エイジヒル妖精譚 〜幽街画廊の由々しき平穏〜

犬すぱいらる

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消し屋のダル

石焼きめだか店主

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 石焼きめだか店内は暗い。
 営業中でも、明るい店では無いが夜はそれなりに賑わい客の妖精達の出す光でかなり明るかった。

 カウンターから少し離れた位置にあるテーブルの椅子にこの店の店主が幽霊の様な微かな光で輝いている。

「うわっ!」

 エイジヒルは、店主の不気味な佇まいに思わず声を出した。

「消し屋さん。 この方は?」

「……見たことあるだろう。…コイツはたまに食通ぶるから、この店にも来た事あるはずだ。」

「恥ずかしながら私、お客様の顔とか見ないんです。   怖いから。」

 何だコイツ‼︎?

 エイジヒルは驚いた。 横長に尖った瞳に坊主頭、営業もしていのいのに何故か作務衣姿の厳つい強面の妖精のくせに気弱な店主の存在に面食らってしまった。

「僕はエイジヒル。フルエの友人だ。」

「フルエさんのご友人が何か?」

 店主は、鋭い視線でエイジヒルを睨んだ・・・ただ見ただけなのかもしれないが顔が怖い。
 いちおうダルの顔を見る。期待通りの無表情だ。(覆面グラサンクチバシ野郎に表情もクソも無いのだが)自己紹介は問題無かったということか、誘われてホイホイ着いて来たが、ダルにとっては仕事なので対応には気を使う。
 そもそもデリケートな仕事で客の前に消去対象の友人を連れて来るとかどうなんだ?
 プライバシーの概念が絶望的に無いだろう?
 エイジヒルは今更になって困惑してきた。
 好奇心だけで踏み込んではいけない所もある。

「最初に言っておくけど、僕は君がフルエを消す事とかどうでも良いんだ。
 たださ、友達としてだ。友達としてフルエは、クセはあるが申し分無い奴だ。
 だからさ、気になるんだ。
 アイツは悪い奴か?」

「あなたに関係あります?」

「無いことは無い。」 

 ダルは、床に魔法陣みたいな図を書いてロウソクを何本か立てているが、来、消し屋の仕事にオカルトめいた儀式も小道具も必要ない。
 中には大袈裟な演出で高額の報酬を請求する消し屋もいるらしいが、ダルの場合は、ただの時間稼ぎだろう。
 そもそも時間を稼ぐ必要なんて無い。

 エイジヒルに何かさせたいだけである。

「あの消し屋さん、プライバシーとか・・・」

「………気にするな。」

「ええぇっ!」

 店主はが、悲痛な声をあげたが関係ない。
 頼んだ相手が悪い。 さらには未開な妖精の世界にプライバシーの概念を求める方がおかしいのだ。
 
「恥ずかしいなら僕のことも消せば良い。」

「……サービスしてやる。」

 エイジヒルは、店主に消されたところで失うものも何も無いノーダメージだ。
 ダルの言うサービスには、エイジヒルにもっと言えという意味合いもある。

「わかりました。
 けど、恥ずかしかったらあなたにも消えてもらいます。」

「お、おう。」

 エイジヒルは、凄く物騒な言葉だなと思いながら店主の言葉を待った。

「フルエさんは、悪い妖精ひとでは、ありませんよ。
 僕が弱いんです。」

「知ってる。」

「話の腰を折らないでください。」

「ごめん続けて。」

 悪いと思えば直ぐに謝る。それこそ平和の一歩である。

「病気です。
 心を持ってかれちゃいました。」

「・・・!」

「朝起きたらフルエさんのことを思います。 今何してるんだろう? 何が好きなんだろう? 何が欲しいんだろう? 好きな妖精ひとはいるのかな? 私のことは好きかな? どれくらい好きかな? そんなこと考えてたら夕方になってます。」

 エイジヒルの肌に夜風が当たった。
 窓を開けたのだろうか? エイジヒルはダルに顔を向けた。

「…換気だ。」

 ダルは当然の様な口調で言い放つと窓の外を眺めた。 店主の話には興味無さそうな態度だが、内心はそうではあるまい。

「夕方になっても働く意欲が湧きません。 いっそフルエスペースを手伝いたいとか、今日働かなければ、その日の売上分だけめだかの命が助かります。
 私のフルエさんを思う気持ちがめだかの命を救ったと思うと胸が熱くなります。」

「フルエの奴は毎日めだかを揚げまくってるわ。」

 気持ち悪い。
 これが恋というものなのか? 前に会った風の妖精のナセは、恋に焦がれまくって禁じ手を使ってしまった。
 
 恋は妖精を狂わせる。

 恐ろしい病である。

「フルエさんは、良いんです。
 誰だって知らないうちに誰かを傷つけています。 私だって死ぬほど苦しいんです。できることなら私の全てを捧げたい。」

「フルエが好きなんだな。」

「はい! そうです! めちゃくちゃ好きですよ! 本当ホントは、あなたのこと知ってました。
 同郷で、めちゃくちゃ仲が宜しいんですね!」

 店主の声のトーンが上がり詰めいるかの如く言葉を捲し立てた。

 顔のわりには綺麗な声である。

「めちゃくちゃの定義は知らんが、君の考えてる感じではないと思うぞ。」 

「はい、理的に頭が回っている時は、フルエさんにとって、あなたは大して必要な存在でないことくらいは分かりますよ。
 フルエさんは、あなたを弟程度にしか思っていませんから」

