《完結》幼馴染の女上司と異世界召喚された僕ですが、勇者じゃなく“標的”でした ~殺し屋に命を狙われるとか聞いてない~

月輝晃

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第一章 田中悠斗

救出作戦①

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「え、マジ!? あいつらレベル高すぎるって! 無理! 絶対無理だから!」

 葵の声が跳ねた瞬間、空気がビリッと震えた。
 そのトーン――完全に“オフィスでミス連発した僕を叱る部長”の声だ。

 剣を構えた葵の目がギラリと光る。
 あの冷静な切れ者モード。
 「またコードバグらせたの!? いい加減にしろよ、悠斗!」って会議室で詰められてる気分だ。

「ほら、ボーッとしてないで何か言いなさいよ! この状況、どうすんの!?」

 ウミャウが僕の背中でビクッと震える。
 いや、僕だって同じくらい震えてる。

 ほんと部長モードじゃん……。さっきまで、もうちょっと優しかったよね。マジで心の中に“部長、申し訳ありませんでした”の文字が浮かんだ。

 でも――今は逃げられない。
 あの「奴隷市場」「王族」って言葉が頭から離れない。
 ウミャウのママを助けるには、やるしかないんだ。

「落ち着いて! 確かにレベル差はあるけど、髭男たちの動きを追えばアジトを突き止められる! ウミャウのためだ、頼む!」

「ハァ!? その場当たり的なノリが、いつもプロジェクト遅らせる原因でしょ!?」

 痛い。痛すぎる。
 いや、今そんなメタダメージ入れないで。

 と、葵がキレかけたその時――。
 ウミャウが小さな手で葵の袖をぎゅっと掴んだ。

「ユート……ママ、助けたい……ミャウ、がんばる……」

 その声に、葵の肩から力が抜けた。
 ため息をつき、剣を握り直す。

「……ったく、バカ。いいよ。行くよ。でも、絶対無茶しない。ヤバくなったら、私は逃げるからね!」

 言葉は乱暴なのに、どこか優しい。
 焚き火の残り火が、葵の瞳に小さく灯る。

「うん、ありがとう、葵! ウミャウ、任せた!」

「はいはい。……責任取ってよね、派遣さん」

 森の奥、夜風の中。
 僕らは密猟者の足跡を追い、静かに動き出した。
 焚き火の明かりが消え、闇だけが道を照らす。

 こうして、葵部長に半分押し切られつつ、僕ら3人は密猟者の後を追うことに。慎重しんちょうに距離を保ちながら追跡開始だ。



 髭男たちの足跡は、川を渡った先のぬかるみに、うっすらときざまれていた。 月明かりに照らされたその跡を、ウミャウが小さな指で指す。

「足跡、こっち……ミャウ」

 その声を頼りに、僕らは森の奥へと進む。
 木々の間を静かに移動し、髭男たちの気配を追う。
 
 葉のざわめきも、虫の声も、今はどこか遠くに聞こえる。
 息をする音すら大きく感じるほど、空気が張りつめていた。

 ウミャウが僕の背で耳をピクピクと動かし、小さく囁く。
「……足音、聞こえる。三人、たぶん……ボスもいる」
 その聴覚の鋭さに、思わず息をのむ。獣人の聴覚はすごいなあ。

 一時間ほど進んだ先――木々の切れ間に、古びた石造りの建物が見えた。崩れた壁の隙間からオレンジの明かりが漏れ、髭男たちの笑い声が聞こえる。
 
「ボスに報告だ。あの獣人のガキ、王族だろ? 高値で売れるぜ!」

 ――髭男の声だ。ボス?
 髭男がボスじゃなかったのか?
 胸の奥で嫌なざわめきが広がる。

 葵が肩を寄せ、低く囁く。
「悠斗、あそこがアジトっぽいね。でも……“ボス”って誰? あの髭より強そうだとマジでヤバい」
「うん。今は動かないで、様子を見よう。……ウミャウ、ママの気配、わかる?」

