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◇◇◇ 【第二章】魔法使いと時間の杭 ◇◇◇

天才剛毛ロリ童女を添えて~避けられない戦争、もあるよっ!

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  ◇ ◇ ◇


「近づいてきましたね」
「ああ…」

 山を下り、草原を一晩歩き、鎧を着こんだオークたちはガシャガシャと音を立てて魔法都市、バグライトへと進軍していく。
 ほかのオークよりもひと際大きな隊長は、馬車の前方を守るように馬へ騎乗し、横について歩く側近は、オークの伝統的な軍旗をバサッと掲げ、それを見た後列のオークたちも続いて広げる。

「んん? くァあああ…なんだ? ついたのか?」

 隊長のすぐ後ろ、馬を六騎も使い引かせている巨大な馬車の中から欠伸とともに、そんな間の抜けた声が響き、その巨体が身じろぎをすると、中からガコンと酒樽が馬車から地面へ転がり落ちる。
 「ちっ…緊張感も何もあったもんじゃねーな」隊長オークは舌打ちをすると後ろを振り返らずに兵を停止させる。
 止まった兵の目線の先に居るのは、馬ごと兵たちにむけて振り返る隊長オークだった。

「……オメーら!!!! 覚悟は良いか!!」

 隊長はそう聞くと、兵士たちは「ボフボフ」と興奮気味に鼻を鳴らしながらガシャガシャと鎧を鳴らし足踏みをする。

「…うむ。よし、――――よし、おめェ今日は何しに来た?」
「え? はっはい、えっとその――」

 隊長は馬に騎乗しながら、弓なりに大きく反った太刀を抜くと、手頃な位置にいたオーク兵にそう問いかけた。
 兵士は、突然の問いに一瞬戸惑ったが、答えは明らかだと言わんばかりに、大きな声で宣言する「戦争です!!」
 隊長は、剣先を二つ隣にずらすと、再び「おめェ、おめェは今日…何しに来た?」と問いただす、心なしか言葉の端々に尖りを感じる。

「え、えっとその…」
「テメェだよ…テメェに聞いてんだ!! 早く答えやがれ!!!!」
「せ、戦争でありま――」
「違ェ!!!!」
「ひっ!?」

 隊長オークはその木の幹ほどもある腕で兵士の頭上に剣を掠めるように振るうと、剣を高々と掲げ、声高らかに宣言した。

「俺たちは今日ここにィ! 死にに来たんだ!! いいかァ! 俺たちは、ここに、死にに来た!!!! 戦え! その身が朽ち果てるまで! 戦え!! てめェ等の大事なもん守るために!! 勝利を、我らの手に!!!!」

「「「お˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝お˝!!!!」」」


 地響きにも似た叫び声が、バグライト近くの草原に響き渡る。




「ひっ…」

 魔法使いの少女は地鳴りにも叫び声に気圧され、小さく声を漏らすと、蹲り、自身の杖をぎゅっと握りしめる。

「ちょっ大丈夫か?」
「どうしたの?」
「いや、怯えちゃって…」

 バグライトの兵の上で同じように守備に配属された少年少女達が、その少女に駆け寄り背中をさすりながら声をかける。心配しいるように見えたその少年少女達もまた、眉をひそめ不安な様子だった。
 コツコツと。
 そこに背丈の高い、センター分けで眼鏡をかけた男が近づいてくる。

「バ、バーゼルさん…、この子が」
「……ミモザ…ミモザ・クワイエット、…怖いのですか?」

 ミモザと呼ばれた少女は杖を握りしめながらコクコクとうなずく。

「大丈夫です、大丈夫ですよミモザ、貴方にはこうして戦ってくれる仲間がいるではありませんか、それに、貴方の魔法を以前キラベルで見ました、見事なものでしたよ、貴方の力は本物です、自信を持ってください」
「バーゼルさん…」
「貴方たちもです、戦争なんてもの始めてでしょうが、気負い過ぎるのは良くありませんよ、少なくとも、貴方たちの魔法が一流なのは、私が保証します、自信を持ちなさい」

 ミモザやその他の魔法使いたちも、恐怖が少し和らいだのか、笑顔を見せてバーゼルに同意する。

「…でも、やっぱりすこしコワ――」
「それでも……怖いだとか思っている方は、自分の家族を思い浮かべなさい。ミモザ、貴方は確かここで一緒に暮らす弟が居ましたね」
「は、はい――」
「貴方がもしここであの豚どもを止めなければ…、貴方の弟はアイツらに殺されます」
「…あっ」
「それも、最も惨い最後を遂げることとなるでしょう、分かりますか? ――弟の命は貴方にかかっているのです」
「ノア…だめっ、そんな…ノアだけは…」

 一緒になって聞いていた他の者も、ぶつぶつと「…かあさん」「ミア…お兄ちゃんが守るからな」と口々に呟きながら自身を奮い立たせているようだった、その様子を満足そうに眺めたバーゼルは「ふっ」と息を吐き、その場から、近づいてくるオークの軍を眺めた。
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