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第四章 再建準備編

第四十九話 ガラス屋の攻防

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「仕事の依頼?」

 親父はそう言うと何故か睨んできます、何故?
 頑固親父っぽそうな外見通り難しそうな性格ですわねぇ。

「ええ、御仕事の依頼ですわ、これを見ていただけます?」

 ワタクシは親父が何か言う前にポーション屋の老婆の書いた紹介状を見せますわ、何かを言おうとした親父は出ばなをくじかれたのか、渋い顔をしてからワタクシの紹介状を受け取りましたわ。
 親父が紹介状を確認すると。

「あの婆さんの知り合いか。ふむ、あの婆さんには借りが有るからなぁ。とりあえず話は聞いてやろう」
「ええ、ありがとうございますわ」

「なかなかに手強そうなおじさんねぇ」
「――顔が怖い」
「だ、大丈夫でしょうか?」

 外野が後ろで話しておりますわね、まあワタクシに任せておきなさいな。

「それで仕事の内容は?」
「この調味料を入れるための瓶の発注ですわ」
「調味料? その黒い液体がか?」
「ええ、ワタクシの国の特産物になるべき偉大な大豆商品ですわ」

 ワタクシは瓶に入った醤油を親父に見せますわ、こういうのは勢いで押すのに限りますわね。
 親父は不思議そうに醤油を見ております、何故か皆さん黒い液体が珍しいのか最初は同じような反応をしますわね。

「我々日本人からすると見慣れた醤油でありますが、やはり異世界の方々には珍しいのでしょうな」
「そ、そうですね、あ、あの色が体に悪そうに見えてしまいます」

 悲しいですが、そう見えてしまう色でもありますわねぇ。

「味見をしてみますか? この味を知ったらきっと瓶を作りたくなると思いますわよ?」
「自信があるようだな、いいだろう。あの婆さんの知り合いだから話だけは聞いて断るつもりだったが、そこまで商品に自信があるのなら試してみようじゃないか、ワシが美味いと思ったなら、この品の瓶を作る仕事を受けよう」

 乗ってきましたわね! 勢いと自信満々で押せばこうなるとは思っていましたが思った以上に早く食いつきましたわね。
 職人タイプは自分の仕事に誇りを持っておりますものね、ならばこちらも自慢の商品ですと売った方が効果的なんですのよね。

「うふふ、ええ。自慢の商品ですのよ」

 ワタクシは笑顔で一押しします、それから厨房を借りれるか聞きます。

「申し訳ないのですが、この商品は先ほども申しました通り調味料ですので、こちらを使った簡単な料理で確かめていただきたいのです。よろしければ厨房をお借りしてもよろしいかしら?」
「わかった、厨房は使ってくれて構わんよ」
「ありがとうございますわ」

 ワタクシは親父の案内で厨房を借りる事としましたわ、実はちゃっかり朝市で簡単な材料を購入しておきましたのよ。
 キノコとささみのバター醤油焼きですわよー! あ、キノコと言っても米田中尉じゃありませんわよ。

 ――
 ――――

 あ、時間の都合で調理シーンはカットですわよ
 えのき 一袋、三つ葉一束、鶏ささ身 二本(一〇〇グラムほど)、にんにくのみじん切りひとかけ分、塩、粗びき黒こしょう、片栗粉、バター、醤油をいい感じに炒めただけの品ですわね。

「うふふ、できましたわ」

 バター醤油と言うまさに凶器とも呼べる組み合わせの良い香りが漂いますと、親父がゴクリと喉を鳴らします。
 ナルリアちゃんも喉を鳴らしますが……残念! ナルリアちゃんの分はありませんのよねー。

