卒業した姉とこれから入学するのではしゃぐ妹

月輝晃

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風邪ひいた

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 5月の半ば、梅雨が始まりそうで、暑かったり雨が降ったりと不安定な天気ばかり。
 
 ゴールデンウィークの水遊びや、隣町のカフェでのキスから2ヶ月近く経つけど、かおりんとの時間は、なんだかますます特別なものになってる。
 
 あの日の公園でのキス、冗談半分だったはずなのに、思い出すたびに胸がドキドキする。かおりん、最近ますます大人っぽくなってきて、高校の話や、好きな人の話……まだ全部は話してくれないけど、なんか、姉として、ちょっと気になっちゃう。

 でも、今日はそんなこと考える余裕もない。朝から頭が重くて、喉がイガイガする。
 
  ──熱を測ってみる。
  
  38度。やっちゃった、完全に風邪だ。昨日、部活の後にアイス食べながらダラダラ歩いて帰ったのがまずかったかな。
  
 ママりんに●INEした。
 
 「安静にしてなさい! 薬飲んで、寝てなさい!」
 
  薬は冷蔵庫の奥にあるやつでいいのかな。かおりんは朝から高校で、夕方まで帰らないって言ってたし、今日は一人で大人しくしてるしかない。

 ベッドに横になりながら、スマホで動画を見ようとしたけど、頭がボーッとして集中できない。扇風機の風が、なんか生ぬるい。
 
 うー、しんどい。こんな時にかおりんがいれば、なんか面白いこと言って笑わせてくれるのに。いや、でも、風邪うつしちゃうから、帰ってくる前に治さないと。
 
 ──いっそのこと、キスでもしてうつしちゃうか……口に?

 ちょっとドキドキする。うん、風邪だな、寝よう。



 昼過ぎ、インターホンが鳴った。え、誰? 宅配? でも、最近何も頼んでないよな。
 
 ベッドから這うように出て、モニターを見ると、ひかりんが立ってる。ひかりん、大学の友達で、同じサークルの子。明るくて、いつも元気な子なんだけど、なんで急に?

「しおりん! 大丈夫!? 風邪って聞いたから、飛んできた!」

 モニター越しに、ひかりんがバッグ持ってニコニコしてる。え、誰から聞いたの? かおりん? でも、かおりんにまだ言ってないはず……。とりあえず、ドアを開ける。

「ひかりん、え、なんで? ていうか、うつっちゃうよ、帰った方が……」

「ダメダメ! しおりんが倒れてるって聞いたら、放っておけないじゃん! ほら、開けて開けて!」

 ひかりんが、めっちゃ強引。仕方なくドアを開けると、ひかりんがずかずか入ってくる。エコバッグには、なんか色々詰まってて、ペットボトルのスポーツドリンクとか、ゼリーとか、果物まで見える。

「ちょっと、ひかりん、ほんと、うつるって!」

「大丈夫! 私、風邪なんて引かないよ! ほら、しおりん、ベッド戻って! 看病モード、開始!」

 ひかりんが、勝手にキッチンに向かって、バッグの中身を出し始める。なんか、めっちゃパワフル。頭ぼーっとしてるから、抵抗する気力もない。とりあえず、ベッドに戻って、布団かぶる。

「ねえ、ひかりん、誰から聞いたの? 私の風邪」

「かおりんから! 『しおりん、風邪引いたっぽいから、様子見てあげて!』って●INEきたの!」

 ──っていつのまに●INE交換してんの?面識ないよね。
 しかもかおりんって、どうしてその呼び方知ってんの?

 ──ちょっと嫉妬。それに、
 
「え、かおりん!? 私、まだかおりんに言ってないのに!」

「え、マジ? でも、かおりん、なんか『しおりん、昨日ちょっと元気なかったから、絶対風邪だよ』って。姉妹のテレパシー?」

 ひかりんが、キッチンから笑いながら答える。かおりん、なんでバレたの!? 昨日、確かにちょっと咳してたけど、そんな大したことなかったはずなのに。やっぱり、かおりん、なんか鋭いな。



 しばらくすると、ひかりんがトレー持って部屋に入ってきた。トレーには、スポーツドリンクの入ったコップ、りんごを剥いたやつ、ゼリー、それに、なんかいい匂いのスープ。え、いつ作ったの?

