上げ、グランガーダーの肥大化した右腕と衝突する。
稲光の乱れる結界の中に入った瞬間、腕は目に見えてその動きが遅くなった。
アイシャはそこから少し動き、腕の攻撃範囲から逃れる。
俺たちも、落ち着いてその場から避難した。
稲光がはじけ飛び、消えると同時に、腕が速度を取り戻す。
しかし狙っていたはずの標的はすでにそこにいなく、腕は思い切り地面を抉るだけに終わった。
「よし、うまくいった。流石だアイシャ!」
「……うん」
俺は安堵の息を漏らして、アイシャにオーケーサインを出した。
アイシャはニヤリと似合わない笑みを作って、その似合わなさに自分で気づいて顔を真っ赤にしながら導線を振り回した。
……【帯電結界ビリビリ】。
アイシャのスキルの名だ。
結界内に入った対象に継続ダメージを与え、速度を大きく低下させる。結界の外に出れば速度は元通りになるが、範囲が広いため、下がった速度では抜けるのも一苦労で、継続ダメージも合間っていつの間にか死んでる。なんていう使い方の多い便利スキルだ。
ただこのスキル、使用する士気ゲージが多すぎるためここぞという時にしか使えない。
そんな時の……。
「これが最後なんやろ? アギ王」
「ああ、その通りだ」
上手いタイミングでライナが動いてくれる。
「だったら気合い入れて行くで! 全員気張りや!!」
ライナのスキル【反響する声】が発動され、鼓舞の効果は飛躍的に上昇する。
士気ゲージが回復してくれれば……。
「うわわわ……次が来るぞ!?」
アリスが手をわたわたと振りながら、再び振り下ろされる腕を見て声をあげる。
「【シルフクラッチ】――――!」
「くっ。古の力、思い知れ!【インフィニティ=ボルケーノ】!」
復活したシルフィ、慌てながらも詠唱したアリスが同時にスキルを発動させ、グランガーダーの右腕と衝突する。
風の刃と、火炎弾が見事に合体し、弾くことに成功した。
「我らに逆らう力は全て無に帰す……」
手を顔に当て、ビシッと決めるアリスの声をかき消すように、エンジン音と空を切る音が響いた。
「マスター。到着しました」
「おお、来たかロアルア」
スレンダーな鉄の機体。腕と機銃が一体化しており、肩には多連装のミサイルが装填されている。
白銀の身体は、四肢を動かす感覚に類似するという。
魔道機、【マルチ】。最も基本的かつ、汎用性の高い機体が今、到着した。
「ここからが本腰じゃな。さぁ、荒事は苦手ではあるが思い切り暴れてくれようぞ!」
袖をまくり、鼻を鳴らすナスティ。
どうやら、他の皆もそんな感じらしいが。……はて、こいつらは何を言っているのだろう。
「じゃっ、ロアルア。これ持ってどこか遠くに行って来てくれ。人のいない所な」
「了解しました」
俺はロアルアにケモノマタタビを持たせた。
ロアルアが最大速度でマルチを走らせると……グランガーダーはそれに一直線について行った。
そして訪れる静寂。
俺とフィロフィア以外が、その謎の空気に口を開けていた。
「…………え、終わり?」
「うん終わり」
シルフィが間の抜けた声を出す。俺はそれに即答した。
「アギ王。ひょっとして……皆勘違いしているんじゃないのか」
「え、あ。そういうことか」
フィロフィアが皆の顔を伺って説明してくれる。
考えてみたら、あいつに帰ってもらおうと言ったのを聞いてたのは多分フィロフィアだけだし、ライナにもちょこっと説明したが、理解することはできなかったのだろう。
だから、魔道機を使ってあいつを倒す、という勘違いが発生したのか。
「……あんな奴とまともにやりあったら、日が暮れるっての」
俺はもう見えない所まで走って行ってしまったグランガーダーの方向を見て、声を上げた。
「さて……みんな、お疲れさん!」
落石で別々になり、Vボスなんていう最悪の相手も出てきた。不幸中の幸いは、ケモノマタタビがすぐ手に入る場所を記憶していた事だろう。
マタタビを何処かに放り投げてきたロアルアがその場の謎の空気に小首を傾げていた。
……かくして。
マジカルオスティアの最初のイベントは、幕を閉じたのであった。
◆
【Hard sell of kindness】の目的は、バスカノに対する恩の押し売りだ。
疲労は残っているが、この手続きだけは済まさなくてはならない。
「……何が欲しいんだ」
不貞腐れた顔で、フィロフィアは俺に尋ねる。わざわざ助けてやったんだ。そのお礼は豪華なものでないといけない。
だから俺は、迷うことなく褒美を注文した。
「魔道機の製造技術をくれ」
「…………なにぃ!?」
