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111 PM7:45退避に成功するが後続は現れない
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ハーピィたちが僕たちの世界に通じる穴を潜ってからどれくらいの時間が経っただろう。その後はトロールもハーピィも、ヴィアテ帝国の兵隊すらも姿を現さない。
先ほどまでの慌ただしさに比べると不安になるほどの静けさだ。
時おり森の火事に追われた獣が茂みを掻き分け姿を現すけれども、彼らは僕とアオちゃんの姿を目にしても関わろうとはせずにすぐにまた森の奥へと消えていった。
僕とアオちゃんは穴の前に立ち尽くして警戒を弛めずに集落のある方角を睨み付ける。
森の高い樹の向こうの空は赤く煌々と照らされ帝国の放った火の大きさを物語っている。
「アオちゃん、ヨウタロウさんやピッグマンさんたち、大丈夫かな?」
「キュッ、キュキュッ!」
不安に苛まれアオちゃんに埒でもない言葉を投げかける。
「へいきだよ、ヨウタロウさんもピッグマンさんもつよいもん」
それに応じるアオちゃんの言葉。『へいき』だと言う言葉ほどにアオちゃんの口振りにも覇気は伺えない。
「……うん、そうだよね。ありがとうアオちゃん」
アオちゃんもわかっているんだ。ヨウタロウさんやピッグマンさんがいくら強くたってあの数の兵隊と対峙して無事でなんかいられない事を、それでも僕の不安を何とか和らげようとするいじらしさに僕は感謝を伝えた。
不意に夜の静寂を破って重々しい金属の擦れる音が聴こえた。
これは剣? いや、剣の鋭く高い音じゃなくもっと重く分厚い音、鎧の併せ目同士が擦れぶつかり合う時の音だ。
音は次第に大きくなってゆく。
それに伴って馬の地面を踏み締める規則的な音、何事かを語り合うヒトの話し声が聴こえてくる。
事此処に至って僕は察した。集落に残ったトロールたちが健闘の甲斐なく敗れたのだと。集落での戦いを終えた帝国の兵士たちが逃げ出したトロールたちを追い掛けてきたのだと。
そして暗がりから現れる鎧姿の集団、彼らは僕とアオちゃんの姿を認めると騎馬の脚を停めた。
「……ふむ、少年、トロールの集落に居た者だな、トロールとは姿かたちが異なっていたので覚えている。訊ねるが逃げ出したトロールたちはどこへと行った? 森の更に奥か? 少年は何故この場に残っている?」
兜の奥から聴こえてくる声は意外にも女のモノだった。
集団の先頭で騎馬兵たちに指示をあたえ停止させた事から察するに彼女がこの隊を率いているみたいだ。
「小僧っ、卿のご下問だっ、疾く応えるがよいっ!」
黙り込み彼らを睨み付ける僕に苛立った脇の兵士が声を荒げる。
「かまわん、年端もいかぬ少年だ、血に染まった鎧を目にすれば怯え声も出なかろう」
先頭の女兵士はそれを手で制した。
血? 言われてみれば確かに彼らの立派な鎧は紅の斑で不格好に彩られている。黒い鎧が半ば闇に溶けていたので直ぐには気が付かなかった。
「……その血、ヨウタロウさんやピッグマンさんは?」
黙り込んでいた僕が口を利いたので女兵士がすこし驚いた様な仕草をする。
「ヨウタロウさん? ああ、あのカイチがそう名乗っていたな、そうだ、あの巨大なカイチの返り血だ、ピッグマンとやらはどの者だかは判らんがあの場に残っていたトロールの中に居たのだとしたらその者の血も付いているやもな。ともあれあの場に居たトロールは唯ひとりとて生きてはいない。誰もが勇ましくも戦い見事に散っていったよ。
お陰でこちらもかなりの被害を被った。隊長もその補佐官もやられ私が隊を指揮する破目に陥ったんだからな」
「……そう」
女兵士の言葉にはピッグマンさんたちに対する敬意が籠められていた。だからだろう、ピッグマンさんたちの死を知らされても戸惑う事も憤る事もなく素直に受け入れる事ができた。
ああ、ピッグマンさんたちはやり遂げたんだ、他のトロールたちを逃がす為に成すべき事を成し遂げたんだ。と不思議な満足感が僕の全身を満たしたんだ。
「それで少年、君はどうする? トロールたちの居場所を教えてくれるのならば君ひとりくらいは見逃しても構わないと私は考えている。だが歯向かうのならば子供とて容赦は出来んぞ? 先ほど君が口にした仲間たちと同様の結末を迎える事になる。
好きな方を選ぶがいい、我々としては教えてほしいが強制はしない。」
いきなり攻めてきた軍隊にしてはずいぶんと気前のいい言葉だ。こんな鬼気迫る状況下だと言うのに思わず苦笑がこぼれてしまう程に。
「何を笑っているっ!? 無理矢理に押さえ込みなますにしてから訊いたってこっちは構わんのだぞっ! 気骨のある烈士を気取っていても手足の一、二本引き抜けば案外舌ってのはまわりやすくなるもんだ」
僕の笑いを嘲りだと受け取ったのかさっき口を挟んできた脇の兵士が激昂する。
「貴様は黙っていろっ! いちいち脅していては話が進まんっ」
冷静な女兵士に嗜められ不満そうながらも脇の兵士は一歩後ろにさがった。
答え? 答えだって? 僕がなますにされたくらいで逃げたトロールたちの行く先を答えるとでも?
