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◇◇◇ 【第二章】魔法使いと時間の杭 ◇◇◇

天才剛毛ロリ童女を添えて~【交渉】怒れるオークの長、もあるよっ!

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「うるっせーな」
「うるさいじゃ、うるさいじゃないよキミッ! キミ、キミッ! まったく信じられないバカだな!!」
「仕方ねーだろ! オメーだってこうやって外に出れたんだ、感謝して欲しいくらいだ」
「ああそうだな、こうして外(敵地のど真ん中)に出れたんだからな! キミには感謝してもしきれないよ! ありがとうねッ!!」
「いいってことよ」
「ああもうッ!! 何故こんなバカについてきてしまったんだ!! 最悪だ! 最悪さ!!」

 頭を抱え、自分のバカさ加減にうな垂れるリリィを横目に、俺は長に話を続ける。

「つーわけだ、俺とオメーは知り合いでも何でもねー」
「そ、そうか…」
「おいてめェ、言葉を慎め」

 さっきまで俺たちのやり取りに呆れていた隊長が、今度は今まで見せたことのない顔でこちらをにらみつけてくる。
 おっと――。

「それはそれとして、オークの長よ、戦について話をしに来たのは本当だ。どうか、我らと和解を結んでいただけないだろうか」
「うむ、小さき魔族よ――」
「申し遅れた、元魔族の<ジン>と申すもの」 
「うむ、元魔族とな」
「…。」

 深々と頭を下げるその瞬間、奥の方で巨体が俺の名前を聞いて、チラりとこちらに一瞥をくれたことを、俺は見逃さなかった。

「うむジンよ、だが小さき魔族よそれは難しかろう、こちらとバグライトの状況は完全に冷え切っている、お前も魔族なら分かっているだろう? 我らオークの性質を。」

 オークの性質。
 あいつらの血なまぐさく、略奪に満ちた歴史などみじんも興味はないが、アイツらは直ぐに奪う。それは確かだ。
 気に入らないことがあれば暴力で解決し、生活のすべてを襲い、他人から奪うことで成り立たせている。アイツらにとって暴力は、もはや三大欲求で生理現象とも言えるだろう。そのせいか寿命も短く代替わりも早い、それがどういう意味を持つのか、そこまでは俺にはわからねーが、確かに、この戦争という結果は当然でいて、順当であると言えそうだ。

「だけどよ、このまま突っ込んでもお前ら、負けるぞ?」
「てめェ…何だって? もういっぺん言ってみろ」
「ケケッ、だからよお、お前らは…というか、俺ら<魔物>は、もう少し魔法についてお勉強するべきなんだよ、俺は人間の国にたどり着いて、このチンチクリンの魔法を見て、正直それを痛感した、人間なんて取るに足りない、力も弱けりゃ頭も緩いバカ種族だと思ってたがなあ、世間知らずもいいところだったぜ、性質のせいにして負けに行くつもりか」
「ボフゥ、そんなこと、今さらてめェに言われなくても理解してる――」
「いや、理解してないね、なら、『魔法のメカニズム知っているかね?』」
「む、め、めかにずむ…だと?」
「ケケッほらな、たいした知識なんて所詮魔物の俺らにはねーんだよ!」
「…さっき仕入れた知識でよくそんなドヤ顔出来るね、キミ」

 オークの性質? そんなもん、知ったことじゃねー。俺らの仕事はここでこいつらを引かせて、いったんの休戦状態を作り出せればそれでいい、無謀だと脅せば引くかもしれねーしな。

「うむ……魔法については我らもその脅威を十分理解している。我らが先祖がかつてのバグライトと条約を結び不可侵状態を作り出したのもそのため、それに人間の脅威を侮っているわけでもない、奴らの結界が壊れ、何者かの襲撃の混乱に乗じたのも考慮したうえ、だが戦果はうぬが知る通り、余りあったとは言えないがな」
「……。」
「それに、我々が戦うのはなにも性質の為じゃない、――怒りだ。奴らには怒りを感じているのだ」
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