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第三章 昇格試験と国の特産物

第三十話 オカマッチョvsブタ

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 対峙した二人はゆっくりと歩を進めお互い睨み合っております。フフ、御二方とも良い顔をなさっておりますわねこちらにまで緊張感が伝わってきますわ。
 国の再建の時にはやはり闘技場は必要ですわね。美少女ばかりのプロレス団体作りたいですわ。

 さて、意外な事にも最初に仕掛けたのはベティさんですわね、左腕のバックラーを前に突き出し右腕で左腕を交差させ十字の形にしてのブチかましですわね、鋭いブチかましですわ! セルカドは腰を低く構えベティさんを迎えうとうとしております。

 しかしベティさんが上手ですわね、高速で上半身を前かがみにし低い姿勢でのタックルに切り替えておりますこれではセルカドの目からはベティさんが一瞬消えたように見えるでしょう、これはワタクシでも反応が遅れますわよ。
 しかしセルカドも辛うじてシールドで防ぎますがバランスを崩したところにベティさんのバックラーを使ったバックナックルが襲い掛かりますわ、ベティさん本当に盾役ですの? なんという上手い連携、しかし決定打にさせないセルカドも凄いですわね。

「マ、マナカさん、ベティさん元四等級だけあって強いんですね」
「ワタクシもベティさんがここまで攻撃もお上手だとは思わなかったですわよ」

 セルカドも負けじとあの強烈なタックルを潰すべくベティさんの右足に左のローキックを浴びせますベティさんは伸びてきたセルカドの足にメイスを振り下ろしておりますエグイ狙いですわ、ベティさんのメイスに気付いたセルカドはローからミドルへと変化させます

「素晴らしい蹴りですわね、あのオーク、テコンドーでもやっておりますの?」
「セルカドは魔王領東方面の防衛隊副隊長を務めていた優秀な人材ですがあのような器用な戦いができるとは私も知りませんでした」

 ローで出したキックをミドルに切り替えるという器用な事をしベティさんのメイスを蹴り直撃を避けたセルカドは右の短槍をベティさんの左腕に突き刺します。

「ぐ! 乙女の柔肌に何てことしてくれるのよぉ」
「蹴りを放った体制での突きでは威力が足りないか! それでもなんと硬い筋肉だ」

 面白いですわ、面白いですわ!

「あぁ、ワタクシも仲間に入れてほしいですわね。ベティさん今度お相手願いますわ」
「マナカさんってバトルジャンキーなんですか?」
「そ、そうかもしれませんね」
「強い相手と戦いたくなるのは淑女なら当然の事ですわよ、淑女たるもの弱きものを守り強きものとは拳で語るものですわよ」

 ワタクシはマウナさんとアルティアさんに淑女について一つ教えておきました。
 しかし、何言ってんだお前といった感じの表情でワタクシを見ております、どうやら淑女の事が良く分かっていないようですわね残念ですわ。

 さあ、あの二人の戦いは面白いことになっておりますわね、あの後二人が一旦距離を取ると二人ともが武器を振り上げ同時に武器を振り下ろしたところ短槍とメイスでの鍔迫り合い状態になっております。

 筋肉が盛り上がりその激しさを物語っておりますわ、しかしこの状態はもう長くは無いと思いますわねどちらかが仕掛けますわよ。
 パワーはセルカドの方が上なのでしょうかベティさんが徐々に押されて……いませんわね、仕掛けたのはベティさんでした。
 ベティさんは徐々に力を抜いていき最後は一気に力を抜くと体を捻りセルカドのバランスを崩します。

「マナカちゃんっぽくやってみたら案外上手くいったわね」
「な、しまった! ぐあ!!」

 ワタクシらしくってワタクシそもそも鍔迫り合いなんてしませんのだけど。
 バランスを崩し前のめりにタタラを踏むセルカドの首筋目掛けてメイスの柄の部分叩きつけました!ガキっと嫌な音がしセルカドが地に伏せます。

