23 / 219
もう一人じゃない
しおりを挟む
図書室に集まった俺達は、早速勉強会を始めた。
とは言え、一週間と言う短い期間でこれから俺がしなくちゃいけない勉強は今が七月と言うのもあり二年になってから今までの約三ヶ月分である。
チラリと日奈美、美紀、茉里愛の一年組を見る。
その三人が勉強してる内容すら理解不能とか完全に無理ゲーだと思う。
思わずため息が出る。
やる事は山積みだ。
それにしても……まさか美江にあんな風に睨まれるなんて、な。
そりゃ少し拗ねるぐらいはあったかもしれないが、あんなにも嫌悪感をむき出しにして睨んで来るような事なんてリアルでは無かった。
俺の中での彼女のイメージは穏やかで癒し系で、笑顔が良く似合う子だった。
そして俺もその笑顔が好きで、そんな彼女をどうすればもっと笑顔に出来るかを考える時間もまた好きだった。
でも結局俺は彼女にあんな顔をさせてしまったんだよな。
別れ際メッセージで終わったからこそ、俺の中での彼女の姿はそんな楽しそうに笑う姿で止まっている。
あんなのもはや別人だ……。
もっとも、そうさせてしまったのは俺自身なのだが。
あの時俺がちゃんと彼女を一番に大事に出来ていたらこうはならなかった筈なのに。
「お兄ちゃん?」
左隣に座って勉強をしていた日奈美が、心配そうに顔を覗き込んでくる。
「あ、あぁ。」
「美江ちゃんの事考えてたの?」
「日奈美にはやっぱり分かるか……。」
「仲良かったもんね……。 」
彼女が誰にも話せずに一人で苦しんでいた事も、その後数日で新しい彼氏を作った事も日奈美を通じて知った話だ。
だからこそ事実としては分かっていた。
「でもやっぱ……実際に見たらキツイなぁ…。」
あの時は確かに俺の場所だった筈なのに、今は違う誰かがいる。
今日見せてきた顔も、そんな風に別の誰かと幸せそうに笑う顔も、本来なら見る事の無かった物の筈なのに…。
実際にそれを目の当たりにすると、こんなにも胸が痛い。
「悠にぃ、辛いの?よしよし。」
そう言って頭を撫でてくれる茉里愛。
実際一度別れたのだから、これが本来あるべき姿なのだろう。
もうこれ以上、俺から彼女に何が出来るという訳でもない。
今の俺は彼女と関わる権利は無いのだ。
本来なら背中を押す権利だってもう無いのかもしれない。
あんなに近くに居た筈なのに、今はどうしてこんなにも遠く離れてしまったのだろう。
「悠太さんはこのままで良いんですか……?」
意を決したようにリオが口を開く。
「良くは……無いだろうな。
アイツを傷付けたんだから。」
「確かに現世であなたは傷付けたまま、もう会えなくなってしまったのかもしれない。
でも、今は違いますよね?」
「そう、だな。」
確かに今は違う。
遠くに居た筈の彼女が今は近くに居る。
「辛いのは分かります。
でもこうしてまた出会えたんですから、もう一度彼女と話してみた方が良いのではないですか?」
「でも…。」
今更彼女が俺の話を聞いてくれるだろうか。
伝えたところでどうなるんだろうか。
「確かにちゃんと謝りたい。」
「なら。」
「でもあいつはそんなのもう望んでない。
そんな彼女に向ける謝罪なんて、ただ俺が言いたい事を言うだけの自己満足でしかない。」
「そんなの……やってみなくちゃ分からないじゃないですか。」
「分かるよ、思えばもっと早く彼女と会ってちゃんと話が出来ていたらまた違う結果にもなった筈だ。
でももう全部遅いんだ。」
「それでもお兄ちゃんは美江ちゃんと話すべきだと思う。」
「ひーちゃん……。」
「だって、美江ちゃんの事を考えてるお兄ちゃん、本当に苦しそうで見てられないんだもん。」
そう言う日奈美の表情は本当に苦しそうだった。
「っ……!?」
「私は……私達はお兄ちゃんが辛い時に傍に居てあげたり、支えてあげたりする事は出来るよ?
