エイジヒル妖精譚 〜幽街画廊の由々しき平穏〜

犬すぱいらる

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旅人3箇条

チーズが食べたい。

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 エイジヒルは、近くの古道具店からボロボロの丸いサイドテーブルと椅子を2脚借りて来て、ハッピーフラフラワーの入り口向かいの比較的通行の邪魔にならないスペースに設置してナセと共にハッピーフラフラワーの客の出入りを見張っていた。

「迷惑じゃないか?」

「妖精は、この程度で迷惑と考えれるほど他人との繋がりが成熟してないのさ。」

「生粋の妖精の俺が迷惑じゃないかと思ってるんだぞ。」

「君が、生粋と言う言葉を知っているのは驚きだが、立ちっぱは疲れるだろ?」

「そりぁそうだが、 
 酷いこと言ったよな今!」

 エイジヒルとナセは、椅子に腰を掛けて、ハッピーフラフラワーの様子を見ていた。

「刑事さんみたいだな。」

「何だよ。それ?」

「悪い奴を捕まえたり、鉄砲で撃ったりする正義の味方だ。」

「それカッコイィな。」

「あぁ、けど悪い刑事も居て場合によっては戦う。」

 エイジヒルは、断片的な情報でしか刑事を知らないので知ったかぶるのは少しキツい。
 話題を逸らす為に辺りを見渡した。
 

「客増えて来たな。」

「何気に他の店より流行ってないか?」

「じゃじゃん!
 コレですよコレ!」

 エイジヒルとナセの前には、若い妖精達のプレイスポットには、およそ似つかわしくない姿のタキシードを着た案内所の妖精はなまるが突然現れて、サイドテーブルにチラシを置いた。


 すごい店あらわる。
 都会の若者の必需アイテム、ハピフラT
    おきなわ生まれの店主手作り。 
 黄色い狼煙を辿って行こう。

「はなまるちゃん、何コレ?」

「はい!
 チラシです! ワタシが作りました!
 今から明日の午後3時まで、ハピフラは特別販売期間です!」

「何で?」

「はい、アホでも辿り着けるようにとチラシと狼煙で集客です!
 どうも、ハピフラはアホに人気が高いんです!」

「アホアホ言うなよな、客に聞こえるからさ」

「大丈夫です。
 アホは、気付きませんので。」

「君、酷いな。」

「いや、助かる。
 バルの奴も来るかも知れない。」

「お友達ですか?
 皆さん凄いですね、お友達沢山で、怖くは無いんですか?

 ん、あ、そこです。
 良い感じです。
 狼煙綺麗です!」

 話してる途中ではなまるは、ハッピーフラフラワーの屋根を見上げて叫んだ。
 エイジヒルには、感知出来ないタイプの組合の妖精が煙突を設置したらしい。
 エイジヒル達の返答を聞かぬまま、はなまるは、店に入っていった。

「あいつ、俺らの為に頑張ってるのかな?」

「彼女?は、何も知らんよ。
 ただ、ハピフラ?の為に頑張ってるだけだな。多分、サナちゃんが感づいたんだろな。
 そうじゃなかったとしても、どっちにしろ気まぐれだな、偽善以上に遊びとか、暇潰しの類いだな。
 好意的に考えると、はなまるちゃんを鍛えてるんだろう。」

「俺の頭じゃ分からん。」

「気にするな。
 結果良ければ感謝しろって事だ。」

「・・・」

 程なくして、はなまるが店から出てきた。

「あはは、エイさん、ナセさん、店主のやつ驚いてましたよ!」

「君! 無許可でチラシ配って煙突設置したのか!」

「エイさん、無許可も何も店自体が組合の貸し物ですし、組合に加入してるからこそ商売が出来るのですよ。」

「そだな、この街では木の組合様様だもんな。」

「よして下さい。
 まるでワタシ達が悪い奴みたいじゃないですか。」

「刑事だな。」

「ナセさん。 何ですソレ?」

「悪い奴を懲らしめる人だ。」

「カッコイィですねソレ、組合クビになったらソレになりたいです。」

「お前には、無理だ弱すぎる。」

「ワタシは、ユキヤナギの花の妖精ですよ!
 弱いわけ無いでしょ!」

「ユキヤナギの花って、君は、木じゃなくて花の部分の妖精?
 そんなことあるのか?」

「組合なんて、ほぼ木の妖精なんですよ。
 花を名乗っても良いじゃないですか。
 可愛いですし。」

「エイジヒル、コイツ強いのか?」

「分からんが、強いの基準が君とは違うだろうな。」

 エイジヒルは、このつまらない会話がたまらなく楽しかった。
 だが、居なくなった家族を探しに来たナセや、任された仕事の合間のはなまるとでは、あまりにも立場が違う。
 このまま、バルは見つからないとないかもしれない。
 ハッピーフラフラワーの特別販売期間が失敗して、木の組合が大損してしまうかもしれない。
 それでも、エイジヒルは、この時間が愛おしかった。
 数十年で確実に死ぬ人間の感情と似ているのかも知れない。
 
「お前さ、仕事に戻らなくてなくて良いの?」

「今日のワタシは、何をしても仕事なのです。」

「どう言う原理だよ。」

「はなまる、この店は何時までやってんだ?」

「10時ですよ。」

「遅いな。」

「この辺りは、大体遅いですよ。」

「あのさ、案内所の奴らはみんな、お前や、嫌味所長みたいに、人(妖精)と関わったり、馴れ馴れしくするの得意だったりするの?」

「はい、仕事ですからね。
 例え相手が面倒臭い人でも笑顔は絶やしませんし、感じが良い人でもあとぐされはありませんね。
 ただ、お二人と会えなくなるのは少し寂しいですね。」

