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92. 覚醒
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は? ――何よ、それ。
王妃の印? 私はそんな話……聞いていない。
『なぁに、その表情。僕が怖いの? あはっ、そうだよね! 所詮、人間の君は魔王がいなければ、ここから逃げ出すことすら出来ないんだから。その魂……回収したら、魔王はどんな顔をするのかな?』
間近で聞こえる緑頭の声。
けれど、私の頭に入ることなく耳をすり抜けていく。私を煽る喋り方やその表情なんて……もう、どうでもよかった。
私は、カルロスが好き。
それは紛れもない事実。
だがこの印を入れられたのは、私が自分の気持ちに気づく前だ。何の説明もなく、勝手に王妃にさせられるのは納得がいかない。
きっと今なら――カルロスから面と向かって言われれば、私は断らないだろう。
でもねっ! そういう事じゃないのよ!
もしも、私がカルロスを好きになっていなかったら? ビーチェではないベアトリーチェとしての、私の気持ちはどうなってしまっていたの?
今すぐ、カルロスに会って確かめたい。それにはまず、ここから出なくては。本当に魔法が使えないのか、確認しないと。
下ろしていた手をギュッと握り、身体の中を流れる魔力に意識を集中させる。
『……無駄だよ。いくら印に魔王の力があったって、魔族が使う闇属性の力は僕には効かないよ』
憎らしい顔で囁くと、ニヤリと笑った。
私のこめかみがピキリと動く。
ノアにそっくりな顔だが、全然似ていない。目の前にいる緑頭の頬を、張り倒したい気分に駆られた。
――バシンッ!!
私の身体に触れていた緑頭の手を、思い切り払いのけ、すかさず後ろへ飛んで距離をとる。
多少は痛かったのか打たれた手をさすり、蔑む視線を私に向けた。
私はそれを跳ね返すように、緑頭を見据える。
『へぇ、生意気だね』
「……あなた、五月蝿いわ」
ボソリと言葉がこぼれ落ちた。
『な……んだと!?』
こんな所で、いつまでも頭のおかしい奴なんかに付き合っていられない。私は今、怒っているのだ。
「私はね、彼のパートナーなの。だからこそ、魔王の口からちゃんと聞かなきゃいけないのよっ!」
妃の印がなんだと言うのだ。
カルロスの魔力が使えないのなら、私の力を使えばいい。子供の頃から魔法の適性は持っていなかった。そんなのは百も承知だ。
けどね。カルロスに守られているだけの、ただのお飾りの存在になんてなりたくない。私は自分を信じてみたいの。
――パートナーなら、私だってちゃんと相手を守りたいんだから!
印に手を当て、流れる魔力を逆に抑え込むように意識を持っていく。
そして、自分自身を感じるように、心の奥底に沈む何かを解き放つ。
鍵として、魔王を復活させた時に似ている感覚。全身が燃えるように熱くなっていくと、熱風が吹き荒れ、私の髪は舞い上がる。
『お前――まさかっ!?』
驚愕した顔の緑頭は、真っ赤な光に包まれ弾き飛んだ。
見えない壁か天井でもあったのか、緑頭は何かに激しくぶつかった。その衝撃で、白い空間に細かなヒビが入っていく。
緑頭は大きな翼を広げたまま、ズルズルと下に落ちた。
パキンッパキンッとガラスが割れるような音が鳴り、キラキラとしたものが降ってくる。大きめなものが、勢いよく床に落ちると更に細かく砕けた。
どうやら、ガラスではなく鏡の破片のようだ。
――ピッと、その破片が私の頬をかすると痛みが走った。
熱をもった頬に軽く触れれば、指先が血で染まる。
このまま、ここに居たら危ない――頭では分かっているが、なんせ逃げ場が見つからない。結界を張ろうにも、さっきの一発で私の力は消えてしまったみたいだ。
考えている間にも、剥げ落ちる破片はどんどんと増えていく。
パァンッ――と激しい音と同時に、グラグラと地響きが起こった。
バキ、バキバキッ……バキンッ!
