転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

文字の大きさ
15 / 115

15. なぜでしょう

しおりを挟む
 充実した連休が終わりを迎えた――。

「今度こそ、姉上に負けませんからっ!」

 見送りをしてくれるオリヴィエは、悔しそうにそう言った。お父様とお母様、そしてジゼルまで苦笑いだ。
 うん、頼もしい。弟の成長って嬉しいな。
 でもね、簡単には負けてあげないわ。だって、私はお姉ちゃんだもの。

 馬車へ乗り込む前に、ギュッとハグをする。

「ふふっ、楽しみにしているわ」

 馬車が走り出すと、見送ってくれた皆が小さくなっていく。少しだけ寂しくなり、外の風景に目をやった。

 もともと剣は、私の方がオリヴィエより強かった。
 けれど、私が学園に行ってからも、オリヴィエはずっと師匠に訓練してもらっている。だから、オリヴィエだって剣の腕は相当上がっていたのだ。

 久しぶりに二人で剣の稽古をして、かなりの力がついたと実感した……そう、私のね。
 何たって私は、ロランに特訓してもらっている。

 初めは、賊に襲われた時に対抗するために、お父様にお願いして剣を習わせてらもらった。
 でも、色々な出来事が小説と異なっている。
 もしかしたら、賊に襲われないかもしれないが、逆に小説通りに襲ってきて、その賊が異常なくらい強い場合もあるかもしれない。

 まあ、ロラン達が一緒なら安心だろうけど。
 
 ――不安要素は他にもある。

 そう、私は魔王を知らない。
 ノアにロラン、そしてキーランを見ていれば、きっと魔王も信頼できると思う。ん~……そうは思うんだけど、エルネストやアリスを見ちゃうとね。小説通り極悪非道の魔王なのか、反対にめちゃくちゃ良い人か。全く想像がつかない。

 万が一、万が一よ。
『鍵』の役目を終えて、魔族でもない私はどうなるのかしら? 用済みでポイッ?
 そもそも、魔王にとって私は必要な人間なのか?

 ノアに、魔王について聞いてみたけれど、不敵な笑みで「会えば分かります」としか教えてくれなかった。

 じゃあ、とりあえずもっと強くなっておけば良いか……と、結論付けた。
 で、機会があったからロランに頼んだのだ。もちろん、魔王城で特訓しているから、ジゼルは知らない。
 まあ、運命の学園祭は来年だ。出来ることは、まだたくさんあるはずよ。

 膝の上のケリーを毛並みにそって撫でながら、とりとめもなくこの先について考えていた。ケリーはゴロゴロとのどを鳴らす。手に伝わる体温が気持ちよく、だんだんと眠くなってきてしまう。
 うつらうつら目と閉じる。

 だから、私は気づかなかった。正面に座っていたジゼルが、何か思いつめた瞳で私を見ていたことに。

 眠りに落ちる直前に聞こえたのは、ケリーの「ニャア~」という満足そうな鳴き声だった。

 

 ◇◇◇

 

 連休が明け日常が戻り、快適な学園生活が続くかと思っていたのだが……多少の変化が起こりつつあった。

「ヒナぁぁあ! ちょっと俺……もう無理っ!」

 魔王城に着いた途端、人の姿に戻ったキーランは私に泣きついてきた。

「ああー……」

 キーランの言いたいことは分かっている。

「正直、俺もキツいぞアレは」と、ロラン。

「ノアは、いいよねっ! あの馬鹿王子と常に一緒だからさっ」と、キーランはプリプリ文句を言う。

 連休中、帰省していたアリスに何があったのか知らないが……。今まで以上に輪をかけて、私と仲良くなった女生徒の存在は無視し、男子生徒に取り入ろうと、やたらベタベタしているらしい。
 自分のファンクラブでも作らせたいのだろうか?

