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12. 意外なお願い
「同じクラスの、オレリア・デアレと申します」
名乗られて、相手が伯爵令嬢だと思い出す。
「ベアトリーチェ様、少しだけお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「オレリア様、構いませんわ。何でしょう?」
幸い教室にはまだ人が居ない。オレリアの表情を見ると、あまり他人に聞かれたくない話なのかもしれない。遠回しに会話していると、他のクラスメイトが戻って来てしまうので、端的に聞いた。
「あ、あのっ!」
「はい」
何だろう、こっちが緊張してしまう。
「その……ベアトリーチェ様のお髪、とっても素敵です!」
――へ?
「ですから、あの。お願いがありまして……。その髪型、真似させてはいただけないでしょうか?」
「あ、どうぞ……」
拍子抜けのセリフに、素で応えてしまった。
◇◇◇
「それで、どうなったの~?」
「取りあえず、ジゼルからオレリア様の侍女へ指導をしてもらうことにしたの」
魔王城で、今夜もまた集まっていた。
ノアが用意しておいてくれた、最近流行りの焼き菓子を摘む。お茶は夜なので、鎮静効果のあるハーブティーにした。紅茶だと目が冴えてしまうから。
こんな時間に間食は良くないが、ロランなんてしっかり本日二回目の夕食(?)を摂っている。しかも、大量の肉料理。
うっ、見てるだけで胸焼けが……。
オレリアの話とは、私がしていた髪型……ジゼルのヘアアレンジを真似させてほしいという内容だった。
ただ、学園にしてくるのではなくて――デアレ家の長女、つまりオレリアの姉の結婚式にそのアレンジを使いたいのだと。
これは、転生前に通っていた図書館で見つけた面白いヘアカタログ……というか、編み方の説明が書かれた白黒写真集みたいな本に載っていた髪型を、簡易化したものだ。
自分の髪を使って結い上げた、大きな薔薇風の花やリボン、なんの需要があるのかバスケットの編み目みたいなものまで色々あった。
小さい頃、何気なく話したのを覚えていたジゼルが、練習してくれていたらしい。
こっちの世界では、髪型よりも飾りを重視する傾向にある。強いカールや高さを出す時代もあったようだが、今はナチュラルな編み込みが多い。
そのせいか、パーティーではたくさんの飾りを着ける。可愛いけど、飾りって結構重いのよ。
だから、自分の髪で可愛くできたらなって。
「せっかくの花嫁さんの髪型なら、より素敵な方がいいでしょう? ジゼルの腕前は相当よ」
「確かに。あの髪型はなかなか目を引きました。どうせなら、他の方々へ流行らせては?」
「……流行らせるって?」
「この人間達の貴族社会は、たくさんの繋がりがモノを言います。社交界では、上流貴族の夫人達が新しい物を身につけ流行を発信しています。そして、学園ではそれより若い世代の流行が出来るのですよ。公爵令嬢のベアトリーチェ嬢なら、発信するにはもってこいの立場です」
そうだったのね。
ノアはただ私の髪型が気に入ったのではなく、その先を考えていたのだ。上手く周りの生徒と仲良くなって信頼関係が築ければ、婚約破棄の時に色々な根回しも出来るってことね。
「それなら! 他の令嬢達にも聞いて、ジゼルによる侍女達への講習会を開きましょう!」
私達が学園に行っている間に、講習会はやってもらえれば良いのだから。
「ね、ね、ヒナ。侍女が居ない子はどうするの?」
美味しそうに、お菓子を頬張りながらケリーが聞いた。
「あっ、そうだった。うーん……。私がジゼルに習って、学園のサロンを借りて少人数で教えるのはどうかしら? そう、クラブ活動みたいに」
私、意外と手先が器用なのよ。小学生の頃から髪は自分で結んでいた。中学時代の美術の成績は頗る良かったし。
「悪くない案だ」
ノアからも賛成を受けた。よしっ!
