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64 キマイラ雀蜂変
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じいちゃんたちが去ってすぐに雨が降りだした。
僕らは瞬く間に強くなってゆく雨のなかキマイラを迎える為の陣地の構築を始める。
隊員さんたちを働かせて見ているばっかりなのも悪いから僕も手伝う。
強い雨にパンツの中までびしょ濡れになるけれど、命に拘わることだ。みんな文句も言わず黙々と身体を動かしている。
小一時間もかからずに作業は終わった。
場所はじいちゃん家の前の道。
道を遮る様に金属の棒を交差させた柵の様なバリケードが等間隔に置かれる。長さは大体五〇メートルほどだろうか。
「本来なら土嚢を積んで塹壕を掘って万全の態勢を整えたいところなんだけれどもね」
完成したバリケードを眺めそう呟く花子さんは悔しそうだけれども、素人の僕からしたらかなり立派な陣地だと思える。
そりゃあコンクリート壁の砦とは言わないけれどさ、こうやってバリケードが並んでてその脇に小銃を抱えた隊員さんなんかが立ってると映画なんかで観た戦場っぽい。
「ありがと、まぁハンニバルとは言わないけれどね、指揮官教程は修了しているから部隊の指揮にそれなりの自信はあるつもりよ。無様なマネは晒さないから安心してちょうだいね」
花子さんはグッと腕を曲げ力コブを作りそこを叩く。
…ハンニバル、確か作家トマス・ハリスの小説に出てくる連続殺人鬼の名前だ。
映画にもなってるけどチョットだけ観て怖くて最後まで観れなくって、だけど興味あったから児童図書館にあった本を読んだからよくおぼえてる。
だけど本でもスッゴく怖くって読み終えた晩に気をまぎらわそうとゆまは姉ちゃんに電話したんだ。
そしたらゆまは姉ちゃんが「怖くて眠れないんならお姉ちゃんが一緒に寝てあげるっ!」ってその日のうちに新幹線で駆けつけてくれたんだっけ。
結局ゆまは姉ちゃんに抱き枕にされて苦しくって眠れなかったんだよね。
なるほど、花子さんは「キマイラなんか肝臓を引き刷り出してソラマメと一緒にワインのツマミに喰ってやる」って気概なんだな。
猟奇的だけど頼もしい。
「それとナツ君、これを持っていてちょうだい」
そう言って渡してくれたのは鋭い一本のナイフだった。
「スパイダルゴ社の?」
「あら、ナイフメーカーに詳しいのね。でも残念、別なメーカーよ。さすがに銃は持たせてあげられないけれどアナタとアオちゃんが標的になるんだから無防備なままじゃいさせられないわ。護身用にね」
「ふぅん、ありがとう花子さん」
僕はナイフを受け取って観察する。さほど大きくはないが刃に比べてグリップが少し太めな感じがする。
「あ、穴空いてるよ」
刃の先端のすこし下側、峰の側に小さな穴が空いている。
「それこそがこのナイフの肝なのよ。見てて」
そう言って僕からナイフを受け取ると花子さんはナイフを構える。
その姿は実に堂にいった構えで背後にアンソニーホプキンスの幻影が伺える程だ。
「せいっ!」
気合い一閃、花子さんの突きは往年の新撰組三番隊組長も真っ青な鋭さで目の前の菜園に植わっていた丸々と瑞々しいスイカへと吸い込まれる。
パァンッ!
ハンニバル・レクター改め斎藤一改め山田花子さんの一撃はスイカを両断……せず無惨に四散させた。
「すご」
呆然とスイカの亡骸を見る僕に花子さんは(スイカの)血肉で汚れたブレードを拭いながら得意気な表情だ。
「ワスプナイフって言うの、グリップにボンベが仕込まれてて刃にある穴から突いた瞬間高圧ガスを噴出させ相手を粉砕するナイフよ。当然相手は死ぬ!」
そして花子さんも死ぬ!
