転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

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9. 再会

「そろそろ、講堂に向かおう」

 エルネストは、アリスに向かってそう言うと、当たり前のように手を差し出した。婚約者である私ではなく。

 短い時間で二人の間には何かがあったのだろうか。
 やはり、場所や時間帯が違っても、例の一目惚れ的出会いをしたのかもしれない。嬉しそうに手を取ったアリスは、チラチラとこちらの様子を窺いつつも、二人で私の横を素通りする。

 このやり取りを遠巻きに見物していた群衆は、微妙な雰囲気になっていた。
 
 はぁ……。いちいち面倒な空気にしてくれるわ。

「私は、二人に嫉妬なんてしてないですよー!」って、声を大にして言いたいわ。無理だけど。

 それよりも、その二人の後に続くメンバーが気になって仕方ない。
 この群衆のど真ん中に、一人取り残されても気まずいので、三人と一緒にアリス達と少し距離を置きつつ歩き出した。
 
 しばらく行くと、講堂の方からエルネストを迎えに教師らしき人物がやってきて声を掛けているのが見えた。

 エルネストはノアを呼ぶと、何か伝えて教師と共に控え室へ向かった。大方、アリスを自席まで案内しろとでも命じたのだろう。
 アリスはエルネストを見送ると、ノアを見上げ頬を染めて嬉しそうに話しかけていた。

 まあ、あれだけの美形を目の当たりにしたらね。でも、うーん……なんか距離が近いような。

 さっきまでは、エルネストにピッタリくっついていたのに、今度はノアに。小説のヒロインの感覚は、読者が共感を持てるように、世界観は違っても現代人っぽく設定されているのだろうか?

 ノアは笑顔で対応しているが、目が笑っていないのは気のせいではないだろう。
 まだ能力が顕現していないが、アリスは聖女。対するノアは、魔族なのだから。

「ベアトリーチェ嬢、知っていますか?」

 唐突に、話しかけてきたのはロランだった。

「はい? 何をでしょうか?」
「この学園の寮からも、夜空の星が綺麗に見えるのですよ。今日は、良い天気です。きっと美しく見えるでしょう」
「……星、ですか?」
 
 初めて会った時の姿と違い、今は学生服を着ているし、身体も一回り小さくなっている。とはいえ、それでもガッシリして何ともカッコいい。その上、ロランはロマンチストなのだろうか?
 
 ムキムキシックスパックのロマンチストって、ギャップが……。思わず、星空を見上げている姿を想像してしまった。
 うん、悪くはない。

 首を傾げていた私に、キーランが茶目っ気たっぷりにニッコリ笑って補足した。

「そうですよ~。辺境伯領ほどではないでしょうが、なかなかでしたよ。! きっと、女子寮の窓からもよく見えるはずですよ、あたりね」

 ――今夜?

 つまり、星が輝く時間帯に寮から外を見ればいいのか。きっと、意味があるのだろう。

「それは、ぜひ見てみたいですわ。ロラン様、キーラン様、良いことを教えていただき、ありがとう存じます」

 入学式は滞りなく行われ、その後エルネスト達とはあまり接触しないようにした。
 ロランとキーランと話しているときに、鋭い視線を感じたから。それは、アリスが居た方角からだった。

 ……気のせい?



 ◇◇◇



 寮に戻ると、ジゼルがソワソワしながら待っていた。

「お嬢様、学園はいかがでございましたか?」
「私よりジゼルが緊張してどうするの? 大丈夫よ、(まだ)大した問題はなかったわ」
「王子殿下にも……」
「ええ、会ったけれど相変わらずよ」

 ハーフアップ風に編んでいた髪をほどいて梳かしてもらうと、解放感でホッとする。
 エルネストとの出来事を話すと、私よりプリプリしだしたジゼルに笑ってしまう。

 この学園の寮は、側仕えを一人なら連れてくることが許されている。もちろん、王族は別だが。
 金銭的余裕のない貴族は、侍女や従者は連れてこられないだろう。部屋にもランクがあり、側仕えが増えれば部屋数も違ってくるのだから。
 転生者である私は、侍女が居なくとも身支度くらい整えられるし、髪だって洗える。
 でも、公爵令嬢が侍女を連れて来ないのはあり得ないから、ジゼルを連れてくるのは当然だった。

 それに……。

 ジゼルは、私に対して裏表がない。本気で色々心配するし、怒ったりもする。たぶん、私自身が彼女と一緒にいて楽しいのだ。

 そんなジゼルを下がらせると窓辺へ向かう。
 もう、すっかり外は暗くなっていた。

「さすがに、これは話せないわ」

 転生者であることや、私の役割。ジゼルなら、全てを知っても一緒に居てくれるだろう。
 でもそれは、危険が伴うかもしれないし……。ジゼルだって、将来は誰かと結婚する未来を望んでいるかもしれないのに、私が足を引っ張るわけにはいかない。

 結局、私はエルネストの婚約者になる事を避けられなかったし、ヒロインが王子とくっ付くのも小説の通りになりそうだ。
 だったら、せめて婚約破棄が円満に出来るように、上手く立ち回らないとね。
 その為には、にも協力してもらうのは必須だわ。あんな、絶対的な立場の人物達に成りすましているのだもの。
 
 ただ……どうやって、入り込んだのかしら?

 バルコニーの扉を開けると夜空を見上げた。
 確かに、たくさんの輝く星が綺麗に見える。

「……ニャア~」

 ――ん? 猫?

 バルコニーの手すりの上に、ちょこんと猫が座っていた。
 赤茶色の毛並みの猫は、じーっと室内を見た後に、ピョンっと私に向かってジャンプした。まるで、抱っこされるのが当たり前みたいに。
 腕の中から私を見つめる可愛い瞳は、美しいオッドアイだった。
 
「もしかして……ケリー?」

 嬉しそうに「にゃ~」と鳴くと、何かが発動した。
 
 あ、これ二度目かも。

 グニャリと視界が歪み、浮遊感に見舞われる。
 足元に地面を感じると、そこは以前来た見覚えのある部屋だった。
 そして、目の前には……今日、学園で会ったばかりの令息姿のノアとロランが立っていた。

「待っていましたよ。ベアトリーチェ嬢……いえ、ヒナタ様」

 そう久しぶりに、私の名前を呼んだのはノアだった。

 

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