「ねえ、キーラン」
「えっ! 何!? なんで、ケリーって呼んでくれないのっ!?」
「あのね、エルネストにケリーって呼んだの聞かれちゃったでしょ? だから、猫の姿以外はキーランと呼ぶことにするわ。ごめんね」
「ぇえええ……」
明らかにショックを受けた様子だ。
「えーっと。それでね、キーランにしか頼めないお願いがあるの」
「俺だけ?」
パアァァッっと表情が明るくなる。
「そうよ、私が流行らせた髪型をした子を見たら、自然な感じで褒めてあげてほしいの。これは、キーランにしか出来ない重要なことなの。お願いできる?」
天真爛漫なキラキラ美少年で、クラスでも人気があるキーランに褒められたら、女子はみんな嬉しいはず。ノアやロランが言うと重く響き過ぎて、確実に勘違い令嬢が出てしまう。
その点、キーランなら沢山の女の子に声をかけても嫌味がないし、可愛くなれた自信にも繋がる。
「わかった! 任せてっ」と張り切るキーラン。
よーし、帰ったらジゼルに頼まなきゃ! 私も頑張るぞっ。
◇◇◇
それから数日が過ぎた。
オレリアの侍女は熱心にジゼルから学んだ。次の連休の時に行われる結婚式に間に合うように。
そして、学園では私とオレリアを筆頭に、上流階級の令嬢からチラホラと髪型が流行り出していく。
ちょうど良い頃合いで、学園側に申請を出していた例のクラブ活動の許可が下りた。場所も確保できたので、いよいよ始動だ。
参加者の勧誘は、侍女をジゼルに習わせた令嬢の中から、なるべく地位が上でなく、本人の意思を尊重できる人当たりの良い生徒にお願いした。
いくら学園で平等をうたっても、私が直接誘ったら断りにくいだろうしね。興味がない人には苦痛な時間になってしまう。
それから、ちゃんとアリスにも声をかけるように頼んだ。来る来ないは、本人次第。仲間はずれは好きじゃないからね。
正直アリスの髪色はとても綺麗だから、きっと、彼女によく似合うだろう。
まあ、断られる予感はするけど。
ちなみに、学園側には伝えてあるが、教えるのが私だというのはまだ秘密だ。
エルネストにバレたら何を言われるか分からない。何たって、私のこれからがかかっている。
自分が勝手にして良いと言ったのだから、好きにさせてもらうわ。
名乗られて、相手が伯爵令嬢だと思い出す。
「ベアトリーチェ様、少しだけお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「オレリア様、構いませんわ。何でしょう?」
幸い教室にはまだ人が居ない。オレリアの表情を見ると、あまり他人に聞かれたくない話なのかもしれない。遠回しに会話していると、他のクラスメイトが戻って来てしまうので、端的に聞いた。
「あ、あのっ!」
「はい」
何だろう、こっちが緊張してしまう。
「その……ベアトリーチェ様のお髪、とっても素敵です!」
――へ?
「ですから、あの。お願いがありまして……。その髪型、真似させてはいただけないでしょうか?」
「あ、どうぞ……」
拍子抜けのセリフに、素で応えてしまった。
◇◇◇
「それで、どうなったの~?」
「取りあえず、ジゼルからオレリア様の侍女へ指導をしてもらうことにしたの」
魔王城で、今夜もまた集まっていた。
ノアが用意しておいてくれた、最近流行りの焼き菓子を摘む。お茶は夜なので、鎮静効果のあるハーブティーにした。紅茶だと目が冴えてしまうから。
こんな時間に間食は良くないが、ロランなんてしっかり本日二回目の夕食(?)を摂っている。しかも、大量の肉料理。
うっ、見てるだけで胸焼けが……。
オレリアの話とは、私がしていた髪型……ジゼルのヘアアレンジを真似させてほしいという内容だった。
ただ、学園にしてくるのではなくて――デアレ家の長女、つまりオレリアの姉の結婚式にそのアレンジを使いたいのだと。
これは、転生前に通っていた図書館で見つけた面白いヘアカタログ……というか、編み方の説明が書かれた白黒写真集みたいな本に載っていた髪型を、簡易化したものだ。
自分の髪を使って結い上げた、大きな薔薇風の花やリボン、なんの需要があるのかバスケットの編み目みたいなものまで色々あった。
