お嬢様という存在

いある

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俺が執事になったワケ

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意匠を凝らした豪奢で煌びやかなシャンデリア、落ち着いた雰囲気を醸し出しつつも部屋の主の気品を高めるに十分な働きをこなすアンティーク調のインテリア。
俺の眼前で椅子に腰を下ろす少女の手には俺たちのような人間が使うには高すぎると素人目にもわかるほどのティーカップが握られていた。
「うんうん、良く似合ってるじゃない。いいわ、気に入った」
「俺としてはなんだか堅苦しくて落ち着かないんですが」
「仕事着だもの、落ち着かれては困るわ。ほら、目線頂戴。撮影するから」
「やめてくださいよ見世物じゃないんですから。確かにお仕事の話をいただけたのはありがたいと思ってます。むしろ初対面の誰かのところで働くより以前から面識があるお嬢様の下で働くのは俺としてもうれしい限りというか助かっているというか」
「でしょ?だったらこっちに目線を…」
「ですから!俺が疑問を提唱しているのはまさにこのことでですね!」
俺が声を張り上げるときょとんとして愛らしく首を傾げるお嬢様こと木之崎瑞樹。木之崎財閥の令嬢にして才色兼備、眉目秀麗の完璧お嬢様と名高い美少女。
どんな人ごみの中にいても存在感を遺憾なく発揮しあらゆることをそつなくこなす万能の鬼才。一度助言をすれば環境が劇的に変わるという広い視野を持ち、それを実行させてしまう説得力も持ち合わせる。
人柄は温厚でお淑やか。まるで絵にかいたような完璧美少女ぶりに日本どころか世界が驚嘆したのは記憶に新しい。
品行方正を体現したような彼女はゆったりとした印象を与えながらも決して隙が無い。付け入る隙を模索しているうちに彼女に主導権を握られ、追い込まれた政治家や資産家も多いと聞く。
それが。どうして。
「なんであんだけ完璧だって噂されてるお嬢様が俺みたいな素人の執事なんて雇ってるんですか!もっと本職の方がいらっしゃいますでしょう!?」
「何を不思議がっているのかしら。言ったはずよね、貴方が気に入ったから。いえ、この際だからもっと言うわ。あなたの事が好きだからよ」
…なんでこんな簡単にそのような爆弾発言ができるのだこのお嬢様は。俺が勘違いをしないような人間であったから言外に含まれた友達としての意味だということに気が付けたが、相手によっては交際を申し込まれていると勘違いしてしまっても文句は言えない。執事となるにあたって彼女にはその辺の言動を改めてもらわなければ。
普通の少女でも大問題なのにましてや彼女は財閥の令嬢。一つの問題発言ですべてが塗り替わってしまう世界なのだ。慎重に言葉は選ばなければならない。
「一応変な気を回す貴方の事だからどうせ友達…とか思っているんでしょうけれど違うわよ。恋愛的によ」
「そんなバカなことをおっしゃらないでくださいお嬢様。流石に俺もそんなこと言われて平静を保ってられるほど器が完成していなんです。眉一つ動かさずそんなことを言うお嬢様でもときめくものはときめくんです」
「そ、そう?表情が硬かったかしら…?」
そういって一度向こうを向いて不安そうな声を漏らすお嬢様。何を言っているかは生憎聞き取れなかったが何かを心配していたことだけはわかった。
後ろを向いたまま一つ大きく肩を動かすほどの深呼吸。その吐息が若干色っぽくなっていたのは気のせいか俺の妄想かだと信じたい。欲を言えば妄想だという説も信じたくないがこの際そこは目を瞑ろう。
「悪かったわ…お父様が基本的に思っていることは口に出しても顔には出すなとおっしゃっていて感情を表情に反映させないようにと厳しく躾けられたのよ。
こういう事もたくさん言わされたからその時の経験が残っていたみたい」

振り向いて上目遣いで俺と目を合わせたお嬢様は端的にいって別人だった。
美少女であることには変わりはない。だが先ほどと大きく異なっているのは彼女の表情だった。
先ほどの平然とした余裕たっぷりの表情はどこへやら。羞恥によって肌は耳まで真っ赤に染まり、目は若干うるんでいるようにすら感じられる。先ほどまでの役者然とした美しさとは異なり、小動物のような愛らしさを感じさせる。
…これがギャップ萌え。
「やめてください惚れてしまいます」
「いいのよ惚れて。あなたなら私が養ってあげるわ」
「そんな自分のプライドをなげうつような真似俺には難易度が高いです。でもお嬢様。簡単にそんなこと言ってはいけませんよ。俺を信頼してくださっているのかはわかりませんが俺がお嬢様の敵であった場合、今の発言は餌にしかなりません。都合のいいように切り取られて悪い方向に解釈されるような発言は俺に対しても慎んでください」
「もう、せっかく恥ずかしい思いを前面に出したのだからもう少し狼狽えてくれても良いと思うのよ」
「多分この程度で混乱していてはお嬢様の執事など勤まらないと思いまして」

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