 ベティさんはすぐさま追撃にメイスを振るいますがセルカドもそれには反応して盾で受け止めましたわベティさんのお腹に蹴りを加えつつ起き上がると。

 セルカドは両手を上げ、これ以上の戦闘意思はないというポーズですわね。

「ははは、姫さま! 強きものを従えておりますな」

 セルカドは柔和な笑みを浮かべてマウナさんの方を向きました
 そしてベティさんの方に向きなおすと

「姫さまのお供がお前のような強きものである事を誇りに思う、名前は何という?」

 セルカドの言葉を聞いてベティさんも武器を降ろし答えましたわ

「お姉さんはベネティクト・ベノワって言うのよベティって呼んでね」
「ベティ殿か、楽しき戦いだった、また手合わせ願いたい」

 マウナさんがアルティアさんに傷の治療を頼んでおりますわね。

「セルカドさんでしたわね」
「貴女がマナカ殿ですね」
「ええ、マウナさんに召喚され国の再建の手伝いを頼まれましたわ」
「ベティ殿と同じで強きものの気を感じます」

 やはりセルカドはワタクシの方にも気づいていたようですわね

「セルカド、あなた方はこれからどうするのですか?」

 マウナさんの問いかけにオーク達は何かを相談しておりますわ、身の振り方でしょうね。
 セルカドがマウナさんに頭を下げ膝をつきます。

「我らはまた魔王領の力になりたいと思っております」

 セルカドはそう言って顔をあげましたわ。

「横から失礼しますわ、あなた方の集団は今どれだけの人数がおりますの? 商人の積み荷を狙うのは狩りでは賄えない分とワタクシ考えておりますのよ」

 セルカドとマウナさんベティさんにアルティアさん全員がワタクシの方を驚いたような顔で見ております。

「マナカ殿、何故そう思われたのですか?」
「あら? 貴方とベティさんの戦いを見ていたら。貴方は意味もなく盗賊行為をするような方には見えませんでしたもの。依頼を受ける時にもなんて聞いておりませんでしたしね、怪我をさせることはあっても命までは奪ってはおりませんわよね? 貴方の配下のオークがさきほどの父親を殴った時も急所は外しておりましたものね」
「貴女のおっしゃる通り、命を奪う事はしていません。敵でなければ命を奪うことまではしていません」

 武人っぽい性格でわざわざ一騎打ちを申し出るようなオークですのでやはり基本は真面目な性格のようですわね。

「そう考えますとやりたくてやっているという訳ではないでしょうね、この事件もつい最近起こりだしたようですし、そうなると自給自足に限界が来たと考えるべきですわ」
「あの戦いでそこまで見抜くとは、その慧眼に感服いたします」

 セルカドはワタクシに対してもお辞儀をしましたわ、どうやらマウナさんと対等に見てもらえてるようですわね。

「それでセルカド、先ほどのマナカさんの質問の答えは?」
「は、我々は東の集落のほぼ全員一五〇名程あの森で簡易的な集落を作っておりますがチヨルカンから逃げ出すときの怪我が悪化したもの空腹と潜伏性活が長く女子供の中には弱っている者もおります」

 セルカド達の状態は良くはないようですわね……
 ここにずっといるよりは魔王領に行っていただく方がよいですわね

「マウナさん、ワタクシから提案がありますわ。彼等に魔王領に戻っていただき少し休息していただいた後、畑を作ってもらいたいのですわ」

 マウナさんはワタクシの提案を聞くと少し考えます。

「国に戻るのは賛成ですが一五〇名の移動となると目立つのではないでしょうか? そして怪我や空腹の方々をどうすべきかと」

「そこはワタクシに考えがありますわ、この森をギリギリまで突っ切るのですわこの森を抜けたらほぼ魔王領になりませんか? チヨルカンもこの森を探そうとは思わないでしょう」

 するとベティさんが疑問をワタクシに言います。

「あら? でもこの森にも魔物はいるから危険じゃないかしら?」
「ふふ、彼らはこの森で生活していたのですよ」

 ワタクシがベティさんにそう答えると。

「そうですね、私どもはこの森の比較的安全なルートは把握しています、魔物とはおそらく最小限の接敵ですむでしょう」
「こういうことですわ」
「なるほどねぇ、確かにこの森なら人間には見つかりにくくほぼ魔王領近くまではいけるわねぇ」

