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昔の恋愛映画
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ラウンジの灯りはほとんど消してあった。
スクリーンに映るのは、90年代の恋愛映画。少し古めかしい色合い。ヒロインが、恋人の背中にすがりついて泣いている。
――わたし、しおりん。大学二年。座道部。
今日は部活終わりに、ひかりんと二人で映画を観ることになった。
理由は単純。ひかりんが「テスト終わったし、打ち上げに恋愛映画だろ!」と言い出したから。
部室のスクリーンにDVDプレーヤーを繋げて、わざわざポップコーンまで持ち込んで。
……部活なのか遊びなのか、よくわからない。でも、ひかりんが楽しそうだから、わたしも断れなかった。
*
スクリーンの中で、男女が抱き合ってキスする。
BGMは90年代らしい、ピアノとストリングスの直球ラブソング。
胸の奥がじんわり熱くなって、気づいたらわたしはつぶやいていた。
「……さぁこれが百合だったら完璧なのに」
しまった。心の声のつもりだった。
横からポップコーンをつまんでいたひかりんが、ぴたりと動きを止めた。
わたしを振り向いて、スクリーンの光に照らされた顔でニヤッと笑う。
「今、なんて言った?」
「え、ち、ちがっ! 何も言ってない!」
「ふーん。聞いちゃったよ。“百合だったら完璧”……だって?」
耳が一気に熱くなる。
「ち、違うの! ほんとに心の声が漏れただけで……」
「心の声って一番本音でしょ?」
ひかりんの目が悪戯っぽく細まる。
スクリーンの光が揺れて、彼女の笑顔がやけに近く見えた。
*
「でもさ、しおりん。あたしも同感だよ」
「えっ」
「だって、この映画、男女の恋愛ってだけでテンプレ感あるじゃん。
でもさ、もしこれが女の子同士だったら……絶対もっとドキドキするよ」
軽い調子で言うひかりん。でも、その横顔は真剣に見えた。
胸がざわついて、わたしはポップコーンをぎゅっと握りしめた。
「ねぇ、しおりん。あたしら、もうすでに“百合ハーレム”っぽいじゃん?」
「な、なにそれ……!」
「だってさ。ゆはりんは“かおりんも、しおりんも好き”とか言ってるし。奈々りんは真面目すぎて逆にフラグ立ってるし。わたしも……」
そこで言葉を切って、わざと溜める。
心臓がバクンと跳ねた。
「ひかりんも、なに?」
「……それは秘密」
ニヤッと笑って、ポップコーンを頬張る。
からかわれてる。そう分かってるのに、心臓の鼓動は速くなるばかりだった。
*
映画は進んでいく。
スクリーンの中の男女は、離れ離れになり、最後に再会して抱き合う。
古臭いくらいにベタな展開なのに、涙が出そうになる。
横をちらっと見ると、ひかりんは真剣な顔をしていた。
やっぱり、ひかりんは太陽みたいだ。
笑っているときは眩しくて、真剣なときは熱を帯びる。
……ずるい。そんなの、誰だって惹かれちゃうじゃん。
「……あの日のこと、覚えてる?」
「え?」
「六月の買い物デート」
ドキッとした。
雑貨屋で髪にピンを当てられたとき。
タピオカをシェアしたとき。
屋上で肩に頭を乗せられたとき。
全部、思い出して胸が苦しくなる。
「もちろん……覚えてるよ」
「ふふ。やっぱり」
ひかりんがポップコーンの箱を置き、少しだけ近づいてきた。
*
「実はね。あの日、ほんとは“半分デート”のつもりで誘ったんだ」
「っ……」
呼吸が止まった。
心臓がまたバクンと跳ねる。
まさか、そうだったなんて。
「座道部の仲間じゃなくて、ひとりの女の子として。しおりんと一緒に歩きたかった」
「……」
スクリーンの光が彼女の横顔を照らす。
ふざけてない。本気の声だった。
「しおりん。わたし、本気でしおりんのこと好きだよ」
――告白。
わたしの世界が、一瞬で静まり返った。
「……ほんとに?」
「うん。冗談っぽく聞こえてもいい。でも、ずっと本気。わたしは、しおりんが好き」
言葉が、胸の奥に突き刺さる。
返事をしようとしても、喉が震えて声にならない。
*
映画はエンドロールに入っていた。
ピアノの旋律と白い文字が、部室に流れていく。
わたしは下を向いて、指先をいじる。
ひかりんは、少しだけ手を伸ばしかけて――途中で止めた。
「……返事は急がなくていいよ」
笑顔に戻るひかりん。でも、その笑顔は少し切なかった。
「座道部流に言えば、“間を大事に”だね」
その言葉が優しくて、苦しくて。
わたしは小さくうなずくことしかできなかった。
*
ラウンジを出ると、夜の風がひんやり頬を撫でた。
モールのガラス越しに見えた六月の夕暮れを、わたしは思い出す。
あの日の笑顔。今日の言葉。
