転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

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90. 季節はめぐる

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 ――そろそろ、学園祭の時期がやってくる。

 気づけばそれも三回目。
 二年に一度の剣術大会は行われない年だから、これが終われば卒業に向けての準備となる。

 一年前は、特別な年でもあり来賓も錚々そうそうたるメンバーだった。
 まあ、独断で婚約破棄騒動を起こしたエルネストの尻拭いのせいで、否応なくそうなってしまったのだけど。随分と前の出来事のように感じる。

 今年は例年通りの、学園祭とダンスパーティーになりそうだ。平穏な学園生活を送れている今、気負うものは何もない。
 
 ただ……。

 ノアが居なくなってしまったことが、私の気分を重くしていた。ちょいちょい都合で、存在を消して動くノアだが、何だか今回は胸騒ぎがするのだ。
 例の島国の件で動いているため、心配はいらないとカルロスは言うのだけれど……あの緑髪の天族の言葉が、どうにも頭から離れない。


「ベアトリーチェ様に選ばれる方が羨ましいですっ」

 急に自分の名が耳に入り、ハッとして顔を上げた。隣に座ってケリーを撫でまわしていたアリスが、口を尖らせながら言ったのだ。

「ダンスパーティーのエスコートしていただく、パートナーのことですか? ん……? 今、羨ましいって言いましたか?」

 コクッとうなずいたアリスは「私が男性なら良かったのにっ」と口惜しそうに答えた。

 う、うーむ……。

 最近のアリスは、確実に変な方向に走っている気がする。エルネストが聞いたら、ガッカリと肩を落とすのではないだろうか?

「アリス様には、エルネスト殿下がいらっしゃるでしょう?」
「それはっ! そうなのですが……」 

 私の言葉に、ポッと頬を染めるアリス。
 なんだかんだ言っても、やはりエルネストが好きで仕方ないのだ。素直なアリスは、とても可愛らしく見える。
 あれだけダンスの練習をしていたのだから、きっと上手に踊れるだろう。

「ベアトリーチェ様とダンスしたいのは本当ですから!」とアリスは真剣に言う。
 
 いや。そこ気にしてないし、大丈夫だから。

「ロラン様やキーラン様が有力でしょうか? それとも、公平にオリヴィエ様が?」

 アリスは私の相手が気になるのか、まだ食い下がる。

「多分ですけれど、オリヴィエに頼むと思います。それが無難ですから」

 一応、学園祭なので、このダンスパーティーは生徒のみ参加資格がある。
 本当の社交界なら、パートナーの有り無しはもちろん、相手次第では醜聞に関わる場合があるが、あくまでも今回は学園行事。

 昨年のような騒動でもない限り、さして心配するような問題は起こらないだろう。
 パートナーなしで参加することも可能ではあるが、やはりそこは貴族社会。見栄え的にも、相手がいるに越したことはないのだ。

 婚約者のいなくなった私は……。

 第二王子との婚約白紙は、多少の枷にはなるが、公爵令嬢という立場に大きな変化はない。
 そのせいか、それなりの爵位がある令息などは親から後押しされたのだろうか、私の地位狙いだけで寄ってくる者が多くなった。
 私宛に何通も届く手紙は、片っ端から断りの返事を出している。

 面倒だから、婚約者のいないロランやキーランに頼んでも良いのだけれど。後々、周囲が騒がしくなるに決まっている。
 まあ、一番の問題は生徒ではないカルロスなのだけど。絶対、エスコートをやりたがる気がする。納得してもらうには、親族がベストだ。
 ノアが居ない今、カルロスが暴走したら誰もが止められないもの。

 アリスに撫でられながら、ケリーは片目を開けて「ニャ~」と鳴いた。訳すなら「だよね~」だろう。

「アリス様のドレスは、エルネスト殿下が?」
「はい。楽しみにしていてほしいと言われました」

 アリスには去年の記憶がない。
 そのあたりも考慮して……エルネストは今のアリスに似合う物をセレクトするだろう。
  
 さて、私はドレスをどうしようかしら?
 


 ◇◇◇



「私がビーチェに贈るに決まっているだろう」
 
 ジゼルが紅茶を注いでくれ、ミルクを入れようとしていた手を思わず止める。
 何を当たり前なことかとばかりに、カルロスは言った。
 魔王城でのティータイム。
 その中にノアの姿がないのは、寂しいが。

「エスコートはオリヴィエに頼むつもりですし、新しいドレスは必要ありません。手持ちのドレスで良いかと思っているのです」

 公爵邸には、まだ公で着ていないドレスがたくさんある。昨年は、お父様から贈られた赤いドレスだったが。
 まあ、あれにはノアが一枚かんでいた気がしてならないけど。
 
「何を言う。ビーチェのパートナーは私だ。エスコートも当然私だろう」
「……あのですね、ダンスパーティーは生徒のみ参加ですが?」
「ならば、私が生徒になればよかろう? それとも、教師も参加にルールごと変えるか?」

 ………はい、嫌な予感が的中です。

「魔王様。僭越ではございますが、少々よろしいでしょうか?」

 ジゼルはカルロスに向かい、物怖じしないで言った。

「構わん。話せ、ジゼル」
「ありがとう存じます。生徒としてお嬢様のパートナーになりますと、周りから注目され噂の的となるでしょう。その際、公爵家で身元をお調べする事態になります。それでしたら、初めから公爵様に認められていらっしゃるとして、パートナーに申し込まれた方がよろしいかと」
「うむ。では、学園の規則を変えよと?」

「はい」と、ジゼルはお辞儀した。

「ちょっと、そんな勝手にっ!」

 慌てて止めようとするが、二人は視線を合わせ口角を上げた。
 あー、この顔は何を言っても聞かなそうだ。

「うん、ヒナ諦めよう!」とキーラン。

「そうだ、魔王様はノア以外には止められん」

 ロランも、諦めろとばかりにポンポンと私の肩を叩いた。

「……ロランはどうするの?」

 恨みがましく聞いてみた。

「俺はダンスは踊らないから、誰とも組むつもりはない」
 
 キッパリとロランは言いきる。

 ん?

 確かに、ダンスパーティーでロランが踊るのは見たことがない。けれど、この城でみんなで踊ったのだから――踊れないじゃなくて、踊らない?

 ああ!? もしかして!

 チラリと横目で見れば、ちょっとだけジゼルの口元が緩んでいる。なるほど。ロランが踊りたい相手は一人だけなのね。

「では、キーランは?」
「俺は、ミレーヌ嬢を誘ったよ~」
「えっ!?」

 まさか、もうパートナーを決めているとは思わなかった。

「あはは! 驚いた? ミレーヌ嬢とは利害が一致しているからね」
「……利害って」
「ミレーヌ嬢も偽りだし、俺もそうだから後腐れがないでしょ。あ、もちろん正体はバラしてないからね。ちょっとだけ、知ってることを話しただけだから」

 キーランは、ニコニコとお菓子を口に放り込む。
 なんだろう、そのちょっとだけが気になるわ。監視者のミレーヌがそれを受けたのなら、問題はないのだろうけど。キーランに想いを寄せる令嬢達が、大騒ぎしそうだわ。

 一波乱起きないといいのだけれど……。
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