夏と竜

sweet☆肉便器

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26 帰路。国道X号線の奇跡

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 太陽が海のほうに沈む前に帰ることにした。

 もう充分遊んだし、初心者よりも初心者、仮免中のゆまは姉ちゃんが夜道を走るのは危険だから、明るいうちに帰ろうって話になったんだ。

 帰る前に海の家に戻って着替えて、お兄さんにもお礼を告げた。

 もう忙しい時間はもう過ぎたみたいで、お兄さんは駐車場まで送ってくれた。

 「日帰りなら道が混む前に帰ったほうがいいな。疲れてるだろうし、早めに帰って休みなよ」

 お兄さんは車の中で食べろってタイ焼きまでおごってくれたんだ。

 「お兄さん、今日はありがとうね。お兄さんのおかげで宝物もたくさん見つかったんだ」

 「お、ドリフトグラスか。ここらじゃ珍しくもねぇがアオちゃんには一等のお宝だな」

 自慢げにお兄さんに見せびらかすアオちゃんの頭をポンポンって撫でてお兄さんはニカッって笑った。

 駐車場まで来て、お兄さんはゆまは姉ちゃんの車に驚いていた。

 「スー〇ーセブンじゃんかよ! マニアックなセンスしてんなぁ」

 って。

 ゆまは姉ちゃんの車にじゃなくってヒフミおばさんのなんだけどね。

 あと、フロントのナンバーの横に貼られた『仮免運転中』の貼り紙を見てなんだか車がかわいそうって顔をしてたのが印象的だったな。

 潮風を浴びたんだから帰ったらすぐに洗車してやれってゆまは姉ちゃんにクドクドお説教をしてて、姉ちゃんは言われなくったってわかってるわよってお兄さんのお尻を蹴りあげてた。
 なんだかたった一日、それも短い時間だったけど、ずいぶん仲良くなったな。

 「あ、おい」

 車を暖気してさて帰ろうかって時になって、お兄さんが話し掛けてきた。
 なんだろう?

 お兄さんはちょっと恥ずかしそうに自分のスマフォを取り出してきた。

 「今日の記念…っつーかさ、その、せっかくな、仲良くなったからさ、写真、一緒してくんね?」

 ゆまは姉ちゃんはお兄さんのスマフォをサッと取り上げて、近くに居た家族っぽいひとに「すみませーん、写真撮ってもらってもいいですか?」って訊いたんだ。

 アオちゃんを抱いた僕を挟んで両側にお兄さんとゆまは姉ちゃんが並んで写真を撮ってもらった。

 アオちゃんとお兄さんのツーショットも撮ったよ。

 「うっわ~、やっぱアオちゃんカワエエわ。ヤベ~」

 って、もう写真に写ったお兄さんの顔はフニャフニャだった。

 見送るお兄さんに手を振りながら車は駐車場から出て国道を走り出した。

 しばらく手を振るお兄さんが見えてたんだけど、後ろに大きな車が来て見えなくなっちゃった。

 「楽しかったね」

 僕がそうハンドルを握る話しかけると、ゆまは姉ちゃんは。

 「そうね、最高の一日になったわ」

 ってうなづいてくれた。

 「…この後にお爺ちゃんに怒られる事を除けばね」

 青い顔で小さく呟いた言葉は聞こえないふりをしたけど。

 



 早めに海水浴場を出たけど、やっぱり道は混んでいた。

 僕はいつの間にか寝ちゃってたみたいで、目が醒めると朝に通った県境にまで来ていた。太陽はもう半分隠れちゃってて空はキレイな茜色に染まってたんだ。

 僕は膝の上でクゥクゥと眠るアオちゃんの体温を感じながら空を見上げる。

 時々来る対向車の起こす風は生暖ったかいけど、そんなに不快じゃない。むしろ夏って感じがして好きなくらいだ。

 「あ、飛行機」

 雲のすき間からキラッって翼を太陽に反射させた飛行機の姿が見えた。
 僕たちとおんなじ方向に進んでいる。

 そういえばアオちゃんは実物の飛行機を見たことがなかった。
 じいちゃん家は飛行機の経路から外れてるらしくって空を見上げても鳥くらいしか飛んでないんだ。

 「アオちゃん、ホラ、飛行機だよ。本物はあんなに高い場所を飛ぶんだ」

 アオちゃんに声をかけてみたんだけど、起きる気配はない。

 けど、僕の『飛行機』って言葉に反応したのかな? 翼だけがピコピコって動いた。

 僕は眠ったままのアオちゃんを頭の上に抱えた。

 僕の目から見るとアオちゃんと飛行機が並んで飛んでるみたいに見えた。

 「アオちゃんも練習すればあれぐらい簡単に飛べるさ」

  僕の言葉を聞いて飛んでる夢でも見てるのかな? アオちゃんはピコピコしてた翼をビッって横にいっぱいに広げた。

 その時だった。

 突然対向車線を走ってたおっきいトラックが僕たちの車スレスレを通り過ぎてってブワッって風を巻き起こしたんだ。

 僕は驚いちゃってついアオちゃんを掴んだ手を弛めてしまった。

 「あっ!」

 僕の手を放れアオちゃんの身体が宙に浮いた。

 僕はあわてて落ちてくるアオちゃんを捕まえようと手を広げたんだけど…




 アオちゃんは。




 落ちてこなかった。




 僕がぼんやりと見ている目の前で、アオちゃんは宙に浮いたまんま翼を広げて車とおんなじ速度で前に進んでたんだ。

 一瞬の出来事だったのかもしれない。

 僕がはっと我に返ったタイミングでアオちゃんは僕の広げた腕のなかにスポッと収まった。

 僕は呟いた。

 「アオちゃんが、空を、飛んだ」

 言葉にしてみると夢かと思ったことが現実だったとみるみる実感が湧いてきた。

 「アオちゃんっ、今飛んでたよっ! 空を飛んでたっ!!」

 ガタガタと揺すぶってアオちゃんを起こそうとしたんだけど、アオちゃんの眠りは深いのかちっとも目を覚ます気配がない。

 それじゃぁゆまは姉ちゃんはって横を向いて姉ちゃんの肩を揺すった。

 「ゆまは姉ちゃんっ、今の見てた!? アオちゃん飛んだトコ、見てた!?」

 そしたらゆまは姉ちゃん、なんて答えたと思う?

 「………はっ、てないれふよ? お姉ちゃんてなんかいないれふよ? しっかりと起きてまふよ?」

 って。

 運転しながら寝てたの!? 危ないなぁもう。



 




 

 
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