転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

文字の大きさ
32 / 115

31. 剣術大会とは

しおりを挟む
 もうすぐ、二年に一度の剣術大会が行われる。

 転生前で言うならば、学園祭は文化祭、剣術大会は体育祭といったところだろうか。
 今年は特に創立記念の節目の年だから、こちらも気合いが入っている。

 無論、全員出場……って事ではない。選択科目として剣術教科を取っている者と、希望者のみだ。

 ただし、希望者は最低限のラインをクリアしているという証明書を、剣術担当の教師に書いてもらわなけばならない。ちなみに、剣技を競う大会のため魔法は禁止だ。

 しかも、授業の一環だから、出場者以外は応援として全員参加が義務付けられているのよね。

「どうせ参加するなら、私も出たいわ」

 ポロッとこぼした途端……。
「駄目です」と、即座にノアに却下された。

「そうですよ、お嬢様! 私だって出たいの我慢しているのですからっ」と、更にジゼルからも追い討ちが。
 
 一般参加の部として、生徒の親族や卒業生、連れて来ている侍えも参加可能なのだ。
 あくまでも、可能ってだけ。そっちの枠は、ある意味……デモンストレーションみたいな感じで、騎士関連の人達によって美しい剣技を見せるのが目的だ。
 だから、参加する者は生徒よりも高い基準で厳選される。

「当たり前だわ。普通の侍女が、騎士にアッサリ勝ったら変だもの」
「……分かっております。ですからっ、病弱な公爵令嬢のお嬢様も、屈強な殿方に勝つわけにはいかないでしょう!」
 
 くっ……反論できない。
 ジゼルの言うことはもっともだ。毎日、保健室に通う私は、完全に病弱だと思われている。

「せっかくだ、みんなで俺を応援してくれ!」

 ロランは口を挟むと、楽しそうに言った。

「ロランは……。本気出しちゃ駄目よ」
「そうだよ~、相手殺さないようにねっ」
「上手く負けるのも経験だ」
「しっかり、応援しますっ!」
「……両手足に、重力の重しでも付けてやるが?」

 最後の一言は、魔王だ。

「なあ……ジゼル以外、皆酷くないか?」と、ロランはしょげた。

「だ、だって魔族最強戦士でしょ! 強いのは知っているものっ」

 慌ててフォローする。
 キーランとノアは、明らかに面白がっているだけだが。

「そ、そうか?」

 少し照れながら、ロランは元気を取り戻す。単純で素直、憎めない所がロランの長所だ。
 ただ、剣を持たせたら、ガラリと雰囲気が変わるのが凄い。いくら人間の姿で力を抑えても、見る者が見たら強者であるとすぐに分かってしまう。

「そういえば、レンはどうするのかしら?」

「たぶんだが、出場するだろう。王子も出るしな。確か通常授業の他に、特別授業を受けさせられているはずだ。大会は、実践に向けてのいい訓練になる」と、ロランは言った。
 
 つまり、国側は魔王討伐を急いでいるのだ。

 召喚者なら、チート能力とかがあるかもしれない。でも……。
 もしもよ、転移して来ただけで、特殊な力や魔法が使えるようになっていなかったら?
 ずっと引き籠っていたのだから、体力は人並み以下の可能性がある。

 私の考えていることが分かったのか、ノアが口を開く。

「ヒナはキーランと一緒に、救護テントでカルロス先生の手伝いになっています。もう、申請は通りました。そこなら、競技場がよく見えますからね。ただし、絶対に飛び出してはいけませんよ」

 まだ、盗賊と間違えて斬りかかった事を根に持っているのね。

「はい……、気をつけます」と大人しめに返事する。

「危なかったら、時間を止めてやる」

 それなら、人の目を気にせず助けられる。
 魔王は、私の想像を遥かに超えた力を持っているのだろう。その証拠に、勇者であるレンを助けることも全く厭わない。
 
「それから、来賓にはこの国の有力者と、近衛騎士団、宮廷魔術師団の代表者がやって来ます。……ジゼル、お願いしますね」
「はい、抜かりなく」
 
 ノアとジゼルは笑みを交わす。

 何故、剣術大会なのに魔術師団までも見に来るのかというと、魔法禁止の大会で不正ができないように、布石を打っているのだ。所詮学生に、宮廷魔術師団の代表者を欺くなんて不可能だと、皆が理解しているから。

 その後、ジゼルからあの門番を雇った者が判明したと、報告があった。

 かなりの恐怖を与えた後……最終的には、キーランの魔眼で白状させたそうだ。
 だったら、最初からキーランに頼めばよかった気がするが。私を襲わせようとした事が、ジゼルの怒りを買ったのだ。

「賊のアジトも、しっかり潰しておきましたからご安心を」と、ジゼルはにこやかに言う。

 え? いつの間に?