リースティアスが初心者向きと呼ばれる理由の一つに、このイベントで魔道機の製造が可能になるということがある。
初期でバスカノにしかないこの技術は、限りなく強力な物となるだろう。
「約束は守ってもらうぞー?」
「ぐぅ……!」
流石に俺に頭が上がらないのか、フィロフィアの減らず口は出てこない。
そして、大きくため息をついて、観念したように頷いた。
「わかった、教えよう。……だけど、少し落ち着いてからでも構わないか? なに、心配しなくてもちゃんと約束するよ」
「ああ、それでいい。俺たちも休みたいからな」
そうして、約束を取り付けた俺たちは、一先ずイースランの王室に戻ることとなった。
一日もたっていないが、まるで旅行から帰りたての我が家のような安心感がある。
会談室に各自座り、エルアが話をはじめた。
「皆さん……お疲れ様でした。そして……ありがとうございます」
エルアは落ち着いた様子で言葉を続ける。
「リースティアスの皆様には、本当に。何とお礼を言えばいいか……」
「あーいや。いいよ、そんなの。なんか俺こそ好き勝手やって悪かったっていうか……」
勝手に他人の国に押し入って暴れただけなのに、お礼を言われると、なんかこそばゆい。だが、エルアは本当に感謝してくれているようで、俺に向かって満面の笑みを浮かべた。
「今日はお疲れでしょうから、一先ず休んでください。それで、アギ王。よければ……」
「ん、なんだ?」
エルアが急におずおずと何かを提案しようとしたので、俺は言葉の続きを促す。
「よければ、後日イースラン全土で、宴を開きましょう。戦争が終わった、祝いです」
「おお! ええやん!」
宴、と聞いてライナが歓声を上げる。もちろん断る理由もないし、俺はシルフィ達に目を向けた。
三人とも、否定することはしないようだ。
「じゃあ、参加させてもらうよ。あ、宴の材料とかはうちからも持ってこようか?」
「そ、それはとても嬉しいのですが……でも」
「いいよ。どうせなら派手にやろう!」
エルアは申し訳なさそうに俺に礼を言うと。早速準備をするために、ということでその場を解散となった。
そしえ物資を運ぶために、俺たちは宿に置いてあった荷物をまとめて、一度リースティアスに戻ることにした。
……街門から外に出るとき、エルア達が見送りに来てくれた。
「あの、アギ王」
「ん?」
すると、エルアが耳打ちしたいのか、俺の顔に顔を近づけて来た。その愛らしい仕草に思わず心臓が跳ねるが、それを隠して、俺は耳を向ける。
「宴の最中……できれば、お時間を作ってください。お話ししたいことが、あるんです」
「……あ、ああ」
エルアはそうとだけ言って、俺の耳の近くから離れた。
お話ししたいこと……年頃の女子からのその台詞はとても甘美なものだが……一体なんなんだろうか。
「何言われたのよ」
「べっつに?」
俺は緩む頬をなんとか抑えながら、不機嫌そうに尋ねるシルフィに答える。すると、シルフィはますます不機嫌そうに口を尖らせた。
「んゃっ、またねー!!」
「うふふ。日付はすぐに教えますね。またお会いしましょう」
そうして、ビーストの居ない、平和になった大地を踏みしめ、俺たちは帰路についた。
アイテムを全て揃えることだったり、キャラのステータスを限界まで引き上げたり、ラスボスの上を行く強敵と戦ったり。
……Vボスというのは、そのやり込み要素の一つ。
Vの文字はベリーハードの略であり、読んで字が如く、ベリーハードでないと出現しない。
ラスボス以上の理不尽さを持ち、数多の骸(むくろ)を作ってきたその存在は……とても、今の俺たちが敵う相手ではなかった。
「というわけで、あいつにはおかえりいただこう」
「無難だね。だが作戦を考えている時間はなさそうだ」
俺とフィロフィアがそうやり取りをする。
どうやらフィロフィアはこういう不測の事態や未知の存在に対して、冷静でいるのが得意らしい。流石は自分を天才と主張するだけのことはある。
「幸いなのは、こいつがエルアを狙ってる奴じゃなくて、野良だってことだよな」
エルアを自動追尾する奴にVボスが混じっていたらいよいよ詰みだったろう。倒せるステータスが整うまで、永遠に逃げ続けなくてはならないからな。そんなことはできっこない。
「……具体的にはどないするんや?」
「奴はマタタビに反応している。その途中、目に入る奴を片っ端から攻撃しているというわけだ」
そういいながら、俺はロアルアに目を向ける。
「ロアルア、魔動機だ。頼む」
「……ですが、今から城に入り、動力室まで行くのは――――」
と、そこまでロアルアが言ったところでフィロフィアが口をはさむ。