たとえ手足を落とされたって生皮を剥がされたって火で炙られたって教えてなんてあげないさっ!
首に掛かっているネックレスを引き千切りそれを本来の形に戻す。
銀の鎖の先に鉄球が括られた僕の神器、僕の反撃の牙だ。
「ほう、神器だな、記憶が間違っていなければそれはヴェルガーの戦士ドレットロが所有していた逸品だな。少年、それを何処で手に入れた?」
「集落の先、祠の近くの土の中から。ドロットロとかってヒトは他の仲間たちと死んでいたよ」
ドロットロってのが前の所有者の名前なのか、あんまり上手く扱えていなかったってピッグマンさんは言ってたっけ。でもこんな使いやすい武器なのにどうして上手く使えないなんて言ったんだろう? ともあれそんな事を考えている場合じゃない、僕は手に頼もしい鎖の重みを感じながらソレを構え頭上で回しはじめた。
「たったひとりでこの数に挑むか。いい、いいぞ、実に私好みだ、例え待つ先が死であろうとも膝を屈さず最後まで抗う。少年、いや、戦士だな、戦士、貴殿の誇り高い行いを尊び私が独りでお相手しよう」
逃げると言う選択肢ももちろんあった、すぐ後ろには僕たちの世界に通じる穴があるのだからそこに飛び込めばいいのだから。
けれど僕は戦う事を選んだ。愚かだろうか? うん、異論の余地がない程に愚かだろう。けれどピックマンさんたちの最後を耳にして腹は決まった。
彼らは最後まで帝国に降伏せず抗ったんだ、ならば僕も彼らに殉じようじゃないか。僕だってトロールたちの仲間なんだからひとりだけ降伏し生き恥を晒すだなんて事は断固として拒否してやる。
いや、ちがうな、ぜんぜんちがう。殉ずるだとか生き恥だとかカッコいい言葉を出してもちっともしっくりとこない。
要するに僕はひどく腹がたってるんだ。慎ましく暮らしていたトロール族の集落を荒らしてグリコたちを傷つけピッグマンさんやヨウタロウさんたちを殺したこのクソヤロウどものムカついてブチノメしたいってイラついているんだ。
「手を出すなよ、これは私と彼の誇りを賭けた一騎討ちだ」そう兵たちに伝え女兵士が集団から歩み出る、手には物々しい斧の付いた槍を構えている。
『ハルバート』
以前学校の友だちがやっていたゲームで見た武器だ。
ゲームと現実でどれくらいの違いがあるのかはわからないけれど、確かアレは扱いこそ難しいけれども剣と槍と棍棒、あらゆる機能を兼ね備えている武器だと記憶している。
「貴殿の名を我がハルバートに刻もう、貴殿の名はその尊き行いと共に覚えておきたい」
「皆川夏…… それとアオちゃんだ」
女兵士は僕の肩にしがみついているアオちゃんまでもが戦うとは思っていなかったらしく、驚いたみたいだ。
ペットとでも思ったんだろうか?