「…このスイカじいちゃんが育ててたスイカだよ、『もうすこしで収穫だな、キマイラを追っ払ったら祝いにみんなで食おう』って言ってたんだ」
なによりじいちゃんは食糧難の頃に子ども時代を過ごしたから食べ物を粗末にするヒトに厳しい。愛情を込めて育てたスイカをナイフの試し突きに使われたと知れば花子さんは無事ではいられないだろう。
次にスイカと同様の運命をたどるのは花子さんの頭かも知れない。
「ひぃぃっ、ど、ど、どーしよう!? ナツ君どーしよーーーッ!??」
先程までの凛々しさもどこへやら、顔を真っ青にしわたわたと慌てる花子さんを尻目に僕はスイカの破片をふたつ拾いひとつをアオちゃんに渡してあげた。
「とりあえず腹拵えしよ? 腹が減っては戦も出来ぬってね」
形の崩れたスイカだったけど味はとっても甘くておいしかった。
「キュー♪」
僕らは瞬く間に強くなってゆく雨のなかキマイラを迎える為の陣地の構築を始める。
隊員さんたちを働かせて見ているばっかりなのも悪いから僕も手伝う。
強い雨にパンツの中までびしょ濡れになるけれど、命に拘わることだ。みんな文句も言わず黙々と身体を動かしている。
小一時間もかからずに作業は終わった。
場所はじいちゃん家の前の道。
道を遮る様に金属の棒を交差させた柵の様なバリケードが等間隔に置かれる。長さは大体五〇メートルほどだろうか。
「本来なら土嚢を積んで塹壕を掘って万全の態勢を整えたいところなんだけれどもね」
完成したバリケードを眺めそう呟く花子さんは悔しそうだけれども、素人の僕からしたらかなり立派な陣地だと思える。
そりゃあコンクリート壁の砦とは言わないけれどさ、こうやってバリケードが並んでてその脇に小銃を抱えた隊員さんなんかが立ってると映画なんかで観た戦場っぽい。
「ありがと、まぁハンニバルとは言わないけれどね、指揮官教程は修了しているから部隊の指揮にそれなりの自信はあるつもりよ。無様なマネは晒さないから安心してちょうだいね」
花子さんはグッと腕を曲げ力コブを作りそこを叩く。
…ハンニバル、確か作家トマス・ハリスの小説に出てくる連続殺人鬼の名前だ。
映画にもなってるけどチョットだけ観て怖くて最後まで観れなくって、だけど興味あったから児童図書館にあった本を読んだからよくおぼえてる。
だけど本でもスッゴく怖くって読み終えた晩に気をまぎらわそうとゆまは姉ちゃんに電話したんだ。
そしたらゆまは姉ちゃんが「怖くて眠れないんならお姉ちゃんが一緒に寝てあげるっ!」ってその日のうちに新幹線で駆けつけてくれたんだっけ。
結局ゆまは姉ちゃんに抱き枕にされて苦しくって眠れなかったんだよね。
なるほど、花子さんは「キマイラなんか肝臓を引き刷り出してソラマメと一緒にワインのツマミに喰ってやる」って気概なんだな。
猟奇的だけど頼もしい。
「それとナツ君、これを持っていてちょうだい」
そう言って渡してくれたのは鋭い一本のナイフだった。
「スパイダルゴ社の?」
「あら、ナイフメーカーに詳しいのね。でも残念、別なメーカーよ。さすがに銃は持たせてあげられないけれどアナタとアオちゃんが標的になるんだから無防備なままじゃいさせられないわ。護身用にね」
「ふぅん、ありがとう花子さん」
僕はナイフを受け取って観察する。さほど大きくはないが刃に比べてグリップが少し太めな感じがする。
「あ、穴空いてるよ」
刃の先端のすこし下側、峰の側に小さな穴が空いている。
「それこそがこのナイフの肝なのよ。見てて」
そう言って僕からナイフを受け取ると花子さんはナイフを構える。
その姿は実に堂にいった構えで背後にアンソニーホプキンスの幻影が伺える程だ。
「せいっ!」
気合い一閃、花子さんの突きは往年の新撰組三番隊組長も真っ青な鋭さで目の前の菜園に植わっていた丸々と瑞々しいスイカへと吸い込まれる。
パァンッ!
ハンニバル・レクター改め斎藤一改め山田花子さんの一撃はスイカを両断……せず無惨に四散させた。
「すご」
呆然とスイカの亡骸を見る僕に花子さんは(スイカの)血肉で汚れたブレードを拭いながら得意気な表情だ。
「ワスプナイフって言うの、グリップにボンベが仕込まれてて刃にある穴から突いた瞬間高圧ガスを噴出させ相手を粉砕するナイフよ。当然相手は死ぬ!」
そして花子さんも死ぬ!
「…このスイカじいちゃんが育ててたスイカだよ、『もうすこしで収穫だな、キマイラを追っ払ったら祝いにみんなで食おう』って言ってたんだ」
なによりじいちゃんは食糧難の頃に子ども時代を過ごしたから食べ物を粗末にするヒトに厳しい。愛情を込めて育てたスイカをナイフの試し突きに使われたと知れば花子さんは無事ではいられないだろう。
次にスイカと同様の運命をたどるのは花子さんの頭かも知れない。
「ひぃぃっ、ど、ど、どーしよう!? ナツ君どーしよーーーッ!??」
先程までの凛々しさもどこへやら、顔を真っ青にしわたわたと慌てる花子さんを尻目に僕はスイカの破片をふたつ拾いひとつをアオちゃんに渡してあげた。
「とりあえず腹拵えしよ? 腹が減っては戦も出来ぬってね」
形の崩れたスイカだったけど味はとっても甘くておいしかった。
「キュー♪」
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