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第9話 人質としての生活
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「く~! おはよう、皆早いな」
信長は人質として与えられたボロ屋から起き出した。 農作業を始めている農民達に挨拶して回る姿を見て、誰も人質として来た織田家の嫡男とは思わないだろう。
岡崎城到着まで護衛として共にいた足軽達は既に尾張の村へと返し、人質としての生活3日目である。
「あんれまぁ、信長様。 おはようございます」
「あぁ、おはよう。 今日は村を囲う壁を作るための許可を貰ってくるから、皆は賊に気を付けて仕事をしていてくれ」
「へへぇ! ありがとうございますだぁ」
信長は人質としては異例の待遇を受けていた。
岡崎城から程近い、200人の農民が住む村に住みたいと申し出てそれを受理されたのだ。
松平家の家臣達はこの待遇に猛反発したそうだが、織田家との和睦の為と知ると直ぐ様に取り下げた。
しかし、当然ながらそれでも禍根多き織田信秀の嫡男である信長に対する家臣達の目は厳しかった。
今も見張りとして、雇われたはぐれの忍びが信長を監視している。
当然、信長は監視に気付いているが特に何もするつもりは無かった。 そもそも、監視されても困る事は何もないからだ。
「さてさて、今日も人質として皆の為に頑張るとするか~!」
与えられた馬に乗り、信長は岡崎城へと向かった。
◆◇◆
「御免! 人質の織田信長だ。 城主の松平広忠殿にお会いしたい」
見張りの侍達は既に信長とは顔見知りだ。
「おはようございます、信長様」
「分かりました、お通り下さいませ」
2人はあっさりと信長を通し、さらに不遜とされる名前呼びを許されていた。 これは農民達もそうだが、そんな風習は知らぬと信長が言い始めたのだ。
これにより、僅か数日で織田信長と云う人物は只者ではないと農民達や足軽等の身分の低い者達からは絶賛され信頼を勝ち取っていた。
まるで自分の城のように見張りをしている者達に挨拶しながら広忠を探していると、一人の武将が立ちはだかった。
「これはこれは、どうされた? 人質の信長殿」
立ちはだかったのは筋肉に覆われた武将だ。 口元に生やした髭を撫でながら信長を煽る。
「おぉ! 貴殿は確か……大久保殿。 おはようございまする」
信長は武将に名前呼びをされたにも関わらず気にした様子も無く、松平家家臣の大久保忠俊に頭を下げた。
「ふっ……本当に変わっておられる。 この戦国の世にて、異質も異質。 無礼をお許しを、織田殿」
「いえ、とんでもござらん! それより、信長と呼んで頂きたい」
「理由を問うても?」
忠俊は意図が理解出来ず困惑する。 常識であれば、大名の嫡男を名前呼びするなど首を落とされても文句は言えない行為だからだ。
「その方が親密になれるからでござる。 私も何時まで此方にお世話になるか分かりませぬ。 ならば、親しくして下さる方が居たほうが楽しいですから! はははははっ!」
忠俊はこれまでの常識を壊し、豪快に笑う信長を見て心中では冷や汗をかいていた。
(まさか……殿の言う通り、此処まで大物とは。 ならば、松平家の為にすべき事は一つですな……)
「ふっ、ならば信長殿。 某の事は忠俊とお呼び下され」
「なんと! ありがたいお言葉です。 どうか、よろしくお願いお頼み申す忠俊殿!」
信長と忠俊は肩を叩き合い笑い合った。
◆◇◆
「して、今日はどうされたので?」
「えぇ、村に壁を作りたいのですがその許可を頂きに参りました」
「なるほど……しかし、厳しいやもしれませぬ。 今、この松平家は何もかもが足りておりませぬ。 壁を作るとなると、資材も人もありませんからな」
信長は顎に手を当て思案する。
「ううむ……ですが、今のままでは無防備過ぎまする。 もし賊が出れば、城の兵士達が駆け付ける時には多くの死傷者が出ましょう」
信長の意見に、忠俊は目を見開き驚いた。 確かに戦続きで戦力も低下している中、頻繁に賊が各農村を襲い農作物を荒らしたり農民を殺害したりと例を挙げたらきりがない程に発生している問題なのだ。
足軽達による哨戒も行っているが成果は今一つであり、まさか訪れて数日の信長がその問題を解決しようと動くなど想像もしていなかった。
「もしや、信長殿が住む所を農村にしたのは農民達を守る為ですかな?」
「当然でござる。 国が違えど、我等の役目は民草を守る事ですから」
即答する信長の横顔を見て、忠俊は心の底から微笑んだ。
(殿の判断は間違っていなかったのかも知れませぬな)
松平広忠の下に着くまで、信長はずっと頭を悩ませていた。
どうすれば、この地の民を守れるのかと。
