転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

文字の大きさ
38 / 115

37. 変化

「聖女アリスの方ですが。大きな動きはありませんでしたが……ドレスが大層気に入った様子で、ずっと鏡の前で踊っていましたね。ついでに、こっそりと台詞の練習もしていました」

 ジゼルの報告では、如何にも聖女といった感じのドレスは、やはり宮廷魔術師が用意していた物だった。それに加えて、台詞の練習とは……あの魔法陣と聖剣は、完全に仕組まれてものだと確定した。

 それにしても……。
 ジゼルは、かなり近くでアリスの監視をしていたようだ。よくよく聞けば、堂々とアリスの待機していた、来賓控室の侍女として潜り込んでいたと言うのだから凄い。
 さすが最強の侍女、肝が据わっているわ。
 
 小説では、魔王復活がきっかけで、アリスも何らかの力に引っ張られて聖女の力が覚醒したとあったが……。
 復活より前の階段事件の時には、既に癒しの力を披露していたのだから、覚醒のタイミングが矛盾している。小説がアリス側の人間によって書かれた物なら、聖剣の件も含め――色々と嘘くさい。

 何となくモヤモヤする。考えをまとめようと、立ち上がって部屋の中をゆっくり歩く。

「アリスは聖女ではないのですよね?」

 クルリと振り向き、再度魔王に尋ねた。

「そうだ。……混沌の時代には様々な種族が入り乱れ、光属性や闇属性のも多く、半分が魔族や天族の血が入った人間も少なくなかった。聖女なんてものは、そういった者が減った時代に、人間が勝手に呼ぶようになっただけだ」

 ふとノアを見ると、うなずいている。
 天使といった呼び方も、人間が勝手に付けたと言っていたのを思い出した。

「特別な力もない、ただの光属性のアリスには、あの剣が持てないのですよ。一見は聖なる剣のようですが、あれは魔剣ですからね。闇属性か、魔族でなければ触れることは不可能です。まあ、触れられたとして、使いこなせるかは別ですが。だから、勇者が必要だったのでしょう」
「なぜ、勇者には可能なの?」

 素朴な疑問をそのままノアに投げかけた。
 レンは聖剣を普通に持つことが出来ていた。

「それは、私にも……。可能な人間が異世界の勇者だった、と考えるしかないですね。この世界の者でも、他の世界の者でも構わなかったのでしょう」

 義兄が――適性のあった望月蓮が、あの本のせいでたまたま召喚しやすかった。そういう事だろうか?
 だとしたら……。

「転生者である私にも、扱えるのではないかしら? 魔王の魔力を分け与えられていますけど、それなら問題な」

 ――ボスッ!

「ふぇっ!?」

 急に手首を掴まれて、気づいたら魔王の腕の中だった。

「絶対に! ――あの剣に触れてはならないっ!」

 魔王の胸に顔を埋めた状態で、上から言葉が降って来る。視界が遮られているせいか、魔王の表情は分からない。
 ただただビックリした。
 魔王の鼓動が聞こえ、自分が抱かれていることが理解できると……恥ずかしさもあり、どうしていいか分からなくなった。
 いつもの揶揄いかと思い、もう一度提案する。

「……で、でも。やってみる価値は」

 グイッと両肩を掴まれ、魔王から身体が離された。魔王は少し屈むと、真正面から私を見据えた。紫と赤の宝石のような瞳から目が離せない。

「お前は、!」

 もう一度言われた言葉は、あまりにも真剣で、背筋が凍る程の鋭さを秘めていた。
 ……ゴクリと唾を呑んだ。
 返事の出来ない私に代わり、ノアが口を開く。
 
「いいですか、ヒナ。もしもヒナに勇者の資格があったのなら……レンではなくて、ベアトリーチェとしてあなたが召喚された筈です。異世界の召喚よりも、同世界の方が簡単なのですから。資格のない者が触れることは、命の危機もあるということです。――そうですよね?」

 怖いくらいに真剣な声。
 魔王はノアの問いかけに「……そうだ」と小さく返事をした。
 
「……分かりました。私はあの剣には触れません」
「絶対だ」

 魔王に言われうなずくと、やっと私の肩を掴んでいた手から力が抜けた。
 安堵したのか、魔王の雰囲気が和らぐ。

 そして、話はロランの剣術大会の感想へと移っていった。
 いつもなら興味をそそられる内容なのに、頭に全く入ってこない。
 掴まれた肩の感触と、魔王の鼓動の音が耳から離れず、自分の胸の高鳴りを抑えることで精一杯だった。
 


 ◇◇◇
 


 ――翌日。

 昨日の濃い一日と違い、寮の部屋でゆっくりとしていた。
 ふとすると、魔王のことを考えあの瞳を思い出す。なぜか胸がキュッと苦しくなってしまう。頭を左右に振り、魔王のことを考えないようにする。
 
 きっと私は、男性に対する免疫がないのだわ。

 ――トントン、と部屋の扉がノックされた。

「お嬢様、よろしいでしょうか?」

 そう言って、ジゼルはティーセットのワゴンと一通の手紙を運んできた。
 差出人を見ると、オリヴィエからだ。学園の敷地内であっても男女の寮は別なので、用事があれば側仕えを通じて手紙のやり取りをする。
 手紙に目を通すと、思わず笑ってしまった。

「オリヴィエ様は、何と仰っておいでですか?」

 ジゼルも、剣術大会でロランに負けた上、気絶した――いや、気絶させられたオリヴィエを心配していたのだ。

「明日の休みに、一緒に街に買い物に行きたいそうよ。ついでに美味しいスイーツのお店で、昨日の残念会をしてくれって言ってるわ」
「まあ! オリヴィエ様は甘い物がお好きですものね」

 ホッとしたジゼルは、嬉しそうにそう言った。

「早速、返事を書くわ。再来年は優勝するように、いっぱい励ましてあげなきゃね!」

 ウキウキしながら返事を書くと、ジゼルに届けてもらった。
 まさか、その誘いにはオマケが付いているとは知らずに……。
 

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。

長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様! しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが? だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど! 義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて…… もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。 「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。 しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。 ねえ、どうして?  前妻さんに何があったの? そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!? 恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。 私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。 *他サイトにも公開しています

弟に前世を告白され、モブの私は悪役になると決めました

珂里
ファンタジー
第二王子である弟に、ある日突然告白されました。 「自分には前世の記憶がある」と。 弟が言うには、この世界は自分が大好きだったゲームの話にそっくりだとか。 腹違いの王太子の兄。側室の子である第二王子の弟と王女の私。 側室である母が王太子を失脚させようと企み、あの手この手で計画を実行しようとするらしい。ーーって、そんなの駄目に決まってるでしょ!! ……決めました。大好きな兄弟達を守る為、私は悪役になります!

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~

浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。 (え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!) その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。 お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。 恋愛要素は後半あたりから出てきます。

元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ
恋愛
 侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。  病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。  また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。 「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」  無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。  そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。  生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。  マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。 「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」  三度目の人生はどうなる⁈  まずはアンネマリー編から。 誤字脱字、お許しください。 素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。