「しおりん、ほら、起きて! ちょっとだけ食べて! 栄養つけないと、風邪治らないよ!」

「ひかりん、めっちゃ本格的……。スープ、作ったの?」

「うん! 冷蔵庫にあった野菜と鶏肉で、簡単なやつ! 母ちゃんのレシピ、パクっただけだけど!」

 ひかりんが、ドヤ顔でスプーン渡してくる。スープ、めっちゃ温かくて、飲むと喉がスーッとする。生姜が入ってるのかな、なんか、身体がポカポカしてくる。りんごも、甘くてシャキッとしてて、食べやすい。

「ひかりん、ありがと……。でも、ほんと、うつったらごめんね」

「だから、大丈夫だって! しおりん、ちゃんと食べて、早く治してよ! サークル、しおりんいないと寂しいんだから!」

 ひかりんが、ベッドの横に座って、ニコニコしてる。なんか、ひかりんのこのパワー、風邪のしんどさを吹き飛ばしてくれそう。大学のサークルで、ひかりんと初めて会った時も、こんな感じでグイグイ来られたっけ。最初はちょっと圧倒されたけど、今じゃ、ひかりんのこの明るさが、めっちゃ頼りになる。

「ねえ、しおりん、かおりんのこと、めっちゃ心配してたよ。『しおりん、絶対無理するタイプだから、ちゃんと看てて!』って」

「え、かおりん、そんなこと言ってたの? いや、確かに、ちょっと無理するけど……」

「でしょ! かおりん、しおりんの姉貴のこと、めっちゃ分かってるね。なんか、姉妹って、いいなー。私、一人っ子だから、ちょっと羨ましい」

 ひかりんが、ちょっとしんみりした声で言う。ひかりん、一人っ子なんだっけ。確かに、かおりんとの時間って、特別だな。かおりんがいるから、こんなにキラキラしてるんだ。

「ひかりん、でも、こうやって来てくれる友達がいるじゃん。私、めっちゃ嬉しいよ」

「う、しおりん、急に優しい! やば、泣きそう!」

 ひかりんが、わざと大げさに目を擦る。笑っちゃうけど、なんか、胸が温かい。スープを飲み終えて、ゼリーも食べたら、ちょっとだけ元気出てきた。熱はまだあるけど、頭のボーッとした感じが、少しマシになった気がする。



 ひかりんが、キッチンで洗い物してる間に、かおりんから●INEが来た。
 
 「しおりん、大丈夫? ひかりんに看病頼んだから! 無理しないで、ちゃんと寝てて!」
 
 やっぱり、かおりん、なんかテレパシーあるのかな。返信しようとしたけど、指が重くて、スマホを手に持ったまま、うとうとしちゃう。

「しおりん、寝ちゃダメ! 薬、飲まなきゃ!」

 ひかりんの声で、はっと目が覚める。ひかりんが、冷蔵庫から風邪薬と水の入ったコップ持ってきてくれる。薬、飲むの忘れてた……。

「ひかりん、ほんと、ナースみたい。ありがと」

「ふふ、ナースひかりん、参上! ほら、薬飲んで、寝る! 私がいるから、大丈夫!」

「うーん、飲む気力もないかも」

「わかった」

 そう言うとひかりんは薬を自分の口に含もうと……口移しする気?

