転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

文字の大きさ
68 / 115

66. それぞれの思い

しおりを挟む
 行けぇっ!

 刺した指先から、魔剣に魔力を流し込むと同時に――。

「魔王の魔力のお裾分けですわ」

 バスチアンに一言告げると、玉座に向かってパッと転移する。

「は……っ!?」

 捕まえていたはずの私が消え、一気に膨らんだ魔剣にバスチアンは動けなかった。
 大きな破裂音と共に、黒紫の光がバスチアンを呑み込むと爆風が起こる。壁や天井がバラバラと崩れなから宙を舞う。
 随分と見晴らしが良くなってしまった。

 ……あ、やり過ぎた?

 さっき、キーランから教えてもらった作戦――ノアにレンがを、まんま魔王の魔力で真似してみたのだ。

「ビーチェ、なかなか思い切りが良いな」

 ククッと笑うカルロスは、私がを最初から分かっていたみたいだ。

「……えっと、加減が分からなかったんです」

 勢いは抑えたつもりだったが、正直ここまで凄いとは……。

「こ……こんなっ……有り得、ん……」

 バスチアンは、私に反撃されるとは思わなかったのだろう。
 ボロボロになりながらも、辛うじて浮いているバスチアンは私を睨みつける。

「さて、バスチアン。元とは言え私の臣下……謀反の始末はさせてもらうぞ」

 カルロスはバスチアンを見据えて、そう言った。
 玉座に座ったまま小さく指を動かすと、息も絶え絶えだったバスチアンは声なき声と共に、スッと姿を消した。

 カツーン――……!

 と無機質な音だけが静かな部屋に響く。

 バスチアンが居た場所から真下に落下し、コロコロと転がった魔石。ロランはそれを拾い上げると、魔王に差し出しす。
 カルロスは、しばらくその魔石を眺める。

「やはりか」

 一言だけ呟くとキーランを呼んだ。
 キーランも同じように魔石を凝視する。それから、魔王に軽く頭を下げ、魔石を手にそのまま城から姿を消した。

 魔族の核……。

 初めて、命があっけなく終わる瞬間を見た。自分や両親の時は、直接目にしたわけではない。
 たとえ許せない相手であっても、何とも言えない胸の詰まりを感じた。物語とは違って、こんなにも重いとは――。

「ビーチェ……」

 カルロスが、いつの間にか震える私の手を握っていた。

 ――私は知っている。

 カルロスがバスチアンに向けて指を振った時、大きな魔王の魔力が一瞬だけ、凪いだ。元臣下に向けての、彼なりの弔い。
 だから、私もちゃんと受け止めなければ――生半可な気持ちではなく、戦って勝つと決めたのは自分だもの。

「ええ、大丈夫です」と、カルロスに微笑む。

 そして、私以外にも他人の死に大きく反応した者がいた。
 義兄の顔は、今にも倒れてしまうのではないかと思うほど、血の気を失っている。

 そんな中、ずっと黙っていたノアがアリスに向かって歩き出した。
 ハッとしたエルネストは、震えながらも倒れているアリスを守ろうと抱きしめて庇う。

「頼む、ノア……。アリスを連れて行かないでくれ!」
「エルネスト殿下、私が連れて行くのはです。その体の持ち主には、用はありません」
 
 ノアはバサっと大きな銀翼を広げた。手には鳥籠のような、輝く小さな檻を持っている。

 エルネストはノアの姿に息を呑んだ。

 魔族かと思ったら実は天族だなんて、そりゃあ混乱しているだろう。
 ノアは、横たわるアリスの中から青白く光る玉を取り出し、暴れるを檻へと入れた。
 
『ここから出せー!』と玉は騒ぐ。

「やっと、捕まえましたよ。お前が逃げ出したせいで、可愛い元部下たちに泣きつかれて大変だったのですよ。お陰で、私は随分と迷惑を被りました。処分は天界うえがしますから……覚悟してくださいね」

 鳥籠を持ったノアは、いつも以上に冷ややかな微笑を浮かべた。

『お、お前……まさか?』

 と玉は何かを言いかけたが――ノアの視線を受け、ビクッと跳ねて怯えるように震え出す。それ以上は何も言わなくなった。

「ああ、エルネスト殿下。其方のアリスはお好きにどうぞ」

 ノアはもう用は無いと踵を返す。
 玉座の前まで行きノアが跪くと、カルロスは黙って頷いた。

「では、これを届けて参ります」と、挨拶をしたノアは飛び立った。

 ……ノアって、何者なんだろう?
 またしても、頭の中は疑問符でいっぱいになってしまった。いつか絶対、聞き出したいわ。

「……んんっ」

 静かな空間に、呻き声が響く。

「あ、アリス! 気が付いたかっ!?」

 エルネストの声で、アリスが目覚めたことが分かった。

「エルネスト……殿下?」

 アリスは、ボーっとするのか頭を振り、しばらく一点を見ていた。

 今、殿下って言ったわ。本来のアリスは、まともな令嬢なのかしら?

