夏と竜

sweet☆肉便器

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108 彼方と此方を繋ぐ装置、そして来襲

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 吹田さんが穴の通行を可能にする機械の完成を告げてからの数日、じいちゃんたちの集落はとたんに騒がしさが増した。

 神社の鳥居ギリギリの距離まで何台ものトラックがバックで近付き、そこから大仰な機械が幾つも神社の裏の穴の周りへと据え付けられていくのを僕とアオちゃん、ゆまは姉ちゃんは見ていた。

 「なんだかイヤな光景だね」

 僕は誰にともなく呟く。

 じいちゃんの家の建っている集落は高齢化が進んでもう住んでいるヒトもすくなく半ば打ち捨てられてしまったような限界集落と呼ばれる場所だ。

 僕の産まれるよりもっと昔、僕のお父さんやゆまは姉ちゃんのお父さんたちが子供だった頃にはそれでも何軒もの家があって農業をして暮らしていたそうだけれど、それももう昔の話、僕が知っているのは過疎の進んだ淋しい、だけどなんだか懐かしさの感じる山間の田舎の風景なんだ。

 これは僕の勝手な理想の押し付けで、機械を運んでいるのも僕らを助ける為のモノだってわかっていても僕の大好きなじいちゃん家とその周りの土地が壊されていってる気がしてイヤな気分になってしまう。

 この土地に住んでいる当人、じいちゃんとばあちゃんの意見はと言えば、「孫を救うためだ、景色がどうの土地がどうのなんぞ言ってられん」と泰然と現実を受け入れている。

 近所に住んでいるエミおばさんも「ナツたちの為なんでしょう? だったら出来ることは何でもしてちょうだい」とじいちゃんたちと意見を同じくしている。

 ただ吹田さんだけがやれ畑の畦にタイヤの轍の跡が残っただの、やれ鳥居の側までトラックを寄せるのに樹の枝をひっ欠いただのと騒がしく業者に文句を言っていて僕と同じくこの慌ただしさを不快に感じている様子だった。

 たぶんね、僕や吹田さんは田舎への憧れだとか理想だとかが強すぎてその理想を現実化したかの様なこの土地が変わっていくのを口惜しく思っているんだろうね。
 
 ま、愚痴みたいな話はともかくとして今僕らの目の前では幾つもの機械が据えられていっている。

 穴を通しての景色しか見えないから全体としてどうなっているのかは僕らの側からは見えないんだけれど、どうやら穴を囲むみたいに門を作っているみたいだ。

 見た目としては複雑な機械やら配線やらで創られた鳥居って感じ。

 「この装置はね、先日ヨウタロウ氏から教授された魔素マナに相当する力を電力で擬似的に再現して穴を通ろうとすると掛かる負担を緩和させる装置なんだ。
 もっともまだまだ魔素マナに関しては解明も儘ならない未知の分野だからこの装置も未完成ではあるんだがね」

 吹田さんが自慢気に装置についての説明をしてくれる。
 どうやらまだ完全に完成品とはいかないけれど幾度も実験を繰り返しており、それなりに実用に耐えられる装置ではあるようだ。

 「問題となるのは渡る・・・対象の質量の様だ。一気に体格のいい大人が渡ろうとするとそれだけ装置に負荷が掛かる。最悪ジェネレーターと呼ばれる電力を増幅部分が焼き切れてシャットダウンを起こしてしまうと開発者は言っていたよ」

 「シャットダウン?」

 「うん、分かりやすく言えば安全装置が働いて壊れる前に装置を自動的に停めてしまうんだね。尤も夏君やゆまは君の様なほどほどの体躯をした人物を対象とするのならば然程に負荷は掛からない、安心してくれていいよ」

 そっか、僕らくらいならば装置は故障などせずに普通に働いてくれるのか、ならばそんなに心配する必要はないんだろうね。

 「そっか、ありがとう吹田さん、これでようやくじいちゃん家に戻れるんだね」

 「ああ、どういたしまして、元々僕らの不備で夏君たちは幻獣界に行ってしまった様なモノだからね、そんなお礼なんていらないさ。
 それで日取りの方はどうしようか? トロール族のみんなとのお別れもしたいだろうしね、予定は君たちに任せるよ。僕らはその予定に合わせて装置の細かい設定を済ませる」

 そっか、トロール族のみんなとのお別れか、長老とはお別れの言葉を交わしたけれども他のみんなともあいさつは済ませておきたい。
 
 ピックマンさんとかヨウタロウさんなどには特別お世話にもなったしね。

 「うーん、ゆまは姉ちゃんとも相談したいし日取りの方はまた明日にでも伝えるよ」

 「了解だよ。まぁね、この装置さえあればまたトロール族の集落を訪ねる機会もあるだろうし、永遠の別れって訳でもないだろうし、そんなに難しく考えなくても大丈夫だから」

 「それに長期休暇ももう終わる、夏君は宿題も済ませてないだろう?」と冗談を言い笑う吹田さんと僕は別れのあいさつを交わしてその場を後にした。

 そうか、長い休みも終わるんだ。幻獣の世界に馴染みすぎて元の世界に戻っても問題なく過ごせるかなぁ? 道を歩く時でも獣の気配とかに用心しながら足音を抑えて歩いちゃいそうだ。と苦笑しながら集落へと続く道を急ぐ。

 






 もうすこしで集落へ入る門の場所だと言うところで反対側から子供のトロールが息咳切って僕の元まで駆け寄ってくる。

 その様子は尋常じゃない。僕はそのトロールの元まで走り寄って彼の身体を抑える様にし停まる。

 「どうしたの? 何があったの?」

 僕の問い掛けにトロールの子供はゼィゼィと喘ぎながらも答えてくれた。

 「ブ、ブヒッ、ヒィ、て、帝国の兵隊たちが現れたんだっ! い、今、ブヒィッ、長老様とピッグマンさんがっ、ブヒッ、話をしているっ。ナ、ナツには帰ってくるなって、ブヒッ、今帰ると兵隊たちに見つかって変に思われるからって……  ブヒィッ」

 そうか、ついにやって来たんだ。兵隊? 長老とピッグマンさんが話をしているって事はおそらくいきなり武器を片手に攻めてきた訳じゃぁないみたいだけれども、危険な事には代わりない。
 僕はトロールの子供に穴の場所まで行ってそこで隠れているように伝えて集落への道を急いだ。
 
 
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