王子との恋は甘くない

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何かと面倒くさい

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 ボリスにタチアナが作曲した曲に振り付けをしたいと言われてから、お互いの時間が合うときにバレエ団近くにある団付属のバレエ学校で振り付け作業をしていた。

「持つべきものはバレエ団オーナーの息子だね」

 バレエ学校にはオーナー一族が好きに使えるスタジオがありボリスは学生時代から練習やさぼるのに使っていたらしい。

 タチアナは周りを刺激したくないので、ボリスにバレエ団以外の場所で振り付けをすることを条件にしたことからバレエ学校のスタジオを使うことになった。

 ボリスは曲を数回くり返し聞いたあと踊りだした。

 タチアナは入団二年目で、バレエ団で使われる演目のレパートリーを覚えるだけで手一杯なので新作にはまだ関わっていない。

 それだけにボリスが音を聞いて振り付けていく姿を見るのは新鮮で楽しかった。

「ちょっと止まって」

 ボリスが自分でカウントをとりながらいくつかの動きを組み合わせては「違うなあ」と言いながら動きを変えていた。

 その姿を見ながらタチアナは自分が作曲している時と同じだとほほえましくなる。タチアナも作曲する時にしっくりこない部分を何度も変えては元に戻し、違うフレーズにしてみたりといったことを繰り返す。

 音楽と踊り、表現する方法はちがっていても作り出していく中で何度も試しては修正していくのは同じだ。

「ごめん、最初から弾いてくれる?」ボリスはじっと立ったまま動かず曲を聴いていたが、先ほどから何度もやり直している部分にくるとこれまでとは違う動きを試した。

 ――音が舞っている。

 音が美しい曲線をみせながら空間をうめつくす。

 ダンスはピアノの次に好きだ。父に連れられ初めてバレエ団のレッスンを見てから父のようにバレエ団でピアノを弾こうと決めた。

 鍛え抜かれ均整がとれた美しい体が物語をつむぐ。その手伝いをするこの仕事がタチアナは好きだった。

 ボリスの振り付けは彼の体の柔らかさがよく分かるものでとてもボリスらしい。

「今日はここまでにしよう」

 どうやら自分なりに一区切りついたようだ。

「お腹すいたし食べに行こう。お礼におごりたいし」

「うれしいお誘いだけど遠慮しとく」

「ええ!? なんで? 遠慮なんてタチアナらしくない」

 ボリスの失礼な物言いにむっとする。

「バレエ団の王子と一緒にいるところを見られたら嫌がらせされるもん」

「ちょっと待って。嫌がらせって俺のせい? ルカのせいじゃないのか?」

 わざとらしくため息をついた。

「ルカじゃなく『ボリス』のファンに嫌がらせされるの。自分が女性から好かれやすい自覚はあるでしょう?」

 ボリスが真剣な顔をしたかと思うと「ごめん」とあやまった。

 素直な反応にとまどっていると「俺のせいでタチアナが嫌がらせを受けるなんて許せない」と怒りをにじませた。

「こういうことはよくあるし仕方ないよ」

「誰にやられた? しっかり釘を刺すから教えてほしい」

「釘なんて刺したらよけいに裏で何されるか分からないから何もしないで。ついでに人目があるところで仲良くすると周りを刺激するから、話しかけるのは必要最低限にしてもらえると助かるけど」

 ボリスが驚がくし「もしかして俺、タチアナにきらわれてる?」おそるおそる聞いた。

 王子のまさかなセリフにタチアナの方がおどろいた。

「きらってはいないけど仲良くすると厄介な人だとは思ってる」

 ボリスが何かを考えるように黙りこんだので帰る用意をした。バレエ学校に来るのも別々なら帰るのも別々だ。

「じゃあ、また明日。レッスンで」

 バレエ学校の目立たない場所にあるスタジオだがタチアナとボリスが使っているのを知る人はいるだろう。どこで誰に何を見られ、どのように伝わるかは分からない。

 それだけに出来るだけ一緒にいるところを見られたくない。ただでさえバレエ団での扱いは良くない。これ以上状況を悪くしたくなかった。

 タチアナは人目をさけるようにバレエ学校を出た。





「久しぶり。近所に住んでるのになんか会わないよね」

 バレエ学校からの帰り道に幼馴染みのリリアに声をかけられた。同い年のリリアとは家が近いので一緒にいることが多かった。学校を卒業した後タチアナは本格的にピアノの修行をしリリアは家業の洗濯屋を手伝っていた。