 当然だが、アリスの大本命であるエルネストには見つからないように上手くやっている。ノアも対象だろうが、エルネストの手前ヘタな事は出来ない。
 そして、エルネストが離れるとロックオンされるのが、地位も高くイケメンのロランとキーランだ。

「俺が、女の子の髪型を褒めたらさぁ、自分はベアトリーチェ嬢に仲間外れにされたから出来ないって、泣くんだよ。もおおおお、何言ってるのって感じだよ。でもさ、慰めておけってノアが言うしぃ……」

 キーランは言いながら、恨めしそうにちらっとノアを睨む。

「仕方ないだろう。どうせなら、あの二人に近い方が監視しやすい。それに、色々と都合がいいのだから」
「俺なんて、ベアトリーチェ嬢に嫌がらせされているかもって相談されたぞ。色々と物が無くなったとも言っていた。泣くのを慰めたら、俺の手を自分の頬にくっ付けた……全身鳥肌だったぞ。怖いな人間の女」
 
 あー、それを他の男子生徒達にやっていたら、経緯を知らない人には完全に私が悪者ね。アリスって、庇護欲そそる外見で可愛いもの。

「でも、アリスって本当に誰かに嫌がらせされているのかしら?」

 事実であるなら見過ごせない。このままだと、私のせいにされてしまう。

「今のところ確証は無いが、王子自身も探るつもりだ。もうしばらく様子をみる。二人は、上手くかわしておいてくれ。アリスに警戒されると面倒だ。ヒナとは、程よい距離感でな」

「うええぇ……」と、キーランは膝から崩れ落ちた。

「まったく……。キーラン、どうしてもの時は猫になって、庭でヒナに遊んでもらえ」

 仕方なさそうに、ノアは言った。

「あっ、ノアが教えてくれたいつもの場所だねっ! やったぁ!」 

「……俺は?」と、ロラン。
 ノアは、ニッコリと首を横に振った。

「だろうな。戦場だと思ってやる」

 えっ。そんな感じ?
 
「聖女の力って、そんなに魔族に害があるの?」

 心配になり思わず尋ねる。

「いいや、精神的にだ」と、遠い目でロランは笑った。
 
 私は、なるべく他の令嬢と居るか、ケリーと庭に行くようにして、一人にならないようにと言われた。

 アリバイは大事よね。
 ん? 何で庭はいいのかしら?



 ◇◇◇



 それから、いつものようにケリーを抱いたまま寮へ戻ったのだが――。

「お帰りなさいませ、お嬢様」
「な、なんで……ジゼ、ル?」

 部屋の中には、この時間には絶対居ないはずのジゼルが立って待っていた。
 まるで、予測していたかのようにケリーは動じず「ニャア~」と鳴いた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令嬢、放浪先で最強公爵に溺愛される

鍛高譚
恋愛
「スカーレット・ヨーク、お前との婚約は破棄する!」 王太子アルバートの突然の宣言により、伯爵令嬢スカーレットの人生は一変した。 すべては“聖女”を名乗る平民アメリアの企み。でっち上げられた罪で糾弾され、名誉を失い、実家からも追放されてしまう。 頼る宛もなく王都をさまよった彼女は、行き倒れ寸前のところを隣国ルーヴェル王国の公爵、ゼイン・ファーガスに救われる。 「……しばらく俺のもとで休め。安全は保証する」 冷徹な印象とは裏腹に、ゼインはスカーレットを庇護し、“形だけの婚約者”として身を守ってくれることに。 公爵家で静かな日々を過ごすうちに、スカーレットの聡明さや誇り高さは次第に評価され、彼女自身もゼインに心惹かれていく。 だがその裏で、王太子とアメリアの暴走は止まらず、スカーレットの両親までもが処刑の危機に――!

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~

百門一新
恋愛
大妖怪の妖狐「オウカ姫」と、人間の伯爵のもとに生まれた一人娘「リリア」。頭には狐耳、ふわふわと宙を飛ぶ。性格は少々やんちゃで、まだまだ成長期の仔狐なのでくしゃみで放電するのもしばしば。そんな中、王子とのお見合い話が…嫌々ながらの初対面で、喧嘩勃発!? ゆくゆく婚約破棄で、最悪な相性なのに婚約することに。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。 ※ベリーズカフェに修正版を掲載、2021/8/31こちらの文章も修正版へと修正しました!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢アクア・ラズライトは、卒業パーティーの最中に婚約者であるジュリアス殿下から「悪役令嬢」として断罪を突きつけられる。普通なら泣き崩れるか激昂する場面――しかし、超合理的で節約家なアクアは違った。

処理中です...