転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

文字の大きさ
29 / 115

28. 説明します

 ……ええっと。この状況は?

 私は今、魔族の三人のように人間に扮した魔王の腕の中にいる。恥ずかしいとか、そんな場合ではない。なぜか、足に力が入らないのだ。

「だっ、大丈夫ですか!?」

 慌てるレンに、教室から出てきたばかりのクラスメイトも心配そうだ。
「いや、大丈夫です」と、言いたいが言えない。なんせ自分でも、状況が全く理解できてないのだから。

「ベアトリーチェさんは、このまま保健室へ連れて行きますので。皆さん、心配はいりません」

 それだけ言うと、魔王はヒョイッと私をお姫様抱っこした。
 あの無口な魔王がスラスラと喋っているのも驚きだが、人間になっても恐ろしくイケメンな顔が近くて戸惑ってしまう。 
 そして、またしてもあの笑顔を見せた。

 ……くっ! 効果音が入るなら『ズキューン!』ってやつだ。
 
「ベアトリーチェ様!」と、教室から見ていたアリスが駆け寄ってきた。

 ――ん?

「先生、私……ベアトリーチェ様が心配なので、保健室にご一緒しますっ」

 瞳を潤ませているが、その瞳に映っているのは私ではなく……魔王だ。まさかと思うが、魔王の美貌にやられたのか? 
 無節操すぎやしないか、聖女よ。斜め後ろには、婚約者のエルネストが居るのに。ほら、王子の顔色が悪い。

「それでは、キーランに付き添いをお願いしましょう。キーランは保健委員ですからね。よろしいですか?」と、有無を言わさないノアの一言が廊下に響いた。

 いつから、保健委員なんて出来たのだろうか?
 あー……、今朝か。ノアが遅れて来た理由はこれだ。

「はーい! カルロス先生、お供しまっす。ベアトリーチェ嬢も、いいですか?」

 キーランは、その場を和ませるように笑顔で言った。

「キーラン様、付き添いよろしくお願いします」

 こちらも微笑みで応える。

 魔王は、うなずくとアリスに見向きもせずに歩き出す。
 背後からは心配そうな視線だけではなく、嫉妬まじりの負の感情を感じた。それを放っているのがアリスだと、見なくても分かった。
 見た目だけで魔王に惚れるとか……。この顔だし、理解できなくもないが。今までの出来事を考えると、タチが悪いとしか言えない。


 保健室に到着すると、魔王は私をベッドに下ろし、キーランが部屋に結界を張った。
 魔王は、長い足を組んで目の前に座ると、ニコニコと笑顔を向けてくる。

 一体、私に何があったのか?
 それにね……足、動くんですけど。
 
「……ねえ、説明してほしいのだけど。魔王って、今まであまり喋らなかったし、表情だって……。それに、カルロスって、誰よ?」
「カルロスは、以前使っていた私の人間用の名前ですよ。学園では、カルロス先生と呼んでくださいね。ノアから言われているのですよ、人間らしく喋るようにと。怪しまれたら、に居られなくなるので」

 それがノアからの条件らしい。魔王に何か言われ、渋い顔をしていたノアを思い出す。

「ヒナ、魔王様は人に化けるの得意だから心配ないぞっ!」
「いや……そういう事ではなくて。この学園には、聖女も勇者もいるのよ?」
「言っておくが、ビーチェ。彼奴らに、私は倒せない。それに、あの女は聖女ではないぞ。光属性で加護持ちなだけだ。それよりも……さっきの男は何者だ?」

 さっきまでの丁寧な口調はどこへ行ったのか、魔王モードに戻っていく。

「レンですか? 彼が勇者みたいですね」

 魔王はムスッと表情をなくす。

「そうではない。……お前との関係だ」

 ――ああ、そうか。
 魔王は、気づいているのだ。かれと私の関係が普通とは違うと。

「私も、今日直接会って分かりました。話さなければならない事があります。出来れば、魔王城で――みんな一緒に聞いてほしいです。そうですね、早速今夜にでも時間を」

 と話している最中に、魔王はパチンと指を鳴らした。
 一瞬で、そこは魔王城の見慣れた部屋に。そして、みんなが揃っていた。
 
「……やってくれましたね」と、口調が冷ややかなノアは、本とペンを持ったままだ。

 ロランは木剣を振り上げた状態で、ジゼルは洗濯物を抱えている。放課後の、それぞれ居た場所から直接転移させられたのだろう。
 キーランは、そっぽを向いて知~らないって感じだ。

「大丈夫だ、時は止めてある」

 とんでもない事をサラッと言った。
 魔王の能力って……。

「で、ビーチェ。聞いてほしい事とは何だ?」

 どうやら、頭を整理する時間はくれないみたいだ。
 はあぁぁぁぁぁ……仕方ない。

「では、まず……。勇者レンは、私の前世である望月日向の義理の兄、望月蓮です。そして、この世界は私が読んでいた小説の中だと考えられます」

 ――自分の身に起こった出来事を、全て話した。



 ◇◇◇



「それで、合点がいきました」

 話を聞き終え、口を開いたのはノアだった。

「ヒナは、あのとき……なぜか、賊に襲われると決めてかかっていました。変だと思ったのです。その他にも、不自然な点もありましたし。この世界で、起こることが予め分かっていたのですね?」
「ええ。でも、全てが小説の内容と同じではないのです。魔族のみんなについては書いてなかったし、魔王の復活方法もかなり違いました」

「ビーチェ。それは、ここが小説の中ではないからだ」と、魔王は言った。

 魔王は信じられないのかもしれない。そう思ったが――。

「魔王の言う通りです。その小説は、この世界のが書いたものでしょう。それも、王子と聖女サイドの者です。記されなかったヒナの転生と、記されたレンの召喚――それが証拠です。多分ですが、勇者の方はその本が媒体となり、召喚が成功したのでしょうね」
「そんな事って……」
「理由は分かりません。けれど、普通の魔術師が、異世界から人を召喚するというのは、とても難しいことなのです。何より、勇者がヒナと同じ世界から来て、この世界について書かれた本がヒナの世界に存在していたなど、偶然と考えるには無理があるでしょう?」

 た……確かに。

「この件については、私が調べます。それで良いですね? カルロス先生?」
 
 ノアが魔王を軽く睨んだ。

「……………わかった」

 しぶしぶと魔王は返事し、また指を鳴らす。
 いつの間にか、皆それぞれの場所に戻っていた。

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。

長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様! しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが? だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど! 義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて…… もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。 「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。 しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。 ねえ、どうして?  前妻さんに何があったの? そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!? 恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。 私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。 *他サイトにも公開しています

弟に前世を告白され、モブの私は悪役になると決めました

珂里
ファンタジー
第二王子である弟に、ある日突然告白されました。 「自分には前世の記憶がある」と。 弟が言うには、この世界は自分が大好きだったゲームの話にそっくりだとか。 腹違いの王太子の兄。側室の子である第二王子の弟と王女の私。 側室である母が王太子を失脚させようと企み、あの手この手で計画を実行しようとするらしい。ーーって、そんなの駄目に決まってるでしょ!! ……決めました。大好きな兄弟達を守る為、私は悪役になります!

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~

浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。 (え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!) その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。 お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。 恋愛要素は後半あたりから出てきます。

元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ
恋愛
 侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。  病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。  また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。 「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」  無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。  そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。  生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。  マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。 「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」  三度目の人生はどうなる⁈  まずはアンネマリー編から。 誤字脱字、お許しください。 素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。