卒業した姉とこれから入学するのではしゃぐ妹

月輝晃

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相撲

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 今日は私と――かおりんのふたりだけ。

 時間はまだ昼過ぎなのに、空気がどこか静かで、妙にふたりきりの空間が強調される。

「……なんか、久しぶりだね。こうやって、しおりんと2人きり」

 かおりんがそう言って、ソファにごろんと横になった。ゆるいジャージの裾から、ちらりと細い足首がのぞく。

 ――細い。うらやましい――

 無言で頷くと、かおりんはくるっとこちらに寝返り、上目遣いにこちらを見てきた。

「ねえ、なにか遊ばない?」

「……ほう、いいね……」

「2人きりの時にしかできない遊び、あるかなあ?」

 いたずらっぽい笑みを浮かべながら、かおりんがにじり寄ってくる。ドキッっとしたじゃん。なんの遊びするの?

「たとえば……じゃんけん?」

「地味」

「指相撲?」

「指が細すぎて負けそう」

「……じゃあ、本気の……お相撲!」

 かおりんがなぜかどーんと声を張った。

「は!? す、相撲!? なんで急に原始的な勝負に戻るのよ!」

「だって、“しおりん VS かおりん”って、絶対おもしろいと思うもん」

 怪獣対決ですか……

「相撲って、そんなキャラっぽく言うもの!?」

 しかも、なぜか自信満々な顔をしてる。

「ほら、あたし軽いから、しおりんに勝てるかもよ? 頭脳戦よ、これは!」

「えぇ~……じゃあ、座布団を土俵に見立てて……って、私たち何してんの……」

 そう言いながらも、私はソファの前に座布団を持ってきて、小さな土俵を作った。
 向かい合って正座し、軽く手をつく。

「はっけよい、のこった!」

「のこったぁ!」

 ――ごっつん!

 小さな手と手がぶつかる。体重も力もかけず、ふわっとしたじゃれ合いのような“相撲”が始まった。

 かおりんは笑いながらぐいぐい押してくるけど、どこか優しさを残していて、本気ではない。

 私もそれを感じて、にやにやが止まらなかった。

「こ、こら、反則、こちょこちょは禁止!」

「なにそれ、土俵際の駆け引きだもん!」

「それ相撲じゃなくて遊びっていうの!」

 バランスを崩して、私が後ろに倒れかけた時、かおりんもそのままつられて、私の小さな胸の上にどさっと倒れ込んできた。

「……わっ!」

「わ……ご、ごめん、だいじょうぶ?」

 見上げるかおりんの顔が、思ったよりも近い。
 息がほんのりかかる距離。ちょっと赤くなった頬、揺れる前髪、そしてまっすぐな瞳。

「……あの、さ、かおりん?」

 少しかすれた声がでちゃった……
 
「うん?」

「相撲って、たしか土俵から出たら負けだったよね」

「うん。だから、今のは……」

「……私の、勝ち?」

 ぽつりと言うと、かおりんはふにゃっと笑って、小さく唇をとがらせた。

「ずるい。しおりん、大人ぶってる」

「えっ、なにが?」

「こういうのって、勝ち負けじゃないじゃん。しおりんとこうやって遊べる時間が、一番大事なんだもん」

「……それ、反則級にかわいいセリフだからやめて」

 ……告白みたいじゃん……

「じゃあ……このまま負けてあげてもいいよ? しおりんが“お願い”してくれるなら」

「なにそれ、逆に攻められてるんだけど……」

 そんな、甘くて恥ずかしい空気の中、私は小さくため息をついてから――

「……お願い、もう少しこのままでいて?」

「うん」

 にこっと笑って、かおりんは私の上で目を閉じた。
 さっきまでの“相撲”が、嘘みたいに静かな時間。心音だけが、やけに大きく聞こえる。

 ……二人だけの時間……悪くない……

 少しして、かおりんが少し頭を起こして見つめている気配を感じた。

「……この枕やわらかくないなあ……」

「し、失礼な!」

「私のはやわらかいもん」

「くっ!」

 ……否定はしない……しないけどね

「……次は負けないよ」

「ふふ、こちょこちょ禁止だからね」

「わかってるよ、かおりん」

 この静かな日々が、ずっと続けばいいのに――。
 そう思いながら、私はそっとかおりんの背中に手を回した。
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