上 下
57 / 80
◇◇◇ 【第二章】魔法使いと時間の杭 ◇◇◇

天才剛毛ロリ童女を添えて~決心、それぞれの道、もあるよっ!

しおりを挟む
 ◇ ◇ ◇


「一体、どういうつもりだね!? このままでは…このままではっ…!」

 戦争になっちまう。ってんだろ?
 んなこと分かってんだよ、言われなくても。

 俺たちはオークの里から追い出された後、この灰色の岩山の中腹まで下山し、その途中にある、崖付近まで迫り出した岨道の真ん中でひざを折り、そこから見えるバグライトをぼうっと眺めていた。

「聞いているのかね!? このままでは戦争は始まり、大勢の人が、魔物が、被害にあうぞ! 多くの生命が下らないイザコザで命を落とすことになるのだぞ!?」
「…うるせー」
「な、何だと?」
「うるせーうるせーうるせーうるせーーーー!!!! いいか、もう考えても仕方ねーんだよ、交渉は失敗して、あそこに見える魔法都市はなァ近いうちに戦禍に包まれる! これは確定事項だ、正論バカのお前にも分かりやすいように言うとな、打つ手はないの! 変えられねーんだよ!!」
「クッ…!!」

 さっきまで俺の後ろでイライラしながら帰路を歩いていたリリィは、悔しそうに顔を歪めると、帰り際に渡された皮の水筒をゴクゴクと飲み…おい、俺の分も残しておけよ。
 水を飲み終えたリリィは、俺の隣に膝を抱えながらちょこんと座る。本人的には機嫌を悪くしながら、ぶっきらぼうに座ったつもりだろうが動作だけを見れば、小さな子供が歩き疲れ膝を抱えてしまったようにしか見えない。
 隣でむくれるリリィに手を差し出すと、少しの間の後に、「ん」と水筒を受け取り、残りの水を飲み干す。思ったよりもこの岩山は険しく、帰るには相応の時間と体力が必要そうだった。日は刻一刻と沈み始めている。

「やはり戻ろう! もう一度話せば分かってもらえるかもしれない」
「はあ、無理だったろ、取り付く島もなかった」
「では、かくなる上は力ずくでも止めに――」
「はっ! いいな、やってみろよ、そのちっせー体であのイボーグを止めてみろよ、ま、さっきの一撃も避けられなかったお前には無理だろうがなあ」
「さっきから何なんだね! そんなものやってみなければ分からないじゃないか! この天才をなめてくれるなよ、それこそ、命に代えても止めてきてやる」
「はああああ、待て待て、おいバカっ、本当に戻るのか!?」
「離さないか! 私は、私はあの街を守るのだよ!! キミみたいな嘘つきで腰抜けとはここでお別れだよ!」

 何故そこまでこの猪突猛進チンチクリンが、頑なになっているのかは知らねーが、ここで手を離したら本当にオークの里に突っ込んでいきそうなリリィ。

「大体、キミはここに来て交渉するのが役目だったんじゃないのかね!? それが外に出してもらう為の嘘でも、少しは役に立ったらどうなんだ!」
「あ? なんで他のヤツの役に立たなきゃならねーんだ、俺は俺のために行動したまでだ」
「なっ! さっきから何故そんなに冷静なんだ…! あっ、そ、そうは言うけどね、キミが交渉に失敗すれば、バグライトの中で帰りを待っているキミの仲間も、戦争の餌食になるのだよっ!! それが嫌なら必死になるしか――」
「はあまあ、アイツとは別に仲間じゃねーし、もうこの際、どうにでもなれって感じで……」
「間違いない! キミはクズ野郎だ!!!!」

 …はあ…はあ、と息を切らすリリィはやっと落ち着いたのか、手を放しても何の抵抗もなく膝に手をついた状態でその場にうな垂れていた。

「いいか、悪ィが俺は逃げるぜ、さっき出るときにこの辺りの地図を貰って来た、山越えは難しいが俺はこっちに賭ける、呪印も何とかなる事を祈るしかねーな、だがこれに関しちゃ戦争が始まるんだ、しばらくは追ってくる心配もねーだろ、……分かるだろ、最善を考えろ、リリィ一緒に来い」
「そうか、そうかそうか、…まあ命の使い方は人それぞれ。キミの幸運を、この大天才魔術師が祈っているよ」

 そういうと、リリィは来た道を戻るように歩き出した。
 その小さな背中が気丈にふるまおうと、勇敢に歩もうとしている足が、小刻みに震えていることに気が付き、俺は、――――再び彼女の小さくて冷たい手をとる。

「え…」
「いやだから、俺の話聞いてなかったのか? お前は人を集めて迎撃できるバグライトで向かい打つ方がチャンスがあるだろ? 最善を考えろっていったろ?」
「…………え?」
「何をバカみてーに殺されに行ってんだ、向こうからしたら、デケー戦力のオメーを囲って殺せるんだ、願ったりかなったりだろうが。それにな、オメーが報告に行かなかったら、バグライトは戦争モードに振り切れねーまま不意をつかれることにもなるだろうが、少し考えたらこんなこと分かんだろうが、何が大天才だ、この魔女っ子剛毛ロリ童女が」
「クッ! ――このッ!! キミは戦争が終わったら呪印を使って絶対捕まえに行くからね、楽しみにしてるがいいよ!! あーあ! アルマ君に呪印について詳しく教えてもらお!!」

 そんな捨て台詞を吐いて顔を真っ赤にし、再びむくれながら下山するリリィの後ろをついて歩く。

「なんでついてくるんだね!」
「近くの村までは一緒だぜェ、ケケッ」
「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝もうっ!!」
しおりを挟む

処理中です...