全部つながって、胸の中でざわざわと騒いでいた。
(……さぁこれが百合だったら完璧なのに、なんて言ったけど)
現実のほうがずっとドラマチックで、ずっと心を揺さぶってくるんだ。
スクリーンに映るのは、90年代の恋愛映画。少し古めかしい色合い。ヒロインが、恋人の背中にすがりついて泣いている。
――わたし、しおりん。大学二年。座道部。
今日は部活終わりに、ひかりんと二人で映画を観ることになった。
理由は単純。ひかりんが「テスト終わったし、打ち上げに恋愛映画だろ!」と言い出したから。
部室のスクリーンにDVDプレーヤーを繋げて、わざわざポップコーンまで持ち込んで。
……部活なのか遊びなのか、よくわからない。でも、ひかりんが楽しそうだから、わたしも断れなかった。
*
スクリーンの中で、男女が抱き合ってキスする。
BGMは90年代らしい、ピアノとストリングスの直球ラブソング。
胸の奥がじんわり熱くなって、気づいたらわたしはつぶやいていた。
「……さぁこれが百合だったら完璧なのに」
しまった。心の声のつもりだった。
横からポップコーンをつまんでいたひかりんが、ぴたりと動きを止めた。
わたしを振り向いて、スクリーンの光に照らされた顔でニヤッと笑う。
「今、なんて言った?」
「え、ち、ちがっ! 何も言ってない!」
「ふーん。聞いちゃったよ。“百合だったら完璧”……だって?」
耳が一気に熱くなる。
「ち、違うの! ほんとに心の声が漏れただけで……」
「心の声って一番本音でしょ?」
ひかりんの目が悪戯っぽく細まる。
スクリーンの光が揺れて、彼女の笑顔がやけに近く見えた。
*
「でもさ、しおりん。あたしも同感だよ」
「えっ」
「だって、この映画、男女の恋愛ってだけでテンプレ感あるじゃん。
でもさ、もしこれが女の子同士だったら……絶対もっとドキドキするよ」
軽い調子で言うひかりん。でも、その横顔は真剣に見えた。
胸がざわついて、わたしはポップコーンをぎゅっと握りしめた。
「ねぇ、しおりん。あたしら、もうすでに“百合ハーレム”っぽいじゃん?」
「な、なにそれ……!」
「だってさ。ゆはりんは“かおりんも、しおりんも好き”とか言ってるし。奈々りんは真面目すぎて逆にフラグ立ってるし。わたしも……」
そこで言葉を切って、わざと溜める。
心臓がバクンと跳ねた。
「ひかりんも、なに?」
「……それは秘密」
ニヤッと笑って、ポップコーンを頬張る。
からかわれてる。そう分かってるのに、心臓の鼓動は速くなるばかりだった。
*
映画は進んでいく。
スクリーンの中の男女は、離れ離れになり、最後に再会して抱き合う。
古臭いくらいにベタな展開なのに、涙が出そうになる。
横をちらっと見ると、ひかりんは真剣な顔をしていた。
やっぱり、ひかりんは太陽みたいだ。
笑っているときは眩しくて、真剣なときは熱を帯びる。
……ずるい。そんなの、誰だって惹かれちゃうじゃん。
「……あの日のこと、覚えてる?」
「え?」
「六月の買い物デート」
ドキッとした。
雑貨屋で髪にピンを当てられたとき。
タピオカをシェアしたとき。
屋上で肩に頭を乗せられたとき。
全部、思い出して胸が苦しくなる。
「もちろん……覚えてるよ」
「ふふ。やっぱり」
ひかりんがポップコーンの箱を置き、少しだけ近づいてきた。
*
「実はね。あの日、ほんとは“半分デート”のつもりで誘ったんだ」
「っ……」
呼吸が止まった。
心臓がまたバクンと跳ねる。
まさか、そうだったなんて。
「座道部の仲間じゃなくて、ひとりの女の子として。しおりんと一緒に歩きたかった」
「……」
スクリーンの光が彼女の横顔を照らす。
ふざけてない。本気の声だった。
「しおりん。わたし、本気でしおりんのこと好きだよ」
――告白。
わたしの世界が、一瞬で静まり返った。
「……ほんとに?」
「うん。冗談っぽく聞こえてもいい。でも、ずっと本気。わたしは、しおりんが好き」
言葉が、胸の奥に突き刺さる。
返事をしようとしても、喉が震えて声にならない。
*
映画はエンドロールに入っていた。
ピアノの旋律と白い文字が、部室に流れていく。
わたしは下を向いて、指先をいじる。
ひかりんは、少しだけ手を伸ばしかけて――途中で止めた。
「……返事は急がなくていいよ」
笑顔に戻るひかりん。でも、その笑顔は少し切なかった。
「座道部流に言えば、“間を大事に”だね」
その言葉が優しくて、苦しくて。
わたしは小さくうなずくことしかできなかった。
*
ラウンジを出ると、夜の風がひんやり頬を撫でた。
モールのガラス越しに見えた六月の夕暮れを、わたしは思い出す。
あの日の笑顔。今日の言葉。
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