転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

文字の大きさ
34 / 115

33. 何かが起こる予感

 ――歓声と共に、開会式が始まった。

 開会宣言の後は、学園長の挨拶だ。テンポ良く式次第の通りに進行していく。来賓紹介が終わると、在学中の王族であるエルネストの選手宣誓。
 選手も応援席も盛り上がっている。学園祭の時とはまた違った熱気で溢れていた。

「魔術師団と近衛騎士団の代表って、あの人達だったのね」

 隣りに座っているキーランに、小声で話しかける。
 救護テントの前に簡易的に設置された席から、開会式を眺めていた。

 魔術師団代表は、アリスの魔力測定にわざわざやって来た宮廷魔術師だった。やはり、魔術師団の中でも重鎮だろうとの予想は当たっていたのだ。
 そして、近衛騎士団代表はカルロスの魔眼で見たばかりの、あの近衛騎士だった。お茶会の時から、正義感は強そうだと思っていたけれど……まだ若そうなのに、随分と出世したものだ。

 開会式が終わると間もなく、競技がスタートした。



 ◇◇◇

 

 つ、疲れた……。

 怪我人は大して出ないだろうなんて、誰が言ったのかしら?
 予測に反して、救護テントはごった返していた。

 そんな擦り傷で救護室へ来るのか……ってレベルの生徒が多くてビックリする。追い出すわけにもいかないので、取りあえずカルロスが軽く診断して、私とキーランで薬を塗る。
 完全な流れ作業になっていたが、終わるとみんな嬉しそうにニコニコしてテントから出ていく。

 何なんだ、これ?

 首を傾げながらも時間は過ぎて、ようやく前半が終了し休憩時間となった。

「ちょっと、足りないやつ補充してくるね~」と、全く疲れを見せないキーランは、軽やかにテントをあとにした。

「……疲れましたね」

 カルロスに声を掛けると、楽しそうに私を見て言う。
「なかなか面白かった。……後半も楽しみだ」と。

 魔族って、みんなタフなのかしら?

「失礼します」とノアが入ってきた。

「後半のトーナメントが発表されました。とても、面倒な事が起きそうですよ」

 不安要素を含んだ言い回しなのに、ノアの表情はいつもと変わらずクールなまま淡々としている。

「暫く私がこちらにいますので、ベアトリーチェ嬢は休憩されてはどうですか?」
「そうね、ちょっと行ってきます。せっかくだから、トーナメント表も見てきますね」

 ちょうど喉も渇いていたので、ノアからの提案に甘えることにした。
 テントを出て、周囲に誰もいないのを確認すると、グーッと伸びをする。体力的に疲れているわけではないが、常に人と接していたせいで気疲れしたのだ。
 ずっと口角を上げていたので、グリグリとコリをほぐすように頬を揉む。

 ――ん? あれは……。

 ケリーの尻尾がチラリと見えた。
 どうして猫の姿で走っているのだろうか。キーランが補充のために向かった保健室は反対だ。
 気になって、思わず気配消して跡を追ってしまった。

 ケリーは、誰かを尾行していた。

 一定の距離を取りつつケリーを追って行くと、学園の生徒でも滅多に行かない奥の方までやって来ていた。人気ひとけもなければ植木もあまり手を入れられてない、塀ギリギリの場所。幸い、身を隠すにはもってこいだ。
 目を凝らして、ケリーの視線の先にいる人物を見た。

 あれは……。
 
 そこには男女の姿が。それも、見覚えのある二人だった。
 男の方は、来賓で来ていたあの近衛騎士。
 女の方はこの学園の生徒で、自分がよく知っている友人の一人。クラブ活動の勧誘の時に、尽力してくれた――子爵令嬢ミレーヌ・オスマンだった。
 
 どうして、あの二人が一緒に?

 逢い引きという感じではない。
 なぜなら、近衛騎士の前に居るミレーヌは、制服姿にも関わらず片膝をついた姿勢だったからだ。そう、あれは上司と部下……。

 知らず知らずのうちに、私はスカートをギュッと握っていた。

 ほんの数分で話が済んだらしい二人は、すぐにその場を立ち去った。
 そして、ケリーもまたミレーヌを追って行く。時間的に、あの二人は会場へ戻ったのだろう。 
 私は混乱し、これ以上追うことが出来なかった。

「よいしょ……と」

 植木の間から這い出ると、制服に付いた葉っぱを払う。

 頭を整理しつつ、会場へ向かってゆっくりと歩き出す。
 ケリーが尾行していたなら、それはきっとノアの指示だろう。さっきノアが言った「面倒な事」が、今の二人に関係あるのかは――まだ分からない。
 
 ま、悩んだって仕方ない。キーランの報告待ちね。

 

 ◇◇◇



 飲み物のことをすっかり忘れ、トーナメント表の確認だけすると救護テントへ戻った。

「お帰り~、ベアトリーチェ嬢。はい、どーぞ」

 先にテントに帰ってきていたキーランが、冷たいジュースを渡してくれた。

「えっ!?」
「さっきので、休憩しそびれちゃったんでしょ?」 
「あ……バレていたの?」
「僕がベアトリーチェ嬢の気配、分からない筈ないでしょっ。あっちの二人は、全く気づいてないから大丈夫だよ」

 ニコッとキーランは私を見た。

 ――パンパンッ! とノアが手を鳴らす。

「さあ、楽しい休憩は終わりです。後半の試合ですが……ロランが怪我をしますので、カルロス先生よろしくお願いしますね」
 
 とんでもない事を、ノアはさらりと言った。
 
 ――な、なんでロランがっ!?

 飲んでいたジュースが気管に入り、ゴホゴホとむせてしまう。
 そして思い出した。確か小説では、この剣術大会で優勝した勇者は、魔王を倒すための剣を手にいれるのだ。

 私のバカタレッ! 

 勇者が義兄だったことや、ここが小説の中じゃないと知り――ストーリーの流れや出来事を、すっかり忘れていた。

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。

長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様! しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが? だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど! 義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて…… もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。 「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。 しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。 ねえ、どうして?  前妻さんに何があったの? そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!? 恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。 私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。 *他サイトにも公開しています

弟に前世を告白され、モブの私は悪役になると決めました

珂里
ファンタジー
第二王子である弟に、ある日突然告白されました。 「自分には前世の記憶がある」と。 弟が言うには、この世界は自分が大好きだったゲームの話にそっくりだとか。 腹違いの王太子の兄。側室の子である第二王子の弟と王女の私。 側室である母が王太子を失脚させようと企み、あの手この手で計画を実行しようとするらしい。ーーって、そんなの駄目に決まってるでしょ!! ……決めました。大好きな兄弟達を守る為、私は悪役になります!

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~

浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。 (え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!) その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。 お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。 恋愛要素は後半あたりから出てきます。

元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ
恋愛
 侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。  病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。  また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。 「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」  無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。  そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。  生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。  マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。 「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」  三度目の人生はどうなる⁈  まずはアンネマリー編から。 誤字脱字、お許しください。 素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。