「待った待った、ちゃんと飲むから」

「えー残念」

 薬を飲んで、布団に潜り込む。ひかりんが、扇風機の向きを調整してくれて、涼しい風がちょうどいい感じ。なんか、ひかりんの看病、めっちゃ本格的。大学の友達って、こういう時に、こんなに頼りになるんだな。

「ねえ、ひかりん、ちょっとだけ話さない? 寝る前に」

「いいよ! 何? 恋バナ? しおりん、好きな人できた?」

「え、急に! ないよ、そんなの! ひかりんこそ、なんか怪しいじゃん。サークルの先輩と、最近仲良いよね?」

「う、しおりん、鋭い! でも、ないない! ただの先輩!」

 ひかりんが、顔赤くして手を振る。なんか、めっちゃ可愛い。ひかりんのこういう反応、初めて見たかも。サークルの先輩、確かに、ひかりんとよく話してるな。ふふ、ちょっと追及したいけど、頭がボーッとして、力尽きそう。

「ふふ、ひかりん、怪しいなー。まあ、今日は許すよ」

「うぅ、しおりん、鬼……。私は一筋なのに……」

「え?誰に……」

 ──妙な雰囲気に……
 
 でもひかりんが、ベッドの横で笑ってる。なんか、ひかりんの笑顔、めっちゃ安心する。かおりんも、ひかりんも、こんな風に私のこと気にかけてくれるなんて、なんか、幸せだな。



 夕方、かおりんが高校から帰ってきた。ドアが開く音で、うっすら目が覚める。リビングで、ひかりんとかおりんが話してる声が聞こえる。

「ひかりん、ありがと! しおりん、ちゃんと食べてた?」

「うん! スープとゼリー、完食! 薬も飲んだよ!」

「よかった! しおりん、ほんと無理するから、心配だったんだよね」

「ふふ、かおりん、めっちゃいい妹! しおりん、幸せ者だね!」

 かおりんとかおりんが、楽しそうに笑ってる。なんか、2人、めっちゃ仲良いな。いつのまに知り合ったんだろ。ちょっと、羨ましいような、嬉しいような。

 かおりんが、部屋に入ってきて、ベッドの横に座る。ひかりんは、リビングで片付けしてるみたい。

「しおりん、熱、まだある?」

 かおりんの声、めっちゃ優しい。額に手を当ててくるんだけど、ひんやりして、気持ちいい。

「うん、ちょっと。かおりん、ありがと。ひかりん、呼んでくれて」

「ふふ、だって、しおりん、ほっとけないじゃん。ひかりん、めっちゃ頼りになるでしょ?」

「うん。ナースひかりん、最高だった」

 かおりんが、くすっと笑う。その笑顔、キラキラした光がある。かおりん、ほんとに大人っぽくなったな。でも、こうやって私のこと心配してくれるの、昔から変わらない。

「ねえ、かおりん」

「ん?」

「好きな人の話、いつか教えてよ」

「え、うそ、急に! しおりん、熱で頭おかしくなった?」

「ふふ、違うよ。かおりん、なんか、隠してる気がするから」

 かおりんが、顔を赤くして、目を泳がせる。やっぱり、あるんだ! でも、かおりん、すぐ誤魔化すように笑う。

「しおりん、早く治してよ。じゃないと、恋バナ、聞かせないから!」

「え、ずるい! かおりん、絶対教えてね!」

「ふふ、約束!」

 かおりんが、小指を出してくる。私は、布団の中から手を伸ばして、小指を絡める。ひんやりした指先、なんか、安心する。窓から入ってくる夕方の風が、蝉の声と一緒に、部屋をそっと包んでる。

「しおりん、寝てて。夜ご飯、なんか作るから」

「かおりん、料理!? 大丈夫?」

「ひどい! しおりんの看病、ちゃんとやるもん!」

 かおりんが、ぷーっと頬を膨らませて、出ていく。その後ろ姿、なんか、めっちゃ頼りになる。ひかりんの看病とかおりんの心配、2人のおかげで、風邪もすぐ治りそう。

 風邪でしんどい一日だったけど、かおりんとひかりんのおかげで、なんか、キラキラした一日になった。約束の小指、ちゃんと覚えておこう。かおりんの恋バナ、絶対聞き出すんだから。
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