護りたい君は陰なりて。

ゆゆ

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住めば都

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人間、案外やり出してみたら順応出来るもので、ここで暮らし始めて数日経った。
寝泊りは宿でし、食は買ったり拾った木の実を食べたりして何とか凌いでいた。
人混みは嫌いだなんて言ってられない状況に諦めて、掲示板のクエストをこなしてメニ(お金)を稼ぐ日々。
そうして何とか生存をしていた俺は今、武器屋の前に立っていた。
素手で戦うのも限度があるよなぁ……。
最初は目玉が飛び出そうなぐら高く感じた武器だが、今なら買えそうな気がする。
俺はメニ袋を掲げ少し上下に揺らす。
ジャラジャラと小粋な音がし思わず口元が緩んでしまう
必死に朝から晩まで働いてお金を貯めた事なんて今まであっただろうか。
ここに来て初めての生活らしい事な気がする。
これを使ってしまえばまた、生存に逆戻りしてしまう。
それでも、それでも良いと強く思った。
いつ死ぬかわからない命なら今できることを精一杯やりたい。
あっちで何もしなかった、何もできなかった自分を消し去る為には、これは貴重な第一歩だとさえ思う。
意を決して足を踏み出す。
声を出せば空気が震える感覚がする。
それだけ意識は研ぎ澄まされ集中状態に陥っていた。

「なぁ、武器屋ってここで当ってるか?」

俺がそう問い掛ければ、まるで吟味でもするかの様に足先から頭のてっぺんまでじっとりと視線を巡らせる店主
はぁ、と短く息を漏らし下げていた手を上げジャラリと音を鳴らす。
その様子に店主はニヤリと笑い声を上げる

【へい、らっしゃい】

八百屋の様な言葉を発し笑いかける姿に思わず後ずさる。
現実世界の事を彷彿とさせるその対応に、どこに行っても自分の価値はないのだと思い知らされてしまう。
だめだ。ここで怯めば変わらない。
神に懺悔し誓った事をここで覆す訳には行かないとグッと足を踏み込んだ。

「攻撃特化の武器を一つ頼む。値段とサイズは問わないから、初心者でも使えそうな物をお願いしたい。」
【本当にいいんだな?】

強面のおじいちゃんが睨むように見つめながらそう問う。
俺は口に溜まった唾液を飲み下し大きく頷く。

【十万メニだけど本当にいいのか?】
「じゅ、十万メニ……」

思わず怯んでしまい金額を復唱してしまう。
どうなっていいとは言いながら、はけていた二万メニを足せば買える額ではある。
でも、これを出してしまえば再び無一文に戻ってしまう。
でも、それでも構わないと思った。
これは、俺の決意の証だ。

「あ、あぁ。構わない。いいから買わせてくれよ。」
【分かった。大事に使ってくれよ、若者よ。】

そう言われ上空から蒼く輝く剣が手の上に落ちてくる。
握り込み構えてみれば程よい重たさがあった。
チャリリン、なんて音がし俺のメニの表示はゼロになってしまった。
分かっていても少し気分が下がってしまう。
でも、まぁ、いい。また稼げばいいだけの話だ。
この新しい相棒と。
俺は店主に感謝を告げクエスト掲示板に足を向ける。
ふ、と。しない筈の華のような香りが鼻を擽る。
香りに意識を引かれ、惹かれるように視線をやれば真剣な表情で歩く少女が目に着いた。
白を基調とし、青のラインが入った帽子と服に大きめの杖。
杖の先には大きな水晶が着いている。
薄い水色の髪が風でなびき、再び優しい香りが広がる。
魔導師……?
これが大事な出会いのきっかけになるとは知らずに、やっぱりヒーラーはいいよなぁ、なんて考え足早に掲示板に向かった。
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