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「緩和治療《ペインケア》」
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「緩和治療」
入試を終えて、自宅に帰った結愛が見たメモには「お父さんが倒れたので門真総合病院に行きます。また連絡します。母」と書かれていた。(えっ、お父さんが…。いったい何があったん?)と思うと同時に「ある事」が頭に浮かび背筋に冷たい汗がつたった。
紬のスマホに電話を入れるも電源が入っておらず、送ったラインメッセージも「既読」がつくことはなかった。いてもたってもいられず、家を飛び出し、自転車に飛び乗ると門真総合病院に向けて全力でペダルをこいだ。
総合受付で名乗り、翔太の状況を確認すると一時は危篤状態だったが今は少し落ち着いてICUに居ることがわかった。娘である事を伝えると病室に案内された。
「お父さん!大丈夫なん!」
とICUに飛び込むと、たくさんの点滴のラインと医療機器に繋がれた翔太を囲むように紬と副島と森が難しい顔をしていた。その奥に神妙な表情の夏子と陽菜の顔も見えた。(あっ、「悪い予感」が当たった…。)結愛は涙が止めどなく出た。
酸素マスクの下から、途切れ途切れの声で翔太が結愛に尋ねた。
「結愛…ちゃん、驚かせ…てしもて…、悪いな…。し、試験は…どう…やった?」
結愛は、泣きながら翔太のベッドサイドに取り付くと点滴のラインの針が刺さった翔太の手を取り、
「試験はできたよ。そんな事より、お父さんは大丈夫なん!くすん。なんでなっちゃんと陽菜ちゃんがここに居るの?お父さん死んじゃうの!くすんくすん。そんなん嫌や!合格したらみんなで旅行行くんやろ!約束したやんか…。うわーん!」
と泣きじゃくった。
そこに医師がやってきた。紬に結愛を室外に連れ出すよう指示した。モニターの各種数値を確認し
「痛みはきついですか?腫瘍が痛覚神経に浸潤してしまってます。「緩和治療」を希望されるならモルヒネを入れますが…。しかし、モルヒネを入れるとご家族との会話に支障が出る可能性が高いです。大事なことをお話になるなら先にしてもらっておいた方がよいかと思います。」
と語りかけた。
「処置については、こちらの副島さんにお任せしていますので…。」
とだけ言うと強い痛みに襲われ顔をしかめた。
副島は翔太に代わり医師に翔太の希望を伝えた。翔太は自宅での見取りを希望しており、2日間の付き添い医師と看護師による自費診療扱いでの在宅看護を望んでいることを伝えた。結愛にうめき声を聞かれることが無いように、追加でペインケアも行ってもらえるよう希望を述べた。すぐに麻酔医と看護師が呼ばれ、点滴に「痛み止め」が追加注入され、翔太の表情は和らいだが、言葉は出なくなった。
「では、患者さまの希望を最優先しましょう。自宅に移送する段取りをつけますので今しばらくお待ちください…。」
医師は翔太と副島に軽く頭を下げると部屋を出て行った。入れ違いで紬と結愛が戻り、これからの段取りを副島と森が説明した。翔太の死期を知らされていなかった結愛は大泣きして、夏子と陽菜はいたたまれず病室の壁を抜けて出ていくと、互いにやるべきことを確認した。
「陽菜ちゃん、今日、副島のおっちゃんに私らがやってた古着屋に行ってもろたで。写真で紬さんにも確認してもろた。」
「そうか「アレ」はあったんやな。なっちゃんらしい「ケア」やと思うわ。結愛ちゃんが14日の卒業式終わったらな….」
「陽菜ちゃん、ちなみにグリムリーパー課長の返事はどないやったん?」
「あぁ、そっちも大丈夫や。高齢化が進んでこっちも人手不足やからな。」
ICUに、数人の看護スタッフが到着し紬は複数の「同意書」にサインをしている間、結愛はひたすら翔太に語り掛け続けている。しかし、モルヒネが入った後の翔太の反応は薄い。
自宅への移送は3月13日の午前9時に決まり、今晩は病院で夜を明かすこととなり、副島と森は紬に会社関係への連絡は請け負うのでしっかりと「ケア」するように伝えると退室した。
紬は結愛に翔太が危険な状況にある事を伝えた。翔太の希望で自宅に戻ることを伝えるとICUに残された紬と結愛に重い沈黙の時間が流れた。時計は午前0時を過ぎ、3月13日を迎えた。
結愛を簡易ベッドに寝かせると紬は耳元で囁いた。
