転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

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7. 魔法属性

 ……苦痛だわ。

 婚約者になってから、定期的に王宮へ行ってはエルネストとお茶会をしていた。

 私の意見が反映された結果、家庭教師や側近が見事に入れ替えられ、ねじ曲がったエルネストの性格は大分になった。
 
 何か気に食わなければ不貞腐れ、ムスッとして「ベアトリーチェは、可愛げがない」と言っては、私を否定してくる。
「いや、お前がなっ!」と、言ってしまいたいがグッと堪えて微笑みを返す。だんだん、頬がヒクヒク攣りそうになってくるけれど……。

 ほとんどが、自分の勉強や訓練が上手くいかなかった八つ当たりだ。以前の取り巻き達なら、チヤホヤして図に乗らせていたが、今の教師達は至極真っ当なことを言うのだから苛つくのは想定内。
 いつか見た、冷たい表情をしなくなったのは、大きな一歩だとは思う。

 ……うーん、思うんだけど。
 
 持って生まれた性質――先天的なものは、そうは簡単に変わらない。かと言って、それは絶対じゃないし、変わろうとしなければ変わらない。
 だからこそ、エルネストは王族だし、ここは頑張ってほしいと願って付き合っている。全く伝わってなさそうだけど。

 そうよ、努力さえしないのは愚の骨頂だもの。


 そんな日々を重ねてきたが、お互いの成長と共にお茶会の回数はどんどん減っていった。

 エルネストからの、招待がなければ開催されないのだから、一方的に避けられてたと言った方が正しい。
 まあ、そのおかげで時間にゆとりがあり、剣の稽古や体術も徹底的に出来たのだけどね。下手な剣士や賊になど負けないぞ!……って、くらいには。

 お父様が、こんな訓練をあっさり許してくれたのには訳があった。おねだりスマイルが多少は効いたのだろうが、それだけではない。
 この魔法が当たり前の世界で、私には加護や属性が何もなかったのだ。



 ◇◇◇



 お父様に、ジゼルに体術を習いたいたいことと、いつかオリヴィエに剣術の家庭教師が来る時に、私も一緒に教えてもらいたいと伝えた日だった。

「ベアトリーチェ、公爵家の者は魔力が豊富だから、魔法を極めれば良いのではないか?」
「魔法……ですか?」

 私の頭の中には、魔法の概念がすっぽりと抜けていた。いやだって、魔法なんて今まで使った事も無かったし。

「ほら、これで属性を見てあげよう。ベアトリーチェも、もう三歳だ。ハッキリと属性が表示される筈だよ。普通なら、火、水、風、土の四つの属性のどれかだが、まれに光、闇といった珍しい属性ものもあるんだぞ」

 ひょいっと、お父様に抱き上げられた。
 そのまま、執務室のお父様専用の、立派な椅子に座らせてもらう。
 
「さあ、これに触れてみなさい」
 
 出されたのは、いかにも占い師が使いそうな、豪華な台座に置かれた水晶玉だった。

「こうですか?」
 
 ペタッと、冷たい水晶に手を乗せた。

 ――シーン……。

「……おかしいな? もう一度、手を離して乗せてごらん?」
「はい」
 
 ――シーン……。

「そ、そんな筈は……」

 ただでさえ強面こわもての顔を、更に険しくしたお父様は自分の手を乗せてみた。
 ピカッと水晶玉は光り、玉の中に何色かの属性の球体が現れた。

「……壊れてはいない様だ」
「私、魔法の属性が無いのですか?」

 率直に尋ねてみると、いつもは全く動じないお父様から汗が噴き出していた。

「きっと……調べるのが、まだ早かったのかもしれないな。うん、そうだな。体術や剣術も身につけておくのは悪くない」

 と、許可を得ることが出来た。

 多分、魔法属性が無いと判断したが、小さな私を傷付けまいととっさに言ってしまったのだろう。
 一応、また来年の誕生日に調べようと約束した。

 何度チャレンジしても、結果は同じだったが。

「お父様、この国で一番強い剣の先生をお願いします。」
 しょんぼり言った結果、良い方に話は転んだ。

「……わかった、探しておこう」
「お父様、大好きっ!」

 それから、張り切って探してくれたのが今の師匠だった。


 
 ◇◇◇



「だけど、使えるのよねぇ……魔法」

 小説を思い返してみると、悪役令嬢ベアトリーチェは自分自身を呪いの業火で焼き尽くしたのだ。
 そう、小説の彼女は火属性だった。

 自分の指先にライターを強くイメージすると、ボッと火が出た。同じように反対の手に、水を溜めるイメージをすれば、手の中になみなみと水が溜まる。こぼれないのが不思議だ。
 その水に、火が出ている指先を入れたら、ジュッと消えた。

 他にも色々と試したが――。

 部屋の中で風魔法とか、ほぼポルターガイスト状態になってしまい、惨状をジゼルに見つかりこっぴどく叱られた。土魔法は……うん、忘れよう。
 ともかく今の私は、少なくとも四つの属性魔法を使えるみたいだった。

「だけど、これじゃあ……」

 鏡の前で前髪を上げてみると、額にはくっきりと楕円形の模様のような痣が浮き出ていた。
 歩道橋から落ちた時に感じた、額の痛みは全く無い。魔法を使うと、少しだけ熱くなってコレが出てくる。

『鍵』――魔王と関係している印。

 念じることと魔法を使うことは、どこか根本が似ているのかもしれない。

「人前では使えないわよね」

 厚めに切った前髪で隠してはいても、何かの拍子で見られてしまうかもしれない。
 だったら、他の貴族に馬鹿にされても、属性無しで押し通してしまったほうが安全だ。婚約を解消するまでは、誰にも知られないようにしなきゃ。この家に迷惑をかけるのは、絶対に嫌だから。
 パサッと前髪を下ろし、ささっと整える。

 ――トントン。

 扉がノックされ、ジゼルが何かを持ってやって来た。

「お嬢様、制服が仕上がって参りました」
「そう。いよいよなのね」

 来月、私は王立学園に入学する。

 ついに物語が始まるのだ。

 

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