「僕なら幽街画廊に居るがね。」

「そうでしたね。
 それでは、ワタシは、これで。」

「はなまる、達者でな。」

「はい。 ナセさん、今生の別れってヤツですね。」
 
「根性の別れか、カッコ良いな。」

「君ら意味分かってるのか?」
 
 はなまるが行ってから、しばらくして会話は、止まった。
 ナセは、相変わらずハッピーフラフラワーの入り口を見ていた。

「来ない?」

「あぁ」

「来るかな?」

「わからん。
 あいつにさ、こんなに会いたいとか、考えたこと無かったわ。」

「好き?」

「好きとか、気持ち悪いだろ!
 ただ、嫌いじゃなかったかな?
 この気持ちが、妖精として正くなくとも俺は、会えて良かったと思う。」
 
「気持ちにテキストなんかあるかよ。
 そうありたいって気持ちが、感情を縛りつけてんのさ。」

「テキストって何?」

「良いや、それよりさ君は確か、バルさんが居なくなったのは、自分のせいだって言ってたな。」

「あぁ、覚えてたか。」

「そりゃね。」
 
「今さ、客が多いだろ、客が引いた時に話すわ。」

 重い話をする時は、シチュエーションと集中力とタイミングが重要である。
 昼過ぎの賑やかな街中ほど相応しく無い所も、そう多くは無いだろう。
 エイジヒルは、気長に待つ事にした。

 賑やかな場所とはいえ、一点を集中し見続けると眠気が来る。
 ナセの方は大丈夫そうで、半ば睨み付けているような恐い表情で入口を見続けている。
 立場が違うとは言え、眠くなるのは申し訳無かった。
 とは言え、エイジヒルは、バルの顔を知らない。
 見続ける意味は、あるのか?

「ナセ、何かいる?」

「ビーフシチューが食べたい。」

「いや、もっと持ち運びの楽な物を欲しがってくれよ。」

「分かった。 チーズ。」

「チーズだな。 買って来る。」

「悪いな。」

 エイジヒルは、買い出しついでに散歩をする事にした。
 出来の悪い物語なら、この散歩中にバルと出会うのであろう。
 太った風の妖精など、そう居ないし多分バカそうだ。それに、ハピフラに向かっている。
 情報を整理すれば、出会える確率は上がると言うものだ。
 例えば、感知出来ない妖精かも知れないがその場合は仕方がない。
 
 この辺りの散歩は、相当久しぶりである。
 若者街とは言うが、妖精に若者も老人もあったものではない。
 意識が芽生えて身体を得る前から物事を考えているのだから、妖精で言うところの若者とは、経験が浅い者、無鉄砲な者、テンションの高い者をそう呼ぶ。
 それとは逆に、無気力な者、昔話ばかりする者、価値観の古い者を老人と呼ぶ。
 それ以外には見た目でそう呼ばれる事もあるのだ。

 エイジヒルは、この若者街があまり好きでは無い、性に合わないのだ。
 エイジヒルの好きなワードは、その見た目に反して、落ち着いた、大人の、ダンディなどである。
 本来なら、この通りを歩いている所を見られるのさえ嫌だが、今は気にならなかった。 目的があるからだろう。

 若者街の中で、美味いチーズを探そうと思ったが無かったので、近くの飲食街をぶらつく、街は既に賑わい始めていた。

 ゴーストツリーの街では、カマンベール、ゴーダ、モッツァレラと様々なチーズが手に入るが、妖精界に牛が居るわけではない。
 人間界に行った妖精が匂いを採取して妖精界に戻り、匂いと記憶を妖石に移し込んで作る。移した妖石をコピーして商売するのだが、そこで、最初に採取した匂いの量とか、人間界のチーズメーカーや、妖精の記憶のブレ等で、店ごとにかなり味の幅が広い。
 妖精界では、チーズに限らず、人間料理の大半は、匂いと記憶を移した妖石で出来ている。
 中には、料理そのものでは無く素材をコピーして、自分で調理する店もあるが、それなりの値がする。

 チーズは、主に屋台で売ってある。
 もちろんどこでも良いわけではなく匂いで選ぶ、せっかくゴーストツリーの街に来たからには、ナセには美味いチーズを食べて貰いたい。
 
 そこそこの時間歩いたが、太った風の妖精は見かけ無い。
 太った妖精は、水と木に多いが、他種の妖精でもいないわけでは無い、エイジヒルは、バル探しを早々に諦めて美味いチーズ探しに専念することにした。
 二兎を追う者は一兎をも得ず。とか言うのが日本のことわざにある。
 今は、幽街画廊の従業員として、良き旅のサポートを優先させるのは当然の事だ。
 
 どれほど歩いたか、日が暮れて来た。
 
 飲食街は、オレンジ色の照明と、街を流れる妖精達の光が幻想的で美しい。

「あそこにするか。」

 エイジヒルは、各種チーズを取り揃えた店の出張屋台を見つけて、ナチュラルチーズを2人分買った。
 ナセの所に戻る途中に酒店があったので、ゴーストツリーの街産の安い赤ワインを一本買った。

 空を見上げると、高い木々の奥に広がる星々が地上の妖精達に比べて儚く上品な輝で闇を照らしていた。
 
 
 
 
 
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