「ふむ、二対一になってしまったか…… まぁ構わんか。ご尊名痛み入る、私はソガベの族長ヘダ・スィーが娘にして遠征平定軍臨時指揮官、サニーディ・S・スィー。いざっ、尋常に武技の限りを尽くそうぞっっ!!」
「ッ!!」
名乗りが終わると女騎士サニーディがハルバートを大上段に跳躍してきた。
鋭い振り降ろしっ! 反撃もままならず僕とアオちゃんは互いに左右に別れ避ける。
ドッと地面を揺らす轟音とともに土埃が舞う。僕は地面に転がった体勢からモーニングスターを半分土埃に隠れている彼女のシルエットに向かい投擲。
だが僕が放った鉄球がハルバートのひと振りによって退けられる。
「甘いっ! この様な腰の入らぬ鉄球などっ!」
完全に意識は僕に向かっている様子、狙い通りだ。アオちゃんっ!
「キューーーッッ!!」
「おおっ!?」
彼女、サニーディが突然青く光る爆発によって弾き飛ばされた。
やった! 全弾命中だ!
それは逆方向に逃れたアオちゃんが放ったマジックミサイル。
僕とサニーディが名乗り合っている時からアオちゃんはエルフたちに悟られない様すこしずつ魔素を練り上げてマジックミサイルを作っていたんだ。
大きく魔素を練れなかったせいもあって威力こそ普段のモノに及ばないモノしかできなかったけれど全弾八発が命中したんだ。鎧を纏っていても無事ではすまないだろう。
けれども僕の考えは甘かった。サニーディはヨロヨロとだけれどもハルバートを支えに立ち上がってきたんだ。
鎧はズタズタになり既に用を成しそうにない、彼女はそんな鎧を煩わしそうに剥ぎ取り次いで被っていた兜に手を掛け笑った。
「見事ッ! 全く以て見事な至りッ! この私をして地面に伏させるとはまさしく見事としか言い様のない仕様よっ!
見事の他に讃える言葉を知らぬ自らの語彙の貧しさを口惜しく思う程だっ!!」
満面の笑み、可々大笑しながら被っていた兜を乱暴に投げ棄てたその場所にはうねり燃えるような赤髪、そして浅黒い肌に切れ長の紫水晶色をした瞳があった。
そして何よりも僕の目を惹き付けたのは髪から覗く笹穂様にとがった耳。
戦いの最中だと言うのに僕は愚かにも反撃もせずに彼女に見入ってしまい呟いた。
「ダークエルフだ」
と。
先ほどまでの慌ただしさに比べると不安になるほどの静けさだ。
時おり森の火事に追われた獣が茂みを掻き分け姿を現すけれども、彼らは僕とアオちゃんの姿を目にしても関わろうとはせずにすぐにまた森の奥へと消えていった。
僕とアオちゃんは穴の前に立ち尽くして警戒を弛めずに集落のある方角を睨み付ける。
森の高い樹の向こうの空は赤く煌々と照らされ帝国の放った火の大きさを物語っている。
「アオちゃん、ヨウタロウさんやピッグマンさんたち、大丈夫かな?」
「キュッ、キュキュッ!」
不安に苛まれアオちゃんに埒でもない言葉を投げかける。
「へいきだよ、ヨウタロウさんもピッグマンさんもつよいもん」
それに応じるアオちゃんの言葉。『へいき』だと言う言葉ほどにアオちゃんの口振りにも覇気は伺えない。
「……うん、そうだよね。ありがとうアオちゃん」
アオちゃんもわかっているんだ。ヨウタロウさんやピッグマンさんがいくら強くたってあの数の兵隊と対峙して無事でなんかいられない事を、それでも僕の不安を何とか和らげようとするいじらしさに僕は感謝を伝えた。
不意に夜の静寂を破って重々しい金属の擦れる音が聴こえた。
これは剣? いや、剣の鋭く高い音じゃなくもっと重く分厚い音、鎧の併せ目同士が擦れぶつかり合う時の音だ。
