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14. 交渉のチャンスだわ
「ただいま帰りました!」
出迎えてくれた、お父様とお母様、そしてオリヴィエに抱きついた。「こらこら、はしたない……」と言いつつ、みんな顔がデレデレだ。
「お帰り、ベアトリーチェ」
お父様の一言に、丁寧なお辞儀をする。
ジゼルも挨拶を済ませると、他の使用人たちが運び入れてくれた荷物の片付けに向かった。
その間に、軽く報告をしてしまおうかと考えていたら、足元で「ニャ~」っとケリーが鳴いた。
いけない、忘れるところだった。
お父様とお母様に猫のケリーを紹介し、休みの間この邸宅に住わせる許可をもらう。うちの家族は、大の動物好きなのだ。
ただ、キーランが伯爵家に帰省しないのは不自然なので、上手く魔法を使って行き来することになっている。猫は気ままだから、見当たらない日があってもおかしくない。
その辺の策は、ノアが考えてくれているし、これだけ長く伯爵令息に成りすませるのだから、全く問題無いだろう。
「旅装を解いたら、書斎へ来なさい」
暫くケリーを撫でて満足げなお父様から、お呼びがかかった。
「はい。支度が整いましたらすぐに参りますわ」と、自分の部屋へ向かう。
ケリーをソファーに座らせると、湯浴みを済ませてディナー用のワンピースに着替えておく。
わざわざ書斎に呼ばれたということは、やはり魔力測定と、学園の出来事の報告、そして何か大切な話があるのだ。
ちょうど良い、婚約の解消について交渉の機会だわ。
◇◇◇
「確かに、ベアトリーチェは火属性だな」
水晶玉がちゃんと光り、中に火属性の赤い球体が浮かび上がると、お父様は心底安堵したようだった。
私の後について一緒に書斎へ入ったケリーの、ふわふわの尻尾が足首に触れた。
くすぐったい……。
ちょっとだけ後ろめたさを感じたが、実際には魔法が使えるし、お父様の心配事を一つ減らせたのだから良しとしよう。
「それで、学園の方はどうだ?」
「沢山お友達も出来ましたし、とても楽しく過ごせています。ごく一部を除いては」
「………。その一部とは、殿下と男爵令嬢のことかい?」
肯定の微笑みだけ返す。
宰相だけあり、学園の関係者から既に話は行っているのだろう。王族が入学した時点で、監視者は送り込まれている。エルネストが学園は自由だと思っているのは、そもそも大きな間違いでしかないのだ。
むしろ、注意する人物がいないからこそ、どう振る舞うのかを見られている。学友は、いずれ大人になり国を支えていくのだ。信頼できる臣下を見つけることも、王族の大切な役目。
その為の人脈作りと学びの場……王立の学園なのだから。
「それから、魔力測定の日に宮廷から魔術師団の方がいらっしゃいました」
当然、知っているだろうがあえて伝える。
「……ああ」と言っただけで、深い溜息を吐いた。
たぶん極秘事項で、私には話せないのだろう。
まあ、聖女が現れたのだから国の管理下に置かれるまで言えないわよね。聖女ってだけで、利用しようとする者に狙われる場合があるし。
ただ、あの二人じゃ自爆……バレるのは時間の問題だけど。
「お父様に、お願いがあるのですが」
これでもかっていうくらいの、おねだりスマイルをする。
「……何かな?」
あら。額に汗が浮かんでますよ、お父様。
「もしも、エルネスト殿下から婚約を破棄したいと仰られたら……。ぜひとも、お受けしたいのです」
「なっ!? いくら殿下でも、それはあり得ないだろう?」
「いいえ。エルネスト殿下ならあり得ます」
キッパリと言い切る。
小説の通りなら、ほぼ確定されている流れ。
今時点で、意地悪なんてしていないのに、二人からはなぜか悪役にされているし。どう考えても、アリスとエルネストにとって婚約者である私は邪魔者だ。
「ベアトリーチェが断言するのなら、その可能性が高いのだな。ただ、陛下が何と仰るか……」
きっと、あの学園祭で婚約破棄イベントが執行されるだろう。だからこそ、ちゃんと不利にならない婚約解消の方法を見つけておかなければならない。
「そこは頼りにしておりますわ、お父様。エルネスト殿下の出方次第で、私は一生結婚できない身になってしまいます」
微笑みを浮かべると、お父様は考え込んだ。
何気なく窓の外を見ると日は暮れていない。
あ……久しぶりに、オリヴィエと剣の稽古がしたいわ。まだ、ワンピースに着替えなければよかった。
一瞬、思考が遠くへ行ってしまったが、それをお父様は私が悲しんでいると勘違いしたみたいだ。
眉間にグッと皺を寄せ、「確か、学園にはマルティネス侯爵家の次男が居たな……」と、呟いた。
ノアに目を付けるなんて、ナイス人選!
