二度目の異世界、今度は勇者じゃありません!

Y.ひまわり

文字の大きさ
8 / 17

8. 出発

しおりを挟む
「ほう」と、リステアードは形の良い眉を片方上げた。
 何か言いたげな視線を感じたが、とりあえずそっちは無視しておく。

 昴は俺の言いたいことが分かったみたいだ。大切な人を失いたくない――俺が一番思っていることだと。
 途中から転校してしまった昴は、引き取られて来た義妹の日向とは直接会ったことがないだろうが。小さな市や町では、俺たち家族の話を知らない人は居ないに等しい。

「小学生の頃の約束は……ごめん、ちょっと覚えてなくて申し訳ないんだけど。これから先、元の世界に戻れて、もしも違うことで困ったら。その時は、昴に助けてほしい。俺、人間関係とか色々不器用だからさ」
 
「……わかった」と、昴はうなずいてくれた。
 
 本当に約束は全く覚えていないが。自殺(勘違いだけど)を止めようとしてくれたり、ずっと気にかけてくれていたことには感謝しかない。
 俺、異世界じゃなくても、ちゃんと友達がいたんだな……。

「ところで、もしかして星野さんもその約束に関係してる?」
「栞? 約束は関係ない。あいつは幼馴染だから、昔から俺の気持ちを知ってるだけだ」
「そっか。素敵な彼女だね」
「は? 彼女?」
「え、付き合っているんでしょ?」
「いや、付き合ってない。あいつは無理だ。腐ってるから」
「腐……」

 なんだか聞いていけないことを聞いてしまった。クラスの、高嶺の花的存在が腐女子。

「言うなよ。あいつ、でっかい猫かぶってるから」
「……わかった。口が裂けても言わない」

 てか言えない。リステアードに頬を染めていた理由が、別物だったと理解してしまったから。相手は……詮索すまい。してはいけない。
 シンプルな地味顔の俺には興味ないだろうが、なるべく星野さんには近づかないようにしようと決めた。
 


 ◇◇◇



 それから数日が経ち、出征の日がやってきた。

「レン、そのバッグでいいのですか?」
「あ、うん! いらない教科書は出したから軽いし。保護魔法もかけてもらって丈夫になったからね」

 俺は神殿から支給された、ライノアともお揃いの聖騎士団の白くカッコいい制服を身に纏い、通学用の黒いリュックを背負っている。ちょっとカッコ悪いが、どうせイケメンではない俺だし、これでいい。

 剣は、ライノアが用意してくれていた。長さといい、重さといい、俺が使いやすそうな剣を厳選してくれたみたいだ。手に馴染むし、自分の剣があるってめちゃくちゃ嬉しい。
 どこぞの聖剣もどきは、本当に最悪だったからな。

 重たい瓶入りのポーションは、空間魔法が付与されたマジックポーチに入れて、すぐ取れる腰に下げてある。リュックもそのポーチにと言われたが、何となく肌身離さず持っていたかった。空間魔法って次元が違っていて、近くて遠いような気がしてしまうから。
 これも一種のトラウマかなと笑えてくる。
 厄介な魔道具を付けられてしまった片腕を、別次元に残し、片腕だけで訓練に明け暮れた日々。腕が見えるって本当に安心できるよな。

「それには何が入っているのですか?」
「まだ内緒。討伐が終わったら、ライノアにも見せるね」
「そうですか、楽しみにしています」



 それから約十日間かけ、野営をしながら目的地へと移動した。
 


 辺境伯領に到着すると、報告のあった森へ入る前に、リステアードは辺境伯から直接話を聞く時間を設けていた。

 その間に、他の者は移動での疲労を回復させておく。星野さんが出される食事に回復魔法をかけておいてくれた。聖女として、たくさんの努力をしてきてくれた成果は大きい。寝る間も惜しんで、上級ポーションを大量に作ったのも星野さんだった。

 やっぱり星野さんは、見た目だけが綺麗なのではなく、聖女に選ばれたのはその内面があってこそなのだろう。カッコいいな。 
 そんな視線に気づかれてしまったのか、星野さんはこっそり俺の方にやって来た。

「望月君、絶対に死なないでね」
「星野さんもね」

 真剣な星野さんの眼差しに俺はうなずく。
 お互い「無理はしないように」なんて言えないのだ。勝つためには、どうやっても無理はしてしまうだろうから。ただ、みんなで生き残ることが大事だ。