マズいと思った時には、高い位置から鋭く尖った大きな破片が私に向かって加速する。
もうダメかもしれない。せめて致命傷にならないでほしいと祈りながら、目を閉じ、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
数秒の出来事のはずだが、とても長く感じる。
ん……あれ? 痛くない?
音が止み、眩しかった空間が薄暗くなった感じがした。ゆっくりと目を開く。やはり、気のせいではなく暗かった。
しゃがんだまま、恐る恐る上を見上げると……。
「ヒナ、大丈夫ですか?」
え?
「……ノア、なの?」
「はい。間に合って良かったです」
ニコリと笑みを浮かべたノアの顔が、そこにあった。ノアは銀翼を大きく広げ、私を包むように破片から守っていてくれたのだ。
「ありがと………」と言いかけて気づく。
「ちょ、ちょっとノアッ! あなた背中、怪我したんじゃっ!?」
慌てて立ち上がろうとする私に、ノアはクスッと笑う。
「大丈夫ですよ。結界をちゃんと張っていますから。翼を広げたのは念のためです」
ノアの翼が閉じられると、ボロボロになった空間では光が乱反射して幻想的になっていた。
「ねえ、あの緑頭は?」
キョロキョロと見渡すが姿は見えない。
「天界へ強制的に回収されました」
「それは、ノアが?」
「いいえ。私は指示を出しただけです」
「……そう……よかっ、た……」
気が抜けてしまったのか、慣れない力を使ったせいか。体が重い。脱力感に襲われると、目の前が真っ暗になった。
◇◇◇
あれ、ここは……?
どのくらい時間が経ったのだろうか。
眠気で、まだ頭がボーっとしている。自分がどこに横たわっているのかも分からない。
ベッドではない。けれど私の頭の下には、ほんのりと温かい枕がある。とても寝心地が良い。
そして、誰かの指先が優しく髪を梳いてくれているみたいだ。
これは夢かな……気持ちいい。
微睡みながらうっすらと目を開けると、長くてキラキラの銀髪が視界に入る。
「ヒナ、まだ眠っていて構いませんよ」
穏やかな声が上から聞こえ、頭を撫でられると……私はもう一度眠りに落ちていた。
王妃の印? 私はそんな話……聞いていない。
『なぁに、その表情。僕が怖いの? あはっ、そうだよね! 所詮、人間の君は魔王がいなければ、ここから逃げ出すことすら出来ないんだから。その魂……回収したら、魔王はどんな顔をするのかな?』
間近で聞こえる緑頭の声。
けれど、私の頭に入ることなく耳をすり抜けていく。私を煽る喋り方やその表情なんて……もう、どうでもよかった。
私は、カルロスが好き。
それは紛れもない事実。
だがこの印を入れられたのは、私が自分の気持ちに気づく前だ。何の説明もなく、勝手に王妃にさせられるのは納得がいかない。
きっと今なら――カルロスから面と向かって言われれば、私は断らないだろう。
でもねっ! そういう事じゃないのよ!
もしも、私がカルロスを好きになっていなかったら? ビーチェではないベアトリーチェとしての、私の気持ちはどうなってしまっていたの?
今すぐ、カルロスに会って確かめたい。それにはまず、ここから出なくては。本当に魔法が使えないのか、確認しないと。
下ろしていた手をギュッと握り、身体の中を流れる魔力に意識を集中させる。
『……無駄だよ。いくら印に魔王の力があったって、魔族が使う闇属性の力は僕には効かないよ』
憎らしい顔で囁くと、ニヤリと笑った。
私のこめかみがピキリと動く。
ノアにそっくりな顔だが、全然似ていない。目の前にいる緑頭の頬を、張り倒したい気分に駆られた。
――バシンッ!!
