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第一章 おばさん学園へ行く編

10話 攻撃魔法

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 箒爆発事件から更に時は流れる。

「よーし、今日も全員揃ってるねぇ」

 やはり出席はとらない、まあ人数が人数なのでいつも通りぱっと見ればわかってしまうわけだ。
 でもやはり学校と言えば出席だろとも言いたい気はする、しかしここではもうこれが定着してしまったので仕方ない気もする。

「アンタらがここに来てそろそろ一年が経つ、時が経つのは早いもんだねえ」

 そう何気に気付けばそろそろ一年になるのだ、話的にはそこまで早いか? という気もするが語られて無い日の方が多いんだなぁコレが。

「あー、もうそんなに経つんスか」
「私が来てからもすでに半年以上なんですねぇ」

 マーシャとルーシアもメルリカ婆さんの言葉を聞いて、そうなのかと思ったようであった。
 ヴィヴィアンはボーとした顔で流していたし、アンジェリカも何とも思ってないようであった。

「オバさんになると時の流れって、あまり気にならなくなるのよね」
「はっはっは、アジャルタの言う通りさね。私もああ言ったがそこまで気にしちゃいないんだよ」
「ええ、ええ、時の経つのが気になるのは若い時だけなのよ。マーシャちゃんもルーシアちゃんもまだ若いものね」
「くっくっく、そうそう。なんだろうねぇ。二十代の後半が一番時の流れに敏感になるんだよ」

 オバさんと婆さんのこういった言葉は重い……

「そ、そんなもんなんスかね?」
「ええ、そんなもんよ」

 延々と続きそうな『時が経つのは早いよね談義』を続けるわけにもいかないので、無駄話はここまでという感じにメルリカ婆さんが手を叩いて注目を促す。

「さて、こないだまでは基本的に魔女の魔法の座学や、道具作りの魔女印などの授業が多かったが、本日からは魔女の魔法の応用編や道具は道具でももう少し踏み込んだところにステップアップだよ。実技も増えるから覚悟おし」
「あらー、オバさん体力の衰えが出てきてるからどうしましょ?」

 なんだかんだでアンジェリカは四十の半ばは越えているので、確かに若者と同じようには動けないだろう。

「何言ってんだいアンタ、四十半場とか言ってるが私は百超えてるんだよ」
「それと比べられちゃうと、流石にオバさん何も言えないわね」
「ええい、この話題は毎回キリがないな」

 ワカメの腕で腕組みをした生モノがまっとうな意見を述べると、メルリカ婆さんもそう思ったのか本題に戻る。

「そうそう脱線が多くていけないねぇ。さて、本題だよ本日のテーマは魔女魔法の中でも攻撃魔法についてさ。当然、魔女とはいえ魔女魔法でも得手不得手はあるから、攻撃魔法にしてもやはり得手不得手はあるさね。しかし勉強しておいて損はないさ」
「お? 冒険者としては興味のあるジャンルの話ッスね」
「わ、私は攻撃魔法とか怖いのはちょっと……」

 マーシャは乗り気だったがルーシアはあまり乗り気ではないようだ。
 ヴィヴィアンは相変わらず斜めを向いており、目線は明後日の方向だし。アンジェリカも攻撃魔法はそこまで興味が無いようであった。

「まあまあ、さきほども言ったが覚えておいて損はないさ。世の中なにが起こるか分からないからね、護身の意味でも覚えておくといいさね」
「そっすよねぇ、街で暮らしてると分かりにくいッスけど、一歩外出たら山賊盗賊海賊モンスターに襲われることなんて日常茶飯事ッスもんね」
「あ、あぁ。治安がいいのは街中だけだからねぇ」

 冒険者のマーシャの言葉は別の意味でも重い。
 そのマーシャの言葉を聞くと、簡単でもいいから撃退手段があるのはいいのかもと、思える面々であった。

「そうね、覚えるくらいは良いかもね」
「怖いのは嫌ですから、覚えるくらいは」
「うあー」

 そう、この世界は戦争こそしていないが、割と危険はそこらへんに転がっているのだ。
 先ほどマーシャが言ったように、盗賊は割と多く魔物の被害もバカにならない。かといって軍を動かすのは金がかかる。

