転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

文字の大きさ
2 / 115

2. 始まりは突然だった

しおりを挟む
 ふわっ――。

 まるで空を飛んでいるようだった。

 桜吹雪……舞い散る桜の花弁が、なんて綺麗なのだろう。
 いつもの歩道橋の、一番上から落ちていく瞬間……私はそれに見とれた。



 ◇◇◇



 今日は、中学の卒業式。

 卒業証書と後輩にもらった可愛い小さな花束を手に、浮かれる気持ちを悟られないよう表情を引き締めた。手提げの中には、寄せ書きとお気に入りの小説、それともう履くこともない上履きが入っている。

 無事、失敗しないで答辞も読めた。生徒はもちろん、保護者席からもすすり泣きが聞こえたので、成功だったと言える。
 一年間、生徒会長をやって引退後の最後の仕事。親への感謝の言葉もしっかり入れたし、これで望月の義母も満足してくれただろうと胸をなで下ろす。
 
 私は、望月日向。中3の女子。

 小学生の頃に家族旅行で事故に遭い、両親を亡くした。父方の伯父に引き取られ、このド田舎とも呼べる地に越してきた。
 真面目で堅物の伯父と、明るく優しい伯母。それと、伯母の連れ子の一つ上の男の子。そこに、私が加わった。

 伯父は、責任感が強い人だ。
 だから、義理の息子と同じように、姪である私を養女にして育ててくれた。私は、両親を亡くした可哀想な子から、優しい家族に引き取られた恵まれた子……そう、世間は認識したのだろう。

 ――最初は、私だってそう思った。
 
 おかしいな? と、思い始めたのはいつ頃だっただろうか。
 備え付けの食洗機が調子が悪く、買い足された食器乾燥機。いつものお手伝いで、乾いた食器を棚に片付けようとした時だった。
 なぜか、いつもよりたくさんの食器が詰め込まれて入っていた。
 しかも、皿と皿の間に、包丁の刃が上に向けられて並んでいたのだ。背の低い私には、見づらい位置だったので、危うくスパッと切ってしまうところだった。
 
 きっと……お義母さんは、おっちょこちょいだから包丁を置く場所を間違えたのだ。お義母さんがうっかり怪我をしなくて良かった、そう思った。
 
 それが度々起こるようになり、私の靴下や箸が片方だけ無くなるようになった。お義母さんに聞いても、「変ねぇ……」と、一緒に探してくれるが見つからない。
 結局、引っ越しで持ってきたお気に入りの持ち物は、百均の品に変わっていった。別に、百均が悪いわけではないし、可愛い物もたくさんある。

 ただ、無くなった物には思い出があったから……悲しかった。

 ある日、短縮授業で早く帰宅した時に見てしまった。鼻歌を歌いながら、空の食器乾燥機に棚から綺麗な食器をたくさん並べていた義母を。楽しそうに、包丁も一緒に。
 
 暖かい日だったのに、体がどんどんと冷たくなった。

 それからは、全てを注意深く見るようにした。
 私の大切な物の片方や、お気に入りは切り刻まれて義母のクローゼットの上の方の段ボールに入っていた。
 ボタンのある服を着る時は、服の間に縫い針が刺さっていないか確かめる。
 
 そして気づいた。
 義母がそれをする日は、私だけが誰かに褒められた日。特に容姿を。一緒に義母も褒められたら大丈夫。
 少しでも、家に居る時間を減らすために通った図書館で、たくさんの本を読むようになって知った言葉。

 義母のそれは、たぶん嫉妬だ。

 それに加えて、思春期で部屋からあまり出なくなった、義理の兄。妻の浮気を知りながら、見て見ぬ振りをする義父。それでも、外では仲良く振る舞う。

 ――歪な家族だった。

 だから、高校は寮のある学校を選んだ。
 一人っ子だった私に、両親は自分達に何かあった時の為にと、ちゃんと保険に入っていてくれた。
 だから、義父は私の好きな学校に行きなさいと言った。もしかしたら、義母が私にしている事も知っていたのかもしれない。

