転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

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15. なぜでしょう

 充実した連休が終わりを迎えた――。

「今度こそ、姉上に負けませんからっ!」

 見送りをしてくれるオリヴィエは、悔しそうにそう言った。お父様とお母様、そしてジゼルまで苦笑いだ。
 うん、頼もしい。弟の成長って嬉しいな。
 でもね、簡単には負けてあげないわ。だって、私はお姉ちゃんだもの。

 馬車へ乗り込む前に、ギュッとハグをする。

「ふふっ、楽しみにしているわ」

 馬車が走り出すと、見送ってくれた皆が小さくなっていく。少しだけ寂しくなり、外の風景に目をやった。

 もともと剣は、私の方がオリヴィエより強かった。
 けれど、私が学園に行ってからも、オリヴィエはずっと師匠に訓練してもらっている。だから、オリヴィエだって剣の腕は相当上がっていたのだ。

 久しぶりに二人で剣の稽古をして、かなりの力がついたと実感した……そう、私のね。
 何たって私は、ロランに特訓してもらっている。

 初めは、賊に襲われた時に対抗するために、お父様にお願いして剣を習わせてらもらった。
 でも、色々な出来事が小説と異なっている。
 もしかしたら、賊に襲われないかもしれないが、逆に小説通りに襲ってきて、その賊が異常なくらい強い場合もあるかもしれない。

 まあ、ロラン達が一緒なら安心だろうけど。
 
 ――不安要素は他にもある。

 そう、私は魔王を知らない。
 ノアにロラン、そしてキーランを見ていれば、きっと魔王も信頼できると思う。ん~……そうは思うんだけど、エルネストやアリスを見ちゃうとね。小説通り極悪非道の魔王なのか、反対にめちゃくちゃ良い人か。全く想像がつかない。

 万が一、万が一よ。
『鍵』の役目を終えて、魔族でもない私はどうなるのかしら? 用済みでポイッ?
 そもそも、魔王にとって私は必要な人間なのか?

 ノアに、魔王について聞いてみたけれど、不敵な笑みで「会えば分かります」としか教えてくれなかった。

 じゃあ、とりあえずもっと強くなっておけば良いか……と、結論付けた。
 で、機会があったからロランに頼んだのだ。もちろん、魔王城で特訓しているから、ジゼルは知らない。
 まあ、運命の学園祭は来年だ。出来ることは、まだたくさんあるはずよ。

 膝の上のケリーを毛並みにそって撫でながら、とりとめもなくこの先について考えていた。ケリーはゴロゴロとのどを鳴らす。手に伝わる体温が気持ちよく、だんだんと眠くなってきてしまう。
 うつらうつら目と閉じる。

 だから、私は気づかなかった。正面に座っていたジゼルが、何か思いつめた瞳で私を見ていたことに。

 眠りに落ちる直前に聞こえたのは、ケリーの「ニャア~」という満足そうな鳴き声だった。

 

 ◇◇◇

 

 連休が明け日常が戻り、快適な学園生活が続くかと思っていたのだが……多少の変化が起こりつつあった。

「ヒナぁぁあ! ちょっと俺……もう無理っ!」

 魔王城に着いた途端、人の姿に戻ったキーランは私に泣きついてきた。

「ああー……」

 キーランの言いたいことは分かっている。

「正直、俺もキツいぞアレは」と、ロラン。

「ノアは、いいよねっ! あの馬鹿王子と常に一緒だからさっ」と、キーランはプリプリ文句を言う。

 連休中、帰省していたアリスに何があったのか知らないが……。今まで以上に輪をかけて、私と仲良くなった女生徒の存在は無視し、男子生徒に取り入ろうと、やたらベタベタしているらしい。
 自分のファンクラブでも作らせたいのだろうか?

 当然だが、アリスの大本命であるエルネストには見つからないように上手くやっている。ノアも対象だろうが、エルネストの手前ヘタな事は出来ない。
 そして、エルネストが離れるとロックオンされるのが、地位も高くイケメンのロランとキーランだ。

「俺が、女の子の髪型を褒めたらさぁ、自分はベアトリーチェ嬢に仲間外れにされたから出来ないって、泣くんだよ。もおおおお、何言ってるのって感じだよ。でもさ、慰めておけってノアが言うしぃ……」

 キーランは言いながら、恨めしそうにちらっとノアを睨む。

「仕方ないだろう。どうせなら、あの二人に近い方が監視しやすい。それに、色々と都合がいいのだから」
「俺なんて、ベアトリーチェ嬢に嫌がらせされているかもって相談されたぞ。色々と物が無くなったとも言っていた。泣くのを慰めたら、俺の手を自分の頬にくっ付けた……全身鳥肌だったぞ。怖いな人間の女」
 
 あー、それを他の男子生徒達にやっていたら、経緯を知らない人には完全に私が悪者ね。アリスって、庇護欲そそる外見で可愛いもの。

「でも、アリスって本当に誰かに嫌がらせされているのかしら?」

 事実であるなら見過ごせない。このままだと、私のせいにされてしまう。

「今のところ確証は無いが、王子自身も探るつもりだ。もうしばらく様子をみる。二人は、上手くかわしておいてくれ。アリスに警戒されると面倒だ。ヒナとは、程よい距離感でな」

「うええぇ……」と、キーランは膝から崩れ落ちた。

「まったく……。キーラン、どうしてもの時は猫になって、庭でヒナに遊んでもらえ」

 仕方なさそうに、ノアは言った。

「あっ、ノアが教えてくれたいつもの場所だねっ! やったぁ!」 

「……俺は?」と、ロラン。
 ノアは、ニッコリと首を横に振った。

「だろうな。戦場だと思ってやる」

 えっ。そんな感じ?
 
「聖女の力って、そんなに魔族に害があるの?」

 心配になり思わず尋ねる。

「いいや、精神的にだ」と、遠い目でロランは笑った。
 
 私は、なるべく他の令嬢と居るか、ケリーと庭に行くようにして、一人にならないようにと言われた。

 アリバイは大事よね。
 ん? 何で庭はいいのかしら?



 ◇◇◇



 それから、いつものようにケリーを抱いたまま寮へ戻ったのだが――。

「お帰りなさいませ、お嬢様」
「な、なんで……ジゼ、ル?」

 部屋の中には、この時間には絶対居ないはずのジゼルが立って待っていた。
 まるで、予測していたかのようにケリーは動じず「ニャア~」と鳴いた。

 

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