 ワタクシの案を理解したマウナさんとセルカドも頷いております。

「わかりましたマナカ殿の案でこの森を抜け魔王領に戻るとします」
「私の方からモルテに伝えておきます」

 こうしてオーク達は魔王領に行くこととなりました。
 そしてマウナさんはセルカドに質問をしましたわ。

「セルカド、特に症状の酷いケガ人は何名ほどですか?」
「そうですね……30名ほどでしょう」

 全体の五分の一ですか……

「アルティアさん無理を承知で彼らの治療を頼めますか? ベティさんとワタクシそしてセルカドで食べれそうな獣を狩りして賄うのではどうでしょう?」
「ち、治療なら任されました、さ幸いこの森なら薬草のソアクーア草も、て手に入ります」

 久しぶりに聞きますわね……粗悪な草じゃなくソアクーア草

「ふぅ、何か盗賊退治じゃない依頼になってしまったわね」
「ベティさん、すいません……セルカド達は私の知り合いなんです」
「あらあら、お姉さん嫌だとは言ってないわよぉ」
「……ありがとうございます」

 ベティさんもアルティアさんもとりあえずは協力していただけるようですわね。
 セルカド達に集落まで案内していただきましょう。

「ではさっそく行動開始したいと思いますわ、途中で薬草や食べれそうなものを取っていきましょう、ワタクシはこの世界の食べれそうな木の実とか詳しくないので其処ら辺はお願いしますわね」


 ワタクシ達は借り物の馬車で森に突っ込むという荒業で森に向かいます、救いなのは集落は割と森の奥ではなく手前にあった所でしたわ。
 セルカド達の案内で三十分ほど行ったところに小さな集落がありました。
 ただやはり環境はよろしくなく家と呼べるようなものはなく商人たちから奪った物でテントのような物を使い雨風をしのいでいたようですわね。

 アルティアさんがすぐに行動開始しセルカド達にどもりながらも薬の調合を指示し特に傷の酷い者を魔法で治療し始めましたわ。

 ベティさんとマウナさんにオークのメス達がワタクシ達の持っていたあのキモイ果実を使って甘いスープを作っていましたわ……
 流石に匂いが甘ったるすぎてキツイですわね……ただスープにすると栄養価が上がるそうですわ病人の栄養補給にも使われる簡易的な料理らしいですわ、ベティさんは冒険者生活が長いため案外こういった食事関連の知識も多いのですのよね。

 ワタクシはといいますとセルカドの部下たちと森で捕れて食事として成立するモンスターか動物を模索中ですわ、この時期だとメガアグリオと呼ばれる猪のモンスターが体も大きく二匹ほど狩れば一五〇名の1食分の食事をカバーできるそうです。

 ――
 ――――

 各々が行動を開始しあっという間に夜になってしまいました
 アルティアさんは特に傷の酷かった者の治療を終え
 マウナさんはベティさんに教えてもらった果実のスープを子供を中心に配膳し栄養を取らせておりましたわ。
 ベティさんとワタクシとセルカドの配下だったオークでメガアグリオを調子こいて三匹仕留めておきました。

「本日は姫さま達には大変お世話になりました」

 そうお礼を言いセルカドはワタクシ達に頭を下げます

「いいんです、あなた達には苦労を掛けました、魔王領に戻ったらしばらくは畑を手伝って欲しいのです」
「姫さまがおっしゃるのであれば我らは従います、ですが畑と言っても魔王領で大量に採れるあの青豆のことですよね?」

 セルカドが疑問を口にしますのでマウナさんに変わり其処はワタクシがっ説明しておきます。

「あの豆はワタクシのいた世界にあった豆にとても良く似ておりますの、そして注意していただきたいのは青いうちに収穫せず少し時間を置いて茶色になってから収穫をお願いしますわ」
「よくわかりませんが分かりましたマナカ殿のおっしゃる通りにいたします」
「ええ、よろしくお願いしますわね」

 ワタクシ達はセルカドとしばらく話をした後に街に戻ることにしましたわ。

「ではセルカド私たちはこれで行きますね」
「は、姫さまもお気をつけて、マナカ殿にお二方、ベティ殿とアルティア殿もご助力感謝します」

 セルカド達は明日までここで休み明後日に魔王領へと出発するようですわ、ワタクシ達は試験なので着いていくことはできませんがセルカド達が守りについているならばそう簡単には遅れは取らないでしょう。
 挨拶を済ませワタクシ達は街に戻りましたわ。


 セルカドの使っていた槍と盾は預かっておりますわよ、これで依頼達成の証拠も確保しておきました。
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