 国は冒険者ギルドなんてものを作り『冒険者』という響きだけは浪漫溢れるが、実際は夢も希望も安定性も無い、単なる便利屋どもを使ってこれ等に対応しているのだった。
 マーシャは両親がいないため冒険者を生業としていた、冒険者は幼き少女が生きるには過酷な世界であるのは確かだった。ま、マーシャ自体は冒険者が天職なのか気にはしてないようだけどね。
 ついでにルーシアはギルド職員だったはずなんだが……所詮は冒険内容は知らない受付窓口である。

「よーし、皆のやる気が出たところで魔女の扱う攻撃魔法と、一般の攻撃魔法の違いから説明しようかね」

 メルリカ婆さんの攻撃魔法の講義が始まった。

「さて、魔女の攻撃魔法は通常の人間が扱う攻撃魔法とは違う」

 メルリカ婆さんが黒板に文字を書き、魔法について話し出す。
 やっぱ教科書いる気がするんだよねぇ。

「人間が使う攻撃魔法には地水火風光闇の六つの属性に分かれている、これは何故か分かるかい? リヴァイア……アンタは知ってそうだね。ルーシア答えてみな」
「あ、は、はい! えーとですね、人間は基本的に生まれつき、必ず魔力がどこかの属性に属するからだったかと記憶しています」
「ふむ、悪くないねほぼ正解だよ」

 ルーシアは勉強家なのか、割とすんなりと答えていた。

「ルーシアの言った通り、人間は何故か魔力が基本的に六属性のどこかに属することになる。まあ付け加えるとしたら必ずしも一属性ではないと言う事さ、人によっては二つ三つの属性に属することもある。四つ以上は歴史的に見ても数少ないけどね」
「なんで人間の属性の話をするんスか?」

 マーシャの何気ない質問を、待ってましたとばかりに反応するメルリカ婆さん。

「うん、良い質問だね。それが本題なんだよ」

 メルリカ婆さんは黒板になにやら文字を書く、やはり字が汚い。しかし『無属性』とこの世界の文字で書かれていた。

「魔女の攻撃魔法ってのはね、人間の魔法違って基本的には無属性なんだよ。というか一種類しかない」

 メルリカ婆さんの言葉に全員が『は?』という顔をする。それはそうだろう人間の攻撃魔法は属性ごとに見ても種類が多い。
 しかし魔女の攻撃魔法は一つしかないと言うのだし。

「どういうことかしら? 一つしかないって?」

 アンジェリカが皆が思ったであろうことを尋ねる。

「そうだねぇ、分かりやすく言えば基本は一つ。ここに各個人のアレンジを加えて色々な魔法に見せてるだけなんだよ」
「ん? てことは魔女の魔法はかき氷の氷の部分って事すか? かけるシロップで味が変わる、そのシロップがアレンジって事っすかね?」

 マーシャが何故かかき氷で例えたが、メルリカ婆さんは満足そうな顔で頷く。

「へぇ、マーシャあんた今日は調子がいいね。なんでかき氷で例えたか謎だがそういうことだよ。いちご味のシロップならイチゴ味のかき氷になるように、基本の魔法に雷のアレンジを加えれば雷属性の魔法へとなる、なかなか面白いだろ?」
「ええ、思ったより楽しそうな課題ね」

 アンジェリカも最初はあまり攻撃魔法には興味が無かったようだが、話を聞くうちに興味が出たようだ。
 そしてメルリカ婆さんは指先に白い光球をともす、光球の色を赤や緑に変えて見せた。
 どうやら色で属性を判断するようだ。

「よし、実技といこうかね。魔女用の魔法訓練所に移動しようかね、ついてきな」

 そして特別クラス御一行は、訓練所へと向かうのであった。
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