「翔太さんから、結愛には14日の卒業式は必ず出席するように言われてるからね。「人生の節目は大切にして。」って言うてたから明日は学校に行くんやで。」
入試を終えて、自宅に帰った結愛が見たメモには「お父さんが倒れたので門真総合病院に行きます。また連絡します。母」と書かれていた。(えっ、お父さんが…。いったい何があったん?)と思うと同時に「ある事」が頭に浮かび背筋に冷たい汗がつたった。
紬のスマホに電話を入れるも電源が入っておらず、送ったラインメッセージも「既読」がつくことはなかった。いてもたってもいられず、家を飛び出し、自転車に飛び乗ると門真総合病院に向けて全力でペダルをこいだ。
総合受付で名乗り、翔太の状況を確認すると一時は危篤状態だったが今は少し落ち着いてICUに居ることがわかった。娘である事を伝えると病室に案内された。
「お父さん!大丈夫なん!」
とICUに飛び込むと、たくさんの点滴のラインと医療機器に繋がれた翔太を囲むように紬と副島と森が難しい顔をしていた。その奥に神妙な表情の夏子と陽菜の顔も見えた。(あっ、「悪い予感」が当たった…。)結愛は涙が止めどなく出た。
酸素マスクの下から、途切れ途切れの声で翔太が結愛に尋ねた。
「結愛…ちゃん、驚かせ…てしもて…、悪いな…。し、試験は…どう…やった?」
結愛は、泣きながら翔太のベッドサイドに取り付くと点滴のラインの針が刺さった翔太の手を取り、
「試験はできたよ。そんな事より、お父さんは大丈夫なん!くすん。なんでなっちゃんと陽菜ちゃんがここに居るの?お父さん死んじゃうの!くすんくすん。そんなん嫌や!合格したらみんなで旅行行くんやろ!約束したやんか…。うわーん!」
と泣きじゃくった。
そこに医師がやってきた。紬に結愛を室外に連れ出すよう指示した。モニターの各種数値を確認し
「痛みはきついですか?腫瘍が痛覚神経に浸潤してしまってます。「緩和治療」を希望されるならモルヒネを入れますが…。しかし、モルヒネを入れるとご家族との会話に支障が出る可能性が高いです。大事なことをお話になるなら先にしてもらっておいた方がよいかと思います。」
と語りかけた。
「処置については、こちらの副島さんにお任せしていますので…。」
とだけ言うと強い痛みに襲われ顔をしかめた。
副島は翔太に代わり医師に翔太の希望を伝えた。翔太は自宅での見取りを希望しており、2日間の付き添い医師と看護師による自費診療扱いでの在宅看護を望んでいることを伝えた。結愛にうめき声を聞かれることが無いように、追加でペインケアも行ってもらえるよう希望を述べた。すぐに麻酔医と看護師が呼ばれ、点滴に「痛み止め」が追加注入され、翔太の表情は和らいだが、言葉は出なくなった。
「では、患者さまの希望を最優先しましょう。自宅に移送する段取りをつけますので今しばらくお待ちください…。」
医師は翔太と副島に軽く頭を下げると部屋を出て行った。入れ違いで紬と結愛が戻り、これからの段取りを副島と森が説明した。翔太の死期を知らされていなかった結愛は大泣きして、夏子と陽菜はいたたまれず病室の壁を抜けて出ていくと、互いにやるべきことを確認した。
「陽菜ちゃん、今日、副島のおっちゃんに私らがやってた古着屋に行ってもろたで。写真で紬さんにも確認してもろた。」
「そうか「アレ」はあったんやな。なっちゃんらしい「ケア」やと思うわ。結愛ちゃんが14日の卒業式終わったらな….」
「陽菜ちゃん、ちなみにグリムリーパー課長の返事はどないやったん?」
「あぁ、そっちも大丈夫や。高齢化が進んでこっちも人手不足やからな。」
ICUに、数人の看護スタッフが到着し紬は複数の「同意書」にサインをしている間、結愛はひたすら翔太に語り掛け続けている。しかし、モルヒネが入った後の翔太の反応は薄い。
自宅への移送は3月13日の午前9時に決まり、今晩は病院で夜を明かすこととなり、副島と森は紬に会社関係への連絡は請け負うのでしっかりと「ケア」するように伝えると退室した。
紬は結愛に翔太が危険な状況にある事を伝えた。翔太の希望で自宅に戻ることを伝えるとICUに残された紬と結愛に重い沈黙の時間が流れた。時計は午前0時を過ぎ、3月13日を迎えた。
結愛を簡易ベッドに寝かせると紬は耳元で囁いた。
「翔太さんから、結愛には14日の卒業式は必ず出席するように言われてるからね。「人生の節目は大切にして。」って言うてたから明日は学校に行くんやで。」
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