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10. 状況説明
「いつまで、姫様の腕の中に居るつもりだ、キーラン!」
そう声をかけてきたのはロランだ。
私の腕の中で、気持ち良さそうに抱かれていた猫は「しかたないなぁ~」とでも言いたそうに目を細めると、ストンと床へと飛び降りた。すると、一瞬で人の姿に変わる。
「ロランのケチっ!」
口を尖らせてケリーはロランに文句を言うと、クルリと私を振り返った。
「だって学園じゃ、ヒナ様にあんまり近付いちゃダメってノアが言うからさっ」
私の腕をとったケリーは、ニコニコと笑顔を向ける。猫の姿だったらゴロゴロと喉を鳴らして、そのまま擦り寄って来そうだ。
うっ、近い。
イケメンの破壊力が凄いことを自覚してほしい。
「皆さんの……その姿はどうやって?」
ケリーから少し距離を取りつつ聞いてみた。
「ん? ただの魔法だよ。外見を変えるなんて簡単なことさっ」
「じゃあ、さっきの猫の姿も?」
ケリーは、最初会ったときは少年で、学園では同学年の姿、そしてさっきは猫だった。
「あー、猫の姿が本当。んー、本当だったが正解」
うん、分からない。
ケリーの語彙力は変わっていない。やはり、説明はノアにしてもらわないと。チラッとノアを見ると、うなずいた。
「キーランは、元は魔力を持った猫でしたが、理由があり魔王の眷属になったのです。我々は、全員眷属であり魔族。魔法によって、姿形を変える事はいとも容易い。ただ、魔眼によりヒナタ様の転生先や居場所を見ることができるのは、このキーランと魔王だけです」
「魔眼……?」
人の姿の時は普通の瞳だけれど、ケリーと初めて会った時と猫姿のオッドアイを思い出す。片方は淡褐色で、もう片方は中心が赤っぽい紫色だった。
「……あ。だから、あの時必ず会えると?」
「はい。我々は人間と違い長命です。時を待つ間に、人間に成りすまして、赤ん坊の姿から今まで生活しました。初めだけ周りの意識操作をしておけば、その場で成りすますより、よりその人物が現実的な存在となりますからね」
「え? だったら本当に以前社交界で私と会っているの? いや、どう考えても会ったら気づくでしょう!?」
現に学園では、会ってすぐに分かったもの。
フッ……と、ノアは美しい顔に意味深な笑みを浮かべた。
「その辺は、ちょっと細工を」
「だって、せっかくならヒナ様を驚かせたいじゃん」と、ケリーが口を挟んだ。
「俺は止めたんだが。姫様と早く会いたかったしな……」と、ロラン。
ケリーは何となく分かるが、ノアはクールなイメージだったのに。悪戯? ちょっと、意外だ。
「ところで、その姫とか、様って敬称はやめてほしいのだけど。ヒナでもヒナタでもいいわ。学園ではベアトリーチェだけど、ここでは私も普通に話したいし。だって……仲間、なんでしょ?」
否定されないか、少しドキドキしながら聞いてみた。
三人は目を見開くと、顔を見合わせクスッと笑った。
「そうだ、仲間だ」と、ノア。
「じゃあ、ヒナって呼ぶっ!」と、ケリー。
「……ヒナ」と、顔を赤くしたロラン。
皆の目が優しくて、嬉しかった。
「あ……っ! そういえば、私には魔法属性や加護が無かったの。でも、魔法が使える上に、魔力が流れると額にあの痣が現れてしまうのよっ」
「ああ、それは魔王の魔力ですから。ヒナは『鍵』だと言ったでしょう。貴女には魔王の魔力が流れているのです。魔法を使おうとすれば、その証である印が反応します。魔王の魔力を、人間の作った道具で測れないのは当然のこと」
なるほど。ノアの言葉でストンと落ちた。神ならぬ、魔王の加護って感じなのね。
「確か明日は、学園で魔力測定がありましたね」
そうだった……。
「べつに属性無しでも私は構わないわ。額の痣を見られてしまうのは避けたいもの」
覚悟はとうに出来ている。貴族が魔力を持つのが当たり前のこの世界。魔力無しは、ほとんど平民ばかりだ。それが何を意味するのかは理解している。