私の身体に触れていた緑頭の手を、思い切り払いのけ、すかさず後ろへ飛んで距離をとる。
多少は痛かったのか打たれた手をさすり、蔑む視線を私に向けた。
私はそれを跳ね返すように、緑頭を見据える。
『へぇ、生意気だね』
「……あなた、五月蝿いわ」
ボソリと言葉がこぼれ落ちた。
『な……んだと!?』
こんな所で、いつまでも頭のおかしい奴なんかに付き合っていられない。私は今、怒っているのだ。
「私はね、彼のパートナーなの。だからこそ、魔王の口からちゃんと聞かなきゃいけないのよっ!」
妃の印がなんだと言うのだ。
カルロスの魔力が使えないのなら、私の力を使えばいい。子供の頃から魔法の適性は持っていなかった。そんなのは百も承知だ。
けどね。カルロスに守られているだけの、ただのお飾りの存在になんてなりたくない。私は自分を信じてみたいの。
――パートナーなら、私だってちゃんと相手を守りたいんだから!
印に手を当て、流れる魔力を逆に抑え込むように意識を持っていく。
そして、自分自身を感じるように、心の奥底に沈む何かを解き放つ。
鍵として、魔王を復活させた時に似ている感覚。全身が燃えるように熱くなっていくと、熱風が吹き荒れ、私の髪は舞い上がる。
『お前――まさかっ!?』
驚愕した顔の緑頭は、真っ赤な光に包まれ弾き飛んだ。
見えない壁か天井でもあったのか、緑頭は何かに激しくぶつかった。その衝撃で、白い空間に細かなヒビが入っていく。
緑頭は大きな翼を広げたまま、ズルズルと下に落ちた。
パキンッパキンッとガラスが割れるような音が鳴り、キラキラとしたものが降ってくる。大きめなものが、勢いよく床に落ちると更に細かく砕けた。
どうやら、ガラスではなく鏡の破片のようだ。
――ピッと、その破片が私の頬をかすると痛みが走った。
熱をもった頬に軽く触れれば、指先が血で染まる。
このまま、ここに居たら危ない――頭では分かっているが、なんせ逃げ場が見つからない。結界を張ろうにも、さっきの一発で私の力は消えてしまったみたいだ。
考えている間にも、剥げ落ちる破片はどんどんと増えていく。
パァンッ――と激しい音と同時に、グラグラと地響きが起こった。
バキ、バキバキッ……バキンッ!
マズいと思った時には、高い位置から鋭く尖った大きな破片が私に向かって加速する。
もうダメかもしれない。せめて致命傷にならないでほしいと祈りながら、目を閉じ、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
数秒の出来事のはずだが、とても長く感じる。
ん……あれ? 痛くない?
音が止み、眩しかった空間が薄暗くなった感じがした。ゆっくりと目を開く。やはり、気のせいではなく暗かった。
しゃがんだまま、恐る恐る上を見上げると……。
「ヒナ、大丈夫ですか?」
え?
「……ノア、なの?」
「はい。間に合って良かったです」
ニコリと笑みを浮かべたノアの顔が、そこにあった。ノアは銀翼を大きく広げ、私を包むように破片から守っていてくれたのだ。
「ありがと………」と言いかけて気づく。
「ちょ、ちょっとノアッ! あなた背中、怪我したんじゃっ!?」
慌てて立ち上がろうとする私に、ノアはクスッと笑う。
「大丈夫ですよ。結界をちゃんと張っていますから。翼を広げたのは念のためです」
ノアの翼が閉じられると、ボロボロになった空間では光が乱反射して幻想的になっていた。
「ねえ、あの緑頭は?」
キョロキョロと見渡すが姿は見えない。
「天界へ強制的に回収されました」
「それは、ノアが?」
「いいえ。私は指示を出しただけです」
「……そう……よかっ、た……」
気が抜けてしまったのか、慣れない力を使ったせいか。体が重い。脱力感に襲われると、目の前が真っ暗になった。
◇◇◇
あれ、ここは……?
どのくらい時間が経ったのだろうか。
眠気で、まだ頭がボーっとしている。自分がどこに横たわっているのかも分からない。
ベッドではない。けれど私の頭の下には、ほんのりと温かい枕がある。とても寝心地が良い。
そして、誰かの指先が優しく髪を梳いてくれているみたいだ。
これは夢かな……気持ちいい。
微睡みながらうっすらと目を開けると、長くてキラキラの銀髪が視界に入る。
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