「もしも、殿下から解消を希望された場合のみ、我々も認めるよう国王陛下にお願いしておこう」
「はい。よろしくお願いいたします」
やった! 交渉成立。
足取りも軽く書斎を後にすると、ケリーも満足そうに「ニャー!」と鳴いた。
そして、ケリーはいったん伯爵家へ転移した。
◇◇◇
その日のディナーでは、お母様とオリヴィエから学園生活について質問攻めにあった。私が学園で寂しがっていないか、心配で仕方なかったみたいだ。
みんな過保護なんだから。
確か、小説の断罪イベントの学園祭では、そのグループの中にオリヴィエも混じっていた。そう、可愛い弟もヒロインの味方になっていたのだ。
けれど賢いオリヴィエが、小説のヒロインならまだしも、あのアリスに惹かれる可能性はない。
ただ、姉思いの弟に……断罪シーンはちょっと見せたくないな。
出迎えてくれた、お父様とお母様、そしてオリヴィエに抱きついた。「こらこら、はしたない……」と言いつつ、みんな顔がデレデレだ。
「お帰り、ベアトリーチェ」
お父様の一言に、丁寧なお辞儀をする。
ジゼルも挨拶を済ませると、他の使用人たちが運び入れてくれた荷物の片付けに向かった。
その間に、軽く報告をしてしまおうかと考えていたら、足元で「ニャ~」っとケリーが鳴いた。
いけない、忘れるところだった。
お父様とお母様に猫のケリーを紹介し、休みの間この邸宅に住わせる許可をもらう。うちの家族は、大の動物好きなのだ。
ただ、キーランが伯爵家に帰省しないのは不自然なので、上手く魔法を使って行き来することになっている。猫は気ままだから、見当たらない日があってもおかしくない。
その辺の策は、ノアが考えてくれているし、これだけ長く伯爵令息に成りすませるのだから、全く問題無いだろう。
「旅装を解いたら、書斎へ来なさい」
暫くケリーを撫でて満足げなお父様から、お呼びがかかった。
「はい。支度が整いましたらすぐに参りますわ」と、自分の部屋へ向かう。
ケリーをソファーに座らせると、湯浴みを済ませてディナー用のワンピースに着替えておく。
わざわざ書斎に呼ばれたということは、やはり魔力測定と、学園の出来事の報告、そして何か大切な話があるのだ。
ちょうど良い、婚約の解消について交渉の機会だわ。
◇◇◇
「確かに、ベアトリーチェは火属性だな」
水晶玉がちゃんと光り、中に火属性の赤い球体が浮かび上がると、お父様は心底安堵したようだった。
私の後について一緒に書斎へ入ったケリーの、ふわふわの尻尾が足首に触れた。
くすぐったい……。
ちょっとだけ後ろめたさを感じたが、実際には魔法が使えるし、お父様の心配事を一つ減らせたのだから良しとしよう。
「それで、学園の方はどうだ?」
「沢山お友達も出来ましたし、とても楽しく過ごせています。ごく一部を除いては」
「………。その一部とは、殿下と男爵令嬢のことかい?」
肯定の微笑みだけ返す。
宰相だけあり、学園の関係者から既に話は行っているのだろう。王族が入学した時点で、監視者は送り込まれている。エルネストが学園は自由だと思っているのは、そもそも大きな間違いでしかないのだ。
むしろ、注意する人物がいないからこそ、どう振る舞うのかを見られている。学友は、いずれ大人になり国を支えていくのだ。信頼できる臣下を見つけることも、王族の大切な役目。
その為の人脈作りと学びの場……王立の学園なのだから。
「それから、魔力測定の日に宮廷から魔術師団の方がいらっしゃいました」
当然、知っているだろうがあえて伝える。
「……ああ」と言っただけで、深い溜息を吐いた。
たぶん極秘事項で、私には話せないのだろう。
まあ、聖女が現れたのだから国の管理下に置かれるまで言えないわよね。聖女ってだけで、利用しようとする者に狙われる場合があるし。
ただ、あの二人じゃ自爆……バレるのは時間の問題だけど。
「お父様に、お願いがあるのですが」
これでもかっていうくらいの、おねだりスマイルをする。
「……何かな?」
あら。額に汗が浮かんでますよ、お父様。
「もしも、エルネスト殿下から婚約を破棄したいと仰られたら……。ぜひとも、お受けしたいのです」
「なっ!? いくら殿下でも、それはあり得ないだろう?」
「いいえ。エルネスト殿下ならあり得ます」
キッパリと言い切る。
小説の通りなら、ほぼ確定されている流れ。
今時点で、意地悪なんてしていないのに、二人からはなぜか悪役にされているし。どう考えても、アリスとエルネストにとって婚約者である私は邪魔者だ。
「ベアトリーチェが断言するのなら、その可能性が高いのだな。ただ、陛下が何と仰るか……」
きっと、あの学園祭で婚約破棄イベントが執行されるだろう。だからこそ、ちゃんと不利にならない婚約解消の方法を見つけておかなければならない。
「そこは頼りにしておりますわ、お父様。エルネスト殿下の出方次第で、私は一生結婚できない身になってしまいます」
微笑みを浮かべると、お父様は考え込んだ。
何気なく窓の外を見ると日は暮れていない。
あ……久しぶりに、オリヴィエと剣の稽古がしたいわ。まだ、ワンピースに着替えなければよかった。
一瞬、思考が遠くへ行ってしまったが、それをお父様は私が悲しんでいると勘違いしたみたいだ。
眉間にグッと皺を寄せ、「確か、学園にはマルティネス侯爵家の次男が居たな……」と、呟いた。
ノアに目を付けるなんて、ナイス人選!
「もしも、殿下から解消を希望された場合のみ、我々も認めるよう国王陛下にお願いしておこう」
「はい。よろしくお願いいたします」
やった! 交渉成立。
足取りも軽く書斎を後にすると、ケリーも満足そうに「ニャー!」と鳴いた。
そして、ケリーはいったん伯爵家へ転移した。
◇◇◇
その日のディナーでは、お母様とオリヴィエから学園生活について質問攻めにあった。私が学園で寂しがっていないか、心配で仕方なかったみたいだ。
みんな過保護なんだから。
確か、小説の断罪イベントの学園祭では、そのグループの中にオリヴィエも混じっていた。そう、可愛い弟もヒロインの味方になっていたのだ。
けれど賢いオリヴィエが、小説のヒロインならまだしも、あのアリスに惹かれる可能性はない。
ただ、姉思いの弟に……断罪シーンはちょっと見せたくないな。
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※他サイトにも掲載中。