 エイジヒルは、失礼なことを言われた気がしたが、その程度では腹は立てない。
 それこそが理的と言うものだ。
 そもそもエイジヒルには、今の店主は理的に見えていない。

「わかった。
 そんなに好きなら何故消したいんだ?」

「気がつけば夜になってます。
 普段なら店を畳む時間でも、まだフルエさんのことを思っています。
 そして、フルエさんのことで頭がいっぱいで眠れないのです。
 気が付けば朝です。
 フルエさんを思います。」

「酷いな。」

「はい、気持ち悪いでね、分かります。
 けど、あなたには分かりますか?
 世界一美しいと思っていた感情が熟成して腐って、気が付けば世にもおぞましい化け物になっているんですよ。
 だから、僕は消えなければならない。
 フルエさんの前から・・・・迷惑をかけたくないんです。」

「君の気持ちとか一生分かる気はしないけどさ、いびつで気持ち悪いけど君はフルエを傷付けたくないんだろ?
 心理学とか分からんし、軽く言って良いのかも知らんけど悪いモンじゃ無いんじない?」

「無理矢理型に嵌めないでください。」

「僕は、君がフルエを消すと思ってた。
 けど君はフルエの前から消えると言った。 結果は同じおんなじことだけど思いは全然違う。
 そこが、なんて言うか気に入った。」

「気に入らないでください。
 私は、あなたに消えてもらいたかった。 私とフルエさんの世界から永遠に・・・」

「同じ世界に居れば見えないとか聞こえないなんて些細なことさ。」

エイジヒルは椅子から立ち、右手を店主に差し出した。

「何です?」

「引っ張り起こす程での握手だ。」

「種明かしてるじゃないですか。」

「君が腹を割って話してくれたからね。
 それに対しての誠意さ。」

 店主は、弱い力でエイジヒルの手を握り、エイジヒルはその手を引っ張り店主を立たせた。
 めちゃくちゃ軽かった。
 そして、その手の平は軽く透き通っている。

「君! 手!」

「……妖素欠乏症だな。
 ……食べろ。……遊べ。」

 一通り喋り終えた時、ダルの準備?は終わっていた。

「……時間だ。」

 声の低さは通常通りだが、仕事モードなのか声が冷たく感じる。
 風貌のせいか死神を思わせる。

「……店主、時間だ。」

「はい。」

「あのさ、結局は消すんだね?」

「はい、消えます。」

「……エイジヒル、どんなにくだらない行動でも、ぬかるみが見えていても、後ろだろうが前だろうが何処に向こうが一歩は一歩だ。
 歩き続ければ方向は定まる。 フルエを消す事でも店主は、一歩進める。
 何もしないよりもマシだ。」

「そうなのかな?
 何で僕を連れて来たんだ?」

「……時間潰し……サンドバッグだ。」

「サンドバッグて!」

「…感謝している。」

 ダルは、懐から小さな瓶を出し店主に渡した。
 
「…ソレを飲め。」

「コレを飲めばフルエさんの前から消えられる。」

「良いのか?」

「……」

 その時、窓の外から声が聞こえた。

「ちょっと待ってよ!」

 フルエだ。

「おい! フルエ何で来るの? バカなの?」

 エイジヒルは、混乱している。 修羅場の予感がする。

「フルエさん。」
 
「ダルさん、コレ間違えてるよ。」

 フルエは、小瓶のヒモをつまみ自分の瞳の位置で揺らしている。

「……悪いな。 店主、交換だ。」

 ダルは、二人の小瓶を取り替えて渡した。

「……店主が飲んだ後にフルエが飲め。」

 エイジヒルは、妙に白けた空気の中で言葉を失った。
 この中では完全に部外者だからだ。

「石焼きめだかさん、最後に良いかな?」

「フルエさん。」

「ありがとう。」

「何のこと?」

「今までだよ。
 フルエスペース、あの店は、石焼きめだかさんや、沢山の店の妖精さんが助けてくれたから今があるんだよ。
 今じゃほとんどの妖精ひとが見えなくなったけどね。」

「みんな、見えないんですか?」

「……店主、お前と同じだ。
 ……かってに思い込んでかってに爆発する。」

「フルエが近すぎるんだよ。」

「ごめん。」

 フルエが誰にとなく謝る。

「消し屋さん、この薬を飲めばもうフルエさんとは、2度と会えないんですね。」 

「…知らん。
 再会できたという事例は聞いたことが無いな。」

「絶対なの?」

「妖精は、横の繋がりが乏しいから知られていないだけで、実際はあるのかも知らんな。」

「石焼きめだかさん消えるの?」

「あなたを傷付けたくないから。」

「バカ、もう傷付けてるよ。」

「すいません。一度消えます。 けどもう一度、あなたに会うために自分を磨きたい。」

「支離滅裂だよ。」

「病気ですから。」

「わかった。」

 フルエは、店主に右手を差出し店主は自然にその手を握り返した。

「待ってますね。」

「はい。」

 店主の透けていた手がみるみる色付く。
 そして目からは、大粒の涙が溢れてくる。

「水の妖精の魔法よ。」

「ふ、フルエしゃん、いつか いつか・・・」

 店主は情け無い声を出して俯向く。

「この顔、忘れないでくださいね。」

 フルエは、店主の手を握ったまましゃがみ込んで下から店主の顔を覗き込んだ。




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