 とにかく、誰にも文句を言われないように、勉強も生徒会も頑張った。
  
 それなのに……。



 ◇◇◇



 卒業式を終え、友人との写真撮影会をして一人きりの帰り道。いつもの通学路の歩道橋。
 私を見つけたのか、家の方から義兄が走りながら何かを叫んでいる。

 珍しい事もあるものだ。滅多に部屋から出ないのに。

 何か用事があるのだろうと、階段を下りようと一歩踏み出そうとした時だった。
 人の気配を感じ、振り向くと……ママ友と先に帰った筈の義母が、ニッコリ笑ってそこに居た。

 ――あ、これはだ。

 そう思った時には遅かった。
 階段へ勢いよく押し出された私の体は、宙に浮いた。恐怖でギュッと目を閉じる。

 私は甘かったのだ。
 小さな嫌がらせは、次第にエスカレートして歯止めがきかなくなる。人の心は歪み過ぎると――壊れるなんて知らなかった。


 ほんの数秒の出来事が、とてつもなく長く感じる。

 これで……。

 意味は違うが自由になるのかもしれない。もう、無理しなくていいのだ。気を張って眠る必要もなくなる。ひょっとしたら、両親に会えるかもしれない。

 会えたら、よく頑張ったと褒めてくれるだろうか?
 抱きしめてくれるだろうか? 
 また一緒に居られると、喜んでくれるだろうか?

 そうだ……喜んでくれ……る?
 
 ……んなわけ、あるかあぁぁぁぁっ!!! 私が死んだら、悲しむに決まってるじゃないか! 今まで、必死に耐えてきたんだっ。死んでたまるかぁっ!

 すると、額がとても熱くなり、火傷したみたいに深い痛みが走った。気が遠くなりそうなのを堪えて、目をグッと開けると……。

『――鍵、見ぃつけたぁ』

 可愛い声が頭に響いた。
 
 びゅう――……っと風が吹いて、桜並木の花が揺れ花弁が舞った。思わず見惚れた美しい桜吹雪の間をぬうように、大きな何かが降ってきた。
 
 はいぃぃ!?
 
 人は死ぬ時、走馬灯をみると言うが。私が、薄れていく意識の中で見たのは――肉球だった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令嬢、放浪先で最強公爵に溺愛される

鍛高譚
恋愛
「スカーレット・ヨーク、お前との婚約は破棄する!」 王太子アルバートの突然の宣言により、伯爵令嬢スカーレットの人生は一変した。 すべては“聖女”を名乗る平民アメリアの企み。でっち上げられた罪で糾弾され、名誉を失い、実家からも追放されてしまう。 頼る宛もなく王都をさまよった彼女は、行き倒れ寸前のところを隣国ルーヴェル王国の公爵、ゼイン・ファーガスに救われる。 「……しばらく俺のもとで休め。安全は保証する」 冷徹な印象とは裏腹に、ゼインはスカーレットを庇護し、“形だけの婚約者”として身を守ってくれることに。 公爵家で静かな日々を過ごすうちに、スカーレットの聡明さや誇り高さは次第に評価され、彼女自身もゼインに心惹かれていく。 だがその裏で、王太子とアメリアの暴走は止まらず、スカーレットの両親までもが処刑の危機に――!

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~

百門一新
恋愛
大妖怪の妖狐「オウカ姫」と、人間の伯爵のもとに生まれた一人娘「リリア」。頭には狐耳、ふわふわと宙を飛ぶ。性格は少々やんちゃで、まだまだ成長期の仔狐なのでくしゃみで放電するのもしばしば。そんな中、王子とのお見合い話が…嫌々ながらの初対面で、喧嘩勃発!? ゆくゆく婚約破棄で、最悪な相性なのに婚約することに。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。 ※ベリーズカフェに修正版を掲載、2021/8/31こちらの文章も修正版へと修正しました!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢アクア・ラズライトは、卒業パーティーの最中に婚約者であるジュリアス殿下から「悪役令嬢」として断罪を突きつけられる。普通なら泣き崩れるか激昂する場面――しかし、超合理的で節約家なアクアは違った。

処理中です...