 ぐるりと辺りを見回し、アリスはおもむろに立ち上がると――グラリとよろけた。バスチアンに魔力の殆どを持って行かれたのだろう。

「大丈夫かっ!」

 慌ててエルネストが手を貸した。
 アリスは御礼を言って、エルネストに支えられながら、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる。
 そして、正面までやって来ると平伏すかのように頭を下げた。

「魔王様、ベアトリーチェ様……どうか、私を裁いてください」

 毒が抜けたかのように、アリスは静かな口調でそう言った。今までのアリスの印象とは全く違う。
 私だけでなく、アリスの横に立つエルネストも戸惑っている。
 カルロスは表情を変えず、黙ってアリスを見下ろした。

「全て、この身体の中で見ておりました。あの方は、私の心の弱さが呼び寄せてしまったです。誰でもいいから、私を愛してくれる人が欲しかった……彼女の甘い言葉に、私は自らこの体を差し出したのです」

 淡々とアリスは話す。

「それならっ、アリスは奴につけ込まれただけだろう!」

 エルネストは怒りを露わにした。

「いいえ。私も、全てを持っているベアトリーチェ様を妬む気持ちがあったのです。私が持つ光属性の力も、微々たるもの。それでも、幸せになりたかった……エルネスト殿下の隣に並びたかった」

 身分の違い――。
 儚く微笑むアリスは、エルネストが本当に好きだったのだろう。
 男爵家で虐げられていたのも、嘘ではないのかもしれない。以前……連休後あたりから、急にアリスの様子が露骨に酷くなったと思い出す。
 
「残念だが、私は人間を裁きはしない」
 
 カルロスの言葉に、アリスはぎゅっとスカートを握りしめた。
 たぶん、アリスは自分が許せないのだ。かといって、自害を選べばエルネストを追い詰めてしまうと分かっている。

「……だが、そうだな。私の優秀な右腕から提案があるようだ」

 カルロスは、聞こえてきた羽音に意味深長な笑みを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令嬢、放浪先で最強公爵に溺愛される

鍛高譚
恋愛
「スカーレット・ヨーク、お前との婚約は破棄する!」 王太子アルバートの突然の宣言により、伯爵令嬢スカーレットの人生は一変した。 すべては“聖女”を名乗る平民アメリアの企み。でっち上げられた罪で糾弾され、名誉を失い、実家からも追放されてしまう。 頼る宛もなく王都をさまよった彼女は、行き倒れ寸前のところを隣国ルーヴェル王国の公爵、ゼイン・ファーガスに救われる。 「……しばらく俺のもとで休め。安全は保証する」 冷徹な印象とは裏腹に、ゼインはスカーレットを庇護し、“形だけの婚約者”として身を守ってくれることに。 公爵家で静かな日々を過ごすうちに、スカーレットの聡明さや誇り高さは次第に評価され、彼女自身もゼインに心惹かれていく。 だがその裏で、王太子とアメリアの暴走は止まらず、スカーレットの両親までもが処刑の危機に――!

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~

百門一新
恋愛
大妖怪の妖狐「オウカ姫」と、人間の伯爵のもとに生まれた一人娘「リリア」。頭には狐耳、ふわふわと宙を飛ぶ。性格は少々やんちゃで、まだまだ成長期の仔狐なのでくしゃみで放電するのもしばしば。そんな中、王子とのお見合い話が…嫌々ながらの初対面で、喧嘩勃発!? ゆくゆく婚約破棄で、最悪な相性なのに婚約することに。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。 ※ベリーズカフェに修正版を掲載、2021/8/31こちらの文章も修正版へと修正しました!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢アクア・ラズライトは、卒業パーティーの最中に婚約者であるジュリアス殿下から「悪役令嬢」として断罪を突きつけられる。普通なら泣き崩れるか激昂する場面――しかし、超合理的で節約家なアクアは違った。

処理中です...