音は次第に大きくなってゆく。
それに伴って馬の地面を踏み締める規則的な音、何事かを語り合うヒトの話し声が聴こえてくる。
事此処に至って僕は察した。集落に残ったトロールたちが健闘の甲斐なく敗れたのだと。集落での戦いを終えた帝国の兵士たちが逃げ出したトロールたちを追い掛けてきたのだと。
そして暗がりから現れる鎧姿の集団、彼らは僕とアオちゃんの姿を認めると騎馬の脚を停めた。
「……ふむ、少年、トロールの集落に居た者だな、トロールとは姿かたちが異なっていたので覚えている。訊ねるが逃げ出したトロールたちはどこへと行った? 森の更に奥か? 少年は何故この場に残っている?」
兜の奥から聴こえてくる声は意外にも女のモノだった。
集団の先頭で騎馬兵たちに指示をあたえ停止させた事から察するに彼女がこの隊を率いているみたいだ。
「小僧っ、卿のご下問だっ、疾く応えるがよいっ!」
黙り込み彼らを睨み付ける僕に苛立った脇の兵士が声を荒げる。
「かまわん、年端もいかぬ少年だ、血に染まった鎧を目にすれば怯え声も出なかろう」
先頭の女兵士はそれを手で制した。
血? 言われてみれば確かに彼らの立派な鎧は紅の斑で不格好に彩られている。黒い鎧が半ば闇に溶けていたので直ぐには気が付かなかった。
「……その血、ヨウタロウさんやピッグマンさんは?」
黙り込んでいた僕が口を利いたので女兵士がすこし驚いた様な仕草をする。
「ヨウタロウさん? ああ、あのカイチがそう名乗っていたな、そうだ、あの巨大なカイチの返り血だ、ピッグマンとやらはどの者だかは判らんがあの場に残っていたトロールの中に居たのだとしたらその者の血も付いているやもな。ともあれあの場に居たトロールは唯ひとりとて生きてはいない。誰もが勇ましくも戦い見事に散っていったよ。
お陰でこちらもかなりの被害を被った。隊長もその補佐官もやられ私が隊を指揮する破目に陥ったんだからな」
「……そう」
女兵士の言葉にはピッグマンさんたちに対する敬意が籠められていた。だからだろう、ピッグマンさんたちの死を知らされても戸惑う事も憤る事もなく素直に受け入れる事ができた。
ああ、ピッグマンさんたちはやり遂げたんだ、他のトロールたちを逃がす為に成すべき事を成し遂げたんだ。と不思議な満足感が僕の全身を満たしたんだ。
「それで少年、君はどうする? トロールたちの居場所を教えてくれるのならば君ひとりくらいは見逃しても構わないと私は考えている。だが歯向かうのならば子供とて容赦は出来んぞ? 先ほど君が口にした仲間たちと同様の結末を迎える事になる。
好きな方を選ぶがいい、我々としては教えてほしいが強制はしない。」
いきなり攻めてきた軍隊にしてはずいぶんと気前のいい言葉だ。こんな鬼気迫る状況下だと言うのに思わず苦笑がこぼれてしまう程に。
「何を笑っているっ!? 無理矢理に押さえ込みなますにしてから訊いたってこっちは構わんのだぞっ! 気骨のある烈士を気取っていても手足の一、二本引き抜けば案外舌ってのはまわりやすくなるもんだ」
僕の笑いを嘲りだと受け取ったのかさっき口を挟んできた脇の兵士が激昂する。
「貴様は黙っていろっ! いちいち脅していては話が進まんっ」
冷静な女兵士に嗜められ不満そうながらも脇の兵士は一歩後ろにさがった。
答え? 答えだって? 僕がなますにされたくらいで逃げたトロールたちの行く先を答えるとでも?
たとえ手足を落とされたって生皮を剥がされたって火で炙られたって教えてなんてあげないさっ!