「ジゼルの剣の腕を試すのに、ちょうど良かった。ああ、俺は見ていただけだぞ。ただ、まだ少し時間がかかっていたな。ジゼル、最強の侍女になるには訓練あるのみだ」
「はい、ロラン様!」

 キラキラ見つめ合っているが、内容が内容なので全然ときめかない。うん、詳しく聞くのは遠慮しておきます。

「……ロランとジゼルは、楽しそうだな」

 ボソッと、魔王は呟いた。
 ゆったりとした椅子に座り、頬杖をつきながら私をジーッと見つめている。目が合った瞬間、ニコッと笑った。

 なっ――!? ふ……不意打ちとは卑怯だわ。

「ビーチェ、救護テントでいつでも倒れてよいぞ。介抱してやろう」
「あの……私、別に病弱じゃありませんから」

 私が倒れるのって、いつも魔王のせいじゃない。照れ隠しに、クルッと魔王に背を向けた。

「……そうか」と、沈む声。

 横目でチラリと見ると、一瞬だが魔王の顔に影が落ちた気がした。
 
 ――ん? 今の表情はなに?

 ふと、私は魔王について殆ど何も知らないことに気づいた。まだ、話してくれない過去――カルロス以外の本当の名前すらも。
 さっきの表情が少し気になり、魔王のことが心配になった。

 ……がっ! 

 突然、また私の足がすくわれた。ぽすんっと魔王の膝の上に着地すると、そのままギュッと後ろからハグされる。
 
「なっ!?」
「ほら。ビーチェは、やはり倒れやすい」

 耳元で囁かれた。

 ひ、ひゃあぁぁぁぁっ!!

 慌てて魔王の手を振り解き、膝から飛び降りた。
 思わず耳を手で隠す。顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。

 くうっ、魔王は何がしたいのよぉ! 

「あまり、ヒナで遊ばないでくださいね。特に、救護テントでは」

 ノアに釘を刺された魔王は、悪びれもせず「程々にしておく」とだけ言った。

 ほどほどって……。剣術大会、不安だわ。





 ◇~おまけSS ~◇


「アルシェも、剣術大会でるんだろ?」
「ああ、もちろん出るさっ! レンもだろ?」

 いつもの植木の間で、座り込んで喋っていた。この場所は、アルシェの特別な場所なんだそうだ。周りを気にせずにいられるので、俺も気に入った。

「ああ、出ないといけないらしい。憂鬱だよ」と、つい愚痴をこぼしてしまう。

「そうなんだ、僕は精一杯やって怪我して救護テントが目標さっ!」
「は? 救護テント?」
「なんと、ベアトリーチェ様が手伝いに申請出されたそうなんだ!」
「でも、手当てするのは先生だろ?」
「当然だろ。近くでお顔が見れれば、それで怪我した甲斐があるってもんさ」

「お前……ストーカーになるなよ」

 少し不安になった。

「なるわけないだろっ。憧れって言うか……好きな人のさ、幸せを願っても、想いを押し付けるのは違うだろ。相手が嫌がる事は絶対にしないよ」
「……そうだよな、違うよな」
「ちょっ、レン! 何で泣いてるんだよっっ!」
「泣いてなんかない……」
 
 異世界だけど、アルシェという友達が出来たことが嬉しかった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令嬢、放浪先で最強公爵に溺愛される

鍛高譚
恋愛
「スカーレット・ヨーク、お前との婚約は破棄する!」 王太子アルバートの突然の宣言により、伯爵令嬢スカーレットの人生は一変した。 すべては“聖女”を名乗る平民アメリアの企み。でっち上げられた罪で糾弾され、名誉を失い、実家からも追放されてしまう。 頼る宛もなく王都をさまよった彼女は、行き倒れ寸前のところを隣国ルーヴェル王国の公爵、ゼイン・ファーガスに救われる。 「……しばらく俺のもとで休め。安全は保証する」 冷徹な印象とは裏腹に、ゼインはスカーレットを庇護し、“形だけの婚約者”として身を守ってくれることに。 公爵家で静かな日々を過ごすうちに、スカーレットの聡明さや誇り高さは次第に評価され、彼女自身もゼインに心惹かれていく。 だがその裏で、王太子とアメリアの暴走は止まらず、スカーレットの両親までもが処刑の危機に――!

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~

百門一新
恋愛
大妖怪の妖狐「オウカ姫」と、人間の伯爵のもとに生まれた一人娘「リリア」。頭には狐耳、ふわふわと宙を飛ぶ。性格は少々やんちゃで、まだまだ成長期の仔狐なのでくしゃみで放電するのもしばしば。そんな中、王子とのお見合い話が…嫌々ながらの初対面で、喧嘩勃発!? ゆくゆく婚約破棄で、最悪な相性なのに婚約することに。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。 ※ベリーズカフェに修正版を掲載、2021/8/31こちらの文章も修正版へと修正しました!

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢アクア・ラズライトは、卒業パーティーの最中に婚約者であるジュリアス殿下から「悪役令嬢」として断罪を突きつけられる。普通なら泣き崩れるか激昂する場面――しかし、超合理的で節約家なアクアは違った。

処理中です...