「あ、残念ですがワタクシ達の分はありませんのよ」
「――つー」
「あらー、いい匂いねぇ」

 ワタクシは親父の前に皿を置きますと

「では召し上がってくださいな、キノコとコケクックのバター醤油炒めですわ」
「いただこう」
「く、我が同胞が……」

 すでにキノコ精神が芽生えている米田中尉は無視しましょう、まずは親父がフォークで鶏肉とキノコを一緒に口に運びます、ひとくち口に含むと……

「――!」

 一瞬目を見開き飲み込みます。
 うふふ、勝ちましたわね。親父は二口、三口と食べていきますわね。
 ものの五分ほどで完食しましたわね。

「美味い、バターとの相性がこれほど良い調味料があるとはな、風味も良かったぞ。ごちそうさまだ」
「お粗末さまですわ」
「――ワタシも食べたかった」

 親父は水を飲んで息を吐き少し考えると……

「確かに自慢の一品と言うだけあるな」
「うふふ、ありがとうございます」
「わかった、このショーユの瓶の仕事受けよう」

 親父の言葉に皆が笑顔になりますわ。

「さっそく仕事の話に入りたいがいいかな?」
「ええ、よろしくってよ。マウナさんも今からでよろしくって?」
「はい、かまいません」

 ――
 ――――

 こうしてワタクシ達は親父さんと仕事の話をすることになりました。
 まずは約一リットルサイズの瓶で千個の瓶を頼みます、しめて一〇万リシェ分の空き瓶! を購入しましたわ。

「お嬢ちゃん達は魔王領から来たのか……はぁ、魔王領で何を始めるんだ?」
「商売ですわ!」
「しかし思いがけない大仕事だな、こいつは運ぶのも大変だぞ」

 送料もかかってしまいますわねぇ、できれば自国で生産できれば良いのですが……

「そうですわねぇ、いずれ自国で生産できるようになれば良いのですが」
「ええ、ガラス工房ばかりか工業地区を造らないといけませんね」

 ワタクシとマウナさんの会話を聞いていた親父が疑問を持ったのか尋ねてきます。

「アンタたちは本当に何者なんだい? 工業地区を造るとか言ってるがどこかの国の役人さんか?」

 マウナさんが少し考えるて話し出します

「申し遅れました、私はファーレ魔王領の現代表をしておりますマウナ・ファーレといいます」
「ま、魔王領の代表?」

 親父さんが目を見開いて驚いております、ええその反応は正しいですわ、この人見て魔王だって思う人まずいませんものね。
 たんなる魔族の美少女にしか見えませんものねぇ、地味ですし。

「いま、工業区で工房でも造れればと言ってたよな」
「ええ、今はその準備段階の資金集めで醤油を売ろうとしてるんですけどね、作るにももう少し先になりますね」
「それで、構わんのだが、ガラスや焼き物の工房を作るなら一枚噛ませてはくれんか?」
「どういうことです?」

 おやおや? なかなか楽しそうな展開になって参りましたわね。

「ワシの息子を使って欲しいんじゃ、アイツは腕は悪くないんだがどうも気合が足りないんだよ」
「なつほど、それで私どもの国で雇って欲しいという事ですね」
「ああ、腕は悪くないからきっとお嬢ちゃん、っと魔王様のとこで役に立ってくれると思うんだ」
「ですが息子さんは納得されますかしら?」
「ガハハ、それは大丈夫だケツひっぱたいてでも納得させるさ」

 思いがけない申し出ですわね、これならこの親父さんの息子さんという職人が手に入りますわね。
 マウナさんも同じ考えらしく親父さんに話しかけます。

「わかりました、その時はぜひお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 思いがけない提案で職人もゲット出来ましたわ、こうして割とスムーズに瓶確保に成功しましたわ。
 ワタクシ達は親父さんと挨拶をかわすと小鹿亭に戻ります。

 ――
 ――――

 丁度良い時間になったので小鹿亭の従業員にガリアスさんの事を尋ねますと、奥からガリアスさんがやってきました。

「よお、元気してたか」
「ええ、元気ですわよ」
「そうか、そいつは良かった、ではさっそく話したいことがあるから奥に来てくれ」

 ガリアスさんが奥の部屋へとワタクシ達を案内します。そして人数分のお茶を用意してくださいました。
 さて、ではギルド内で何が起こっているか聞くとしましょう。
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