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第二章 オバさん冒険する編

19話 冒険者アジャルタ

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 掲示板には色々な依頼が貼られていた。
 何故か迷子の子猫探しから魔王討伐まで幅広く貼られていた、魔王なんてこの時代はいないのに何を倒せと言うのだろうか?

「うーん、やはり地味な仕事は報酬が低いわね」
「だが最初は安くても簡単なのがよいのではないか? 何度か依頼をこなせば慣れるし上の依頼も受けやすくなるであろう」
「そうなんだけどねぇ」

 リヴァイアサンは悪魔の癖に妙に堅実だったりする。

「職先を見つけてそれから働くよりは近道であるぞ」
「そうねぇ、では最初は……あら? これは近所の森ね」

 アンジェリカは一枚の紙を掲示板から取ると、内容を確認する。

「うんうん、これなら最初にもってこいかしら? 近所の森に生えてるホノムラキノコの採集ね、報酬は七〇〇リシェ……これいいのか悪いのかは分からないわね」

 アンジェリカが張り紙の内容を読み上げると、リヴァイアサンは顎に手を当てる(顎?)
 ちなみにホノムラキノコは特定の薬を作るのに必要な材料である、そこまで珍しいキノコではない。

「ふむ、我にもこの報酬が妥当なのかはわからぬな。だが、最初ならそんなものではないのか?」
「そうねぇ、とりあえずこの依頼を受けてくるわね」

 アンジェリカは張り紙を持って、受付カウンターへと向かった。

「オバさんこの仕事を受けようと思うのよ……あら?」
「おや?」

 アンジェリカが張り紙をカウンターへと置き、依頼を受ける旨を伝えるとそこにいたのは先ほどの中年男性の職員ではなく、ルーシアであった。

「あらあら、ルーシアちゃんじゃないの、どうしてここに?」

 アンジェリカとルーシアの感動の再開であった! ……まあ、一週間ちょいぶりだけど。

「ええ、実は国に戻ろうとしたところ、連絡が来まして。ここのギルドの人員が足りないので少しの間手伝ってほしいとの事でして」
「ああ、お手伝いと言う事ね」
「ええ、そういうことです。それでアジャルタさんはここに仕事を受けに来てると言う事は冒険者になったんですか?」

 今度はルーシアがアンジェリカに質問する。

「ええ、そうなのよー。魔女道具を扱ったお店を出そうと思ったけど資金が無くてねぇ。冒険者になって資金稼ぎするところなのよ」
「ああ、なるほど」

 ルーシアはそういいながら紙を確認する。

「えーっと、ホノムラキノコ採集ですね? 最近はこういった地味な仕事を受けてくれる方が減ってたので助かります」
「あら? そうなのね」

 世の中地味より派手、一攫千金を夢見るのが冒険者ってもんだ。

「ええ、仕事内容は地味だし稼ぎ的にもそこまで多くはないですからねぇ」
「何事も地道が大事よね」

 地道? よく言う、お前も一攫千金求めてここに来たんだろうが……

「そうそう、この依頼ですが、ここ見てください」

 ルーシアが指をさした個所を見る。すると追加報酬に関することが書いてあった。

「あら? ニトロタケ一本につき追加報酬で一〇〇〇リシェの追加ですって」
「はい、たまにですがクエストによっては、こう追加のクエストもあるので良く見ておくといいですよ」
「なるほどねぇ、しかもニトロタケはオバさんの家にたまに生えてるのよね」
「え?」

 ルーシアが微妙な顔でアンジェリカを見た。
 ニトロタケはそこそこ珍しいキノコで、これまたある薬の材料になる、そして普通は家には生えない……いったいどんな環境なんだよと言いたい。

「とりあえず、これを受けるわね」
「念のため、そのキノコが生えてる森には魔物の目撃例が増えてますので注意してくださいね。アジャルタさんに限って万が一があるとも思えませんけど」
「オバさんはつい最近まで、普通のオバさんだったのよー」