信長は人質として与えられたボロ屋から起き出した。 農作業を始めている農民達に挨拶して回る姿を見て、誰も人質として来た織田家の嫡男とは思わないだろう。
岡崎城到着まで護衛として共にいた足軽達は既に尾張の村へと返し、人質としての生活3日目である。
「あんれまぁ、信長様。 おはようございます」
「あぁ、おはよう。 今日は村を囲う壁を作るための許可を貰ってくるから、皆は賊に気を付けて仕事をしていてくれ」
「へへぇ! ありがとうございますだぁ」
信長は人質としては異例の待遇を受けていた。
岡崎城から程近い、200人の農民が住む村に住みたいと申し出てそれを受理されたのだ。
松平家の家臣達はこの待遇に猛反発したそうだが、織田家との和睦の為と知ると直ぐ様に取り下げた。
しかし、当然ながらそれでも禍根多き織田信秀の嫡男である信長に対する家臣達の目は厳しかった。
今も見張りとして、雇われたはぐれの忍びが信長を監視している。
当然、信長は監視に気付いているが特に何もするつもりは無かった。 そもそも、監視されても困る事は何もないからだ。
「さてさて、今日も人質として皆の為に頑張るとするか~!」
与えられた馬に乗り、信長は岡崎城へと向かった。
◆◇◆
「御免! 人質の織田信長だ。 城主の松平広忠殿にお会いしたい」
見張りの侍達は既に信長とは顔見知りだ。
「おはようございます、信長様」
「分かりました、お通り下さいませ」
2人はあっさりと信長を通し、さらに不遜とされる名前呼びを許されていた。 これは農民達もそうだが、そんな風習は知らぬと信長が言い始めたのだ。
これにより、僅か数日で織田信長と云う人物は只者ではないと農民達や足軽等の身分の低い者達からは絶賛され信頼を勝ち取っていた。
まるで自分の城のように見張りをしている者達に挨拶しながら広忠を探していると、一人の武将が立ちはだかった。
「これはこれは、どうされた? 人質の信長殿」
立ちはだかったのは筋肉に覆われた武将だ。 口元に生やした髭を撫でながら信長を煽る。
「おぉ! 貴殿は確か……大久保殿。 おはようございまする」
信長は武将に名前呼びをされたにも関わらず気にした様子も無く、松平家家臣の大久保忠俊に頭を下げた。
「ふっ……本当に変わっておられる。 この戦国の世にて、異質も異質。 無礼をお許しを、織田殿」
「いえ、とんでもござらん! それより、信長と呼んで頂きたい」
「理由を問うても?」
忠俊は意図が理解出来ず困惑する。 常識であれば、大名の嫡男を名前呼びするなど首を落とされても文句は言えない行為だからだ。
「その方が親密になれるからでござる。 私も何時まで此方にお世話になるか分かりませぬ。 ならば、親しくして下さる方が居たほうが楽しいですから! はははははっ!」
忠俊はこれまでの常識を壊し、豪快に笑う信長を見て心中では冷や汗をかいていた。
(まさか……殿の言う通り、此処まで大物とは。 ならば、松平家の為にすべき事は一つですな……)
「ふっ、ならば信長殿。 某の事は忠俊とお呼び下され」
「なんと! ありがたいお言葉です。 どうか、よろしくお願いお頼み申す忠俊殿!」
信長と忠俊は肩を叩き合い笑い合った。
◆◇◆
「して、今日はどうされたので?」
「えぇ、村に壁を作りたいのですがその許可を頂きに参りました」
「なるほど……しかし、厳しいやもしれませぬ。 今、この松平家は何もかもが足りておりませぬ。 壁を作るとなると、資材も人もありませんからな」
信長は顎に手を当て思案する。
「ううむ……ですが、今のままでは無防備過ぎまする。 もし賊が出れば、城の兵士達が駆け付ける時には多くの死傷者が出ましょう」
信長の意見に、忠俊は目を見開き驚いた。 確かに戦続きで戦力も低下している中、頻繁に賊が各農村を襲い農作物を荒らしたり農民を殺害したりと例を挙げたらきりがない程に発生している問題なのだ。
足軽達による哨戒も行っているが成果は今一つであり、まさか訪れて数日の信長がその問題を解決しようと動くなど想像もしていなかった。
「もしや、信長殿が住む所を農村にしたのは農民達を守る為ですかな?」
「当然でござる。 国が違えど、我等の役目は民草を守る事ですから」
即答する信長の横顔を見て、忠俊は心の底から微笑んだ。
(殿の判断は間違っていなかったのかも知れませぬな)
松平広忠の下に着くまで、信長はずっと頭を悩ませていた。
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和紗さん、読んで下さりありがとうございますー!!
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ゆっくりですが、順次更新して参りますのでぜひぜひよろしくお願いしますーー!
゚+.゚(´▽`人)゚+.゚