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◇◇◇ 【第二章】魔法使いと時間の杭 ◇◇◇
天才剛毛ロリ童女を添えて~【バトル】オークの戦士、もあるよっ!
しおりを挟む「あ、あぁ…ぁぁ…」
「リ、リリィさん…リリィさん…!」
「ゴフッ、グフッ……! ボフゥ…ボフゥ……」
私は間違っていた。
私はこの戦場を、無意味な争いを、変えるだけの力があると、そう思っていた。
重々しい足音が私に向かって、一歩また一歩と歩み寄る。
私は、自分の無駄な知略によって一体どんな影響を及ぼすのか、その意味すら分からずこうして獣人族(オーク)の逆鱗へと触れてしまった。
この焼け焦げて、傷だらけになった<戦士>を恐るべき<怒れる戦士へと>ジョブチェンジさせてしまったのだ。
「ガキ…テメーがなぜ使者に選ばれ、そして俺たちの里で追い出された後、ボフゥ…こうしてすぐこの街へ引き返したのか今ならわかるぜ…テメーには確かに変えるだけの<力>がある」
「そうかね? 私には…そうは思えないね、今となっては」
巨体は私を見下ろしながら、以外にも冷静な声で語りかけてくる。
「テメー、もしそれが<無駄>なことだとしたら、そんな抵抗すらも、本当に無駄なんだとしたら、どうする?」
「回りくどいね、反省してるさ、私は所詮戦士ではない。キミたちの戦いぶりを見れば、いかに苛烈な状況に立たされても、それをあきらめない心持が大切なのかが分かる…今になってようやく私は、戦場に立っているという感覚が芽生えてきた。怖くて怖くて仕方がないよ…本物の戦士を前にするとね」
ボフゥ…、苦しそうな鼻息を吐き、厳しい顔をさらに厳しくゆがませた。
何か…かみ合っていないのか? そんな気がした。
「…そんな話をしに来たんじゃねーが…ゴフッ…! ハア…伝わらねーもんかね、ま、仕方ねーか。テメーらはそうやって、焦点をずらして、見えてるもんに蓋をして、そうして取り返しのつかねーところまで来ちまったわけだ…そして俺も、とうとうココまで出張って来ちまった」
なんだね? さっきから話が見えてこない。
オークは少し顔をそらし、最初は空を見ていたのかと思ったが、それは……防壁の…上?
「テメーたちに助言することは何もねー。俺はな、長(オサ)みてー信心深くねーんだ、生物は死んだら土にかえる、これは絶対の法則だ、今まで幾度となく仲間を土に埋めてきた、何度生き返ってくれと強く願ったかわからねー。みんな俺より先に行っちまう、けど…そいつらは戦士として、死に際は戦場で散っていった、俺の教えだ、戦士は戦を勝利に導くものに非ず、戦士とは、戦の中で死ぬことと見つけたり」
「…………。」
「ボフゥ……このガブ、戦士として…稀代の天才魔法使いリリ・リマキナ。そしてこの街の全てと――――勝負願う」
雄叫び。
そう言うとガブは、口と、その特徴的な鼻から大量の血を吐き出しながら、この街深いところに響かせるように、宣戦布告するように、全てに轟く雄叫びを上げた。
私は初めて、本物の雄叫びを聞いた。私は初めて、本物の死に物狂いを見た。私は初めて、本物の緊張状態による渇きを感じ、毛が逆立つというものを知り、本物の敵の、焦げるような血液の匂いを嗅いだ、そして、私は、始めての本物の殺意に戦意を喪失した。 『殺しに来たぞ、ガキ』 その意味を脳髄の深くで理解した。
私の目の前に長槍が振り下ろされる。
凄まじい音を立てて、それはアルマ君のあらかじめ張っておいた結界に食い込む。
「リリィさん!!!!」
「なにボケっとしてんだ!」
アルマ君と、何処からともなく現れ、ガブに飛び掛かった看守君は燃える短剣を抜き、切りかかる。
私はその光景が信じられなかった、こんな化け物に、魔物に切りかかるなんて、常人の出来ることじゃないと思った。けれど、私の後ろに居たアルマ君は私の手首を掴むと叫ぶ。
「リリィさん! いったん引きましょう! 戦う必要なんてないっす!!」
た、戦う必要なんてない?
い、いや、だめだ。こんな魔物、放っておいたら街は一瞬にして侵略されてしまう。オークたちは本気だったのだ、数的にも、魔法も使えないオークたちは、どうやってこの街を落とすつもりなのかと思っていたけれど、オークたちは本気だった。そう思えるほどの覇気を感じたのだよ。
「う、うわあああああああああああああああああああああ!!!!」
「リリィさん!?」
「何やってんだ!!」
私はアルマ君を振り払うと、手首に思いっきりナイフを突き立てた。
そこで初めて気が付いた、私は≪痛覚無効≫も≪ビルドアップ≫もかけるのを忘れ、ただざっくりと自傷行為を行っていた。
どうしたというのだ…? どうなってる? 心臓が破裂しそうだ、気持ちが悪い、やけに感覚が敏感で汗が滝のように吹き出ている、痛い…痛い、何故アルマ君や看守君はそんなにも冷静なのだ!?
来る。
また攻撃が来る、早くどうにかしなければ、何が出来る? この化け物を倒すには、何が出来る!?
「<サイコロジッ――>」
「逃げれば勝ちっス!!!!」
…………。
逃げれば、勝ち?
私は顔を上げた、ガブを見上げた。
血を吐きながら戦うそれは、確かに恐ろしいが、同時に満身創痍だということに気が付いた。
そうだ、なぜ今まで気が付かなかったのだね!?
自然と肩に入っていた力が抜けた気がした。そうだ、もう既に彼は満身創痍なのだ、私は、私がこの化け物に出来ることは、――逃げること。
「お前ら! こっちだ!!」
「ちーちゃん!!」
「騎士君!!」
そうだ、逃げろ。
時間を稼ぎ、冷静になれ。私は何のために戻ってきたというのだ!
ドスッ――。
後ろで、何かが刺された音がした。
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