「アギ王、起動は済ませてあるのかね?」
「ああ。後は起動するだけだぜ」
「……」
ロアルアはなぜ俺がそこまで色々知っているのかが不自然なのだろうが、ひとまずそれを置いておいて、フィロフィアに目配せをした。
フィロフィアは構わないとうなずいて、ロアルアを促す。
「……Yes、マスター。仰せの通りに」
――――とだけ言って、走り出した。
「ロアルアが魔道機に乗って来るまで、俺たちで耐えるぞ」
「なるほど」
納得したようにフィロフィアが頷いた。同様に他の皆も理解してくれたようだ。
動力室でエンジンはかけて来たので、準備はすぐに整うはず。俺たちはその数分間を戦って耐え抜くのみだ。
Vボス……【グランガーダー】は筋骨粒々な三メートル程の巨人だ。右腕が肥大化しており、関節が逆の方向を向いている。
人間の根本的な恐怖を煽るような崩れ切った顔。ところどころ崩れている皮膚は、さながら腐った死体のようだった。
グランガーダーは再度、天に向かってけたたましい雄叫びを上げ、腕を振り上げ、俺たちを潰さんと振るって来た。
「回避するぞ! アイシャ、頼む!」
「……うん、ビリビリ、いける」
アイシャが導線を両手に持ち、振り回す。
すると、アイシャを中心にして、稲光が円状に広がりはじめた。
「……【帯電結界ビリビリ】」
アイシャがそう呟くと、ドーム状の稲光は更に唸りを上げ、グランガーダーの肥大化した右腕と衝突する。
稲光の乱れる結界の中に入った瞬間、腕は目に見えてその動きが遅くなった。
アイシャはそこから少し動き、腕の攻撃範囲から逃れる。
俺たちも、落ち着いてその場から避難した。
稲光がはじけ飛び、消えると同時に、腕が速度を取り戻す。
しかし狙っていたはずの標的はすでにそこにいなく、腕は思い切り地面を抉るだけに終わった。
「よし、うまくいった。流石だアイシャ!」
「……うん」
俺は安堵の息を漏らして、アイシャにオーケーサインを出した。
アイシャはニヤリと似合わない笑みを作って、その似合わなさに自分で気づいて顔を真っ赤にしながら導線を振り回した。
……【帯電結界ビリビリ】。
アイシャのスキルの名だ。
結界内に入った対象に継続ダメージを与え、速度を大きく低下させる。結界の外に出れば速度は元通りになるが、範囲が広いため、下がった速度では抜けるのも一苦労で、継続ダメージも合間っていつの間にか死んでる。なんていう使い方の多い便利スキルだ。
ただこのスキル、使用する士気ゲージが多すぎるためここぞという時にしか使えない。
そんな時の……。
「これが最後なんやろ? アギ王」
「ああ、その通りだ」
上手いタイミングでライナが動いてくれる。
「だったら気合い入れて行くで! 全員気張りや!!」
ライナのスキル【反響する声】が発動され、鼓舞の効果は飛躍的に上昇する。
士気ゲージが回復してくれれば……。
「うわわわ……次が来るぞ!?」
アリスが手をわたわたと振りながら、再び振り下ろされる腕を見て声をあげる。
「【シルフクラッチ】――――!」
「くっ。古の力、思い知れ!【インフィニティ=ボルケーノ】!」
復活したシルフィ、慌てながらも詠唱したアリスが同時にスキルを発動させ、グランガーダーの右腕と衝突する。
風の刃と、火炎弾が見事に合体し、弾くことに成功した。
「我らに逆らう力は全て無に帰す……」
手を顔に当て、ビシッと決めるアリスの声をかき消すように、エンジン音と空を切る音が響いた。
「マスター。到着しました」
「おお、来たかロアルア」
スレンダーな鉄の機体。腕と機銃が一体化しており、肩には多連装のミサイルが装填されている。
白銀の身体は、四肢を動かす感覚に類似するという。
魔道機、【マルチ】。最も基本的かつ、汎用性の高い機体が今、到着した。
「ここからが本腰じゃな。さぁ、荒事は苦手ではあるが思い切り暴れてくれようぞ!」
袖をまくり、鼻を鳴らすナスティ。
どうやら、他の皆もそんな感じらしいが。……はて、こいつらは何を言っているのだろう。
「じゃっ、ロアルア。これ持ってどこか遠くに行って来てくれ。人のいない所な」
「了解しました」
俺はロアルアにケモノマタタビを持たせた。
ロアルアが最大速度でマルチを走らせると……グランガーダーはそれに一直線について行った。
そして訪れる静寂。
俺とフィロフィア以外が、その謎の空気に口を開けていた。
「…………え、終わり?」
「うん終わり」
シルフィが間の抜けた声を出す。俺はそれに即答した。
「アギ王。ひょっとして……皆勘違いしているんじゃないのか」
「え、あ。そういうことか」
