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第一章 おばさん学園へ行く編

7話 遅れてきたクラスメイトと魔女の道具

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 空飛ぶ箒の授業の後、更に数日が経った。
 アンジェリカがこの学園に来てからそろそろ一か月が経とうとしていた。最初の魔力測定、空飛ぶ棒状の何か作成後は基本的な座学が多く、魔女の歴史とかを勉強していたようだった、アンジェリカの活躍を語る上にはどうでも良い内容が多かったので、割合とさせていただく。

「大分授業にも慣れてきたわねぇ、オバさんあまり頭がよくないから、ついていくのでやっとよ」
「いやー、ボクも似た様なもんッスよ。どっちかっていうと、魔法より槍ぶん回してた時間の方が長いっすからねぇ」
「わ、わだし。し、しんでるからアタマよぐない」
「いや、喋るゾンビというだけで、そこらのゾンビよりは格段に頭が良いと我は思うのだが」

 そんな会話をしていると、メルリカ婆さんが教室へと入ってきた。

「よーし揃ってるようだね。突然だが新しいお友達を紹介するよ。ルーシア入っておいで」

 メルリカ婆さんがそう言うと、長身の女性がオドオドと入ってきた。
 眼鏡をかけた女性だった、金髪を後ろで三つ編みにしている、目は大きく鼻筋は整っている要するに美人ではあるのだが、何故かさえない表情をしている。冴えない表情がせっかくの器量を台無しにしていた。

「えーと、本当に私ここに来て良かったんですかね?」
「アンタも魔女だからいいんだよ、ここはアンタと同じ遅咲きの魔女たちの特別学級だから問題ないよ、さっさと私の横に来な」
「遅咲き……」
「オバさんは遅咲きになるのかしら?」

 メルリカ婆さんの言われ、おずおずと女性はメルリカ婆さんの横に立つ。メルリカ婆さんより頭二つ大きい、スレンダーでモデルのような体型をしているが、オドオドしているためか身長より小柄に見える。

「ほれ、自己紹介おし」

 メルリカ婆さんに自己紹介するように言われると、ビクっとしてから自己紹介を始めた。

「わ、私は最近魔女になったルーシア・ルルーシアと言います。最近までは冒険者ギルドの受付嬢をしていました、み、みなさん宜しくお願いしま。あ、あと十九歳です」

 いや、そんなにビクついてて本当に受付嬢なんてできるのか? そんな感じがすいたルーシアであった。

「よし、ルーシアそれじゃあ席に……」

 ルーシアに席に着くようにと、言おうとしたメルリカ婆さんが言葉に詰まった。

「しまったね、席を準備するのを忘れてたよ」
「ええー、そんなぁ」

 普通忘れるか? そんなツッコミをしたくなる婆さんである。
 しかし落ち着いてるメルリカ婆さんである、メルリカ婆さん指をパチンと鳴らした。

「まあ、落ち着きな、少し待てば勝手にやってくるからね。こいつがついでと言っちゃなんだが授業の内容でもあるのさ」

 得意げに言うメルリカ婆さんであった、しかし待ってる間はルーシアは立ちっぱなしなのだが……

「指パッチンの授業なのかしら?」
「それ、魔女関係ないっすよね?」
「指パッチンで真空刃を作る魔法かもよー」
「あー、なるほど。でもその魔法はあってはいけない気がするッスね」
「オバさんもそう思うわね、何故かしら?」

 それは世界の意志というものだ、二人が下らない事を話している間にもメルリカ婆さんはマイペースに話を進めようとする。

「そうさね、今日の授業のテーマは魔女の魔法道具についてさ」
「えーと、すいません。私はいつまで立ってればいいのでしょうか?」
「机と椅子が来るまでまってな」
「はい……」

 酷い話だ。
 ルーシアはメルリカ婆さんの隣に立ったままで授業を聞いている、なんか悪い事でもしたのだろうか? そんな事を考えつつも立ったまま授業を受けているルーシアである。
 そして更に三十分後に机と椅子が自ら歩いてきたのだった。

「時間かかりすぎよねぇ」

 アンジェリカが呟く。

「そっすね、流石に時間かかりすぎっスね」

 マーシャも賛同。

「……」

 ヴィヴィアン死亡中。

「やっと席が来た」

 ルーシア安堵。
 オホンと咳払いするメルリカ婆さん、パンパンと手を叩くと授業再開

「さて今来た机と椅子のように、魔女の刻印を使えば色々な魔女の道具を作ることができる。一応魔女ならば誰でも可能なんだが、得手不得手がはっきりとしてる技術でもあるんだよねぇ」
「オバさんの興味あるジャンルね」
「まあ、簡単なものから難しいものまであるし、原理だけは知っておいて損はないだろう、さあ本日は刻印原理の座学さ」

 メルリカ婆さんはそういうと黒板に文字を書きだした。

「あ、そうそう。ルーシア? あんた授業は今日が初日だがついてこれそうかい? 一応こっちに来る前に基本的な事が書かれたノートは渡してあるけど、ここもいい加減教本作ればよいのにねぇ……」
「は、はい! 予習はしてきたので大丈夫だと思います」
「ノート読んだだけで大丈夫って、ルーシアさんは頭いいんすね」

 マーシャはルーシアがノートで予習しただけで、授業についていけそうと言ってるのに感心していた。

「マーシャちゃん座学苦手ですものねぇ」
「そっすね、身体動かす方が性にあってるんすよね」
「体育会系なのね」

 そして授業は再開する、面倒なので簡単に説明すると以下のような内容の授業であった。
 魔女の刻印は文様のパーツの組み合わせで効果を決める事が出来る、そのためのパーツとなる文様の効果と説明、魔女の刻印を誰でも使えるようにするための文様と組み込み方、刻印の刻み方、この刻印の刻み方で成功の成否が決まるようで、これが苦手な魔女が割と多いらしい、そして道具の効果が高ければ高いほど、刻印を刻むのが難しくなるとの事であった。
 そして、魔女の薬は普通の薬と基本的には一緒だが、最後に刻印を刻んだ紙で包み少し寝かせる事で完成となる様だ。

「……とまあ、今回はこんなとこだねぇ」
「……難易度高いっすよこれ……」
「はっはっは、マーシャはこういうのは苦手なタイプだねぇ」

 メルリカ婆さんはうつぶせに倒れてるマーシャに声をかけていた。

「安心しな、この魔女学校は教えるだけで基本的には試験とかは無いからね、あるのさ卒業試験だけさ。ま、そこらへんは人間の王立学園と違って適当なんだよ」

 試験がない! 実に良いのか悪いのかわからない学園である。
 学生的には有難いのかもしれないが、実力を試す機会もないということである。

「……試験が無いのは救いっすね」

 うつぶせのまま返事をしているマーシャであった。
 ゴーンゴーンと鐘が鳴る、本日の授業は全て終わりであり、メルリカ婆さんが明日の予定を話す。

「せっかくなんで、明日は簡単な魔女の道具か薬でも作ってもらおうかね、それじゃあ今日はここまで」
「うふふ、これは楽しみねぇ」
「……むぅ、この笑顔の主はきっとロクな事は考えておらぬだろうな」

 ニコニコ顔のアンジェリカ、リヴァイアさんの予想はおそらく当たるであろう、きっと明日はロクな事にならないね。
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