「うちっていつも洗濯物でいっぱいだから、友達の家にいって洗濯物がない空間を見ると落ち着かない」と挨拶のようにいっている。

「タチアナのお母さんが、タチアナの作った曲が気に入られてダンスに使いたいといわれたと自慢してたよ。順調なようでよかった」

「……順調ね……。そう言えたらいいけど」

「世紀の異才にいいように使われてると前にいってたけど、私からしたらそういう人と同じ職場なこと自体がうらやましい。

 それにタチアナってルカみたいな人に取り入って自分の欲しい物を手に入れるのがうまいじゃない。そのうち貴族とかつかまえそう」

「恵まれた人とちがって欲しい物は自分で取りに行かないと何も手に入らないからね。

 でもルカとの関係は一方的に下僕扱いだよ。それにルカにお願い事なんてしたら逆に邪魔して遊ぼうとするよ」

「それってルカと親しいって自慢しているようにしか聞こえないけど」

 リリアとの関係は複雑だ。親しいといえば親しく、リリアはタチアナのことを仲の良い幼馴染みと人にはいうが、タチアナの行動や性格についていつもチクリと嫌味なことをいう。本当はきらわれているのかもしれない。

「そういえばタチアナの曲を気に入った人ってどんな人? まさかルカとか?」

「新人ダンサーだよ」

 リリアにその新人ダンサーがバレエ団オーナーの息子だと言えば話が長引くだけでなく嫌なことを言われるのは確実なので隠すに限る。

「誰であっても自分が作った物を気に入られるのはうれしいよね」

 ほっとしたようなリリアの表情をみて、面倒くさいとうんざりするが笑顔をくずさないよう気をつける。ピアノやバレエには華やかなイメージがある。そのような世界に末端とはいえ引っかかっているタチアナへのやっかみはリリアだけでなく他の人達からも感じることがある。

 家に帰ると母が繕い物をしていた。

「お母さん、ボリスが私の曲を気に入って振り付けてる話は今後は誰にもしないでね!」

「ただいまも言わないで何なのよ?」

 母がけげんな顔をしながら繕い物を脇においた。

「さっきリリアに会ってお母さんが振り付けの話をしたと聞いたの」

「娘がピアニストとしてすごいことを宣伝するようにいったのはあなたでしょう? ピアノ教師の話とか余興としてピアノを弾いてほしいという話は人づての評判が大切だからといって。お願いされた通りにしただけよ」

 タチアナは自分が母に八つ当たりをしているとは分かっているが止められなかった。

「ボリスはオーナーの息子だし団で人気があるの。すでに居心地が良いといえない職場なのに、もしボリスと一緒に新しいダンスを作ろうとしてるなんて知られたら嫌がらせの嵐よ!」

 母がくすくすと楽しそうに笑う。笑われたことで怒りが増した。

「なんで笑うのよ! 娘が苦労してるのに!」

 ごめんねとあやまりながらも母の目は笑ったままだ。ムカついているが八つ当たりをしている自覚はあるので黙った。

「バレエ団の王子の話をする時いつもすごくうれしそうよ。好きなんでしょう?」

 タチアナが絶句していると「よかったね。王子に気に入られて」母が満面の笑みをみせた。

「……そういうんじゃないから。勝手に決めつけないでよ!」

 タチアナが腹立ちまぎれに自分の部屋へむかっていると「素直にね!」母から追い打ちの言葉をかけられた。
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