フィロフィアが皆の顔を伺って説明してくれる。
考えてみたら、あいつに帰ってもらおうと言ったのを聞いてたのは多分フィロフィアだけだし、ライナにもちょこっと説明したが、理解することはできなかったのだろう。
だから、魔道機を使ってあいつを倒す、という勘違いが発生したのか。
「……あんな奴とまともにやりあったら、日が暮れるっての」
俺はもう見えない所まで走って行ってしまったグランガーダーの方向を見て、声を上げた。
「さて……みんな、お疲れさん!」
落石で別々になり、Vボスなんていう最悪の相手も出てきた。不幸中の幸いは、ケモノマタタビがすぐ手に入る場所を記憶していた事だろう。
マタタビを何処かに放り投げてきたロアルアがその場の謎の空気に小首を傾げていた。
……かくして。
マジカルオスティアの最初のイベントは、幕を閉じたのであった。
◆
【Hard sell of kindness】の目的は、バスカノに対する恩の押し売りだ。
疲労は残っているが、この手続きだけは済まさなくてはならない。
「……何が欲しいんだ」
不貞腐れた顔で、フィロフィアは俺に尋ねる。わざわざ助けてやったんだ。そのお礼は豪華なものでないといけない。
だから俺は、迷うことなく褒美を注文した。
「魔道機の製造技術をくれ」
「…………なにぃ!?」
リースティアスが初心者向きと呼ばれる理由の一つに、このイベントで魔道機の製造が可能になるということがある。
初期でバスカノにしかないこの技術は、限りなく強力な物となるだろう。
「約束は守ってもらうぞー?」
「ぐぅ……!」
流石に俺に頭が上がらないのか、フィロフィアの減らず口は出てこない。
そして、大きくため息をついて、観念したように頷いた。
「わかった、教えよう。……だけど、少し落ち着いてからでも構わないか? なに、心配しなくてもちゃんと約束するよ」
「ああ、それでいい。俺たちも休みたいからな」
そうして、約束を取り付けた俺たちは、一先ずイースランの王室に戻ることとなった。
一日もたっていないが、まるで旅行から帰りたての我が家のような安心感がある。
会談室に各自座り、エルアが話をはじめた。
「皆さん……お疲れ様でした。そして……ありがとうございます」
エルアは落ち着いた様子で言葉を続ける。
「リースティアスの皆様には、本当に。何とお礼を言えばいいか……」
「あーいや。いいよ、そんなの。なんか俺こそ好き勝手やって悪かったっていうか……」
勝手に他人の国に押し入って暴れただけなのに、お礼を言われると、なんかこそばゆい。だが、エルアは本当に感謝してくれているようで、俺に向かって満面の笑みを浮かべた。
「今日はお疲れでしょうから、一先ず休んでください。それで、アギ王。よければ……」
「ん、なんだ?」
エルアが急におずおずと何かを提案しようとしたので、俺は言葉の続きを促す。
「よければ、後日イースラン全土で、宴を開きましょう。戦争が終わった、祝いです」
「おお! ええやん!」
宴、と聞いてライナが歓声を上げる。もちろん断る理由もないし、俺はシルフィ達に目を向けた。
三人とも、否定することはしないようだ。
「じゃあ、参加させてもらうよ。あ、宴の材料とかはうちからも持ってこようか?」
「そ、それはとても嬉しいのですが……でも」
「いいよ。どうせなら派手にやろう!」
エルアは申し訳なさそうに俺に礼を言うと。早速準備をするために、ということでその場を解散となった。
そしえ物資を運ぶために、俺たちは宿に置いてあった荷物をまとめて、一度リースティアスに戻ることにした。
……街門から外に出るとき、エルア達が見送りに来てくれた。
「あの、アギ王」
「ん?」
すると、エルアが耳打ちしたいのか、俺の顔に顔を近づけて来た。その愛らしい仕草に思わず心臓が跳ねるが、それを隠して、俺は耳を向ける。
「宴の最中……できれば、お時間を作ってください。お話ししたいことが、あるんです」
「……あ、ああ」
エルアはそうとだけ言って、俺の耳の近くから離れた。
お話ししたいこと……年頃の女子からのその台詞はとても甘美なものだが……一体なんなんだろうか。
「何言われたのよ」
「べっつに?」
俺は緩む頬をなんとか抑えながら、不機嫌そうに尋ねるシルフィに答える。すると、シルフィはますます不機嫌そうに口を尖らせた。
「んゃっ、またねー!!」
「うふふ。日付はすぐに教えますね。またお会いしましょう」
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