転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

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23. して、その関係性は

 ――この世界に何が起こったのだろうか?

 以前は確か、窓の外は真っ黒な闇しかなかった。

 けれど、魔王が復活した今……魔王城の窓からは、人間界と何ら変わらない景色が見えている。違うのは、昼間なのに太陽は無く、朧月夜のような空だ。といっても、月や星が出ているわけでもない。そうね。暗いのに、視界が良好なのがとても不思議だ。

 ただ、いくら視覚を強化しても、流石に遠い街並みまでは見えない。たぶん住んでいる者達は、人間ではなく魔族なのだろう。
 視線を落とせば、魔王城の独特な雰囲気の庭が見える。忙しそうに行き交うのは、今まで居なかった使用人達だろう。耳は尖っているが、一見するとまるで人間だ。

 ――んんんっ!? あれはっ!?

「ちょっと、ノアっ! 私の目がおかしいのかしら? あそこにある、岩の階段に見覚えがあるのだけど」

 私がしんどい思いをしながら登った、魔王が封印……いや、籠っていた場所に酷似している。しかも、氷柱のあった所には立派な魔王の銅像が建っていた。

 いつの間に?

「目も頭も、おかしくありませんよ。あれは、確かに魔王が眠っていた場所です」

 むむっ。頭とは、言っていませんが。
 
 それはさておき、こんな近くなら転移すら必要なく、城から直接行けたではないか。首を傾げた私に、ノアは更に詳しく教えてくれた。

「残念ながら。魔王が復活する前は、この城の外……というより、魔界自体が閉ざされていましたので。城から出ることも、干渉することも不可能でした。唯一、行き来できる人間界のあの崖が、時空の切れ目であり、魔王の元へ行ける場所だったのです」

 時空……? 

 つまり、私たちは場所を移動するだけではなかったのだ。だから、キーランの転移がいつもと違った感覚だったのかもしれない。
 魔王城は魔界の中で、ノアたち魔族三人の為に魔王が残しておいた特別な場所なのだ、とノアは付け加えた。

「なるほどね。あっ! もしかして、あの魔石の核って……」
「はい。魔王の魔力で、魔界の地と共に肉体を取り戻しました」

 ノアは、庭で働く使用人に目をやった。
 あの魔石を踏まなくて良かったとつくづく思う。うん、出来れば最初から教えてほしかったです。

「ねえ、魔王と私の関係性って……」

 ここぞとばかりに、尋ねようとした時だった。

「一体、どれ程待たせるつもりだ?」と、扉の方から静かな良い声が響いた。
 ロランとキーランを従え、魔王が戻ってきたのだ。ノアは一歩下がり、お辞儀する。

「……ビーチェとの関係性か?」

 魔王がノアとの会話に割って入ってきた。
 いや、だからビーチェって……。仕方ない、思い切って本人に訊くことにする。

「はい。私が『鍵』だったのは理解しています。ただ、どうして……私だったのですか?」
「……………………」

 沈黙が長い。
 魔王は視線をノアに向けると、フッ――……と笑った。

 ――!? 

 え、笑顔!
 魅力的なそれを見て、失神しなかった自分を褒めてあげたい。

「……して、その関係性は何だ?」

 質問をそのままノアに問う。まさかの丸投げ……。
 ノアは深いため息を吐いた。

「魔王にとって、ヒナの持つ魂は……かけがえのない存在なのです。つまり、ヒナとベアトリーチェはその生まれ変わり。ですから、何とも形容し難いのですよね? 我が王よ」

「うむ……そうだ」と、魔王はうなずいた。

 かけがえのない存在とは? 

 やはり誰かの生まれ変わりで、魔王が自分の魔力を分け与える程の存在の魂を持っているってことかしら。
 そういえば、初めから魔族のみんなは、私を姫と呼んでいた。とはいえ、親子でもなさそうだし。前世が妻だったのなら王妃よね?
 結局、よくわからない。

 だったら色々引っ括めて……。

「では、前世の私は、魔王にとって相棒パートナーだったのですか?」
「うむ……今は、それで良い」

 今は、って。
 何だか妥協しているような物言いだが、まぁ良しとしよう。だって、恋人とか夫婦だなんて言われても正直困るから。
 さっきまで、握られていた手の感触を思い出すと、また顔が熱くなった。恋愛経験がないのだから……仕方ないじゃない!

「ね、ね、魔王様にノア~」

 空気を読まない、マイペースなキーランが唐突に話し出した。
 魔王はキーランに視線を移し、ノアは「何だ?」と返事をする。

「崖のとこに馬車を取りに行ってきたらさぁ、何かに襲われたのか、下に落ちてボロボロになってたんだよ。あ、俺が壊したんじゃないからね! 馬もいなくなっちゃってたし」

 一応、大破した馬車は城の外に転移させてあるとキーランは言う。

「俺も確認したが、あれは賊の仕業だろう。ただ、馬車本体の残骸は残っていたが、公爵家の紋章が剥がされて無くなっていた。一部不自然に変形していたが、それは封印を解く時の熱風が漏れた影響だろうけどな」

 やはり、賊は出たのだ!
 
 ロランの話を聞いたノアは、ジゼルを連れて馬車の確認へと向かった。



 ◆◆◆

 

 ――時は少しさかのぼる。

 
「御頭っ!! 公爵家の馬車がありましたぜっ!」

 子分の一人が、山頂付近で見つけたと息を切らせながら戻ってきた。

 大通りから森へ向かった辺りまでは、確かにちゃんと追えていたのだ。何処へ向かうのかはサッパリ分からなかったが、人の目に触れない森を選んでくれた事は有り難かった。
 それなのに……どうしたことか、途中から見失ってしまう失態をおかした。

「でかした! 直ぐに向かうぞっ」

 これで、依頼主にドヤされずに済む。聞いている話では、御者と侍女、それと公爵令嬢だけが乗っているだけだ。
 さっさと殺して捨ててしまえばいい。幸い、山には崖や谷がたくさんある。遺体など、持ち帰らなくても問題ない。髪の毛か指の一本でもあれば証拠になるし、納得するだろう。

 ――が、馬車はもぬけの殻だった。
 馬も逃げたのか、暴れた跡だけが残っている。

「くそっ!! どこへ行きやがった!」と子分達は声を荒げる。
 周辺を探っても人の気配は無い。

「……確か、この令嬢は王子に婚約破棄されて追放されたんだよな?」
「あっ!! もしかして、ショックで自殺とかっ」

 馬車の先には、見事な崖があった。
 プライドの高いお貴族様だ。こんな場所に来るとしたら、その可能性が高い。
 令嬢本人の証拠品は手に入れられなかったが、処理の手間が省けたとほくそ笑む。

「お前ら! 馬車の紋章を外して、金目のもんだけ運びだしたら、馬車を落とせっ!」
 
 そう子分へ指示を出した。

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