 最近まではただの変なオバさんだったがが、今は魔女になった変なオバさんである。
 ルーシアは受領証を作成しアンジェリカに渡す。

「とりあえず、行ってくるわね」
「はい、では御武運を」

 アンジェリカとリヴァイアサンはギルドを後にした。

「ところで、主よ? 準備はしてあるのか?」
「ええ、任せて。このポーチに袋とポーションが入ってるのよ。近所だったからこれで十分よ」
「ふむ、まあ。庭のような場所なら問題なかろう。では行くとしよう」
「ええ、オバさんの初仕事よ。張り切っていきましょう」

 こうして、不安だらけのお金稼ぎ大作戦が始まったのであった。

 ――
 ――――

 さて、近所なだけあってすぐに森についた。
 森は鬱蒼としており、日の光があまり入ってきてないためか昼だと言うのに薄暗かった。

「うんうん、来たわねぇ目的地の森よ。相変わらず辛気臭い所よね」
「まあ、キノコの群生地なんてものは、こうジメっとした場所であろう」
「森に入る前から気が滅入りそうね」

 そう言いながらも、森に躊躇うことなく入っていくアンジェリカであった。
 少し進むとさっそく目的のキノコを発見する、しかもそこそこの量を行き成り発見したのである。

「日頃の行いね、中々の量だわ」
「……」

 ノーコメントと言わんばかりで首を振っているリヴァイアサンである。

「しかし、静かなものだな」
「まあ、ここは昔から魔物が出るには出たけど数は少ないし、比較的魔物も弱いらしいのよね」
「しかし、ルーシアが目撃例が増えてるとは言っていたな」
「そうだったわね、怖いわねぇ。注意しながら探しましょう」

 それから二時間ほどで目的数を集め終わった。

「あっさり終わっちゃったわねぇ」
「そうである……いや、そうとも限らぬな」

 リヴァイアサンが辺りを見る、するとそこにはボロい剣や槍で武装した小さな影が数匹いた。

「あらー、タウリンだったかしら? 試験の時に見た魔物ね」
「リンしかあっておらん! なんだその一〇〇〇ミリグラム配合されてそうな名は。ゴブリンだ主よ」
「ああ、それよそれ。一〇〇〇ミリグラムって聞くと多そうだけどそれってたった一グラムよね」

 魔物に出会ったというのに余裕そうであった。

「リヴァイアさん、あの魔物に勝てる?」
「……いや、我はアレに負ける要素なんて無いのだが」

 そう、こいつ等こんなだが実際無駄に強いのだ。

「まあ、戦うのも面倒だ、少し格の違いを見せて追い払うとしよう」

 するとリヴァイアサンはゴブリン達の方を睨み、少しだけ魔力を開放する。
 ゴブリン達は魔力に圧倒されるも、相手はどう見ても魚の尻尾、その姿が凄むのを見て。

「ップ! サカナのシッポ、サカナのシッポ。ププ」

 と笑っていたのであった。
 リヴァイアサンは魔力を引っ込めると、手が少しプルプル震えていた。

「……主よアレは滅ぼしても構わんな?」
「いいんじゃないかしら? 油黒虫みたいなものなんでしょ?」
「そうだ」
「じゃあ、いいんじゃないかしら?」

 適当に答える魚の尻尾の主。

「死ね! ザコども! ――スプラッシュボム」

 リヴァイアサンがゴブリン達の中心地へ水の塊を投げつける、水の塊が中心地に来ると水の塊が爆発した、水しぶきがショットガンのようにゴブリン達に降りそそぐ。するとそこにはゴブリン達の死体が転がっているのであった。

「あらー、リヴァイアさん凄い魔法使えるのね」
「水の中級魔法だ」

 ゴブリンごときにマジに魔法をぶち込む大悪魔であった……
 その後もたびたびゴブリンを見つけるも、リヴァイアサンが容赦なくぶち殺しながらキノコ採集は進んでいった。

「あらー、予定の倍は採れたわね。これだけアレば依頼二件分は有りそうね」
「ふむ、では街に戻り、報告をしよう」
「ええ、そうしましょう」

 こうして、オバさん冒険者の最初の依頼はあっさりと完了するのであった。
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