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第二十一章 王都エフレ
第21-4話「母に育てられし子」
しおりを挟むどこからか、女の声が聞こえた。日本語だった。
瞬間、巨人が手が――
否、巨大の全身が――黒い霧に還り、宙に散っていく。
「なにが……」
ラルクは困惑した。なにが起こっている。
いや、はやく閣下を助けないと。
『……っ!? 巨人が。ありえませんわ』
「おい、白髪の女!」
見ると、ゴルディすらわけがわからず、立ちすくんでいた。
暫くして、真逆の方向。
燃え盛る城の煙の中から、人影が二つ。
「あ、あれは! 閣下が言っていた方では……!!」
ラルクはハッとして、早苗が潰された方角を見る。
早苗は、生きていた。潰されてない。
「――閣下!! ご無事で!!」
「ああ。巨人の手が、急に消えたんだ……」
押しつぶされる前に、巨人が霧になり、マナに還った。
ゴルディがこわばった声を出す。
『あ、ありえません……間違いなく、殺したはず……』
心菜が、まだ幼い王を投げ捨て、頭を踏みつけた。
『ッ!! その汚い足を王から……!』
違う。この態度じゃない。
怒り狂うゴルディは、徐々に自分が置かれた状況を理解する。
『こ、ココナ様……』
黒髪の女は、冷たい目を向けていた。殺しにためらいがない表情。
プライドなんて、どうでもいい。いま大事なのは、王。
我が最愛の息子が、このままだとあの女に――
『こ、ココナ様。取引をしましょう……』
『ゴルディ。確か、こうだっけ?』
心菜は破損した木材を拾うと、オズソンをなぐりつけた。
『ッ!! オズソン!!』
『他人を痛めつけられる方が、効くんでしょ?』
『……ッ!』
ゴルディの血の気が引いた。
絶望した顔つきで、心菜のもとへ、ゆっくりと歩く。
歩きは、やがて早歩きに――
『……ああっ!』
泥で足を滑らせ、ゴルディは転んだ。
泥だらけの彼女は膝をついて、祈るように懇願する
『ど、どうかご慈悲を……王だけは……オズソンだけは、どうか……』
『こいつの能力、巨人召喚だっけ? やっかいだから、今殺すわ』
『……ど、どうか……オズソンは王国の希望……王なしでは、王国の民が……』
心菜がオズソンの腰から、短剣を引き抜く。
それを見たゴルディは、真っ青な顔で続ける。
『どうか慈悲を!! お願いします!! ココナ様!』
『ダメ』
『どうか……か、代わりに……』
覚悟を決めたように、ゴルディが続ける。
『わたくしを、殺しても構いません……』
『……へぇ』
面白そうに、心菜が短剣をゴルディの足元に投げる。
『なら、自害しなさい』
『コ、ココナ様……』
ゴルディが、ゆっくりと、短剣を拾う。
痛みに堪えていた王が、そこでハッと声を上げる。
『母上!! いけません!』
『いいのです。オズソン』
ゴルディは、ゆっくりと自身の首元に、短剣を突き刺した。
『……どうか……この国を、頼みましたよ』
血が球体を作り、溢れ、ゴルディの胸元まで一気に垂れた。
ドサリと力なく、ゴルディは倒れる。
「……っ! 心菜!」
早苗は、心菜に一歩一歩と、歩み寄る。
「心菜。よかった……」
「……なに?」
バサッと、マントを心菜にかけてあげた。
「待たせてすまなかった」
「ふふ、バカね。カッコいいこと、言っちゃって」
ぷいっ、と心菜がそっぽを向き、距離を取る。
「すまない。君が王都に捕らわれたままだと、気づかずにいた……」
「……私も同じようなものよ。投獄されたアンタを助けられなかった」
ため息をついて、心菜はゴルディの方角を見た。
「とにかく、まだ終わってない。ゴルディは生きてる」
「ああ」
傍から見ていたが、致命傷とは言い難い深さに刺していた。
「情に訴えた、くだらないパフォーマンス。息の根を止めましょう。そのあとは、このオズソンも」
王は先ほどから怒りで、声を上げていた。
『……この平民風情が! よくも母上を! 必ず家族諸共、皆殺しに――』
心菜は力を入れて踏みつけ、オズソンを黙らせた。
「……息の根を、か」
早苗は、ゴルディとオズソンを静かに見た。
たぶん、心菜は正しい。
オズソンとゴルディの問題は、ここで終わらせないといけない……
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