それでも、陛下とお父様が婚約を取り止めてくれないのは謎だけど。
「そんなの、誤魔化しちゃえばいいじゃないか~」
「俺もその方がいいと思う」
ケリーとロランの言葉に、ノアはうなずく。
「そうですね。我々はこの姿で生活し、ヒナ……いえ、人間界のベアトリーチェ嬢を取り巻く環境を見てきました。できれば早々に、馬鹿王子と聖女から離れた方が良いと考えています。その為には、あまりベアトリーチェ嬢は目立たない方が良いでしょう」
「アリスが聖女だと、知っているの?」
ビックリして尋ねると、全員がさも当然だという顔をした。
けれど、それについては詳しく話そうとしない。エルネストを馬鹿呼ばわりしたのは……何か、分かる気がするけど。
「ヒナは公爵家が大切なのだろう?」
ロランの言葉に私はうなずく。
「婚約も、本当はしたくなかったのよ。できるだけ上手く解消したいと思っているわ。魔王の復活には関わりのないことだと分かっている。けれど、私のせいでベアトリーチェの家族が追い込まれるのは……嫌なの。手を、貸してはもらえないかしら?」
「もとよりそのつもりだ」
ノアの言葉に、うんうんと二人も言う。
「取りあえずは、これを着けておくといい」
変わった石がはまっている、シンプルな髪飾りを渡された。
「これは?」
「魔石を加工した髪飾りだ。魔力を流す時、額に流れる分を吸収して抑えてくれるだろう」
ノアは私の手から髪飾りを取ると、スッとこめかみ辺りの髪に挿してくれた。
「それで、俺が近くから測定器を操作しちゃえばいいよねっ」
「近くから? いくらケリーが美少年でも、男女別の計測に潜り込むのは……。クラスに見覚えのない女生徒がいたら変だし」
女装はちょっと見てみたいけど……。
ふふんっとケリーは胸を張ると、ポンッと猫になった。足元に擦り寄ると、可愛く「ニャア~」と鳴く。
「あ……」
確かに猫なら潜り込める。
「キーランが、ヒナの希望する属性を表示させよう」
「……では、火属性で」
どうして、それを選んだのか自分でも分からないが――小説の中のベアトリーチェと同じ属性を口にしていた。
そう声をかけてきたのはロランだ。
私の腕の中で、気持ち良さそうに抱かれていた猫は「しかたないなぁ~」とでも言いたそうに目を細めると、ストンと床へと飛び降りた。すると、一瞬で人の姿に変わる。
「ロランのケチっ!」
口を尖らせてケリーはロランに文句を言うと、クルリと私を振り返った。
「だって学園じゃ、ヒナ様にあんまり近付いちゃダメってノアが言うからさっ」
私の腕をとったケリーは、ニコニコと笑顔を向ける。猫の姿だったらゴロゴロと喉を鳴らして、そのまま擦り寄って来そうだ。
うっ、近い。
イケメンの破壊力が凄いことを自覚してほしい。
「皆さんの……その姿はどうやって?」
ケリーから少し距離を取りつつ聞いてみた。
「ん? ただの魔法だよ。外見を変えるなんて簡単なことさっ」
「じゃあ、さっきの猫の姿も?」
ケリーは、最初会ったときは少年で、学園では同学年の姿、そしてさっきは猫だった。
「あー、猫の姿が本当。んー、本当だったが正解」
うん、分からない。
ケリーの語彙力は変わっていない。やはり、説明はノアにしてもらわないと。チラッとノアを見ると、うなずいた。
「キーランは、元は魔力を持った猫でしたが、理由があり魔王の眷属になったのです。我々は、全員眷属であり魔族。魔法によって、姿形を変える事はいとも容易い。ただ、魔眼によりヒナタ様の転生先や居場所を見ることができるのは、このキーランと魔王だけです」
「魔眼……?」
人の姿の時は普通の瞳だけれど、ケリーと初めて会った時と猫姿のオッドアイを思い出す。片方は淡褐色で、もう片方は中心が赤っぽい紫色だった。
「……あ。だから、あの時必ず会えると?」
「はい。我々は人間と違い長命です。時を待つ間に、人間に成りすまして、赤ん坊の姿から今まで生活しました。初めだけ周りの意識操作をしておけば、その場で成りすますより、よりその人物が現実的な存在となりますからね」
