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同士発見、でも

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(同士…………!!)

オレは衝撃に目を思いきり見開いた。

(話しかけたい!!でも自分からは絶対ムリ!!そしてそもそも話しかけていいタイプではない人!!)

そしてオレは今、赤の他人からしてもそうだと分かる、複雑そうな表情をしていることだろう。


同じストラップをつけている人がいたのだ。
現実ではお初である。

紋章のような丸いコイン型のストラップは、くすまものグッズだ。

このストラップはその小説の出版会社のオンラインストアでしか売られていないから、書店で見てにわかがつい買う、とかはあり得ない。
ファンが自分の意思でオンラインストアを開き買う必要がある。

さらに、だ。
百歩譲ってたまたまオンラインストアを見ていいなぁと衝動買いしたにわかがいるとしよう。
それでも、安い銀色ではなく倍くらいする金色の方をわざわざ買う人はいるだろうか。

(そんなのいないっしょ)


ツイッターでは、手芸部所属の皆様が力作のアレンジストラップをアップしている。
それを見る度に、自分にもこんな器用さがあったらよかったのにと思わずにはいられない。

ピアノが弾けるんだから器用そうなのにと何回家族に言われたか。
ピアノを弾くことと細かい作業をすることはジャンルが絶対に違う。

丸カンをペンチで広げたりなんて細かい芸当オレにはできない。
だからストラップのアレンジはツイッターで見て楽しむしかないんだ。


でも、本物がこの空間にある。

(見たい。話したい。聞きたい。…………でもやっぱ怖っ)

紋章っぽい模様を編んで作った、四角に逆三角形をくっつけた形の飾りの下に丸いストラップがぶら下げられていて、とてもお洒落だ。
是非とも近くで見たいのに。


俊介で不良は慣れたと思っていたが、俊介とは体の種類が違った。

俊介は雰囲気で強者のオーラを出していたが、あの男は体から強者のオーラを発している。
俊介に比べて物理的排他感が強すぎて近寄れない。

他のお客さんもあの男を避けている。
そしてそれを気にしていない男。
精神が強い。

がっしりした長身から滲み出る威圧は俊介に比べたら弱いと思うが、それでも俊介はオレに友好的なのだ。
あの男が友好的でなかったらと考えると恐ろしい。

(いや、くすまもファンに悪い人がいないのはわかってるけど。まず話しかけるのに勇気がいりすぎる)


近寄れずに辺りをうろうろと歩き回っているオレは不審だろう。
しかしオレ以上に目立つあの男の存在で、オレは不審者扱いされずに済んでいる。

そしてあの男に、金髪の人が話しかけた。

(そう、金髪………………あれチャラ男じゃん!!)


今日は運がいいとオレはにやけそうになる顔を抑える。


チャラ男が話し終わった瞬間に近寄って行く。

「チャラ男、今話してた人との仲立ちして?」
「えっ!?どーしたの、こんなところで。会うとは思わなかったなぁ」
「それはこっちのセリフ。チャラ男本読むんだ」
「チャラいのは見た目と口調だけなんだよ?」
「ふーん」

信じてないなとわめくチャラ男を適当にあしらう。
こっちは早く本題を遂行したいのだ。

「仲立ちして?」
「……なんで?」

目が笑っておらず、警戒しているとわかる。
あの男が余程大切なのだろう。

「くすまも」
「あーー、真央ちゃんも好きなのか。……え、なんでわかったの」

オレは自分の鞄につけているストラップを見せる。

「え、それだけでわかるもんかな!?」
「わかるもんだから。くすまも愛を舐めちゃいけない」

オレは真面目に頷く。
それに対してチャラ男も真顔で頷く。
心当たりはあるらしい。



「まあいっか。おーい!冬夜来て!」
「…………なんだよ」

オレはバッと鞄を掲げ、ストラップを見せつける。

これで反応してくれなかったら話したくないのだと潔く諦める。
反応してくれ。

「それ…………」

見開かれる目。
見事に反応してくれた男にオレは口の端を吊り上げる。


「語ろう」
「ああ」

ガッシリと手を握り合った。


この冬夜というらしい男がチャラ男の幼馴染なら、くすまもだけでなくBLも語れる。

(語り合える相手いなかったから現れて最高。ありがとう!!)

一方的に語るだけなら相手はいる。
でも、お互い語り合える存在はいなかった。

オレの機嫌はずっと上昇しっぱなしだ。


「まず、推しは?」
「使い魔」
「わかる。オレも使い魔。あと狐さん」
「わかる。ご主人様じゃない、あの人達の組み合わせも最高だよな」
「ね。箱推しはやっぱりあの家族一択だよな」
「それな」

小一時間は自販機で買った飲み物片手にベンチで語り合った。



熱戦になりすぎてBLについては語り合えなかったが、LINEを交換したためいつでも話せる。

(今日は大収穫祭だったなぁ)

くすまも友達兼腐男子友達ができたことが嬉しすぎて家に帰ってからもにまにまと頬が緩む。

「そんなに掘り出し物があったの?」
「いや?本はあんましだったけど」
「あら?そうなのね」

ママ達もBLが大好きで腐女子だ。
というか、オレがママに感化されて腐男子になった。

ママ達もBLは大好きだから、BL本に関しては結構な数が家にある。
三人だからそりゃ多いだろう。
しかもママ達は大人だし。


故にオレ自身はあまりBLは買わない。
オレが主に自分のお金で買うのはライトノベルだ。
そして今日の掘り出し物は一点、BL0点ととても少ない。

だからオレが何故こんなに上機嫌なのかと不思議そうにしている。


「くすまも友達兼BL友達ができたんだ」
「へぇ、よかったね」

ママ達はくすまもファンにはならなかった。
めちゃくちゃ長い時間頑張って布教活動したのに。

ママ達はくすまもに関してはどうでもいいから反応が薄いのだ。
オレに語れる友達ができたという点では嬉しそうだが、くすまもというものには何も反応してくれていない。

「反応うっす」
「仕方ないじゃない」

ソファに寝転んで不貞腐れるオレはただ笑われるだけで不満だ。


「千景にちゃんと言っときなさいね」
「……はーい」

確かにちかの反応が気になる。

ちかは独占欲が強めでしかもオレは友達0人が当たり前だったのにいきなりオレの友達が現れ、さらに一人追加されたのだ。

(ちか拗ねそう。可愛いだろうけど引きずりそうで面倒くさいなぁ)


「ただいまー!」

そう思っていたらちかが帰ってきた。
何故このタイミングでと思わずにはいられない。

オレはどう説明しようかと頭を悩まして、結局昼ご飯をすぎ、夜ご飯の後まで引き伸ばしてしまう。

結果は、拍子抜けするほどあっさりと「ふーん」で終わった。


冬夜は萌愛緒薔の幹部なのだとか。

納得した。
どこかの族の総長をやっていてもおかしくないと思っていたから。

冬夜の性格をちかもよく知っているのだろう。
全然拗ねたりしなかった。
宣言はされたが。

「あんまりにも冬夜と話しすぎて僕をほっぽったら拗ねるから!!」

なんとも可愛らしい宣言に和んだ。
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