「どんなに酷い怪我をしても、必ず治して助けるから」
「わかった、ありがとう」
「あと、討伐が終わったら。聞かせてもらうから」
「……えっと。何を?」

 星野さんは、フッ……と不敵に笑った。
 その笑みは、ちょっと聖女に見えないのですが。討伐前に、不安要素を植え付けるのは勘弁してほしかった。


 その日の晩、リステアードは全員を集め、辺境伯から伝えられた新情報を皆で共有した。

 凶暴化した魔獣だけではなく、森の奥には死霊系の魔物が大量に潜んでいるらしいと。魔王の住処である城を護るように。

「ネクロマンサーがいるなら、術者を倒せばいいが。魔王の能力であれば、いくら屠ってもきりがないだろう。そこで、聖女シオリに聖水を用意してもらう。各自、それを必ず持って行くように!」

 倒した死霊に聖水をかければ、復活できなくなるらしい。星野さんは、もう井戸に向かったようだ。井戸の水を、まるごと聖水に変えるつもりらしい。チート聖女はさすがだ。
 頼もしさを感じる反面、嫌な予感がじわじわと沸いてきていた。

「レン、どうしましたか?」

 解散の合図を受け、ライノアは俺のそばにやって来た。

「死霊系の魔物って、光属性の魔力に弱いよな?」
「ええ。こちらには聖女と勇者いるので、有利でしょうね」
「あのさ。それって、二人を城の中に呼び寄せる罠ってことはないか?」
「罠、ですか?」
「俺たちにとっては厄介だけど、二人ならどんどんやっつけて、魔王のところに行けちゃうだろ?」
「……ですが、魔王そのものが光の力に弱いですから」
「うん、確かにそうなんだけど。嫌な予感がするんだ」

 偽の魔王城を作って、本当の敵を誘き出したとんでもない魔王がいたのだ。
 あの時と違うとはわかっていても、単純に考えることができない。
 
「殿下にレンの話を進言してみましょう。レンも異世界からの召喚者です。レンが何かを感じるなら無視しない方がいい」
「ありがとう、ライノア。二人が城の中に向かうときは、俺もついて行きたい」
「わかりました。何があっても私がレンを守りますから」
「うん」


 この判断を、俺はすぐに後悔することになる。
 ライノアという、頼りになる存在に甘えていた。危機感が足りないことを、この時はまだわかっていなかったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

【完結】偏屈司書は黒犬将軍の溺愛を受ける

アザトースト
BL
ブランは自他ともに認める偏屈である。 他人にとっての自分とは無関心と嫌悪の狭間に位置していることを良く良く知っていたし、こんな自分に恋人なんて出来るわけがないと思っていた。そもそも作りたくもない。 司書として本に溺れるような日々を送る中、ブランに転機が訪れる。 幼馴染のオニキスがとある契約を持ちかけてきたのだ。 ブランとオニキス、それぞれの利害が一致した契約関係。 二人の関係はどのように変化するのか。 短編です。すぐに終わる予定です。 毎日投稿します。 ♡や感想、大変励みになりますので宜しければ片手間に♡押してって下さい!

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

【8+2話完結】氷の貴公子の前世は平社員〜不器用な恋の行方〜

キノア9g
BL
氷の貴公子と称えられるユリウスには、人に言えない秘めた想いがある――それは幼馴染であり、忠実な近衛騎士ゼノンへの片想い。そしてその誇り高さゆえに、自分からその気持ちを打ち明けることもできない。 そんなある日、落馬をきっかけに前世の記憶を思い出したユリウスは、ゼノンへの気持ちに改めて戸惑い、自分が男に恋していた事実に動揺する。プライドから思いを隠し、ゼノンに嫌われていると思い込むユリウスは、あえて冷たい態度を取ってしまう。一方ゼノンも、急に避けられる理由がわからず戸惑いを募らせていく。 近づきたいのに近づけない。 すれ違いと誤解ばかりが積み重なり、視線だけが行き場を失っていく。 秘めた感情と誇りに縛られたまま、ユリウスはこのもどかしい距離にどんな答えを見つけるのか――。 プロローグ+全8話+エピローグ

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

処理中です...