でも私達には美江ちゃんとの事で出来た傷を消してあげる事は出来ないの。
だってそれは、お兄ちゃん自信が向き合って行くしかない物だから。」
「……そうだな。」
本当にそうだ。
実際誰かが傍にいるだけですぐに消えるような傷ならそもそもこんなにも思い悩んでない。
「大丈夫、私はいつでも何があってもお兄ちゃんの味方だよ。」
「ひーちゃん……。」
泣きたくなった。
もう誰も傷付けたくなんてないのに、俺がこんな風だから日奈美にもみんなにもこんなに気を遣わせていたなんて。
このままで良い訳ない……よな。
今更何かしてこれ以上嫌われる事も無いだろう。
それならこうして身近にいる今、何かをしてみるのもありなんじゃないか。
段々そう思えてきた。
そう思える勇気を貰えた気がした。
「頑張ったらまりがギュッてしてあげる!」
「あ!ちょっと!それは私の役目!」
心臓に悪いのでお手柔らかにお願いします……。
「なら私が電話で朝まで愚痴を聞いてあげる!」
「それは別に良い。」
と言うか志麻、それはお前が電話したいだけだろう……。
「ぴえん……。」
「頑張ってくださいね、悠太さん。」
「おう、サンキュっ。」
リオからの応援に感謝しつつ、一人図書室を後にした。
とは言え、一週間と言う短い期間でこれから俺がしなくちゃいけない勉強は今が七月と言うのもあり二年になってから今までの約三ヶ月分である。
チラリと日奈美、美紀、茉里愛の一年組を見る。
その三人が勉強してる内容すら理解不能とか完全に無理ゲーだと思う。
思わずため息が出る。
やる事は山積みだ。
それにしても……まさか美江にあんな風に睨まれるなんて、な。
そりゃ少し拗ねるぐらいはあったかもしれないが、あんなにも嫌悪感をむき出しにして睨んで来るような事なんてリアルでは無かった。
俺の中での彼女のイメージは穏やかで癒し系で、笑顔が良く似合う子だった。
そして俺もその笑顔が好きで、そんな彼女をどうすればもっと笑顔に出来るかを考える時間もまた好きだった。
でも結局俺は彼女にあんな顔をさせてしまったんだよな。
別れ際メッセージで終わったからこそ、俺の中での彼女の姿はそんな楽しそうに笑う姿で止まっている。
あんなのもはや別人だ……。
もっとも、そうさせてしまったのは俺自身なのだが。
あの時俺がちゃんと彼女を一番に大事に出来ていたらこうはならなかった筈なのに。
「お兄ちゃん?」
左隣に座って勉強をしていた日奈美が、心配そうに顔を覗き込んでくる。
「あ、あぁ。」
「美江ちゃんの事考えてたの?」
「日奈美にはやっぱり分かるか……。」
「仲良かったもんね……。 」
彼女が誰にも話せずに一人で苦しんでいた事も、その後数日で新しい彼氏を作った事も日奈美を通じて知った話だ。
だからこそ事実としては分かっていた。
「でもやっぱ……実際に見たらキツイなぁ…。」
あの時は確かに俺の場所だった筈なのに、今は違う誰かがいる。
今日見せてきた顔も、そんな風に別の誰かと幸せそうに笑う顔も、本来なら見る事の無かった物の筈なのに…。
実際にそれを目の当たりにすると、こんなにも胸が痛い。
「悠にぃ、辛いの?よしよし。」
そう言って頭を撫でてくれる茉里愛。
実際一度別れたのだから、これが本来あるべき姿なのだろう。
もうこれ以上、俺から彼女に何が出来るという訳でもない。
今の俺は彼女と関わる権利は無いのだ。
本来なら背中を押す権利だってもう無いのかもしれない。
あんなに近くに居た筈なのに、今はどうしてこんなにも遠く離れてしまったのだろう。
「悠太さんはこのままで良いんですか……?」
意を決したようにリオが口を開く。
「良くは……無いだろうな。
アイツを傷付けたんだから。」
「確かに現世であなたは傷付けたまま、もう会えなくなってしまったのかもしれない。
でも、今は違いますよね?」
「そう、だな。」
確かに今は違う。
遠くに居た筈の彼女が今は近くに居る。
「辛いのは分かります。
でもこうしてまた出会えたんですから、もう一度彼女と話してみた方が良いのではないですか?」
「でも…。」
今更彼女が俺の話を聞いてくれるだろうか。
伝えたところでどうなるんだろうか。
「確かにちゃんと謝りたい。」
「なら。」
「でもあいつはそんなのもう望んでない。
そんな彼女に向ける謝罪なんて、ただ俺が言いたい事を言うだけの自己満足でしかない。」
「そんなの……やってみなくちゃ分からないじゃないですか。」
「分かるよ、思えばもっと早く彼女と会ってちゃんと話が出来ていたらまた違う結果にもなった筈だ。
でももう全部遅いんだ。」
「それでもお兄ちゃんは美江ちゃんと話すべきだと思う。」
「ひーちゃん……。」
「だって、美江ちゃんの事を考えてるお兄ちゃん、本当に苦しそうで見てられないんだもん。」
そう言う日奈美の表情は本当に苦しそうだった。
「っ……!?」
「私は……私達はお兄ちゃんが辛い時に傍に居てあげたり、支えてあげたりする事は出来るよ?
でも私達には美江ちゃんとの事で出来た傷を消してあげる事は出来ないの。
だってそれは、お兄ちゃん自信が向き合って行くしかない物だから。」
「……そうだな。」
本当にそうだ。
実際誰かが傍にいるだけですぐに消えるような傷ならそもそもこんなにも思い悩んでない。
「大丈夫、私はいつでも何があってもお兄ちゃんの味方だよ。」
「ひーちゃん……。」
泣きたくなった。
もう誰も傷付けたくなんてないのに、俺がこんな風だから日奈美にもみんなにもこんなに気を遣わせていたなんて。
このままで良い訳ない……よな。
今更何かしてこれ以上嫌われる事も無いだろう。
それならこうして身近にいる今、何かをしてみるのもありなんじゃないか。
段々そう思えてきた。
そう思える勇気を貰えた気がした。
「頑張ったらまりがギュッてしてあげる!」
「あ!ちょっと!それは私の役目!」
心臓に悪いのでお手柔らかにお願いします……。
「なら私が電話で朝まで愚痴を聞いてあげる!」
「それは別に良い。」
と言うか志麻、それはお前が電話したいだけだろう……。
「ぴえん……。」
「頑張ってくださいね、悠太さん。」
「おう、サンキュっ。」
リオからの応援に感謝しつつ、一人図書室を後にした。
10
あなたにおすすめの小説
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる