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1. プロローグ
――さあ、始まるわ。
「ベアトリーチェ・ドルレアン! 今日をもって、お前との婚約を破棄する!」
目がチカチカするような、煌びやかなダンスホールで、どうだと言わんばかりに堂々とした態度で言い放ったのは……この国の第二王子エルネスト・ルーフェルブ殿下。
その王子の斜め後ろから、ウェーブがかったキラキラしたピンクブロンドの髪を揺らして、チラッとこちらを窺う男爵令嬢アリス・ミュレー。
その目は、明らかに私に怯えつつも勝ち誇った表情が垣間見える。
今日は、学園の創立を祝う学園祭。
締めくくりとも呼べるメインイベントのダンスパーティーの直前の出来事だった。
婚約破棄を宣言され、ぎゅっとドレスを掴んだ。
言葉を間違えないように、ゆっくり息を吸って呼吸を整える。
「エルネスト殿下。理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「はっ、理由など! 優しく可憐なアリスに嫉妬して、公爵令嬢という立場を利用し嫌がらせをしたお前が一番分かっているだろう? その行いの罰として、お前は国外に追放となる」
蔑むような視線を向ける、婚約者。
「では、本日を持ちまして婚約は白紙に戻されると?」
「そうだ。私は、この聖女の力を持ったアリスと婚約する。優しく可愛いアリスは、この国にとっても私にとっても大切な存在だ」
潤んだ瞳で見上げるアリスと見つめ合うエルネスト。
思わず顔を伏せて、プルプルする唇を噛み締める。
――クッ。ああ、いけない……肩が震える。やはり、王子はアホのままだったわ。
バカップルのやり取りを噴き出さないように、どうにか堪える。笑みがこぼれないように、ぐっと頬に力を入れて顔を上げた。
そして、王子のそばに控えていた、同級生でエルネストの側近でもあるノア・マルティネス侯爵令息に視線を送った。
「エルネスト殿下、こちらに書類が」
王子に手渡したのは、婚約を白紙に戻す為の書類。
そこには、契約と注意事項が記載されていて、署名をして互いの魔力の印をすれば成立する。
受け取ったエルネストは、ろくに読まずささっと署名し印を押すと、グイッと突き出し渡してきた。
「一応、確認ですが……一度婚約を解消した相手とは二度と婚約、結婚は出来ません。それから」
「ベアトリーチェ、お前はもう話すな! 全部知っている!」
言葉を遮り、ジロリとにらんで言う。
「仰せのままに」とだけ応え、署名し印を押すと契約書は淡く光り消滅した。これで宮廷で保管されている登録簿に、変更が上書きされる。
「……姉上」
そう言葉を漏らしたのは、心配そうな表情で見守っていた弟のオリヴィエ。
「お前は、このダンスパーティーに居ることは許されない。ロラン、この場から連れ出せ!」
「はっ!」と、ノアと逆側に立っていたいかにも騎士風のロラン・ミラボー辺境伯令息は、私の右腕をぐいっと引っ張った。
キッと睨むと、足を踏ん張る。
けれど。
「ロラン、僕も手伝うよ」
そう言ってやってきた、キーラン・モレル伯爵令息に左腕をとられて、ホールから引きずり出される。
婚約破棄された、私――公爵令嬢ベアトリーチェがホールから出た途端、美しい音楽が奏でられ、ダンスパーティーが始まった。
◇◇◇
はい、第一段階終了でーす。
「ねえ、ケリー。貴方まで、何でこっちに来るのよ?」
気が抜けてしまい、ついキーランを愛称のケリーと呼んでしまった。
「おっ、久しぶりのその呼び方! 俺もヒナって呼ぶ~!」と、キーランは目を輝かせる。
「キーラン! いくら何でも、まだマズいぞ。ヒナじゃない、ベアトリーチェ嬢だ! それに、自分のことは俺じゃなくて僕だろうがっ」
ロランにたしなめられたキーランは、ちぇ~っと不貞腐れる。
「だって、ベアトリーチェ嬢がいないダンスパーティーなんてつまらないっ! 後はノアに任せておけば大丈夫だし」
三人で用意してあった馬車に乗り込む。
確かに、頭脳明晰で切れ者のノアなら失敗はないだろう。
さっきの婚約破棄騒動も、破棄ではなくて円満な婚約解消の手続き書類。宰相であるお父様にも、ちゃんと許可は取ってある。政治を任されているお父様から、国王陛下には上手く手を回して貰った。第二王子が後先考えずに婚約破棄なんて、後に王家を揺るがす大問題になってしまう。
そもそも、この婚約を決めたのは国王と宰相なのだから。高位貴族のバランスをとりつつ、自分達の地盤を揺るぎないものにする為のね。
それを、勝手に破棄して男爵令嬢と婚約すると豪語するなんて。一般人ならまだしも王子としてはダメダメだ。
あれが王太子でなかったのが、せめてもの救いかも。
ちなみに、私はアリス男爵令嬢に嫌がらせなんてしていない。目にあまる言動に最低限の注意はしたが、基本スルーだ。少し思い込みの激しい彼女の被害妄想だとは分かっていたし、他の令嬢の地雷でも踏んで実際に仕返しをされたものもあるだろう。
ま、その証拠はノアが然るべき場所に提出済み。
ただ、アリスが聖女の力を持っているのは事実だ。近い将来、エルネストは勇者を召喚し、アリスと共に魔王討伐に赴くだろう。
こんな公の場で第二王子に婚約を白紙にされた公爵令嬢は、円満と言えども貴族達の格好の噂の的だ。貴族の令嬢としては、次の相手が見つかる可能性はかなり低い。
お父様に修道院に入ると言ったら、旅に出ることをアッサリ許してもらえた。学園に戻るまでの猶予は二週間。あまり休むと卒業ができなくなってしまうから。
オリヴィエも、邸に帰ればお父様から詳しく説明をされるはず。
ここまでが、私達のシナリオ。
これから私は、魔王を探す旅に出る。
――だって、私が魔王を復活させる鍵なのだから。
「ベアトリーチェ・ドルレアン! 今日をもって、お前との婚約を破棄する!」
目がチカチカするような、煌びやかなダンスホールで、どうだと言わんばかりに堂々とした態度で言い放ったのは……この国の第二王子エルネスト・ルーフェルブ殿下。
その王子の斜め後ろから、ウェーブがかったキラキラしたピンクブロンドの髪を揺らして、チラッとこちらを窺う男爵令嬢アリス・ミュレー。
その目は、明らかに私に怯えつつも勝ち誇った表情が垣間見える。
今日は、学園の創立を祝う学園祭。
締めくくりとも呼べるメインイベントのダンスパーティーの直前の出来事だった。
婚約破棄を宣言され、ぎゅっとドレスを掴んだ。
言葉を間違えないように、ゆっくり息を吸って呼吸を整える。
「エルネスト殿下。理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「はっ、理由など! 優しく可憐なアリスに嫉妬して、公爵令嬢という立場を利用し嫌がらせをしたお前が一番分かっているだろう? その行いの罰として、お前は国外に追放となる」
蔑むような視線を向ける、婚約者。
「では、本日を持ちまして婚約は白紙に戻されると?」
「そうだ。私は、この聖女の力を持ったアリスと婚約する。優しく可愛いアリスは、この国にとっても私にとっても大切な存在だ」
潤んだ瞳で見上げるアリスと見つめ合うエルネスト。
思わず顔を伏せて、プルプルする唇を噛み締める。
――クッ。ああ、いけない……肩が震える。やはり、王子はアホのままだったわ。
バカップルのやり取りを噴き出さないように、どうにか堪える。笑みがこぼれないように、ぐっと頬に力を入れて顔を上げた。
そして、王子のそばに控えていた、同級生でエルネストの側近でもあるノア・マルティネス侯爵令息に視線を送った。
「エルネスト殿下、こちらに書類が」
王子に手渡したのは、婚約を白紙に戻す為の書類。
そこには、契約と注意事項が記載されていて、署名をして互いの魔力の印をすれば成立する。
受け取ったエルネストは、ろくに読まずささっと署名し印を押すと、グイッと突き出し渡してきた。
「一応、確認ですが……一度婚約を解消した相手とは二度と婚約、結婚は出来ません。それから」
「ベアトリーチェ、お前はもう話すな! 全部知っている!」
言葉を遮り、ジロリとにらんで言う。
「仰せのままに」とだけ応え、署名し印を押すと契約書は淡く光り消滅した。これで宮廷で保管されている登録簿に、変更が上書きされる。
「……姉上」
そう言葉を漏らしたのは、心配そうな表情で見守っていた弟のオリヴィエ。
「お前は、このダンスパーティーに居ることは許されない。ロラン、この場から連れ出せ!」
「はっ!」と、ノアと逆側に立っていたいかにも騎士風のロラン・ミラボー辺境伯令息は、私の右腕をぐいっと引っ張った。
キッと睨むと、足を踏ん張る。
けれど。
「ロラン、僕も手伝うよ」
そう言ってやってきた、キーラン・モレル伯爵令息に左腕をとられて、ホールから引きずり出される。
婚約破棄された、私――公爵令嬢ベアトリーチェがホールから出た途端、美しい音楽が奏でられ、ダンスパーティーが始まった。
◇◇◇
はい、第一段階終了でーす。
「ねえ、ケリー。貴方まで、何でこっちに来るのよ?」
気が抜けてしまい、ついキーランを愛称のケリーと呼んでしまった。
「おっ、久しぶりのその呼び方! 俺もヒナって呼ぶ~!」と、キーランは目を輝かせる。
「キーラン! いくら何でも、まだマズいぞ。ヒナじゃない、ベアトリーチェ嬢だ! それに、自分のことは俺じゃなくて僕だろうがっ」
ロランにたしなめられたキーランは、ちぇ~っと不貞腐れる。
「だって、ベアトリーチェ嬢がいないダンスパーティーなんてつまらないっ! 後はノアに任せておけば大丈夫だし」
三人で用意してあった馬車に乗り込む。
確かに、頭脳明晰で切れ者のノアなら失敗はないだろう。
さっきの婚約破棄騒動も、破棄ではなくて円満な婚約解消の手続き書類。宰相であるお父様にも、ちゃんと許可は取ってある。政治を任されているお父様から、国王陛下には上手く手を回して貰った。第二王子が後先考えずに婚約破棄なんて、後に王家を揺るがす大問題になってしまう。
そもそも、この婚約を決めたのは国王と宰相なのだから。高位貴族のバランスをとりつつ、自分達の地盤を揺るぎないものにする為のね。
それを、勝手に破棄して男爵令嬢と婚約すると豪語するなんて。一般人ならまだしも王子としてはダメダメだ。
あれが王太子でなかったのが、せめてもの救いかも。
ちなみに、私はアリス男爵令嬢に嫌がらせなんてしていない。目にあまる言動に最低限の注意はしたが、基本スルーだ。少し思い込みの激しい彼女の被害妄想だとは分かっていたし、他の令嬢の地雷でも踏んで実際に仕返しをされたものもあるだろう。
ま、その証拠はノアが然るべき場所に提出済み。
ただ、アリスが聖女の力を持っているのは事実だ。近い将来、エルネストは勇者を召喚し、アリスと共に魔王討伐に赴くだろう。
こんな公の場で第二王子に婚約を白紙にされた公爵令嬢は、円満と言えども貴族達の格好の噂の的だ。貴族の令嬢としては、次の相手が見つかる可能性はかなり低い。
お父様に修道院に入ると言ったら、旅に出ることをアッサリ許してもらえた。学園に戻るまでの猶予は二週間。あまり休むと卒業ができなくなってしまうから。
オリヴィエも、邸に帰ればお父様から詳しく説明をされるはず。
ここまでが、私達のシナリオ。
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