「え? だったら本当に以前社交界で私と会っているの? いや、どう考えても会ったら気づくでしょう!?」
現に学園では、会ってすぐに分かったもの。
フッ……と、ノアは美しい顔に意味深な笑みを浮かべた。
「その辺は、ちょっと細工を」
「だって、せっかくならヒナ様を驚かせたいじゃん」と、ケリーが口を挟んだ。
「俺は止めたんだが。姫様と早く会いたかったしな……」と、ロラン。
ケリーは何となく分かるが、ノアはクールなイメージだったのに。悪戯? ちょっと、意外だ。
「ところで、その姫とか、様って敬称はやめてほしいのだけど。ヒナでもヒナタでもいいわ。学園ではベアトリーチェだけど、ここでは私も普通に話したいし。だって……仲間、なんでしょ?」
否定されないか、少しドキドキしながら聞いてみた。
三人は目を見開くと、顔を見合わせクスッと笑った。
「そうだ、仲間だ」と、ノア。
「じゃあ、ヒナって呼ぶっ!」と、ケリー。
「……ヒナ」と、顔を赤くしたロラン。
皆の目が優しくて、嬉しかった。
「あ……っ! そういえば、私には魔法属性や加護が無かったの。でも、魔法が使える上に、魔力が流れると額にあの痣が現れてしまうのよっ」
「ああ、それは魔王の魔力ですから。ヒナは『鍵』だと言ったでしょう。貴女には魔王の魔力が流れているのです。魔法を使おうとすれば、その証である印が反応します。魔王の魔力を、人間の作った道具で測れないのは当然のこと」
なるほど。ノアの言葉でストンと落ちた。神ならぬ、魔王の加護って感じなのね。
「確か明日は、学園で魔力測定がありましたね」
そうだった……。
「べつに属性無しでも私は構わないわ。額の痣を見られてしまうのは避けたいもの」
覚悟はとうに出来ている。貴族が魔力を持つのが当たり前のこの世界。魔力無しは、ほとんど平民ばかりだ。それが何を意味するのかは理解している。
それでも、陛下とお父様が婚約を取り止めてくれないのは謎だけど。
「そんなの、誤魔化しちゃえばいいじゃないか~」
「俺もその方がいいと思う」
ケリーとロランの言葉に、ノアはうなずく。
「そうですね。我々はこの姿で生活し、ヒナ……いえ、人間界のベアトリーチェ嬢を取り巻く環境を見てきました。できれば早々に、馬鹿王子と聖女から離れた方が良いと考えています。その為には、あまりベアトリーチェ嬢は目立たない方が良いでしょう」
「アリスが聖女だと、知っているの?」
ビックリして尋ねると、全員がさも当然だという顔をした。
けれど、それについては詳しく話そうとしない。エルネストを馬鹿呼ばわりしたのは……何か、分かる気がするけど。
「ヒナは公爵家が大切なのだろう?」
ロランの言葉に私はうなずく。
「婚約も、本当はしたくなかったのよ。できるだけ上手く解消したいと思っているわ。魔王の復活には関わりのないことだと分かっている。けれど、私のせいでベアトリーチェの家族が追い込まれるのは……嫌なの。手を、貸してはもらえないかしら?」
「もとよりそのつもりだ」
ノアの言葉に、うんうんと二人も言う。
「取りあえずは、これを着けておくといい」
変わった石がはまっている、シンプルな髪飾りを渡された。
「これは?」
「魔石を加工した髪飾りだ。魔力を流す時、額に流れる分を吸収して抑えてくれるだろう」
ノアは私の手から髪飾りを取ると、スッとこめかみ辺りの髪に挿してくれた。
「それで、俺が近くから測定器を操作しちゃえばいいよねっ」
「近くから? いくらケリーが美少年でも、男女別の計測に潜り込むのは……。クラスに見覚えのない女生徒がいたら変だし」
女装はちょっと見てみたいけど……。
ふふんっとケリーは胸を張ると、ポンッと猫になった。足元に擦り寄ると、可愛く「ニャア~」と鳴く。
「あ……」
確かに猫なら潜り込める。
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