首に掛かっているネックレスを引き千切りそれを本来の形に戻す。
銀の鎖の先に鉄球が括られた僕の神器、僕の反撃の牙だ。
「ほう、神器だな、記憶が間違っていなければそれはヴェルガーの戦士ドレットロが所有していた逸品だな。少年、それを何処で手に入れた?」
「集落の先、祠の近くの土の中から。ドロットロとかってヒトは他の仲間たちと死んでいたよ」
ドロットロってのが前の所有者の名前なのか、あんまり上手く扱えていなかったってピッグマンさんは言ってたっけ。でもこんな使いやすい武器なのにどうして上手く使えないなんて言ったんだろう? ともあれそんな事を考えている場合じゃない、僕は手に頼もしい鎖の重みを感じながらソレを構え頭上で回しはじめた。
「たったひとりでこの数に挑むか。いい、いいぞ、実に私好みだ、例え待つ先が死であろうとも膝を屈さず最後まで抗う。少年、いや、戦士だな、戦士、貴殿の誇り高い行いを尊び私が独りでお相手しよう」
逃げると言う選択肢ももちろんあった、すぐ後ろには僕たちの世界に通じる穴があるのだからそこに飛び込めばいいのだから。
けれど僕は戦う事を選んだ。愚かだろうか? うん、異論の余地がない程に愚かだろう。けれどピックマンさんたちの最後を耳にして腹は決まった。
彼らは最後まで帝国に降伏せず抗ったんだ、ならば僕も彼らに殉じようじゃないか。僕だってトロールたちの仲間なんだからひとりだけ降伏し生き恥を晒すだなんて事は断固として拒否してやる。
いや、ちがうな、ぜんぜんちがう。殉ずるだとか生き恥だとかカッコいい言葉を出してもちっともしっくりとこない。
要するに僕はひどく腹がたってるんだ。慎ましく暮らしていたトロール族の集落を荒らしてグリコたちを傷つけピッグマンさんやヨウタロウさんたちを殺したこのクソヤロウどものムカついてブチノメしたいってイラついているんだ。
「手を出すなよ、これは私と彼の誇りを賭けた一騎討ちだ」そう兵たちに伝え女兵士が集団から歩み出る、手には物々しい斧の付いた槍を構えている。
『ハルバート』
以前学校の友だちがやっていたゲームで見た武器だ。
ゲームと現実でどれくらいの違いがあるのかはわからないけれど、確かアレは扱いこそ難しいけれども剣と槍と棍棒、あらゆる機能を兼ね備えている武器だと記憶している。
「貴殿の名を我がハルバートに刻もう、貴殿の名はその尊き行いと共に覚えておきたい」
「皆川夏…… それとアオちゃんだ」
女兵士は僕の肩にしがみついているアオちゃんまでもが戦うとは思っていなかったらしく、驚いたみたいだ。
ペットとでも思ったんだろうか?
「ふむ、二対一になってしまったか…… まぁ構わんか。ご尊名痛み入る、私はソガベの族長ヘダ・スィーが娘にして遠征平定軍臨時指揮官、サニーディ・S・スィー。いざっ、尋常に武技の限りを尽くそうぞっっ!!」
「ッ!!」
名乗りが終わると女騎士サニーディがハルバートを大上段に跳躍してきた。
鋭い振り降ろしっ! 反撃もままならず僕とアオちゃんは互いに左右に別れ避ける。
ドッと地面を揺らす轟音とともに土埃が舞う。僕は地面に転がった体勢からモーニングスターを半分土埃に隠れている彼女のシルエットに向かい投擲。
だが僕が放った鉄球がハルバートのひと振りによって退けられる。
「甘いっ! この様な腰の入らぬ鉄球などっ!」
完全に意識は僕に向かっている様子、狙い通りだ。アオちゃんっ!
「キューーーッッ!!」
「おおっ!?」
彼女、サニーディが突然青く光る爆発によって弾き飛ばされた。
やった! 全弾命中だ!
それは逆方向に逃れたアオちゃんが放ったマジックミサイル。
僕とサニーディが名乗り合っている時からアオちゃんはエルフたちに悟られない様すこしずつ魔素を練り上げてマジックミサイルを作っていたんだ。
大きく魔素を練れなかったせいもあって威力こそ普段のモノに及ばないモノしかできなかったけれど全弾八発が命中したんだ。鎧を纏っていても無事ではすまないだろう。
けれども僕の考えは甘かった。サニーディはヨロヨロとだけれどもハルバートを支えに立ち上がってきたんだ。
鎧はズタズタになり既に用を成しそうにない、彼女はそんな鎧を煩わしそうに剥ぎ取り次いで被っていた兜に手を掛け笑った。
「見事ッ! 全く以て見事な至りッ! この私をして地面に伏させるとはまさしく見事としか言い様のない仕様よっ!
見事の他に讃える言葉を知らぬ自らの語彙の貧しさを口惜しく思う程だっ!!」
満面の笑み、可々大笑しながら被っていた兜を乱暴に投げ棄てたその場所にはうねり燃えるような赤髪、そして浅黒い肌に切れ長の紫水晶色をした瞳があった。
そして何よりも僕の目を惹き付けたのは髪から覗く笹穂様にとがった耳。
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