小さい頃、何気なく話したのを覚えていたジゼルが、練習してくれていたらしい。
こっちの世界では、髪型よりも飾りを重視する傾向にある。強いカールや高さを出す時代もあったようだが、今はナチュラルな編み込みが多い。
そのせいか、パーティーではたくさんの飾りを着ける。可愛いけど、飾りって結構重いのよ。
だから、自分の髪で可愛くできたらなって。
「せっかくの花嫁さんの髪型なら、より素敵な方がいいでしょう? ジゼルの腕前は相当よ」
「確かに。あの髪型はなかなか目を引きました。どうせなら、他の方々へ流行らせては?」
「……流行らせるって?」
「この人間達の貴族社会は、たくさんの繋がりがモノを言います。社交界では、上流貴族の夫人達が新しい物を身につけ流行を発信しています。そして、学園ではそれより若い世代の流行が出来るのですよ。公爵令嬢のベアトリーチェ嬢なら、発信するにはもってこいの立場です」
そうだったのね。
ノアはただ私の髪型が気に入ったのではなく、その先を考えていたのだ。上手く周りの生徒と仲良くなって信頼関係が築ければ、婚約破棄の時に色々な根回しも出来るってことね。
「それなら! 他の令嬢達にも聞いて、ジゼルによる侍女達への講習会を開きましょう!」
私達が学園に行っている間に、講習会はやってもらえれば良いのだから。
「ね、ね、ヒナ。侍女が居ない子はどうするの?」
美味しそうに、お菓子を頬張りながらケリーが聞いた。
「あっ、そうだった。うーん……。私がジゼルに習って、学園のサロンを借りて少人数で教えるのはどうかしら? そう、クラブ活動みたいに」
私、意外と手先が器用なのよ。小学生の頃から髪は自分で結んでいた。中学時代の美術の成績は頗る良かったし。
「悪くない案だ」
ノアからも賛成を受けた。よしっ!
「ねえ、キーラン」
「えっ! 何!? なんで、ケリーって呼んでくれないのっ!?」
「あのね、エルネストにケリーって呼んだの聞かれちゃったでしょ? だから、猫の姿以外はキーランと呼ぶことにするわ。ごめんね」
「ぇえええ……」
明らかにショックを受けた様子だ。
「えーっと。それでね、キーランにしか頼めないお願いがあるの」
「俺だけ?」
パアァァッっと表情が明るくなる。
「そうよ、私が流行らせた髪型をした子を見たら、自然な感じで褒めてあげてほしいの。これは、キーランにしか出来ない重要なことなの。お願いできる?」
天真爛漫なキラキラ美少年で、クラスでも人気があるキーランに褒められたら、女子はみんな嬉しいはず。ノアやロランが言うと重く響き過ぎて、確実に勘違い令嬢が出てしまう。
その点、キーランなら沢山の女の子に声をかけても嫌味がないし、可愛くなれた自信にも繋がる。
「わかった! 任せてっ」と張り切るキーラン。
よーし、帰ったらジゼルに頼まなきゃ! 私も頑張るぞっ。
◇◇◇
それから数日が過ぎた。
オレリアの侍女は熱心にジゼルから学んだ。次の連休の時に行われる結婚式に間に合うように。
そして、学園では私とオレリアを筆頭に、上流階級の令嬢からチラホラと髪型が流行り出していく。
ちょうど良い頃合いで、学園側に申請を出していた例のクラブ活動の許可が下りた。場所も確保できたので、いよいよ始動だ。
参加者の勧誘は、侍女をジゼルに習わせた令嬢の中から、なるべく地位が上でなく、本人の意思を尊重できる人当たりの良い生徒にお願いした。
いくら学園で平等をうたっても、私が直接誘ったら断りにくいだろうしね。興味がない人には苦痛な時間になってしまう。
それから、ちゃんとアリスにも声をかけるように頼んだ。来る来ないは、本人次第。仲間はずれは好きじゃないからね。
正直アリスの髪色はとても綺麗だから、きっと、彼女によく似合うだろう。
まあ、断られる予感はするけど。
ちなみに、学園側には伝えてあるが、教えるのが私だというのはまだ秘密だ。
エルネストにバレたら何を言われるか分からない。何たって、私のこれからがかかっている。
自分が勝手にして良いと言ったのだから、好きにさせてもらうわ。
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※他サイトにも掲載中。