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4、キスの味は生クリーム

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「キスするよ」

首の後ろにある健太の手のひらに力がこもる。

「好きだ」

唇がゆっくり近づいてくる。

「待って、まだ...」

クリームがついてる、と言い終わる前に唇に柔らかく健太の唇が触れた。

触れるだけのキスだったけど、健太はそれだけで真っ赤になっている。

「ふふ。健太がしたのに」

そういえば、さっきも自分から手を広げたのに私が抱きつくと耳から真っ赤になっていた。

「みなとチューするの初めてだったから!」

「う、うん」

「今ので俺の口、みなの口の生クリームついた」

健太は自分の唇をペロッと舐めて「うまいっ」と笑った。

慌てて鏡を出して口のクリームを取る。

思わず笑ってしまいそうなくらいかわいい健太のキスは、ドキドキするというよりかは驚くほど穏やかな気持ちになった。

「ドキドキしたー!心臓止まるかと思ったー!」

健太は、首の後ろを掴んでいた手を私の手のひらに戻した。

「みなの家まだかなー」

もう片方の手にあるドーナツをパクパク食べながら、健太は上機嫌で繋いでいる私の手をブンブン振り回して歩いた。







健太は歩きながらずっと話し続けている。

「でもさ、七海が作ってきたんだけど、やっぱり人参ご飯食べられなくてさ」

「うんうん」

「だからさ、俺はさ、七海に言ってやったの!」

「なんて?」

「人参ご飯なんて誰が作っても一緒や!って」

七海ちゃんという子の話を楽しそうに話す健太の目は輝いている。

どうやら七海ちゃんとは幼なじみらしいが、なんとなく彼は私が健太のことならなんでも知っているということを前提で話しているような。

「彼女にしたい人がいるって言うから食べれるように美味しく美味しく作ってきたんだぞ!この子供!って、ものすごく怒ってさ」

その彼女にしたい人って、私か。

健太の話は、関係ないような長い話であっても結局は私の話だ。

七海ちゃんの名前ばかり出していたけれど、私にこの七海ちゃんの一言を聞かせてやりたかっただけだ。

「なるほど。人参、きらいなんだね?」

健太はしゅんとして私に体を寄せた。

「好き嫌いなくて、もぐもぐ美味しそうに食べる人が好きって言ってたろ?」

正しくは、料理がうまくて、だけど。

要するに、私はご飯が好きなだけなのだが。

「気にしてたの?」

おかしくておかしくて、笑いがこみ上げる。

「大丈夫だよ、そんなこと」

健太は安心したように笑顔になった。

「良かったー!好き嫌いあるって知ったら嫌われちゃうかと!」

単純で、かわいい健太を見ているとすっと優しい気持ちになるような気がした。






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