 ウミャウは小さく首を振る。
「ママ……いない。でも……ミャウ、確かめたい」

 ウミャウの小さな決意に、僕も無言で頷いた。

「よし、潜入しよう。静かに、慎重に」

 廃墟の裏手に回ると、崩れた壁の影から中を覗く。
 松明が壁に揺れ、鉄格子のおりがずらりと並んでいた。
 鎖の音が“カチャカチャ”と、まるで囚われた者たちの心臓の鼓動のように響いている。

 中には人間も、獣人も――老若男女が雑に押し込められていた。
 皆、疲れ果て、希望を失ったような瞳をしている。

「……なんてひどい」
 思わず声が出る。

 ウミャウが鉄格子の向こうを見つめる。
「ママ……パパ……」
 小さな声が震える。でも目を凝らしても、両親らしき姿は見えない。

 野党の数人が、見張りとしてウロウロしていたが、離れた隙に檻へ近づく。
 
 近くの檻に、ボロ布をまとった獣人の女性が横たわっていた。
 虎のような耳、鋭い眼光。しかしその瞳には、深い疲労が宿っている。
 
「ねえ……大丈夫?」
 思い切って話しかける。(胸は隠れていました)
「っ……!」

 女性が身を震わせ、警戒の色を浮かべる。
 野党と間違われたかと思ったので、すぐにウミャウを前に出した。

「この子の両親を探してるんだ。何か知らない?」

 獣人の女性は、しばらく僕らを見つめていたが、ウミャウを見て目を細めた。
「……子供の獣人? 珍しい種族ね。見たことがない……でも、ここに閉じ込められた仲間たちなら知ってるかも。協力するから、鎖を外してくれる?」

「助けたい。でも鍵が……」

「鍵なら、あそこ!」
 ウミャウが壁の上を指差す。
 錆びた鉄の輪に、鍵束がいくつもぶら下がって揺れていた。

 見張りが一人、近くをうろついている。
 でも――松明の光が届かない死角がある。そこを突ければ。

「葵、頼める? 葵の身のこなしならイケるでしょ?」
 僕は葵に囁く。
「……まったく。あんた、こういう時だけ人使い荒いよね」

 小声で文句を言いつつも、葵の目はもう戦闘モードだ。
 猫みたいに低く体を沈め、影から影へと移動する。
 松明の光が壁を舐めた瞬間、彼女の姿がスッと消えた。

 息を呑む。
 音ひとつしない。
 あの剣を持った姿より、今の方がずっと“獣”に見える。

 見張りが背を向けた一瞬――
 葵の手がすばやく伸び、鍵束を掴む。
 布で包んで音を殺すと、すぐに戻ってきた。

「……ゲット」
 息ひとつ乱れてない。
 さすが、元・全国レベルのテニス部。反応速度が違う。

 やっぱり頼りになるな……。昔の恋心がよみがえりそう……。
 ん?そんなのあったかな?

「ナイス! じゃあ、急いでこの人を解放しよう。」

 錆びた鍵を回すたび、カチリ、カチリと音が鳴る。
 三つ目の鍵で、鎖が外れた。

 獣人の女性はゆっくり立ち上がり、背筋を伸ばす。
 
 月明かりと松明の光が、その姿を照らした。

 ――豹の獣人だ。

 しなやかに引き締まった肢体。
 滑らかな黒と金の斑模様が、肩から腰にかけて流れるように続いている。

 瞳は、深い琥珀色こはくいろ
 光を反射するその目には、獣の本能と理性が同居している。
 喉元から胸元にかけての短い毛並みが、焚き火のように柔らかく揺れた。

 腕や太腿にはいくつもの傷跡がある。
 けれどそれが、かえって彼女の強さを物語っていた。
 その立ち姿は、まるで長く鎖に繋がれていた女戦士が再び世界に帰還した瞬間のようだ。
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