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◇◇◇ 【第二章】魔法使いと時間の杭 ◇◇◇

天才剛毛ロリ童女を添えて~時間の魔法使い、もあるよっ!

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「≪ショックウェーブ≫」

 ハアハア…。
 何とかココまで来たようだね。
 後ろを向くと、防壁の内側から煙が吹き出しているのが見えた。
 被害は計り知れない、まさか魔族がココまでとはね。まったく、こんなの想定できるかね? ねえ、イボーグ。
 私は向き直ると、まるで蝋人形のように硬直したイボーグを見る。
 ふう、ま、けれど、なんとか間に合ったようだね、バーゼル。

「間に合わせたのですよ、リリ・リマキナ」
「…今のは冗談だよ、君に時間という概念は関係がないだろう?」
「そこまで万能じゃありませんよ、…ココからどうするつもりですか?」

 この街の<賢者>と呼ばれる人間には二つ名がある。
 賢者と呼ばれるには、この世界でもトップクラスに魔法が発展した町全体が研究施設のようなこの街で、魔法および魔術をより発展させた功績を持つ人物に送られる、階級で、このバーゼルも過去にそう言った発展を促した人物ということになるのだけれど…。彼の研究は他の賢者の中でも少し特殊だった。
 彼の二つ名は<時間の賢者>時間を操る魔術を発明したことにより、こうして賢者としての地位についている。
 けれど、今までも、そしてこれからも、時間に干渉することは不可能だと言われている。
 そう、彼の研究はこの街の、いや全ての魔術師に認められていなのだ。彼がどんな理論を展開しようと、どんなに理屈を解説しようと、それ自体がオーバーテクノロジー、机上の空論に過ぎなかった。
 だが、彼は賢者である。
 物証が出たのだ。それも誰もが納得せざる負えない物証が。
 彼だけはその理論に基づき魔術を行使することができた、誰が何と言おうと、出来てしまっていることに文句をつけることはできない、存在するものにいくらいちゃもんを付けたところで、それは存在し、私たちはその存在を目視している。ありえないと否定することがありえないのだ。他の賢者はもちろん、キラベルのお偉い教授たちが必死になってその理論を研究し、彼から起きた現象を紐解こうと血肉を注いできたが、どうやっても研究が成功することはなかった。
 正直、他のものが使えていないのなら、魔術や魔法の発展に繫がっていないのだから賢者の地位を与えるのはやりすぎなんじゃないかと思うが、元々、大臣としてキラベルの運営にかかわっていたことや、これまでの研究者としての力量を踏まえた判断なのだろう、確かに、バーゼル著の『魔力圧縮と熱魔学』は興味深い内容だった、あれには神の哲学を感じたよ、まあ、彼のお姉さん程ではなかったけれどね。
 けれど、だからこそ、時間魔法などと口走っていることに驚愕している。
 私も、この天才と謳われたこの私も彼の論文を見たが、あれは理論や論理の類ではなく、どちらかというと望みに近かった、あれではいくら研究したところで上手くはいかないだろう。
 故に、私はこの男を警戒している。正直、好かない。
 怪しげな術を行使する長身のセンター分け、それが彼の印象だ。
 …けれどまあ、今回は助かったよ。これで<時間>が出来た。

「あまり時間もありませんよ」

 バーゼル君は懐中時計を胸ポケットから出し時間を確認する。
 先程、街の方でイボーグに吹き飛ばされていたにもかかわらず、今のバーゼル君の服には皺ひとつない。当然、あそこからココまで超スピードで飛んできた私はともかく、バーゼル君に追いつく事なんて出来ない、というか、こんな複雑な術式を書く時間なんてありはしない。
 ……まったく、これだから賢者というバケモノは。

「今回は流石に時間がありませんでした、彼を完全に止めることはできていません、あくまで時間を伸ばしているだけです、つまり、彼の時間だけがゆっくり動いている状態です」
「彼からは、私たちが早く見えている事だろうね」
「それはないでしょう」

 私たちの姿が彼の目に届くころには、もう全て終わった後です。
 よく分からないけれど、なんて恐ろしい魔術なんだろうと、不覚にも身震いしてしまった。

 ま、私の使う魔法も大概かね。

 私の体は魔力懐胎体質といって、魔力が体から出ていかない。つまりは魔法を体の外に打ち出すことができない。はたから見れば無尽蔵とも思える膨大な魔力を外に出す方法が無い。
 と説明したがね、実は裏技的にあるのだよ。魔力を体の外で行使する方法が。
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